母方の実家
盆が過ぎた頃、咲から連絡が入る。
咲
[最近どう? 夏休みだからって怠けてないでしょうね?]
光喜
[しないよ、てか、合宿後にお土産渡しに行った時以来だけどどうしたの?]
咲
[お盆終わったから、親戚今居ないからってばあちゃん達が墓参りにおいでって、短期バイトやバイトあるなら別に良いけどどうする?]
光喜
[あー、母さんと咲さんの実家東北でしょ? 纏まった休み取れるかなぁ……(´・ω・`)]
咲
[しょぼんするのかぁw]
光喜
[だって、夜の行燈は休み貰えるけど、短期バイトの方はどうだろう?]
咲
[そっちは、もうすぐ満期でしょ? いつまで?]
光喜
[来週の水曜日で終わり]
咲
[結構ギリだけど行けそうね、それなら来週の木曜日二泊三日で行きましょう、私も休み貰うから]
光喜
[分かった、夜の行燈にも休み伝えとく]
咲
[お願いね]
一通りloinでやり取りした後、母方の実家は久々だ。
父方からの連絡は来てないが、母方のは咲経由で入る。
引きこもる前、一度だけ顔を出す機会があったものの、心無い親戚の一言が未だに耳に残る。
「なんだ、ビル崩壊に巻き込まれてないのか。せっかく援助金とか貰えるチャンスだったのに勿体無い」
酔っ払いの戯言と皆言って必死に慰め、言った本人は他が咎めても笑っているだけ、未だに許せない。
今でも毎年来ているとの事もあり、会いたくもなければ、よく毎年敷居に入れるのかと、正気を疑う。
それもあってか、連絡すら取ろうとは思っていなかったが、咲の努力もあってかあの親戚には会わせないようにあちらも頑張っていてくれていた。
今回は本当に久しぶりの母方の実家に帰ることになった。
皆にも伝えると、気を付けてや土産を楽しみにしてるとか位で、かなり気軽で勿論、夜の行燈の店主である小鳥遊にも伝え、来週の木曜日の準備もする。
当日の朝、咲が車で迎えに来た。
そうして東北へと出発、咲が来る前に準備してくれたジュースや菓子もあり、自分も持って来ましたとばかり見せるとつい笑い合い、順調に母方の実家へと向かった。
昼食もサービスエリアで済ませ、渋滞もなくスムーズに行く。
2時間過ぎた所で、トイレ休憩の為、小さなサービスエリアに寄った時だ。
咲が戻るまで土産コーナーを覗いていると、丁度旅行中のグループが暇な時間に怖い話に近い話をしている。
聞く気は無いが、声も大きく通る為、嫌でも耳に入ってしまう。
「この近辺で神隠しあったの知ってっか?」
あまり気の乗らない相手があしらうも、1度話した側はオチまで話したいが為、続行する。
「神隠しって、都市伝説じゃあるまいし」
「いやあるんだって、前に行方不明のじーさんが、数ヶ月見つかって」
「それ、神隠しになってないし」
「ここからなんだよ。そのじーさんを保護した警察官達の前でいきなり消えたんだよ!」
早く話を終わらせたい相手は気乗りしていないのがよく分かる冷たさだ。
「うわぁ作り話」
自分も相手なら、多分はいはいと軽く流しながら相手をするだろう。
しかし、管理者として考えればきっと世界に食われたが正解だ。
ただ良く考えればどうして世界同士供給し合っているのかと、途方も無い考えに至る。
が、話した側からすれば、反応の薄さと虚言扱いに腹を立て、今度はこんな話をした。
「なら、これはどうよ? ある男が警察でもないのに、人探してて、たまたまその人が数日前に引っ越して来た奴だったけど、言うのが面倒から適当にあしらった翌日、その数日前に引っ越してきた人が物と一緒にものけのからで、実際うちの近くでニュースにはならないけど、警察沙汰になった」
「それ、あんたが原因じゃないの?」
「おれじゃねぇよ! ダチがマジで人探しのヤツが居たって!」
ここまで行くと相手も面倒な会話に付き合い切れないと言った具合で、何処かへ行こうとして話た側も慌てて追いかけると言ったなんとも不躾た展開に聞き耳立てるんじゃなかったと軽く後悔した。
その後は咲と合流し、出発する。
寝ても良かったが、ずっと咲に運転してもらっているので、起きていようとしていたが、前半は話は盛り上がっていたが、今はもう話題が無い。
仕方がないのでこっそり仲間にloinに話を振る。
聖十高等部グループ
光喜
[漸く母方実家の県に入ったけど、まだ北の方だから時間ががが]
冬美也
[お疲れ、どうした? 疲れたなら一度寝ろ]
光喜
[もう話題が無い! 助けて!]
