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大男

 ショッピングモールにて、田舎ではあるものの、こういうのがあると本当1日入り浸る人も居るくらいだ。

 それだけ娯楽が無いとも言えるし、下手な金が掛かる所に行くよりは大分良い気もする。

 フィンが頼まれた買い物は、日用品雑貨に今日の食料で、昼ごはん用の駄賃まで貰っていた。

 共に学友として過ごして分かる、フィンの真骨頂、人の懐に入るのが実に上手い。

 それでだろう、祖父母や伯父も程よく使っているようで実際可愛がっているのが良く分かる。

 皆が皆、フィンみたいにこう人付き合いが上手く口八丁手八丁でもやってける人間は、何処行ってもボロさえ出さなければ一生やってけるのが羨ましい。

 フードコートで適当に昼食を摂っていてメモをずっと見ているフィンがここで荷物確認をして1つだけまだ買えていないのがあり、咲に聞く。

「ほとんど買い物も終わったけど、これってどこですか?」

 フィンに渡されたメモを見て咲が答えた。

「これは、帰り道にある店だからこれ食べたら行きましょう」

「ありがとうございます」

 なんとも愛想のいい顔だ。

 こういうのを見ると知っているからこその項垂れだ。

 前に小鳥遊が言っていた社会人に必要なモノは、従順ではなく機転と口だと言っており機転の良さで信頼が得られ、口即ち言葉が上手ければ、上を巧みに回し出世出来る。

 が、そんな才能のある人間は極めて少ない。

 だから口だけで出世した人間は機転が使えず、機転は出来ても口下手は一生下だ。

 そう考えると、フィンは本当に出世しやすいタイプだと感じると同時に他の大人達を見ていて感じるのはこれだった。

『大人って大変だなぁ』

 変な事を考えていると流石に咲とフィンが心配になって話しかけてきた。

「光喜、どうしたの?」

「そうだぜ社長、俺は保護されてる身だけど、一宿一飯の恩義ってのは持ってるぞ?」

 確かにその為に働いているのは分かってだが、そんな簡単に出来るのも才能だなと思いながら嘘は言ってはいないがフィンの行動に対して思い出していたのは伏せて言う。

「いやぁ、バイト思い出してさぁ、大人見てると大変だなぁって」

「俺見てなかった?」

 本当に勘付くのは鋭すぎて困る。

「なんで、ただ思い出しただけだし」

 じっと光喜を見たフィンだったが、何かを感じ取り、話を終わらせてくれた。

「ふーん、まっいいけど」

「もう!」

 光喜はなんか照れ臭くもあり飲み干したばかりのジュースを更に飲み干そうと吸い続ける。

 咲も笑って、身支度を始めながら言った。

「ほら、もうご飯済ませて最後の買い物を終わらせましょう」

 

