番人
皆、夕食を食べ終わり、20時頃、庭先で花火をする事になった。
中等部組は皆、花火を持って楽しく遊び、高等部組は先の疲れがまだ取れないので、椅子に座ってのんびり見守る。
ただし卑弥呼だけは違った。
「あれ? あなた達は遊ばないの? 花火? 冬美也なら一緒に理美ちゃんとやると思っていたのに?」
冬美也は本当なら一緒に花火をする気でいたが、体の体調が金属系の液体化した後から優れず、はっきり言ってしまうと、暫く横になりたい位だ。
「お前と違って子守じゃなく、全身使った能力は筋肉痛とはまた違う痛みと怠さがあるんだよ」
「俺も慣れない事して疲れてしまって」
光喜も同様で、いきなりの急激な成長に体と頭がついて行けずに、ずっと気怠さがこびりつく。
「で、フィンも一緒ってどう言う事?」
「俺? 何となく、一緒にのんびりしたい」
フィンに至ってはテーブルに身に任せていた。
多分、フィンも場ノリでここにいた方が楽が出来るのを知ってたからだ。
卑弥呼はまったくもうと軽口叩いて、光喜に今回の事でどうだったか聞く。
「今回は如月君はどう? 何か収穫出来た?」
「収穫と言うか、出来たというか」
「どんな?」
光喜はずっと考えていたのを実際上手く出来たのに、未だに成功したのが信じられない感じで、内心声が興奮もしていた。
「前々からやってみたいと思ってずっとイメージ固めてやっていたんですが、今回出来たんです」
「へぇ凄い! どんなイメージだったの?」
「宇宙ステーションのあの無重力」
卑弥呼はたまにニュースとかになる宇宙ステーションに日本人が映って実験をしたりするあれの事かと思った。
「あれ? あの施設の中でふよふよする?」
「そう、でも限定的な状態にしたいと思ってやっていたいんだけど、それが本当に上手く行かなくって、危機的状況と言えば良いのかな? そんな時に出来たんです。自分達は浮かずましてや重力が強すぎて動けないも無い。液体のペイントだけ浮いていて、無重力過ぎずにちゃんと遠心力と共に止まってくれた」
卑弥呼が光喜の話を聞き入っている時、ザフラがその話に入ってきた。
「とりあえず、無重力と重力を交互に同時に扱えるようになれば、もっと幅広く使えるようになるぞ」
「ザフラはどうやって扱えるようになったの? あんな癖のあるやつ?」
「小さい頃からそう言った異能者達の集まりの一族だからそう言ったのが書物に残っていたり、実技に対応出来る異能者が先生になって教えてくれたりと色々な、でも、流石に教えるは難しい。今回ので漸く成長が見えて良かったが、範囲はまだまだだ」
「どの辺までやる気なのよ?」
「分かっているのじゃないのか?」
意味ありげな言い方をするザフラにどういう事なのかとつい、光喜は戸惑う中、冬美也とフィンはそろそろ話す時期かとしみじみと話し出す。
「何の話になった?」
「お前もそろそろ真実を知る時が来たか……」
「そうだねぇ社長も大分意味の分からない感覚にも慣れて来たし、何より後でデリートが説明してくれる前にまずは卑弥呼様からですわよねぇ」
本当に何の話なのか、また意味の分からないついて行けない話なのかと、緊張が走る。
「普通に平安よりも前に生きてる人だよ」
理美が凄い大雑把な回答を言いながらやって来て、フィンも卑弥呼も突っ込んだ。
「うぉぉう! 凄いアバウトな回答を理美ちゃんの方から言っちゃったよ!」
「違う! そうじゃない! ちゃんと言いたかったの! 邪馬台国の王女だった話をしようとしたの! そんなアバウトな言い方じゃないの!」
しかも光喜に至っては、もう慣れましたとばかり普通に言ってしまう。
「あぁ……何となく察してたけど、理美ちゃんがそんな感じで歳取らずにいたんだし、なんかトリックとか異能とかあるんでしょ?」
「頑丈になったな光喜」
「もうちょっと詳しい話すると、長々となるしなぁ……こっちで話すか後で?」
冬美也もフィンもこうなると後で部屋で説明した方が良いと感じた。
丁度その時、バートンがやって来て、光喜を呼ぶ。
「光喜如月、少し別の話をしましょう。ここにいると、理美嘉村がまた変な回答をしそうなので」
「あー、はい分かりました」
理美もバートンが言いたい理由を理解して、大人しくここに残り、光喜はバートンと共に歩いて行った。
残ったフィンが笑いながら言う。
「殴られんなよー」
「ひっ!」
「しませんよ、殆どあなたが原因作ってたじゃないですか」
光喜が怯えるもバートンは言い返し呆れていた。
バートンについて行くと、そのまま砂浜まで来て、本当に2人きりになってから話し出す。
