動物園
10時過ぎ、都内の動物園へと光喜達がやって来た。
勿論、冬美也の弟である優紀を連れて。
「優紀、良いのか? 動物園で?」
動物園はアメリカにだってあるのにわざわざ適当に決めてしまった側からすれば、優紀の意見を無視している。
だが、優紀としてはそこで良かったようだ。
「うん、だって今日寄生虫博物館とか意味分からなかったし、まだ昨日の浅草やスカイツリーが普通で良かった。それに今回はにいちゃん達と行くのは初めてだし」
「そっか、良かった」
その達とは勿論光喜と理美で、どうして自分らもと不思議がっていたし、理美はともかく光喜もついてきて良かったのか分からない。
「でも、なんで俺まで?」
「と言うか私もついて来ちゃって良かったの?」
冬美也としては兄弟2人で見て回った後、きっと次の場所の提案が出来ないし、下手すればこの近くの博物館とか言いそうで困るので、別案の出せる光喜と理美にはいてもらいたいし迷子にならないように見てもらいたいのが本音だが、これは流石にニュアンスだけにした。
「良いよ、2人で見て回るよりずっと……なっ?」
光喜達に言っているのだが、優紀に目配せしていた為、なんとなく了承してくれた。
「にいちゃんが言うなら」
なんだかんだ申し訳ない気分だ。
駅を乗り換え、最寄り駅に着いてから歩いて数分で動物園に着く。
動物園前には色々な施設もあり、動物園を見終えたら今夏休み中にやっている展示もあるので見に行こうと話で盛り上がる中、動物達が出迎える。
とは言っても、動物達もエリアから出ないような作りになっているので怖さもない。
皆、象や迫力ある虎等に見ている中、理美が何かしている訳では無いが、そのエリア毎に動物達が群がってしまい、段々他の客も理美を見出して何か呟くのが見える。
「アース止めて……!」
「無理よ、コレでも最小限よ」
「ゼロにして……!」
どうやら、愛されし者の力のせいで皆寄ってきてしまっているようだ。
「動物系、他者系に愛されし者は力の締め具合が強く無いんだ。能力系の愛されし者と違ってな」
ニュートンの言葉に何となく蛇口みたいなイメージを持って光喜は言う。
「蛇口の締めが悪いのか」
「んで、逆におれらみたいな能力系の愛されし者はガッチガチに締めてるから返って危ない」
他者系に愛されし者は蛇口のゴムが弱く、能力系に愛されし者は蛇口自体ギッチギチに締め上げ、開きづらいのかと考えるが、それまでの修行状況をずっと思い返すとかなり節約も含め、相当大変だった。
「えっ? だって使えるまで相当大変だったし」
が、ニュートンからすればそうではないようだ。
「そうじゃない、暴走しないように調整を入れる側の話だ」
「アース本体?」
「そう、アースはこの位って加減で皆やっているが、やっぱりこの他者系と能力系の力加減が難しいんだ」
すると理美が寄り過ぎると動物達が溢れてしまうので、距離を置く為場を離れながらこちらに来た。
「何の話をしているんですか? それに1人でいる形になるから返っておかしい人になるから気を付けた方が良いですよ」
「あっはは、それもそうだね」
「で、どんな会話してたんです?」
「他者系に愛されし者と能力系に愛されし者のアース本体の加減が難しいって話だよ」
「……あっ成る程、確かにアースと話せなくても動物達と話してたから」
「何か思い当たるのあるの?」
「ありますよいっぱい」
「へぇどん……グヘッ!」
何故か冬美也が光喜にドロップキックをかまして、理美と優紀が1番驚いた。
「冬美也⁉︎」
「にいちゃん⁉︎」
冬美也としてはあまり理美の1番苦手な部分を触れさせない為に慌て割り込んで来たみたいだが、これでは他の客からも危ない人にしか見えない。
「すまん、なんか地雷踏ませそうにしたから」
理美も理解はしたが、そこまで気には止めておらず、話しても構わなかった。
『あっそういう事か……』
「別に大丈夫だよ、それが無ければ多分ここに居なかったと思うし」
完璧に理不尽な暴力に光喜はなんて言えば良いのか、理美に至っては丁度ドロップキックだったので変な事を言い出す始末だ。
「なら……俺は?」
「ゴル○にやられた人」
「馬かよ……ごふっ」
こうして光喜は気を失った。
訳ではなく、とりあえず冬美也の理不尽により負傷した部位を冬美也の奢りで冷たい缶ジュースで冷やしている。
ここは動物ふれあい広場前のベンチだ。
「あ゙ぁぁ……痛みが若干しか引かない」
