実施訓練中盤
理美は隠れている場所にも土煙が舞い、ここから抜ける為、走り出すも、急激な重力に負け転けてしまう。
「ふぎゃ!」
「おし、よくやった如月君、さてとちび龍使っている奴がそう遠くにはおらんので、絶対近場にいると踏んで良かったわ」
一の声に拳銃を持とうとするも、重力が強すぎて持てないのに気付き、理美は再度振り向けば、アミーナが現れる。
「重力のせいで銃も使えないしょう」
ここでどのようなものか聞き出せるチャンスとばかり囲うも、冬美也は逆に恐怖を覚え早くその場から離れるように促す。
「おい、理美だったのはまずいって、そのまま距離取って先に進むべきだ!」
「彼女だから?」
フィンの笑いに冬美也は怒った。
「バカ! ここは理美の別荘地だ! それに、アミーナもう一度見てみろ! ここに住んでいる動物達!」
理美の愛されし者を完璧に忘れていたアミーナは慌てて見ると、とても恐ろしいものが何頭も理美の為にやって来ているのが見えた。
「やばい……何頭かコチラに」
「それ、何頭って言ったら大型動物しかいないやん!」
一の驚いている最中に、重力で体を起こすのもやっとの状態なのに、理美は立ち上がった。
「ふっふっふっ、そう、色々な複合型でも私の愛されし者、全ての生物なのだよ諸君」
「おいおいおいおい、理美ちゃんや、武装じゃなくてそっちはずるいでしょう⁉︎」
「いけっ! ガ○グマ‼︎」
理美の言葉にガチで本物の熊が立ち上がる。
皆、血の気が引いた。
しかし、よく見ると他の位置からひょこひょこツキノワグマ達が顔を出す。
いや、まだだ、まだ、本当に襲いかかる可能性は無い。
ここで本当に襲うと事件になってしまう事くらい理美だって分かっている筈だ。
「GO!」
が、理美は速攻で指示をし、まさかの熊が全員動き出すと言う悲劇が起こり、皆散り散りに逃げ出すしかなかった。
「わぁぁっぁぁ‼︎」
「ばっ! 光喜、重力解くな! 理美が動く‼︎」
「そ、そんなこと言ったって! 熊全体に重力なんて使えないよ!」
「アミーナがおらんと、詰むから! 絶対、死ぬなよ!」
「別の意味で殺されそうなんですけど!」
皆が一斉に逃げ出した。
その姿を見届けた後、理美は未だに土煙が舞うのでそろそろ片付けようとするも、メリュウとアザラシもどきがまだやり合っている。
「メリュウ、ちょっとこの距離からだとジャンヌ先輩の力使えないと思うから……って、まだもぎゅたんと遊んでる」
「違う違う! あの小僧がどっかに行ったのに、おれはやるぞと言って言う事を聞かないんだ!」
「皆、私も含めてなんで、もぎゅたんが言ってるか分からないのに、よく分かるね?」
理美とメリュウが会話をしていると、背後に気配を感じ振り向けば、アミーナが立っていた。
「ほう、見るに愛されし者だと、熊の動きもよく見えるんだな」
「そんな流暢な事じゃ無いでしょ? もぎゅたんと遊んでいないでさっさと飛んで」
「悪いが、どちらとも用があってこちらで腕試しさせてもらう」
アミーナがそのまま突進する形で突っ込んできた。
その頃一方、Aチームは……。
「理美のトランシーバーからアミーナの声が聞こえてきたので、確実に応戦中だろう。まさか見るに愛されし者がここで別行動を取るとはな……ジャンヌ、場所を移動だ。他の連中の誰かがそっちに向かっている筈だ」
「了解だ」
「理美様はそのままで?」
「殲滅狙いはコチラだけ、あっちはあくまで旗を取るのが優先だ。だが邪魔をするのはありだろう?」
「確かに、このまま放置する訳には行きませんね」
「固まっていても仕方がないのは一が1番理解している。ただ熟練者がそっちに行くのは予想外だ」
「とりあえず、Bチームが全員バラけさせるとは凄いですねあれは」
「理美に捕まる位なら熊辺りでも殺さぬ程度で襲えと言ったが、何頭までと言うのは言っておけば良かったな」
「あぁ……理美様も複合型で振り回されるタイプなのが来てますね」
「そのせいで今スランプなクセしてやるからな、後は何処かで落ち合う気だろうから、ザフラ、落ち合うにもそちらの周辺だろう一網打尽にしろ」
「アイサー」
戻って、Bチーム。
loinグループBチーム
ハジメちゃん
[お前ら、どの辺にいる?]