「どうですか? その後の生活は?」
「えっ、あ……大分慣れましたし慣れちゃいけないのにも慣れました」
「そりゃそうでしょう。イビトに関しても、色々あったらしいですね。あれはもう仕方がないモノだと思っておいても良いです。好奇心は猫をも殺す、自分達の好奇心を抑えれられない者に待っていた末路です」
「あ、あの皆が言っていた番人って、もしかしてバートン先生なんですか?」
「えぇ、そうです。本来の名はデリート、削除、意味すら消すと言われる者です」
たまたま聞こえた名は本当だったのかと改めて納得と緊張が走る。
どうして緊張するのか、先程までの雰囲気がまるで違うのだ。
人間としてバートンとして見たいたのに、急に番人の本来の名を聞いた瞬間、ガラリと人間ではない者のオーラが漂い、人間として見れない。
「ど、どうして俺だけここに? やっぱり知らない後輩達も居たから?」
「いえ、先も言いましたが、理美やゼフォウ達がからかいに混じって、話がこんがらがるんで避けました。分かってからあの調子で、こちらの調子もお構い無しなのでもう仕方がないので離れて落ち着いて話せるのはここしかなかったので」
バートンの説明を聞いた瞬間、緊張が一気に抜けてさっきまでのあれは何だったのかと聞きたいがあえて聞かないでおこう。
それどころか、本当にフィンならやりかねないし、殴られても仕方がない気がした。
「……あぁやりそう」
しかもご丁寧に何故ここなのかも教えてくれた。
「ちなみに、屋敷だと一が有給取ってるくせして、仕事持って来たみたいでこれから徹夜だそうです」
「うわぁブラック官僚」
「他人に任せられない仕事をやってるらしいので、本当に何故、ここに来たんですかねあの人?」
バートンにも言われるくらい本当に何故、一が来たのか分からない。
光喜的には本人に言ってほしいと思っていたのと、臨時の集会で出会ったあの女性もそうなのかと思ってバートンに聞く。
「俺に言われても……そういえば、コピーって人も番人なんですか?」
「そうです、妹になります。コピー、写し、モノマネ、等です。コピーにお願いして作ってもらって暫く授業に出てもらってましたし、ですがたまに変なモノにしてたりと怒っているなら、直接言えば良いのに……」
やはりそうだったのかと、完璧な写しを作らない時があると聞くと、こればかりはどうみてもバートンが聞かないからと言うしかない。
「いや、言っても聞かないからじゃぁ」
「まぁ、いつもの事なので気にしないことにしてますが、流石に今回の実施訓練は広く使うのとドローン使える人間も居ないので、今回はもう1人番人にお願いして審査して貰いました」
「確かに、1人じゃ無理なのにどうやってみたいたのかと思ってました!」
「クレヤボヤンス、千里眼です。一応話をしたら良いとのことだったので、一緒に審判してもらっていたのですが、やはり審判ですら騙す、遺伝子に愛されし者はどうも……」
「そんなに凄いんですが? と言いたいけど、やっぱり一さんのあれは正直、細胞や髪の根毛に血や唾液って殆どDNA鑑定のアレですもん」
先のを思い出す。
一が何故か冬美也の髪の毛の根毛付きを持っていて、自分はこれでなるので、琴に狙われたのを確認してから、一の姿になって走るようにと言いながら、自分の血を額につけて来たのだ。
ぐにゃりと感覚がおかしくなったのと同時に本当に斎藤一になっていたので驚いた。
はっきり言って理由が無ければ二度としたくない。
その様子をずっと見ていたバートンは面白い子だなと思い、少し笑っていた。
バートンはこれも話すべきかと、思いながら口にする。
「それすら見破る番人はいましたが、死にました」
失礼な事を思ってしまい、口にしないようにしたいが、どうのように言えば良いのか分からず、最初に思っていた事を光喜は言った。
「番人に死の概念があったんだ……」
怒られて殴られる覚悟はあったものの、やはりそう思うのかとバートンが感じ、何処で死んだかを伝える。
「この世界でですがね」
「もしかして、その原因を探る為に?」
光喜としてはやはり大事な兄弟か家族みたいな関係が伝わった。
バートンはその様子を見て、一応話す所まで話して切り上げる事にした。
「未だに話そうとしない連中が多いのですが、死ぬ間際に何かしたとまでは分かっているのです。ですが、それ以上は何も……」
「そうなんですか、でも、どうして死んだんです? いや! ごめんなさい! そう言うつもりじゃ!」
つい、光喜は自分の好奇心を恨んだ。