 町の中心から離れた商店街、大分寂れてしまい、閉まった店も多い。

 それでも続けている店もまだあり、頼まれていた物を扱っている店も現役だ。

 フィンはその店で頼まれた買い物を済ませ、ようやく手伝いも終わる。

「んじゃ帰りますか」

 その時、小さな子供を連れた女性に声を掛けられた。

「咲ちゃん? やだ! 咲ちゃんじゃん!」

 咲も誰だと思っていたが、すぐに誰か気が付いて驚きながら、お互い嬉しそうに飛び跳ねる。

(とも)ちゃん? 久しぶり!」

 どうやら咲の幼馴染だ。

「もしかしてこの子って? 光喜君? 大きくなって」

「どうも」

 光喜からすればあまり過去とか掘り起こさないでほしいと思ってしまう。

 部活や今の状況にあの崩落事件の慰めとか本当に色々だ。

 それを先に悟ったのはフィンだ。

「咲さん、折角同級生と出会えたんだし、俺ら少し探索してるんで終わったら光喜のスマホに連絡してください」

 幼馴染も子供がいるからとあえて帰ろうとするが、そちらにも気を遣って少し探索することになった。

「良いのよ、私今子供と一緒だし」

「でも俺らもちょっと探検したいし、なっ?」

「うん、俺もフィンと一緒にその辺散歩してくるから、咲さんも折角だし友達とねっ?」

 このタイミングで離れられると思ってもみなかったが、お陰で幼馴染も咲も嬉しそうに近くにある古き良き喫茶店へと向かった。

「ごめんねぇ、お言葉に甘えてすぐそこまだやってる喫茶店に行きましょう」

「ありがとうね、終わったら連絡するから」

 そうしてフィンと光喜だけとなり、ここでフィンが言う。

「よし、大男ってこの近辺にいる筈だから探すぜ!」

「本音そっち?」

 まさかのそっちだった。

 フィンも最初に見つけてくれた恩人に対して会いたがっていたのだろう。

 実際自分も会いたいので、大男探しを始まった。


 小一時間が経ったがあの図体を見つけられないのは何故だと言いたい。

「居ない……!」

「流石にそろそろ電話来るんじゃね?」

 話も盛り上がっても小さな子供が飽きれば、お開きなのはまだ子供の自分でも分かる。

 光喜もフィンもそろそろ戻ろうとした時だ。

 子猫の声が響き渡り、その声を頼りに行ってみると、商店街間にある小さな公園があった。

 その木の上に小さな子猫が降りれなくなって、回りも困っていた。

「おーい子猫降りておいで」

「登るにしても、この木登る場所も大人が登ると絶対、枝が折れるし」

 近隣の人達も流石に子猫の鳴き声でどんどん集まって来る。

 こっちも力をと思っても、どちらも適応した能力ではない。

 ハシゴを持って来ても子猫の位置が悪すぎるのだ。

 かなり上の細い枝の端にいる。

 怯え切ってどんどん変な位置に行くので、これはやばいと判断した時、誰よりも大きな堅いの良い男が現れ、その子猫のいる位置に腕を伸ばせば、子猫はその腕に飛び移り誤って男の顔に落ち引っ掻いた。

「あいたた! 大丈夫だよ、おチビちゃんほらっ降ろすよ」

 男は子猫を降ろすとすぐさま、子猫は何処かへとすっ飛んでいってしまう。

「子猫逃げちゃったけど、すぐ近くに親猫居るみたいだし、後で保護団体に連絡するからアンタもご苦労さん」

 近隣達が男に労いを掛けながら皆元の場所へと戻って行く。

 光喜とフィンは確信する。

 大男だ間違いない。

 本当に大きく2メートルは軽く超えている。

 ついどう話しかけようかと色々考えていると、あちらが気が付いて気軽に挨拶して来た。

「こんにちは、どうかしましたか?」

 顔つきはとても穏やかで優しそうな雰囲気がある。

 そして品の良い話し方だ。

 少し怖そうなイメージがあったものの実際そこまで怖くないし、こっちが呆気に取られた。

 光喜が恐る恐る聞く。

「あの、友達があなたに保護されたって聞いて」

 大男はフィンを見て漸く気が付いた。

「良かった、元気そうで、ボクの名前はフレアです」

 あっちが名乗ればこちらも名乗らなければと2人は答える。

「如月光喜です」

「イ•フィンだけど、何処かで出会った? こっちは覚えてないけど助けられたって聞いてたからお礼言いたかったんだよね、助けてくれてありがとう」

 フィンからすれば恩人らしいが、どういう経緯とかあまり聞かないのが吉なのでフレアもたまたま偶然見つけたのかと思っているがなんだか、光喜もまた何処かで出会っている気がするのは気のせいだろうか。