ジャンヌ
[話題か? 無いぞ? こっちは実家に帰るには遠過ぎるから、寧ろ現両親がこっちに来ている位だ]
ザフラ
[もうこっちに戻って来たが、また随分ネタに困っているな?]
フィリア
[寧ろ話題を振ってよ。合宿以来会話って無かったし]
アミーナ
[そんな無茶な事を振らずとも……]
光喜
[えーあるならあるけど、先程盗み聞きした話を1つ、なんか数ヶ月前に消えた老人が、見つかって警察が保護した話]
ジャンヌ
[割と普通な話だな]
光喜
[警察が保護してパトカーに乗せて走ってたら、消えたって話]
ジャンヌ
[すまん、良くある話だ、たまにあるんだよ。管理者だったらすぐに気付く案件だ]
アミーナ
[あるんですよこれ、同一は稀ですけど、こちらに気付かれずに保護されて勝手に人前で食べられるの]
光喜
[やっぱりあるんだ]
ジャンヌ
[気付ければ、基本はこちらでな?]
アミーナ
[人の目のないところでですが]
フィリア
[管理者って本当に物騒]
卑弥呼
[と言うか、それは話題にしては駄目よ絶対]
光喜
[ですよねー、盗み聞きした話もう一つあるんだけど……]
冬美也
[どれだけ聞き耳成功させてるんだよ]
光喜
[アハハヽ(´∇`)ノ]
ジャンヌ
[ちょ! 吹かすな!]
光喜
[でぇ、もう一個が明らかに事件案件なんだけど、数日前に引っ越して来た人が行方不明になった話で、行方不明になる前その人を探していた尋ね人がいたって話位で話た当人ははぐらかしたらしいけどね]
ジャンヌ
[それ、ストーカー事件か?]
アミーナ
[だとしても、行方不明になります?]
冬美也
[世の中物騒になったな]
フィリア
[あれ? それ、続き無かった?]
光喜
[続き?]
そこで、咲に話しかけられた。
「もう少しで着くわよ」
「あっ! うん、分かった」
光喜は慌ててloinを止める。
ただ返事があったかを確認せず、勝手に終わらせてしまった為、どうなっているか分からなかった。
夕暮れ時に咲と母の実家、柊家に着く。
田舎によくある大きめな日本家屋と呼ぶべきだろうか、その為か盆や年末年始に挨拶しに来る親戚が多い。
何処かの由緒ある家かと言えば違う。
兄弟が多いのと祖父が長男だったから本家となっただけだ。
本当によくある話で、そこから分岐して来たほぼ赤の他人な親戚もいる為、案の定起きたとも言える。
咲が先に玄関を開けて、自分からすれば祖父母だが咲からすれば両親だ。
「かーさん、とーさん、ただいま! 光喜君連れてきたよ!」
祖父母ではなく、違う男性が出て来た。
「咲か、おかえり。今母さん達は買い物行ってる」
「昌己兄さんただいま、マジか、もう夕方でしょうに? と言うかどうしたの? 帰ったんじゃないの?」
笑いながら昌己は答えた。
「だって、久々に孫の1人来るんだから、おれんところはもう大学の寮に戻っちゃったし、おれはただ親父達に呼ばれただけ、住んでる家近いし」
今住んでいるのは祖父母だけ、伯父に当たる昌己は近くの賃貸の方で自身の家族と暮らしている。
何かあれば、すぐに駆けつけられるので、ちょっとした用事に良く呼ぶのだ。
で今回はきっと自分のことだろうと安易に察する。
「伯父さんお久しぶりです」
「お久しぶりって、凄いキャラ変わってるじゃん!」
確かに陸上部関係でずっと短髪でほっそりだが筋肉質も今では面影がないのだ。
「いやぁもう、陸上部もやっていないし」
どう説明しようかと思っていたが、流石に察してくれた。
「そっか、そりゃ仕方ないもんな、いっそこっちにって言われてたけど」
本来なら実家でと話が出てはいたが、まだあの時点では離婚もしていなければ、マスコミが闊歩していて下手に預かっているのが分かれば迷惑が掛かると自分と両親が決めたが、今となっては分からない。
でも、行かなくて良かったと思っている。
咲も分かっての事だ。
