帰って来てから
家に入ってすぐ話を聞いたら、どうやらチンピラに暴力団の身内がいてフレアに因縁を持っていたようで、この辺を彷徨いておけば勝手にやってくるのを確信しての事だ。
しかし、たまたまフィンを迎えに来たセェロが通報したからもう大丈夫と言っており、不安だった住民達も一安心だが、フレアがどうなったか分からず無事で居てくれればと願うばかりで、その後はお開きとなった。
次の日の早朝――。
車に乗った2人を見送る為、祖父母が外で待っていた。
「もう帰るのは早いねぇ」
「また来いよ、年末前とか過ぎた辺りで良いから」
咲も実際には帰りたいだろうが、ここは雪降る場所、普通に帰りたいかといえば帰りたくはない。
「いや、流石に私、雪道走りたくないわよ」
「俺も……新幹線や飛行機ってなると」
金銭的なのも含め学割は効く歳だが、年末年始は非常に混むもの諦めた方が良い。
それだけでなくとも年末年始でも顔を出すと言うあの親戚がいるのだ。
流石に会いたくはない。
「気を付けて帰るんだよ」
祖母が心配になって言っている時、誰かいないのに気が付き、咲は聞くと祖父からしょうもない理由を聞かされた。
「昌己兄さんは?」
「酔い過ぎて起きれんからそのままで」
「お父さんが飲ませ過ぎたから!」
どうやら明日が早い2人が寝ている間に長めの晩酌をしていたようで、祖母がカンカンだ。
昌己も起きようとはしているが、頭がガンガン痛く吐き気もあるようで起きれないでそのままダウンしているのが容易に想像出来て咲は笑った。
「あはは、それじゃまた来年って事で」
「ん、また来年なぁ」
「それじゃ無事帰ったら連絡ちょうだいね」
「はーい、いってきまーす」
そうして母方の実家を後にした。
土産も一通り買ってはおいたが、同じ道で帰っても高速道路のサービスエリアはまた違っている為、休憩中はそれなりに楽しめし、軽く自分用も買ったり飲み物を買い足したりしながら帰る。
休憩挟みながら数時間、もう夕暮れに差し掛かる頃に光喜の家に着く。
車に降りた後、深々と頭を下げた礼を述べた。
「咲さん、本当にお疲れ様ありがとう気を付けて」
咲としては無理矢理誘ってしまったような気がして申し訳ない部分があったものの、こうして喜んでくれたのなら嬉しい。
「良いのよ、無理矢理誘っちゃった感あったし、それでも楽しめたようで良かったわ、それじゃ着いたら連絡するから」
「うんありがとう」
光喜が一歩引いた後に、咲は車を出発させる。
見えなくなるまで光喜は立ったまま見送った。
一昨日ぶりと言うべき我が家へと戻って、自室へと入る。
荷物整理をする為色々荷物を開けていると、ニュートンが話す。
「なぁ」
「何? イビトとか言うなよ?」
「言わん、それより冬美也の様子とか見に行かないのかと?」
「えっ? なんで? まっ、冬美也に土産買ってあるし持って行くか」
ニュートンに促されたまま、光喜は荷物を早々に土産を渡しに外へ出た。
すぐ隣、たった2泊3日だったが、何か変化なんてあっただろうかと思いながらインターホンを鳴らすとすぐに出てきた。
どう言う訳か総一が出て来た。
「えっ? 総一さん?」
「お久しぶり、どうしたのかな?」
「冬美也は?」
「ごめんごめん訳あって一昨日冬美也の所に家族揃って泊まってて」
「そうなんですか、ところで冬美也は?」
「オレはここだ……!」
凄く不機嫌な冬美也が出てきて少々驚いた。
この時期は思春期そのものだろうと光喜は思って土産だけ渡して帰ろうとしたが、冬美也からまさかのお願いが出た。
「これ、お土産でもう俺行くね」
「待て光喜、今日だけはそっちに泊めてくれ! 頼む! 帰ったばっかりだがもう限界だ!」
そうは言われても、せっかく家族揃っているのに泊まらせるわけにはと思っていた時、黒髪をアップにした女性がやって来て全てを諭す。
「どうしたのふみちゃん、あら? もしかしてお隣で一緒の」
これは思春期云々関係無く、ただただ小っ恥ずかしく直してくれずで、この空間にいたくはないのだろう。
