合宿帰り
合宿最終日となり、皆それぞれ荷造りを始める。
しかし、夜中呼ばれた管理者、異能者はまだ寝ている者もいた。
だが面白い事に、光喜達だけは荷造りを済ませたまま再度二度寝をしているのだ。
あの後すぐに荷造りと着替えを済ませて、二度寝に踏み込むとは中々だが、流石に起こされた。
「お前ら良い加減起きろ‼︎」
朝まで起きたままのご機嫌斜めなジャンヌによって。
皆、マイクロバスに乗り込み、それぞれ思い思いで会話をする。
「帰る前にどこ寄るんだっけ?」
「直帰ではないけど、軽く観光……は無理だからサービスエリアでお土産買って」
「もう終わりかぁ」
ふと、光喜はバートンに話掛けた。
「先生」
「どうしましたか?」
「一さんやディダ達はどうするんですか?」
結局一達は別々の車で来ていたので、このまま帰らないのかと思っていての事だったが、バートン曰く、片付けしてからとのことだった。
「彼らは片付けがまだあるので、それが終わり次第帰ります」
「そうなんですか、てっきりそのまま会議なんてしてそうな気がしたんですが」
あの様子だと、他の子達を帰してまた引っ張り出すのかとつい思ってのことだ。
でも流石にそこまではしなかった。
「まだ子供である君らを引っ張り出してまで夜中やったのに、更に追加ではしませんよ」
そうしてマイクロバスに揺られながら、夜中起こされた組は眠ってしまい、バートンだけ他の子達の様子を伺いながら外を眺める。
もう明け方と言う時の事を思い出しながら――。
子供らが戻った後、一に言われて渋々日向は総十に付いて話出す。
「はぁ……頭狩りと言われる男だ。歳は20歳代後半から30歳前半のかなり粗暴の悪いってのだけ知っている」
マルスも申し訳なさそうに総十の過去について話した。
「俺は過去の話なら知っている。彼は伴侶と伴侶のお腹の子を殺されて復讐しようとしていた筈なんだけど……?」
一は怒りながら項垂れる。
「やぁぁぁっぱり隠しておったかぁ!」
「他にも色々話はするが、とにかく後は坂本達に聞け、アイツらなら知っているだろう」
日向としては本当に関わりたくないと言った感じで、何か良い思い出も無さそうだ。
「僕も一度会ってるけど、金があれば何でもする人って言うよりも、ただの飲んだくれと言うか何と言うか」
「普通にろくでなしじゃないですか」
ジャンヌが自分も一度だけ会ったと言うより、見かけたのを思い出す。
「そういえば、昔、日向に匿われていた頃、本気で怒って追い出した男、総一さんに似てたな……」
バートン以外はなんだかんだ総一の知り合いで、名前を間違えたり、似ているとか言われたりしたら、絶対怒るのを薄々気が付き、想像すら出来てしまい、全員一致でこれだけは思った。
『万が一本当に、身内だったら、総一さんめっちゃキレそう‼︎』
そんな風に思いながらも、土鬼を起こして再度聞きたかったが、思いの外起きやしない。
仕方がないので多分まだ眠っているであろう坂本と鶴野に連絡してみたら、意外と鶴野の方と連絡が繋がった。
すぐさま、連絡した一がスピーカーを押し、鶴野の話を皆に聞こえるようにする。
「はーい、もしもし、斎藤君どうしたの?」
「すんません、ちょっと襲撃にあって――」
鶴野に今までの経緯を話す。
「なるほど、穏喜志堂かぁ知ってはいたし、何度か総十とは会ってたし、30年から40年位会ってないなぁ死んだんじゃないの?」
納得ついでに、鶴野は総十とは約40年も会っていない。
万が一やられていてもおかしくは無いとも取れ、一からすると物騒な物言いと一緒だ。
「凄い物騒な事言うなぁ」
「実は土鬼だけここに居るんだ」
日向が土鬼の事を伝えるとやはり意外だったのだろう、鶴野はこんな話をする。
「土鬼ちゃんだけ? 珍しい、人が死んじゃうとはぐれ神って消滅しちゃうから主を守る習性あるんだけど、もう1つはぐれ神が助かる方法があってね。主を食べる事なの、と言うことは食べちゃったんじゃない? そうとうパワハラタイプだったし」
聞いていた琴ですら引いてしまう。
特に総十では無く、純粋に笑いながら気軽に話す鶴野が怖いのだ。
「もっと物騒な事言いますね、蝶子さん」