 ただ本人は否定した。

「いや、偶然ですよ。意外とボクってこの図体だから熊ですら驚いちゃうんだ」

 昨日の祖父と伯父昌己の会話から思い出しても、フレアが来てから平穏になったと言う感じの話を思い出し、頼みはしていないが先の行動を見ればやりそうな人だと感じる。

 何か言おうとするフィンだったが、これ以上は言っても無理と判断してもっと純粋な質問に切り替えた。

「そう……ねぇ、あのさ、フレアさんってこんな田舎にいるの? 何か用事とか?」

 フレアは少し悩んだ後、理由を教えてくれた。

「特に用事とかは無いけど、強いて言えば自分探しだよ」

 光喜からはとてもかっこいいものに見え目を輝かせる。

「なんかかっこいいですね、自分探しって」

「いやいや、結構大変でもう少ししたら都会へと行こうと考えてます。それではボクはこの辺で」

 そう言って、フレアは立ち去ってしまう。

 根を見た感じではしっかりとしたここの世界の住人だ。

 でも、不思議で堪らない。

 一度会っている気がするのだ。

 それにあの図体で良く、恐ろしさもなく、自然と回りも受け入れられていた。

 しかしこんな人でも自分探しの旅をしている位だ。

 やっぱり世界は厳しいと実感してしまう。

 光喜のポケットに入っているスマホが鳴る。

 もう帰ると言うものだ。

「そろそろ戻ろう、明日の朝にはもう帰らないとならないし」

 もう明日には戻る為、少々寂しさが今湧き上がるのも不思議と思っていたのもつかの間、フィンによって恐怖が勝った。

「早く迎え来てくれないかなぁ、ボス」

「……⁉︎」


 もうすぐ夕方に差し掛かる頃、祖父母の家へと帰る途中、明らかにガラの悪い連中が辺りを闊歩しているのが見えた。

「何あいつら? 何処から出て来たのよ?」

 本来なら無視する所だが、殺気だっているのだ。

 下手に車を停めようものなら盗まれる可能性もあるし、動かしていていきなり突っ込んで来られても不味い。

 道を変えるかと思っていた時、罵声が飛ぶ。

「何処だ! あの木偶の坊‼︎ ぶっ殺してやる‼︎」

 どうやら誰かを見つけるまでここを闊歩する気だ。

 フィンを無意識に見るも、フィンですらこの状況が飲み込めない。

「もしかして、大男への報復? やだ、家大丈夫かな?」

 早々に引き返し、別へと思っていたが他にも何人か現れ、これは自分達を人質にするのではと感じた時に咲は大慌ててUターンし、その場から立ち去った。

 だが、車の後ろを見ていると既にフレアが居たのだ。

『えっ? 車からこの辺でも軽く30分掛かるんだけど』

 戸惑う最中にフレアは男達に何かを言うと、怒った1人が拳銃を取り出し撃とうとした。

「咲さん! 止めて! あの人撃たれちゃう‼︎」

「もっと無理!」

「いやいや、社長! コレは一般人巻き込むヤバい連中だよ、止めないで逃げた方が良いって、見られたら殺されちゃうかも」

 フィンの余計な話をした為、一気に加速してしまう。

 しかし、見られたと分かった男達が懐から拳銃を取り出すのが遠目から見え、光喜はこの距離から重力が加えられるかと不安だった。

 ところが拳銃の弾が出ないと男達は驚く中、見知らぬスーツの男性が1人現れ、同一のスーツに身に纏う者達が制圧し、何処かへと連れて行かれるまでが見えてしまう。

 本当に不味いモノを見てしまい、心の底から声が出る。

「見なかった事にしよう……」

「あぁうん、遠回りして帰ろう」

 フィンもそんな口ぶりだが、全く違う印象に感じた。

 それもその筈だ、祖父母の家に戻るや否やあのスーツ男性が1人でフィンを迎えに来ていたからだ。

 本来なら着いて夕飯の準備予定が30分以上も過ぎ到着。

 今から警察へ行くべきか悩んでいると、祖父が慌てて出て来た。

「フィン君、保護者が来たよ」

 もしやと思った光喜だったが、黙っておく事にした。

 その前に咲が先ほどのあった話をする。

「お父さん! それよりもさっきガラの悪い男達がこの周辺闊歩してたの気付いていなかったの⁉︎ しかも拳銃を――」

 話を誰かが遮った。

「すいません、フィンの保護者です。何かあったんですか?」