理解はしたが名を名乗らなければいけない。
「如月光喜です」
「私は衣鶴・F・神崎です。ほら優紀も」
衣鶴から促されやって来たのは10歳位の男の子だ。
「……こんにちは優紀です」
「こんにちは」
本当に全く冬美也が誰にも似ていないわ、全員黒髪だわで驚いてしまう。
『冬美也以外、全員黒髪だと⁉︎』
「悪いがオレは光喜の所に泊まるから!」
冬美也はそう言って簡易荷物を片手に外へと逃げ、結局光喜の部屋にやって来てしまった。
「なんか、可愛らしい家族関係だね、羨ましい」
「あー本当にすまん、後茶化してるのか本気なのか分からん冗談抜きでお前が言うと重いので止めてください」
家族崩壊してしまった光喜が言うとよりキツいのだ。
「で、なんで皆来てるのにこっち? 荷物整理しながら訳を聞いてあげるから」
「理美と部屋に戻ったら、親父が居た」
その言葉で全てを諭した光喜が一瞬宇宙まで吹っ飛んだ後、元に戻ってこれかとばかりに言葉を並べてしまうが本人も実は困惑しているのに本人が気付いていないパターンだ。
「――はっ⁉︎ フィンが歓喜しちゃう? お赤飯?」
冬美也も流石にこれだけで理解してすぐ否定に入るが、実際本当にチャンスだと思って居たのだろう。
それが父、総一が部屋にいた為未遂だと説明しようとしていが、今思うも真っ赤になって恥ずかしさと自分の行為は行けないものだと分かって泣きたくなって泣いてしまった。
「しないしない! そもそも上がらせるにしてもいつも誰かが居てが多かったから、今回、その、行けると思いまして」
「うん、理解したから、泣くのやめて」
こうなっては仕方がないし、言いたい相手もいないままだったに違いない。
勿論、これは下手すれば学院でも騒ぎになるし色々面倒な事にはなるだろうが、今回は総一が居た事によりそもそもその話は破綻になったのだからヨシとしよう。
冬美也も割り切って話を戻すとある事を光喜が思い出して慌て出す。
「そしたら、親父がアメリカにいる筈のお袋と弟連れて来ていて、しかもこれが1週間いるって事になり今はフィンも居ないので入らなよう言ってはいる」
「――しまった! 保護者が昨日迎えに来て、夏休み終わる前には帰って来るんだよ! 今ならスマホ持ってるし」
「……捕まるとヤバい! 連絡!」
衣鶴の様子だと色々とかもって冬美也として面倒になる。
フィンなら躱し方を熟知している分大丈夫だろうが、出会って貰っても面倒だ。
しかももうすぐ夏休みも終わる為明日か明後日までには最低でも戻って来てしまう。
慌ててloinに連絡を入れた。
ダチグループ
冬美也
[ゼフォウ! 今は帰って来るな! 帰るなら一度光喜の部屋に来い!]
フィン
[どういうこと? 明後日には帰って来るけどどういうこと?]
光喜
[神崎ファミリーがシェアルーム占拠中]
冬美也
[とにかく明後日ならこっちの家族も帰るから帰るまでは戻ってくるな!]
フィン
[何それ超会いたい!]
冬美也
[会うな!]
フィン
[それより、ボスがせっかくくれたの光喜のアースディスったって聞いたけど本当?w」
光喜
[カーミル王がくれた奴が美味しかったそうです]
フィン
[そりゃ一流が選別したのとそもそも無傷&何も願望与えてない状態の希少種とは別もんよ?]
光喜
[別ってあの王様どうやって集めたんだよ……]
冬美也
[S国って確か管理者も引き入れているって事なら、早い段階で管理者が集めたヤツを処分せずに光喜に流してくれたんだろ?]
フィン
[とりあえず分かったけど、高等部グループで話してたアレを保護者に話したら、十中八九イビトと管理者の話だそうだ]
光喜
[やっぱり、でも盾が保護している以上は矛は手を出せないでしょ?]
フィン
[そこで過激派の登場だよ、盾の過激派は本当に隔離だけど、矛の過激派は]
光喜
[何が何でも殺すって事?]
フィン
[そういう事、とりあえずまだ色々残ってるから早いけどおやすみー]
光喜
[うん、おやすみ]
冬美也
[ギリギリまで帰ってくんなよー]
フィン
[なんでだよ!]