「如月先輩、宜しければどうぞ」
理美が冷たいかき氷を買って来てくれた。
「ありがとう」
「良かったらこれも」
何を差し出したのかと受け取れば、未開封の市販シップだ。
「シップ?」
「はい、入れてたの思い出して、まだ使える筈です」
光喜はどうして中学生でもある理美が持っているので聞いてみれば、意外なことに腕を痛めるらしい。
「何に使ってたの?」
「腕です、たまに痛くなってしまうんで使ってるんです」
朝、わざわざ料理させたのを思い出し謝罪するも、本人はあまり気にしていなかった。
「ごめんね、なんか、料理までさせて」
「良いんですよ、と言うかアースについてですよね?」
「そういやそうだったね」
それどころか、わざわざ過去にあった実際の話を含めて語ってくれる。
「私、忘れ去られた後、山の中に入っちゃってガチめな遭難したんですよ」
「そ、遭難⁉︎」
理美は過去、辛かった筈なのに少し微笑んでいるように見えた。
「もう何処にも居場所なくって、とりあえず人に会いたく無いかったし、もうこのままで良いやって蹲ってると」
「蹲ってると?」
「クマの親子に会いまして」
流石にツキノワグマだろう、普通の人間だったら食われてもおかしくない。
「普通、食べられてませんか?」
「私も思う、まぁもう疲れてたし街歩いてたらきっと良くて警察に悪くて悪い人に捕まってたと今は思います。ただ、クマのお母さんは心配してくれて面倒みてくれたんですよ、あの時のショックでアース見えなかったのに言葉も理解出来るだけじゃなくて、ほぼ対等に決して傷つけたり食べようとしたりしない、不思議な関係になりました」
「他者系の愛されし者の特有で助かった……感じと言うか、どうし――」
凄まじい殺気に光喜が辺りを見渡せば冬美也が出してました。
あ、これは聞いちゃだめなんですねと光喜は諭す。
「にいちゃん、動物達が逃げるから!」
「私も動物にご飯あげに行こうかな」
そう言って、理美はふれあい広場へと入っていくと餌もないのに一斉に集まってしまう。
冬美也と優紀も理美に集まる動物達に驚いていた。
勿論、光喜だ。
「凄く分かりやすい、能力だ」
「理美ってもう少し砕けた話するんだけど、やっぱりあまり接点ないからかしら? かしこまっちゃうの」
いつの間にか代わりに理美のアースが隣に座っていた。
「アースはどうして彼女を?」
「アースは皆、気まぐれだけど頑固、でもね選ぶ理由って至極単純面白い人や動物を選ぶのよ、そっちのニュートンだってそうじゃないの?」
そういえば面白いのを選びたい、そんなことを言っていた気がするも、もうどうでも良くなって選ばれたのが光喜でした。
「もう誰でも良くなって光喜が丁度ずっこけておれのところに来たんで、決めた」
「……最初に聞いてたけど、まじで気まぐれ過ぎるだろ」
光喜としてはもう少し理由が欲しいくらいだ。
アースは笑いながらも選んだ理由を教えてくれた。
「理美も一度戻ってきてくれたから決めたのよ、他の子が触っても拒否したわ」
「そういうの出来るんだ拒否」
「えぇ、理美をいじめてた子とは一緒になりたくなかった。でもご両親を蔑ろにした言葉に理美は怒っていた。それもそうね、大事なご両親だったのだから突き飛ばした所に私がいて、拒否の影響でその子は跡の残るようなケガを」
興味本意で聞くなと冬美也の殺気はその為だったのだろう。
それでもアースは話を続けてくれた。
「闇が深そうな話」
「それがきっかけで家族と喧嘩して、飛び出しケガしたところを探しに来た時に理美と繋がったようなものだし」
確かに悪いのはケガさせた本人もだが、やはりケガの原因を起こす前にやってはいけない行動をした本人にも非がある。
「突き飛ばしちゃだめだけど、でもその原因はそのいじめていた子にもあるんじゃ」
「ふふふ、意外と君も両方見て考えてくれる子ね」
ここで漸く忘却の話に繋がるのかとなんとも辛い話だ。
「その後だろ、忘却騒ぎになったの?」
「ニュートンの言う通り、落ち着いたらきちんと説明する予定でいたの、でも理美を知っている人達は皆忘れてしまった」
不意に他者系でなく能力系だったら絶対今無事では無いだろうと頭に過り、口にしたら、ニュートンが突っ込む。
「でも、理美ちゃんにアースが付いて良かったと、俺は思います、もしニュートンみたいなのだったら……」
「そもそもお前も死にかけていたがな」
「うっ、それはそうだけど!」
