占い
帰って来て早々、フィリアが泣きながら冬美也達に言い寄っていた。
「なんで! 私もやりたかった! 実施訓練!」
フィリアに対して、普段とは違う態度でフィンは言う。
「お前は、香りを操る力だけじゃんよ? それでどのような立ち振る舞い出来んだよ?」
対応が間違っていると指摘しつつ冬美也はあの実施訓練について改めて説明した。
「ゼフォウも言い方、フィリアも前に言ったけど、今回はもっと戦闘に近い状態にしたいのもあったし、何より今回大人が3人入ってオレらも入ると偶数にならないだろう?」
「でもでも! やっぱりあんたら撃ちたかった!」
フィリアのやりたい言い分は攻め側になって撃ちたいだけのようで、フィンも眉間に皺を寄せ言った。
「やっぱりそっちか」
後ろから皆の飲み物を持ってやって来た琴が説明に入る。
「攻めるのはもう最初から決まってましたし、下手にそちらを多くすると面倒な事もあるのと卑弥呼様だけであの中等部メンバーをみせる訳にも行きませんでしたので」
「琴さんまでもー!」
ずっと見ていても仕方がないので、光喜は皆に聞きながら輪に入る。
「何の修羅場?」
「フィリアに実施訓練の話したらこうなった」
「でも、見るに愛されし者のアミーナ先輩だってどちらかと言えば戦闘不向きですよね?」
アミーナは言った。
「何を言いますか? 足手纏いになるのは嫌なサポート型は皆、戦闘経験者ばかりで琴さんみたいな最初から武術を習っている人から教えてもらうのが1番早いので、理美様は琴さん直伝の武術を叩き込まれてますよ」
そういえば、確か前に聞いたのを思い出すが、結局光喜はザフラとアミーナに叩き込まれる形になっていてすっかり忘れていた。
理美は小柄で細身があると思っていたが、意外としっかりした筋肉を持っている。
「うぃ」
「て、ことはフィリア先輩も?」
「一応ねぇ、でも、理美ちゃんみたいに隠れ筋肉とは違って、なかなか筋肉付かないのなんで? 如月君はどうやって付けたの?」
筋肉を戻す為、あの頃はとにかく筋トレセットでやるのが基本で、それ以来ジョギングと筋トレが欠かせない。
「まず筋トレしましょ? 最低3セットで慣れたら5セット」
「3セットも無理ー!」
皆は苦笑いするしかなかった。
花火も段々盛り上がりを増していく、皆はそれぞれ楽しむ。
こうして夜が更けていく。
明日別の訓練を予定していた。
しかし、あれだけ晴れていて花火大会も大盛り上がりの次の日に雨が降るとは思っていなかった。
挙げ句の果てに土砂降りで予定していたものは全てキャンセルし、食堂で皆それぞれ勉強する事になり、これはこれでストレスだ。
「せっかくの3日目でこれじゃ、勉強だけが進むのはねぇ」
卑弥呼はそう言いながら、スマホで天気予報を確認する。
フィンが不思議そうに言った。
「卑弥呼先輩は占い、予知が得意なのに見るんだ」
「あのね、理美だって言ってたでしょうに、未来は千差万別、寧ろ衛星で天気を予測してくれてるからそっちが1番予想を当てられるの、だけどゲリラ豪雨が各地で起きているのはちょっと気掛かりねぇ」
冬美也はゲリラ豪雨が起こりうる原因を知っていた為、それに対して反応した時、光喜も話に入る。
「そうでもねぇだろ? 原因の3つが揃えば大体なる」
「原因?」
「地表気温が高い、湿度が高い、上空の気温が低い、が揃うと起きやすいんだよ。各地もそれが揃えば不思議じゃない」
ただ、卑弥呼からするとこんなに一気に各地で起きるのがおかしいと言いたいのだ。
「それもそうなんだけど、雨乞いでもしてるのかって位だし」
「今度は雨乞いって、日本を沈没させたいのか?」
「人為的って言いたいの、それから占いは外れるのが普通、ただ人の心理を見抜くにはそれが1番効果がある」
「前、理美が好きなアニメBlu-rayにもその回でもあったなそれ? 占い師は占うのではなく、人の心に寄り添うカウンセラーって」
某深夜朝アニメだ。
卑弥呼は冬美也に賛同しつつ、実際どのように見ているのか説明してくれた。
「そうそう、でも心理学も入っているのよ。人の仕草、人の言動、人を見る眼差しとかを占う形で見抜く」
「俺もしたフリしてそれやった事あるけど、マジで当てられてビビり散らかす奴いたなぁ。でも、卑弥呼先輩はガチで未来当ててくるから信頼度は卑弥呼先輩だね」
「そりゃどうも」
フィンに褒められても、卑弥呼はあまり嬉しくなさそうだ。
「ねぇ、どんな占いをするんですか? やっぱり邪馬台国でやっていたような貝とか?」
