墓参り
仕方がないので、フィンと一緒に見る事にした。
大方見終わり、噂ではその尋ねられた人物は皆揃いも揃ってもぬけの殻であり、尋ね人が怪しいと言われているが証拠も無いまま放置されていると言う流れだ。
ここで光喜は再度輪に入る。
光喜
[ごめん、母方の実家に着いたから出れなくて、あとなんかフィンがいた]
冬美也
[はっ? なんでお前の母方の実家に?]
光喜
[知らない、じいちゃんが狩猟免許持ってて、熊出たって聞いたから行ったら大男が居て、その大男がフィンを担いでたって話]
フィリア
[情報量が多い!]
ザフラ
[本来なら役所経由で警察沙汰だぞ? よく警察沙汰にならなかったな]
光喜
[分からん、これから伯父さんに聞いてみるけど、大男から言われたってのがあるから多分そのお陰]
卑弥呼
[そっちはそっちで凄いわね]
冬美也
[てか、フィンだってスマホ持ってるだろ?]
光喜
[保護者持ち]
冬美也
[今ので察した]
光喜
[ところでさ、俺が話た話より大分盛り上がってない?]
アミーナ
[これはきっと過激派が原因かと]
光喜
[過激派?]
アミーナ
[矛と盾はご存じでしょう?]
光喜
[まぁ、アダム理事長や蝶子さん達から聞いてるけども]
ジャンヌ
[過激派はどちらにも存在するが、1番危険なのは矛だ]
光喜
[矛? ジャンヌ達がいる所でしょ? と言うか殆どがそっちって言うか]
ジャンヌ
[全部が全部じゃないぞ、割合は確かに矛だが盾も実際いる、移った奴も]
アミーナ
[ですが、ルールを作ってお互い支え合っているのも事実です]
ジャンヌ
[ただ、過激派はやばい、盾の保護の元表立ってな行動をしない限り、生活出来るがそんな時に矛の過激派に消されるパターンが多いんだ]
光喜
[うわ……ごめん、伯父さんに呼ばれたから行くね]
冬美也
[もう晩飯だろ? それに今日は疲れたんだからもう休め、ゼフォウをこき使ってやれ]
光喜
[うぃーそれじゃ]
台所の方から昌己の声が聞こえる。
「晩ごはんだよ! ほら来た来た!」
スマホを閉じ、そそくさと光喜が向かう間にフィンが言う。
「どうして、どうして?」
かなりの戸惑いようだがそのまま放置した。
台所に行けばかなり色々置いてあり、豪勢だ。
「凄い、こんなに」
割烹着を着た祖母が出迎える。
「お久しぶり、光ちゃん良かったわ元気で」
既に晩酌を始めるのは祖父だ。
「おーでっかくなってぇ! 光喜も飲め飲め」
「飲ますな親父! 預かってる子にも飲ませようとするし!」
昌己がそう突っ込んでいるのを確認しながら、そっとフィンを見ると、笑ってはいるが飲んでいないよと頭を振るが些か信用出来ない。
そうして皆で囲んでご飯を食べていると、本当に久々に家族と食べてると言う感覚になる。
咲も並べく一緒に食べてくれたし、学院でも一緒に冬美也とフィンと3人いやザフラや皆と食べる事も多いが、朝晩はいつも1人だ。
もう久しぶりなのも不思議と感じている間に、光喜はある事を昌己に聞いた。
「ねぇ伯父さん」
「んっどうした?」
「あの大男って? フィンにも聞いたけど知らないって言ってたし」
昌己はどう答えようかと悩むと言うことは、昌己自身もあまり会った事のない人物なのだろう。
その時、ご飯より酒が進む祖父が知っていた。
「大男な? それならわしが知っているぞ」
「じいちゃんが?」
「おう! ここ最近見かけるようになってな、何も悪さしていないのに目立つもんだから良く通報されとった」
本当に目立つだけで通報されるってどうなのだろうかと悩むが、見た目はどんな感じなのか聞いてみると、相当でかいようだ。
「まじか、どんな感じ? 身長とか?」
「本当に昌己や昌人よりももう数段デカくて、自分の髪より真っ白で、でもどこかしら大人しい感じで」
昌己と昌人と名前が出た辺りで、フィンも伯父2人とは双子かと察し、軽く双子かと問うとそうだよと光喜は返す。
流石に昌己も自身の身長より高いとなると相当なのだ。
「自分よりでかいって、2メートル越えてないかそれ?」