アースがある場所から目が釘付けとなり、光喜もそれに釣られて見てみれば、少し印象が違うが墓参りの時にいたイビトの子供だ。
「あら? 小さなイビト、しかも大分根も張っているみたいね?」
「あん時のじゃね?」
「多分……君どうしたの?」
光喜が子供のイビトに話しかけるが怯えているのか、反応はあまりない。
「……」
異変に気付いてくれたのか、冬美也達が戻って来た。
「光喜? 迷子か?」
「そうみたいなんだなけど、迷子センターって何処だっけ?」
光喜がパンフレットを持って来ておらず、冬美也は一応取っていたので、ズボンポケットから取り出していると、優紀が言った。
「少し待てば? 案外あっちから来てくれるかもしれないし」
確かに仮の両親も探しているだろうし、理美は近くに売店もあったのを思い出し、代わりに売店のスタッフを呼びに行く。
「まぁ、後は飼育員さんとかスタッフさん待ちかな? 近くに売店あるから話してくる」
「頼む」
「うぃ」
光喜が再度子供に話しかけると、少し驚いた顔でとんでもない言葉を発した。
「大丈夫だよ、すぐスタッフさんにお願いしてお父さんお母さん呼ぶからね」
「どうして……」
「んっ?」
「どうして、殺さないの?」
あまりの言葉に回りは固まる。
どういう意味だ。
光喜は冬美也を見るが、冬美也もさっぱり分からない。
分かるとすれば、アースかと思い、チラッと見ると既にニュートンとアースが子供の前に立っており、見えていないと合図を送っている。
何も分からない優紀は、一体なんの事か分からず、光喜を見て言った。
「居ない間なんかした?」
凄い恐怖を覚えた光喜は瞬時に勢いよく否定し続ける。
「してないしてないしてないしてないしてないしてないしてないしてないしてないしてないしてない‼︎」
そうこうしているうちに理美が売店のスタッフを連れて戻って来た。
すぐにスタッフが子供に話しかけてくれ、迷子センターまで送ってくれるとの事だ。
念のため自分達も一緒に行くことにした。
で、どうしてあんな状態だったのかという話をやはり振られてしまう。
「なんで、慌ててんです?」
光喜も大人の人もいる中で言うのもと思い、そっと耳打ちで理由を言った。
「い、いや、実は……って事が」
理美はここで全て理解する。
「あっ如月先輩、長時間独り言を言うのはおかしい人か見える人または私達管理者だけです」
「光喜、オレは見える人に入るが、親父には見えるそぶりは絶対するなってかなりきつく言われてるから基本驚かされてもオーバーリアクションはしないようにしてるぞ」
冬美也も見える人と言う事は知っているが、変な反応なんて一切ない分、少し悔しくなったが、同時にどんな会話をしていたかなんて言えない。
ニュートンとアースもそれであの反応だったのかと納得した。
「てことは、何か? あいつはおれらを管理者として見て襲わないのかって光喜に言ったのはその為か」
「なら、目の前に立っていても反応しなかったのも理解出来るわ」
お陰で暗くなっていく一方だ。
「俺が油断したってことですね、はい」
最後に理美の止めは結構来た。
「誰もいないと思っていても、ずっと独り言言ってたらそりゃ誰も近付きたくないです」
「ゔっ! 確かに!」
そうして迷子センターに着くころに、夫婦が子供を探しに来ており、丁度衣服や髪色に年齢を伝えているところで、一旦待つかそのまま連れて行ってもらえたら戻ろうと思っていた時だ。
「由梨花! 良かった! 無事だった!」
「ママ、パパ、途中ではぐれてごめんなさい」
「この子のご両親で間違いないですか?」
スタッフが尋ねると由梨花も頭を下げ、夫婦も同じように頭を下げ、お礼を述べていた。
「そうです」
「はい! ありがとうございました!」
その様子を見て、もう少し散策してから帰るかと思いながらその場を離れると、一瞬だけ一瞬クライヴの姿が見え、慌てて光喜は探す。
皆から離れ、とにかく辺りを探すがクライヴの姿は無く、後から追って来てくれた冬美也が言った。
「どうした急に?」
「……クライヴ、昨日の買い物しないで出た客がいた」
冬美也も辺りを見渡すが普通の客ばかりで、クライヴはいない。
「気のせいじゃなかったのか?」
絶対と言う確信もなく、つい自分本意で動いてしまい、実際気のせいだった可能性がある。
「……ごめん、そうかもしんない」
「そろそろ戻ろう、理美も優紀も待ってる」
「うん、分かった」
だが、木の上にセッシャーがニヤッと笑っていた事に、気付く事がなかった。