一通りloinで会話した後、光喜は言う。
「どうする? 晩御飯? 俺、帰る前に適当にコンビニで買って来たのしかないけど? 後冷凍食品位で」
「別に良いよ、オレ1人でコンビニに行くから」
荷物整理中、光喜はある事に気付き、落ち込んだ。
「そう……あっ咲さんとこに朝飯置いて来ちゃった」
一緒に寄って面倒だから会計も一緒にしてしまい、車の中で分けた際に忘れたのを今更思い出す。
「じゃあ一緒に行くか?」
「ありがとう一緒に行く」
結局近場のコンビニへと2人で出掛けた。
近場のコンビニに寄ると時間帯が悪かったのだろう、もう弁当が殆ど売れて余りなく、冬美也は困り果ててしまう。
「しまった時間帯が悪過ぎた」
「俺は菓子パンでいいや、冷凍食品とかにすれば?」
確かにそっちでも腹は膨れるが、冬美也としてはそんな気分では無いようだ。
「それも良いけど、スーパーまで足運んでも、半額シールはまだだしなぁ……」
悩んでいる冬美也をよそに、光喜はもう買い物を済ませようとした時、何かがこちらを見ている気がした。
なんだろうと振り向けば、身長は子供くらいで耳は兎だが、顔つきは猫の二本足で立つ獣が外からこちらを覗いている。
「――!?」
驚く光喜をよそに誰がコンビニに入って来た。
しかし明らかに買い物客では無い。
ウェーブの掛かった長い金髪にガタイもした男が光喜を見下ろす。
「お前が新たな管理者だな」
「うぇ……っと」
フレアよりは背は低いが、やはり大きな男にたじろぐ。
本来答えるべきだろうが、何故だろうか彼には言っては行けない気がした。
丁度その時、冬美也が食べる物を決めてやって来た。
「どうした光喜?」
「ううん、なんでも早く会計済ましちゃおう」
あまり彼には関わっては行けない本能的に避けてしまったが、大丈夫だろうかと心配になっていると、男の方から急に言い出す。
「私の名はクライヴと呼べ、外で待っているアースはセッシャーだ。それだけ覚えておけ、他の管理者に聞けば自ずと分かるだろう」
そう言って買い物もせず立ち去ってしまう。
ある種の迷惑客に等しいクライヴが他の管理者に聞けば分かると言ってその場から去るとはもっと関わりたいとは思はない。
結局、その晩は冬美也を本当に泊めるもやはり誰も泊める予定なんてない一人暮らしな為、布団などは無い。
それでも戻ったら茶化されるから嫌だと一点張りだ。
ソファーで寝るかと思っていたが、冬美也から勝手に来た身分で長距離で疲れたここの住人が使うべきと言い、結局ソファーは冬美也が使う事になった。
暫くは遊んだり、勉強したりしてなんだかんだ楽しんでいたが、インターホンが鳴り、インターホンカメラ画面に総一が映る。
「総一さん来てるけど?」
「はっ? またなんで?」
「まぁ急にこっちに来たから」
「ですよねー」
出てみると夜遅くに総一が荷物を持っていた。
「ごめんね、うちの息子が急にそっちに行っちゃって」
「いや、あんたがそもそも原因だろクソ親父」
「ごめんって、ほら寝巻きと毛布と枕」
「完璧住民を追い出しやがって……」
そう言いながら、冬美也は総一から荷物を受け取った。
光喜はきちんと総一に言わなくてはならない。
「息子さんは責任持ってお預かり致します」
「おい」
総一も誠心誠意で答えた。
「よろしくお願いします」
「やめろ、おい」
本気でやり取りしている友人と父親を目の前で見ていれば、止めたくもなった。
寝る直前、どうしてもコンビニの迷惑客であるクライヴについて聞こうとloinを開こうとした時、いきなり日向から電話が来て驚いた。
「はい、もしもし」
「すまん、夜中に」
元々聞く予定であったので、要件聞いたらクライヴについて聞けばいいと思って要件を聞く。
「いえ、大丈夫です。何かあったんですか?」
「お前、クライヴに会っただろう?」
どうして知っているのかと言いたかったが、そこまで頭が回らずそもそも聞くつもりでいたのを伝えると、かなり深刻そうなため息が聞こえる。
「――! はい、実はそれで尋ねるつもりでいたんですが……」
「あー、くそ! やっぱり――はぁぁ」
「す、すいません、コンビニ寄ってたらウサギ耳の猫のようなケモノと言うか、確か――」
「セッシャーだ。アイツらはヤバい、見境のない矛の過激派だ!」