「無理よ、あの状態でここで暮らすにしても、結局昌己兄さんだって暮らすの不便だから利便性の高い街に住んでるでしょうが、それに盆や正月にあのくそジジイの面倒見せさせる気?」
あの親戚がわざわざ煽りに来てもおかしくはないだろうし、下手すれば話てマスコミだらけにされた可能性もあった。
そこを踏まえてしまうと昌己も光喜も納得しかない。
「あー確かに……」
「あの人ならありうる……」
話が盛り上がった所で、どうして居るのか聞けば意外な答えが返ってきた。
「ところで、昌己兄さん来たのって光喜の面倒みる為? 別に良いのに、私が――」
「違う違う、親父ってほら、狩猟免許持ってるじゃん」
「要らないって言ってた山の整備の為に持ってるアレでしょ? それが何か?」
「熊出たって聞いて、威嚇の為に猟銃と虎太郎連れて行ったら、人がいた」
祖父が狩猟免許を所持しており、普段山の管理の為入るが近所から熊が出たと言うので、とりあえず見回りの為、犬の虎太郎を連れて山に行って人が居たそうだが、まだ話が見えてこない。
もしかしたら熊が人を食べた後の可能性もありついそこを突くとそうでは無かった。
「食べられたとかはないでしょうね?」
「ないない、寧ろ、大男がいて少年を保護してくれって、警察沙汰だけは勘弁してとも言われてなぁ、本人もただ保護者来るまでここで待たせてもらっている形」
「いや、呼ぼうよ」
呼ぶのが普通だ。
と言うか、大男とはと色々突っ込みたい所満載なので、とりあえずどこから突っ込もうかと悩んでいるとその保護された少年が現れて驚いた。
「昌己さーん、掃除終わりました……ってアレ? 社長じゃん!」
なんとフィンだったのだ。
光喜の第一声。
「今すぐ通報をしましょう!」
「どうして⁉︎」
客間の一室、咲は自室があるのでそっちで休むので、友達と言う枠組みでフィンと2人で使う事になった。
とりあえず訳を聞くがもう意味がわからない。
「実は仕事終わった後、迎え来る予定と場所が狂って、今ここで保護されていると言う事です」
そもそもどうして海外に行ったきりの人間がここにいるのかをまず知りたいし、何より大男と言うワードが頭に引っかかったままなので、フィンに問いただすも、本人も知らないようだ。
「いやいや、お前海外に行っていたんじゃないのかよ。つか大男って誰だよ」
「知らん、俺も気付いたらここで寝てたし」
「昌己伯父さんに聞いた方が早いか?」
フィンは母方の兄弟の人数が気になるようだ。
「てか何人兄弟よ、お前の母方?」
「えっ? 4人、伯父さん2人に母さん、咲さんって順番」
確かに多い方だし、そこまで気にも掛けなかったが、言われてみれば納得してしまう。
「大家族だなぁ」
「今じゃ多い方になるのかぁ」
ふと、こっちが始めてこっちが中断してしまったままだったのを思い出し、慌ててloinを開くと大分盛り上がっていたのを知る。
簡単に言うとあの続きの話だ。
どうやら、行方不明者が跡形も無く消えただけではなく、前回住んでいた場所すら見つけられないという話で、そういえばもぬけの殻だったのを言うのを忘れていたのを思い出す。
会話に入ろうにも大分盛り上がりどうしたものかと考えるとフィンも話題に入らなかったのが不思議だ。
もしやと思って根を確認するもやはり本人だった。
最近、しっかり目に力を入れるとちゃんと見えるようになり、更には根のクセもあるので本人かどうかも分かり、かなり便利だ。
「ちょっと、何下見てるの?」
流石にまだちょっと凝視していたせいで、フィンに突っ込まれてしまう。
「いや、根を見てた」
管理者特有なのを理解してくれているので、ホッとしたつかの間、何故か光喜のスマホを覗く。
「あぁ、それでって言うか、俺もloin見たいんだけど?」
「自分の見ろよ」
「ボスに預けっぱなしで見れないの」
「oh......」
それ以上言えなかった。