バートンは深いため息を吐き、今回だけと死因のみ話す。
「好奇心は猫をも殺すと言いましたよ? 良いですよ、ほぼ致命傷で焼け死んだです。こちらが話した手前もありますが、今後は気をつけてください」
「は、はい気を付けます……」
そろそろ戻ろうと考えるも、光喜の今の悩みを聞いておこうとバートンは言った。
「後、最近どうですか? 穏喜志堂等に付け回されたとか、何か気になる事があるのなら、相談に乗ります。ですがこの夏休み辺りから、我々番人はイーターと穏喜志堂の息のかかった連中の始末等しなくては行けないので、暫くここに来れない可能性があります」
番人の話辺りでずっと留まれないのは何となく理解出来た。
「悩み、ですか……」
「コイツの眠っている何かって分かる?」
「ニュートン? 見えます?」
神眼とはまた違い、番人もまた見える存在のようだ。
「えぇ、見えますよ。フードを被った少年でしょう。ユダがちょっかい出して来たのは知ってますよ? その後冬美也が割り込んだって辺りも」
流石に見え過ぎではと思っていたが、この辺もクレヤボヤンスが見ていたのを報告してくれただけだった。
「誰に聞いたんですか⁉︎」
「クレヤボヤンスが、勿論、眠っている力があればニュートンの負荷は最小限にはなりますが、あなたに付いた噛み跡のせいで体の負荷より魂の負荷が否めないし、コレばかりはやはり死んでしまった以上見てもらえないのが痛いですね……」
かなりその番人は重宝されていただけではなく、本当に信頼を寄せる程だ。
「カーミル国王が言っていたのと同じ噛み跡があるんですね」
「あそこの空間は魂との繋がりを強める為に存在するんです。そこをこじ開けたのですか?」
「そっ、で慌ててコイツを元に戻したけども、ガッツリおれは噛まれて、粉々に全ては喰われずに済んだのは、運良く光喜がちゃんと戻れたから」
「なら、急いだ方が良いのかも知れませんが、何分、真実が居ればその辺も考慮して見てくれたのですが……」
「真実?」
「そう、先も言いました見破る番人の名は、“真実”彼の名前です」
「結局、ユダに頼んで無理矢理起こすしかねぇ」
ニュートンの本気な声に光喜はなんて言えば良いのかと悩んでいると、バートンが下手な起こし方をして良かった試しが殆どなかったのだろう、止めるよう説得してくれた。
「起こさないでください、何もない場合もあれば、万が一あった場合に噛み跡のせいでいつ暴走してもおかしくはないんですから」
「お、おう……」
流石に早とちり過ぎたとニュートンは反省するも、バートンももしも血より傷ついた魂の方に何らかの力がある場合も考え、別の番人に声を掛けておく事を約束する。
「血よりも魂に力が有るとすれば、1人魂の番人が居ます。一応彼に話を通しておきますので、無理矢理起こそうなど思わないでくださいね、ニュートン」
「ありがとうございます。あの」
「なんです?」
「どうして話してくれるのかなって?」
つい普段の言い方になってしまったが、本当に親身というか、自身の話もきちんとしてくれるので、番人は一人一人聞いてくれるのかとつい思っていたのだが、とても些細な理由だった。
「それは……あなたが1番、あの中でマトモに見えて」
「えぇ? えー……えっ?」
色々思い当たる節がある。
実際、管理者の中で言うと、普通に接しているのは実は光喜だけだ。
そして、全体を見てあのメンバーでマトモに聞いてくれたり話してくれたりするのは、意外と冬美也だと思うが、バートンにも好き嫌いがあるとすると冬美也はきっと嫌いな部類だ。
冬美也とバートンの雰囲気は似ている部分を考えるとお互い同族嫌悪みたいな感覚があり、普通に接するけどもそれは場を崩さないように大人の立ち振る舞いをしている。
広樹は聞き役でしっかりしている部分もあるが、異能、管理者では無い為論外だろう。
必死に頭の中を整理したい光喜の背後に大きな打ち上げ花火が上がった。
バートンは光喜の様子を見てくすりと笑うも決してそこまで笑わずに、すぐ冷静に今日花火大会があるのを教える。
「そういえば、今日ここの近くの海上で花火大会をするとネットで書いてありましたがここからだとより見えますね」
どこで何があるかを全く調べて来なかった光喜だったので、こんなに大きなのが上がるとは思っていなかったので、驚きと久しぶりの花火に感動した。
「はい、凄く大きい花火です」
「戻りましょう、あちらでもよく見える筈です」
「分かりました」
そうして花火が上がる最中、背を向け皆のいる屋敷へと戻っていった。