声で琴だと分かった鶴野はそのまま話すが、やはりマルスの言っていた件は本当のようで、ただ同時にあの幹部らですら知り得ない何かが起こったのだと推測出来た。
「琴ちゃん、おひさぁ。物騒も何も本当に色々やらかしてるからねぇ総十は、でもおかしいなぁどうせ食べさせるならいっそ穏喜志堂自体を潰してからって思ってたんだけど、負けたか囚われたかと感じてたけど、あちらさんの幹部が知らないって事はイレギュラーが起きたとしか……」
「と言うか総一さんって今幾つなん?」
改めて総一ってそういえば年齢幾つと思って、皆に問うとアミーナが知っており、冬美也と出会った頃に大凡の年齢を伝える。
「若いうちに冬美也君出来たらしいからまだ30後半から40前半だと思いますよ?」
ここまで行くと本当に身内よりもっと濃いモノだと思い、ジャンヌが慌てて止めてはぐれ神に話を戻した。
「……憶測はよそう、話を戻して蝶子さんはどうして知っているんですか? はぐれ神の事?」
「あぁそれね、彼のお師匠と知り合いでそれについて話してくれたの、名前はね安倍晴明よ」
鶴野から意外な言葉が出て、日本人なら大体分かる有名な名だった為、一と琴に日向が驚きを通り越して呆気に囚われてしまう。
「んっ?」
「陰陽師の?」
「架空の人物じゃないのか?」
平安時代に居たと言われる陰陽師に対し、日向の疑いの声に一が突っ込む。
「おっと、日向さんが言っちゃいますか?」
軽く笑う鶴野だったが、自身が現在ではなく再生前に晴明との思い出しこんな話をした。
「彼もはぐれ神と契り交わした相手なの、まぁ私はずっと宿メインでやってきたから知り合えたって言えばそうなるね。確か、今期の再生前に一度彼に会って、久しぶりに良い弟子が来たと言ってて、はぐれ神と契り交わさせるのって冗談で言ったら、総十にバレたら殺しに来るから絶対付けさせないのと、その話は絶対に出来ないと笑ってたわね」
流石に総十ですらその案件は怒るとなると、いよいよもう確信に変わってきてしまい、名前を聞けばもう断言出来る程だが、ここで本人がやって来てしまい名前を聞けず仕舞いだった。
「名前は? その弟子の? 聞いてたでしょ?」
「いやだ、聞く前に物凄い形相で睨む男の子が来てぶっきらぼうに話して連れて帰ったのよねぇ」
日向がとりあえず年齢を聞けば良いのではと思って聞くと大体だが把握は出来る様だだが、ここで時間切れとなった。
「お前の言う男の子ってもっと上だろう? 幾つだ?」
「そうね大体、光喜君達位の子で……ごめんなさい、仕事入っちゃった。今海外に居るのよ、それじゃ」
「おう、ありがとう。こっちは他に管理者に電話して注意喚起しておくわ」
「なら私の方でも連絡しておくわ」
そう言って、鶴野から電話を切り、静まり返った部屋の中で、一は一言言った。
「ふぅ……通話料金ヤバいな」
「そっち?」
流石にずっと聞いていたディダがここで突っ込んだ。
「せん……先生! サービスエリアに着きましたよ!」
光喜に起こされ、バートンが目を覚ます。
「すいません、珍しく眠ってしまい」
「いえ、あの後連絡とか色々してたわけですし、こっちもさっき起きた所です」
「他の皆さんは?」
「運転手と一緒に降りて行きました」
マイクロバスの鍵を渡されていたのか、光喜がバートンに鍵を渡す。
「……全く、ですが寝てしまった自分も自分です。自分達も行きましょう」
この後は平和そのもので、好きな物を食べ、お土産を買った。
何もなく高等部に着き、マイクロバスはそのまま中等部へと向かい、光喜とフィンと冬美也は自分らの足で自分達の住むマンションへと帰る。
「はぁ、色々あり過ぎてへとへとだぜ」
フィンは疲れているのか伸びながらもあちこち体を動かす。
「だなぁ、ただの合宿のつもりだったし、管理者の特訓も含めて普通よりややハードのつもりが、意味のわからんのに絡まられてだし」
「でも、宿題も一通り目処ついて良かったよ。明日からバイト三昧だぁ!」
光喜としては明日からのバイトに胸を躍らしているのを見たフィンが笑って言う。
「ははははは、俺は本部に呼び出しあって、明日から飛行機乗って行かなきゃいけなくなりましたわ」
目が笑っていないのだ。
しかも、わざわざメールを見せてきた。