 いつの間にかあのスーツの男性が立っていた。

 よく見れば、癖のある肩まで伸びた黒髪を束ね、スラッとした姿にフィンと同じ位の白い肌、明らかにヨーロッパ系の外国人だ。

「あっいえ、この辺にガラの悪い人見かけませんでしたか? どう言う訳か誰かを探してたようで」

「そうなんですか、でももう大丈夫ですよ。こっちで連絡しましたから、その内静かになって元に戻りますよ」

「良かった何かあったら大変だし」

 咲からすれば、きっと警察に連絡したと思っての事で、心底安心し切っている。

 この状況を見ていたフィンと光喜は真顔のままこの話を聞き思った。

『絶対嘘だ!』

『それはどっちの連絡ですか?』

 男性の方がこちらに気付きやって来てフィンに言う。

「おっ? フィンも今から帰るから、ちゃんと挨拶しておけ、こっちはもうしたから」

「うっす」

 フィンはすぐに挨拶しに行く。

 自分も家へと入ろうとした時、男性に止められた。

「君もしかして、フィンの隣人で同じ学生の光喜如月君だよね?」

「はい、そうです」

「自分はエレクス・セェロ・ギバドロスってもんで、皆にはセェロって言われてるんで宜しくね、光喜君」

 光喜は昔の会話を思い出す。

 裏社会の人間だ。

 そして今こうしているのだから、まさか失敗しているのではと心配になりついセェロに言ってしまう。

「こちらこそ……あのフィンもしかして失敗とかしてて消――」

「ナイナイナイ」

 すかさず、殴る蹴るの拷問をとつい言いおうとするがすぐにセェロが否定した。

「まさか殴――」

「ナイナイナイ! 絶対しないから、そういうの。そもそも終わった後に指定場所の前にゴタゴタしたらしくって、とりあえず戻って来てくれたので御の字だよ」

 セェロからそう聞けてホッとしたかと言えばそうでも無い。

『なんか不安だ』

 そう思っている時、フィンがやって来た。

「すんませーん、挨拶終わりました」

 先の事もあってグダグダになってしまったなと感じていると、セェロがいきなりフィンの頭をゲンコツ一発お見舞いし、光喜は怯える。

「こんの馬鹿たれ!」

「結局殴ったぁぁぁ!」

 セェロはすぐに一発だけであり、心配して来たら能天気にいるのでそれはそれで怒りは増すのであり、その罰ということだ。

「ゲンコツだから! ゲンコツ! 心配しまくってたのにコレだぞ!」

 フィンもこればかりは反省して深々と頭を下げる。

「本当にすいませんでした」

「まぁ良い、夏休み前には戻させるから、光喜君ももし困った時あれば言ってね。こっちで出来る範囲でしてあげるから」

 最後の笑顔がとっても優しく恐怖を覚えさせてくれた。

「……いえ結構です」

 遠くに車を停めているのか、徒歩で帰ろうとしていて、フィンは手を振りながら言う。

「社長、夏休み前って言ってるから戻ったらね」

「余計なこと言って困らせるなよ」

 セェロはそう言いながら、なんだかんだフィンの頭を撫でつつも、それはそれで恥ずかしいのかすぐ払い、再度光喜に言って、そそくさと走っていってしまった。

「分かってまーす」

「んじゃまたね」

「うんまた」

 聞こえたかとどうかは分からないが、光喜ももう家で何があったのか軽く聞く為戻ろうとした時だ。

「そうだ、これ、餞別貰って」

 いきなりセェロから小袋を渡され、なんだろうと恐る恐るあけるとまがい物が入っていた。

「返します!」

「もう無くなっているのに?」

 よく見ればニュートンがまがい物を貪っている。

「何食ってんだ! お前‼︎」

「んー、カーミルがよこしたやつの方が美味い」

「いや、食うな‼︎ そしてディスんなぁ‼︎」

 セェロからすれば、何言っているか分からないが、なんとなく状況を理解し笑った。

「あははは、んじゃ若い管理者さんまた会いましょ」

 手を軽く振り、セェロも去り光喜も明日があるので家へと戻る。

 いつの間にか、真っ暗な夜になり虫の鳴き声も変わって来ていた。

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