「そっちも出来なくはないけど、拾って来てないからなぁ……適当に見繕って占ってあげようか?」
「適当に出来るの?」
「出来る出来る、即席占い、手を見ても面白いけど、それじゃメジャーだからやらないちょっと待ってて」
卑弥呼は何かをどうするかと考えながら筆記用具から色々出して考えると、即席占いが完成する。
ただし、シャーペンシルと真っ白な紙1枚だけだ。
「何これ?」
全員、コレを見て凄い疑った目となる。
「ほれ、まずはここの中央にシャーペンシル立てなさい如月君」
「あ、はい……」
これで占いが出来るのか正直不安だ。
「これで降霊術とかしないから安心しなさい」
「それだけで出来るの⁉︎」
「そうよ、だからコレだけで人の心理状態がよく分かる」
「……次は」
「まだそのまま、まずは状態を見てから……そうねぇ、最初は疑って掛かっていたけど、好奇心に負けてる感じ」
「そのままだな」
「外野は黙れ」
「そ、それで何を?」
「何? 魂噛まれた?」
「へっ?」
「普通に出来るのは悪魔だったり、怪異系の中でも相当劣悪なのが多いんだけど、あなた……生きた人間に噛まれたみたいね?」
「――?」
卑弥呼の言葉に驚きを隠せないまま、話が続く。
「その後、一度魂の傷で体も壊した。時差ボケ扱いで治ったから良かったけど、普通の人間じゃドンドン衰弱して死に至る。何かが目覚めてでも、それは運良く傷を塞いだ後眠ってくれている」
ここまで行くと、心理ではなく真理を見ている気がした。
流石に周りにいた日向やジャンヌも近くに寄ってくる程だ。
「って事は目覚めさせない方が?」
「まぁ、出来ればだけど、多分それも時間の問題だと思うのよねぇ」
「起きてしまうのか?」
「自分からは起きはしないんだけど、再度あなたを噛んだ人間が来るわ」
管理者全員が息を呑んだ。
「噛んだ奴は今度誰を狙っているのか分かる?」
「それは……分からない、ただし、皆と共に行動をする事。ついでに何か気になる事ある? それも占っちゃおう!」
「えっ? んじゃ、最近穏喜志堂とか?」
「おう、じゃあ、今度はコレを中央に指だけで押さえて、離してちょうだい」
卑弥呼の言う通りにシャーペンシルを立てた状態で、てっぺんを指だけ立たせ、そのまま離した。
倒れた時と転がった方向を目視した卑弥呼は、拍子抜けた顔になって答える。
「なんで? マルスが? と言うかバートン先生がちょっと見回るって言って出たんだよね?」
「危ないからって言われたけど、あの人だから無事だと思うよ? てか、なんでマルス?」
「いや、この後バートンとマルスがディダ連れて戻ってくるんだけど?」
全員同じ言葉が出た。
「はっ?」
同時にチャイムが鳴って、理美が立ち上がって言う。
「ちょっと私が見てくる」
「オレも行く」
冬美也も続いて一緒に行くので、先程の占いのせいで他の管理者達もついて行く。
もちろん、光喜も立ち上がった。
「流石に俺も――」
「はいはい、行ってらっしゃい私はこの辺片付けてから行くから」
卑弥呼に促されて光喜が皆の元へ行った後、その書き殴る跡がまるで取り憑かれている様な描き方に目を細め、回りも多分話に夢中で気付いていない。
紙とシャーペンシルを包んだ後、呟いた。
「もうこれ使えないなぁ、気に入ってたんだけど」
「すいません! このバカが失態で動けないのでちょっと開けてもらえないですか⁉︎」
バートンの声と共に理美が扉を開けると、卑弥呼の言う通りバートンとマルスがディダを肩に抱えて入ってきた。
理美の第一声。
「本当に来た!」
「なんですか急に……卑弥呼の占いでもしたのですか?」
「如月先輩が占ってもらってたら」
バートンは理美が予知した訳では無いのかと小言を溢しつつ、卑弥呼なら占いの信頼度は桁が違う分、納得も出来、そのままディダを誰かにお願いした。
「成る程、なら早いこのバカの治療を誰かにお願いしたいのですが?」
「なら、オレがしておきますので、マルスさんと先生は風呂入って来てください」
「誰も出来ないよりは良いですね」
バートンと冬美也のやりとりを見て、光喜は改めて本当に仲が悪いのだろうと感じるが、お互い大人対応だ。
「私も手伝います、アミーナ一応デリートが見て消したとは思うのですが仮に変なのが入ってたら危険なので一緒に」
「分かりました」
琴とアミーナもディダの処置に加わり、バートンとマルスは近くの空き部屋へとディダを運び入れ、皆騒然としたまま、すぐに日向の機転で場が静まり、各々部屋へと戻る事になった。