時間が表示されている。
冬美也も驚いてしまった。
「よりによって、ついさっきじゃねぇかよこれ?」
「そうなんだよ。明日から俺いないけど、大丈夫? 理美ちゃんを連れ込むなよ? 万が一連れ込んじゃった場合はハイコレ」
フィンが何かを渡す。
光喜もちゃっかり渡したものを覗いてつい言葉にしてしまった。
「これ、コン――」
「ドアホがぁぁ‼︎」
冬美也は怒って投げ返した。
「バカ、親切に渡したんだぞ? お前、何か起きた時お前責任取れんの?」
「取る取らないの話じゃない‼︎」
「冬美也、もしかして付け方知らないの? ちゃんと練習した方が良いだろ」
今度は箱になった。
無論、投げ返す。
「だから、道路のど真ん中で渡すんじゃねぇ‼︎」
外野と化した光喜は心の中で思う。
『青春だなぁ』
やられてる側からしたら青春でも何でも無いが、徐々に距離を開けながら赤の他人に成りすます光喜の姿があった。
ただ冬美也としてはあまり2人きりで無駄に盛り上がると変な目で周囲の人間に見られるのが嫌で仕方がなかったし、正直な話、光喜も巻き込まないと気が済まない。
「戻って来い光喜! 赤の他人になるな!」
「俺は親切心で渡してるのに、この人ったら!」
まだ弄りたいフィンはまるで乙女な表情で冬美也に良いよる為、冬美也が顔を真っ赤にして怒る。
「まだやるか‼︎」
部屋に戻ってからこれをすれば良いのにと思うが、変なテンションの状態なまま帰るのかと思っていた時だ。
「公共の場で何をやっているんだ?」
「げっ……ユダ」
あまり会いたくもない人物だ。
下手すればまた何かされるのではと考え、光喜とフィンが先に帰ろうとした。
「俺はこれで」
「俺も」
だが、ユダも分かってやっていることだ。
フィンに至っては反社会的な所にいる分、下手な行動をすれば何されるか分からない。
「お前らもちょっと来い、特にそっち、下手な事すれば分かっているな?」
こんな緊張する場に、守ってくれる大人もいないのだ。
だがフィンは頭を下げて言う。
「疲れて晩飯作りたくないので、奢ってくれるなら付いてくよ!」
あまりにどうしようもない内容に、光喜も乗った。
「俺も晩飯奢ってください」
完璧に呆気に取られ、口が自然と開くユダに対し、冬美也としてはそんな許される事なのかと代わりに怒ってしまった。
「お前らぁぁぁぁ‼︎」
と言う訳で、近くの飲食店で本当に食事を奢ってもらえる事となり、3人は驚いた。
「ほ、本当に奢ってくれるなんて……!」
「どういう吹き回しなんですか?」
驚くフィンに対し、疑う光喜だったが、この飲食店は、個室で食べれると言う利点が強く、酒を飲む以外に普通に食事を楽しめる場所となっていた。
ユダはどうして冬美也達に声を掛けたのかを説明する。
「何、管理者同士のネットワークで注意喚起が来た。お前ら穏喜志堂とやりあったんだろ? そこで話を詳しく聞くにはお前らが1番だと決めてここに来た。勿論、お前らが奢れって言うから奢ってやる」
この辺でやっぱり管理者同士のせいでバレたのかと項垂れ、誰が告げ口したのかと口にした。
「うわぁ、誰だよユダに言う奴……」
ただしフィンと光喜は他人の財布なので気兼ね無く注文に勤しんでいたのだ。
「俺、1番高いの頼もー」
「パットで注文だし、ガンガン頼んじゃおう!」
「お前も頼め、冬美也、お前らじゃこの店入れないしな」
ユダが何故そんな事を言うのか分からず、冬美也はメニュー表に目を通して驚いた。
「それってどういう……すっげ⁉︎」
「普通に安くても三千円する店だ。高いの頼んでデザートも付けようぜ!」
「俺、サイドも幾つか頼むし、冬美也も頼もう!」
「なんで、お前らそんなキラッキラなんだ?」
フィンと光喜は即答した。
「他人の金で食う飯は美味い!」
「以下同文」
「そんなこったと思ったわ」
仕方がないので冬美也も適当なのを頼もうとした時だ。
急に戸が開き、皆が戸の方を見るとなんと坂本が居た。
「やっと見つけた、あんたら家の前で待ってたのに帰ってこないから探したわよ」
「なんで、お前がいる? 坂本」
「そっちのセリフよ、ユダ」
一気に空気が重くなってしまい、男子3人も固まってしまった。