ちなみに昌己は180位あるので結構大き方で、数段高いはもう2メートルあってもおかしくない。
祖母も大男を知っているらしく、こんな話をしてくれた。
「そうね、確かにそれ位あるわよ。チンピラがこの辺悪さして大変だった時にその人が歩き回るようになってから、ピタッと収まったから皆、大男さんには感謝してるのよね。本当に悪さしてないみたいだし」
咲も話に入る。
「母さんまで、と言うかチンピラってこんな田舎にいるのって高が知れてるっていうか」
確かに田舎あるあるとして考えれば、こちらから介入しなければ、別にそこまで脅威とはならない。
しかしそうとも限らないと思い知らされた。
「何言ってるんだ、良い大人が悪さして人が近づかないことを良い事にどんどん悪い連中を連れて来て、乗っ取られるんじゃないかヒヤヒヤしてたんだぞ!」
今は嫌でも首を突っ込んで追い払わないと治安が悪化する時代となったと嫌でも思い知らされ、たまたまもっとヤバそうな雰囲気があったのだろう大男のお陰で元に戻ったと言ったところで、フィンが更に追い打ちを掛ける。
「それ、もうチンピラ系じゃないし、もっと深刻な奴だよ。早い段階で追い出せて良かったじゃん」
『フィンが言うと、もう危険レベルなんですが?』
もうこれは乗っ取りの分類として見ておいた方が良いのかと口が裂けても言えないまま、そのうち話もどうでも良い話となり、そのままお開きとなった。
風呂場にて、湯船の中、1人で入りながら考える。
「明日は墓参りして明後日には帰るけど、フィンの奴は保護者来るまでって言ってたし、そうだあの大男とかどんな奴か見てみたい気が……」
ずっと頭に引っ掛かりのある大男が気になり、いっそ会ってしまえば楽になれるかもと、明日墓参りが終わったら、少し探しに行こうと考えていた時、ニュートンが現れ言った。
「お前、気付いてないのか? イビトの気配に?」
その一言に、身内に扮して紛れているのかと思えばそうではなく、絶妙な距離にいるらしく、一度見に行くよう促される。
「まさか! やっぱり身内に」
「違う、近くでは無いがそこまで遠くに居ない」
「や、やらなきゃダメ?」
「大分経ったイビトだ。根も張った状態だから放置するかどうか見定めるしかないだろう」
こうなるとは思っていなかったが、下手すれば色々不味くもなると言うのは知っていたが、大分経っているのならもう放置でいいのではと思ってしまうが、これも勤めだろう。
「見に行くって事か」
「そう言う事、のぼせるから早く上がれ」
渋々上がるも、ニュートンとか人型は皆服を着ているが、風呂場みたいな場所でもそのままなのが不思議でたまらなかった。
『服と言う概念はあるみたいだけど、脱ぐ概念は無いのか』
そう思いながら湯船から出て、部屋に戻ればフィンはもう寝ている。
「風呂空いたのに……どうしよ」
今から出かける気にもならない。
こんな田舎町の何処にイビトが居るかなんて分かる筈も無く、今日は寝てしまおうと電気を消し布団の上に寝そべり、かなり久々に見た天井を眺めながら眠った。
早朝6時、祖母が台所から声を出す。
「光ちゃん、フィン君もう朝よ。起きなさい」
これでも遅い方だろうが、高等部の起きる時間と一緒なのは些かキツイ。
移動は咲が運転してくれたので、自分は乗っていただけなのに、どうしてこんなにも怠いのだろう。
「うぅ……もう朝?」
光喜は重い体を無理矢理起こすと、隣で寝ていたフィンも起きるが、あの後起きる事なく寝ていたようで、風呂には入っていない。
「あーもしかして俺、風呂入らずに寝てた?」
寝ぼけた顔で光喜はその問いに頷く。
「うん」
流石に不味いと思ってどうするかフィンは悩むが、どう考えてもシャワーを浴びるべきだ。
「あちゃ、どうしよ?」
「とりあえずご飯食べたらシャワー浴びておいで」
朝食の為、台所へと向かえば一番疲れている筈の咲が既に朝食を終えていたではないか。
「おはようございます? まだ寝てても良かったのに?」
光喜が言うと咲は答える。