「んじゃ、俺も戻って――」
「俺らもディダの所行こうぜ! 社長!」
「マジで言ってんのかよ、この人?」
光喜は部屋に戻ろうとしたが、どうせ戻っても暇だしとフィンの提案でどう言う訳かディダのいる部屋に行く事になり、こっそり覗く。
丁度ディダをタオルで体を拭く所で、いきなり目が出て来た。
「何してるんです?」
「わぁぁぁぁ‼︎」
「ちょ……‼︎ 本当に心臓に悪いわっ‼︎」
驚く2人をよそに、目の正体事アミーナが手伝いをお願いする。
「丁度良いですね、わたくし達で拭くより、男手が欲しかったのでお願いします」
光喜は驚きのせいで動悸が酷く胸を抑え、アミーナに聞く。
「見てたでしょ?」
「覗く方が悪いですよ」
結局男3人でディダを拭き、怪我の手当てや何か付いていないかをアミーナが見て、一通りし終えた後に、ディダに何があったかを問いただす。
「――で、結局何があったのか教えてくれませんかね? ディダ神父」
「ぶっちゃけ、こうなっちゃったのは、怪異退治後で土鬼が助けに来てくれたから、デリートにも気付いて貰えたから良かったんだけど」
「主語が見えないですよ?」
琴に言われて、どうするかとディダが悩んでいるのを見ていた光喜がある言葉が脳裏に浮かび、そうであって欲しくないと願うも、儚く散った。
「穏喜志堂の幹部にやられた。怪異も多分アイツらが人為的に強化されたの、正直もう僕らの手じゃ負えない」
「またですか……この前も怪異に襲われたし、もっと前だと――」
ディダは琴の話を遮り答える。
「坂本達がクネクネに遭遇した件も確か、信者達が彷徨いてたとか」
あの時、クネクネの影響でしらさわメンタルクリニックにて坂本達が治療を受けていたが治らないと分かり、ディダが呼ばれたのを思い出す。
「その時って信者いたって言ってなかったよな?」
「確か」
「そらしょうでしょう。クネクネ討伐した後、異常に強かったけど、その前に誰かにやられてたのか討伐出来たのは、多分、土鬼が致命傷を負わせてたのかも跡があったし」
「土鬼って何?」
「そこにいるじゃん」
ディダに言われて、全員窓を見るとずぶ濡れで窓にくっ付いたまま動かないアザラシもどきがいた。
流石に全員驚き悲鳴を上げる。
「うぉう‼︎ アザラシもどき‼︎」
「そうそう、この子が土鬼だよ。土って書いて鬼、そのままだね。で、この子はハグレ神と言って、神様と言うべきか鬼と呼ぶべきか分からない存在で、妖共違うらしいんだよね」
皆が驚く中でディダは一切気にせず、アザラシもどき事土鬼について説明し始めた。
アミーナはそんな説明をされても頭に入って来ないのだから、少しは同調するか宥めるかして欲しいと怒る。
「人が驚いているのに、少しは落ち着かせるか、そっちも驚きなさい!」
「ディダって見た目な割にもう歳だって絆様が申してましたが、ここまで行くと……」
琴ですら、もうボケ老人として扱うしかないとまで考えるも口には出さずに濁すのを見て、改めて冬美也にそっと聞く。
「ねぇ、ディダって普通の人間ではないのはなんとなく理解は出来たんだけど、何者なの?」
「ドラゴン」
「人の形してるけど?」
光喜の疑問に、そうかメリュウの時とはまた別種のドラゴンだもんなと冬美也は口にして、詳しい説明は良いだろうと軽く尚且つ分かりやすく伝えた。
「現代に住むドラゴンは姿を消すか人や動物に姿を変えて過ごしているのが大半で、ディダは東洋龍と西洋龍との間のドラゴンらしいが、そこまでは分からん」
「……ドラゴン色々いるんだねぇ」
これで分かったのかと言えば、おおよそ分かっていないだろうが、入学当初から今までの事を考えれば、もう慣れてしまったのだろう、異常な状態に。
『だんだん、もう驚くの疲れてどうでも良くなって来てるな光喜』
流石の冬美也も同情した。
扉を叩く音に皆振り向くと、フィリアが入って来た。
「ねぇ、神父の状態大丈夫なの? きゃぁ‼︎ 土アザラシちゃんが何してるの⁉︎」
心配になって入って来て早々、窓にくっ付く土鬼にフィリアも驚いてしまい、このままだと人が入る度にこの調子で驚くのは明白だ。
冬美也は渋々、土鬼を入れる事を提案し、光喜も賛成するも絨毯が汚れてしまうので、一度玄関に通した方が良いと判断する。
「……どうする? 入れるか?」
「ここから入れたら怒られるから玄関から入れるか」
何かがゆっくり這い寄るのを誰も気づかずに――。