「そうは言ってられないわ、先生方の今後のスケジュールについての話し合いや一度状況確認のメールで送っておかないとサボる先生もいるのよ。坂本とか坂本とか!」
飲んでいたコーヒーのマグカップを叩きつけながら、鬱憤をここだけに止めるも光喜はどうして起こっているのかも薄々察しが付いた。
「あ、あぁぁはい理解した」
最近、管理者という立場以外に何か周りも坂本の実態を知っているのか、あまり公では出そうとしない辺りでなんとなく本業は小説家ではない気がした。
そしてユダが食事を奢ってくれた際、ピリつく違和感とあの後そのままユダとまだ話し足りない雰囲気からして、坂本は少し危険な人物ではと思うのと同時に二足の草鞋を履くには薄い気がする。
ただ子供である光喜はこれ以上考えても憶測から飛び出る確信がないので口には出さないでおく。
午前8時には咲と光喜は墓参りへと出掛けた。
先祖の眠る墓は車で10分位の所にある寺だ。
しかしどういう訳か、フィンも一緒に付いて来た。
「なんでフィンも?」
つい突っ込むとフィンは笑って、メモを見せる。
「いや、この時間帯でもショッピングモール開いてるから買い物頼まれてさ、そしたら咲さんが墓参り後、ついでに寄るつもりでいたからって連れて行ってくれるって」
「ようは荷物持ちか」
「そういうこと!」
こっちが呆れているのにとても意気揚々だ。
10分はあっという間で、すぐに寺の駐車場に車を止めると、意外と何台か車が止まっていた。
やはり混み易いお盆を避けたり、咲のように纏まった休みがここだったりと様々な理由があるのだろう。
フィンは車で待っていると言い、熱中症対策で窓だけ開け、光喜と咲は墓参りへと向かった。
墓を洗い流し、線香に火をつけ横に置く。
拝んでお堂に行くかと思っていた矢先、家族連れに目が入る。
若い夫婦というわけではないが、30半ばでまだ4か5歳の女の子がいた。
この家族も時期を外したか、休みがここだけだったかと思っていると、ニュートンが話しかけて言う。
「このガキ、イビトだ」
「えっ? でも、あれ?」
言われて初めて驚きも表情に出さず、とにかく根を見てみると大分根を下ろした後ではあるが末広がりだ。
ここの世界の人間ならもっと根を深く一本突き刺さっているのがほとんどだ。
そんなのは分かっているが、あの時のような初めて見た瞬間の浅く根が脆く感じるあの感覚が全くない。
正直な話、こんな子供でもやらなければいけないのかと、冷や汗が出た。
ニュートンは言った。
「もうここまで延びちまってるし、害もないみたいだ。ウィルスとか細菌も気になるが、大分経っている以上無理だな。まだガキだし、もしかしたら盾側もいる可能性含め、様子見で良いだろう」
本気でホッとする光喜はつい深い溜め息の形になる。
咲が先に行っており、光喜を呼ぶ。
「早くおいで置いて行くわよ」
「うん、分かった」
後を追うにもその家族の後ろを通るしかなく、少し緊張する。
子供が実はとんでもない長寿命持ちとかで実はもう100歳だったりとか考えながら通ると、意外な会話を耳にした。
「お前のお姉ちゃんが眠っているんだ」
「お姉ちゃんにご挨拶しようね」
きっと何かのきっかけで実子を亡くし、どういう経緯か分からないがきっと瓜二ついやそれに近いのを感じて養子として迎え入れたに違いない。
ただ幼い子供の法がまだ置かれている立場や状況を上手く呑み込めていないのか、表情は曇っているようだった。
お堂から戻り、そのまま車でそのままフィンと合流してショッピングモールへと向かう。
その道中、明らかに普通の身長では無い人間が歩いていた。
一般の背の高い男性ですら、驚いて尻込みしてしまう程だ。
光喜も心から声が出る。
「デカッ!」
フィンもその姿に驚き、光喜に聞くも光喜だって咄嗟の判断で撮る頭にはならない。
「ヤバい、スマホ持ってる? 撮った?」
「いきなりだし、撮れる訳ないじゃん!!」
あまりの煩さで咲に怒られた。
「はいはい、分かったから静かに!」
この時はただの興奮だけで終わる筈だと思っていた。