冬美也
[多分南東]
フィン
[俺は分からん、でもあんたの指示通りの位置になんとか行けたけど、熊を払うために耳元や目の前で何度か力使ったから多分バレてる]
光喜
[なんで、どこかの殺し屋並みに広い土地持ってんの⁉︎]
ハジメちゃん
[落ち着け、地図とGPSで確認すれば大丈夫だから、今から落ち合う場所に必ず誰かが来る筈だから、気を引き締めてな]
光喜
[わかりました、気を付けて向かいます]
フィン
[社長頑張れ!]
冬美也
[お前が1番頑張れや!]
理美の指示で動いた熊も手加減してくれてたのだろう、気が付けばもう熊の姿は無かった。
実際の熊ならもう捕まって食われていてもおかしくない。
草叢に隠れ潜む光喜は一通りloinでやり取りした後、1人で落ち合い場所に行かねばならず、昨日の肝試しとは違う恐怖で、どう動けば良いか分からず落ち込んだ。
「これは本当にどうなるんだろう……」
ニュートンが出て来て、彼なりに励まそうとしたが、返って光喜から白い目で見られてしまった。
「めげるな、光喜、始まって1時間も経っていないぞ」
「ニュートン、お前が1番信用出来ない」
「何でだよ!」
「ユダの辺りから」
余程、あの時の出来事のせいで、ニュートンとの絆がおかしくなっていた。
ニュートンも流石にこのことについて言及が出来ずただただ黙るしかない。
「ぐぬぬ……」
「そりゃ、重力だけでなんとか出来る程、甘くは無いのは知っているし最近ようやく感覚が掴めたって所で分かって来たのは、もっと高度な技術が無いと重力は意味を成さない。それならもう1つあるならそっちに賭ければもっとやり易くなるってのも分かるけど、ニュートンからすれば俺ってそんなに頼りない?」
光喜もずっと悩んでいた。
ザフラが修行の師としてずっと使い方を伝授してくれても、実際幼少の頃から使い続け、己の糧にした者とたかだか数ヶ月の人間じゃ全く歯が立たない。
寧ろ、もっと単純な力なら使える可能性があるならそちらに賭けたいのも無理からぬことだ。
でも、それは本当に必要なのか。
そして、管理者としてずっと続けていかなくては行けないのに、そちらを放棄するようで嫌だった。
ニュートンは即答した。
「頼りない」
「おいっ!」
「頼りないから、お前自身の本来の力も必要だと思った。それに魂にも亀裂が入った状態だと本来ならもっと衰弱する筈なのに、お前は立ってここに居る。だからこそお前にも何かが眠っているそれが起きそうで起きないなら、起こしてやってそっちの技術を身に付ければ、イーターともやり合えるそう思った」
「ニュートンお前……」
この時のニュートンは管理者としてアースとしてではなく、一個人の感情で動いていた。
そしてあのイーターが、白い空間を破って入ってきて光喜とニュートンを襲った犯人だと確信する。
「まっ、運よく動いてるだけって事もあるから、早く上達しろよな」
「あーはいはい、とりあえず向かうからね」
結局いつものニュートンに戻ったが、少しだけギクシャクが抜けたような気がした。
内容は聞き取れないが、それをずっとスコープで見ていたジャンヌはそろそろ狩るかと軽く口にすると、急に爆発が起き、すぐさま風で吹き飛ばす。
「驚いた、ボクの周囲に張っていた風がまさかその隙間を縫って来ると思わなんだ」
「すいませんね、一応こっちにもそれなりの経験者が俺の指導者なんで」
「そうか、ならお互い楽しくやり合えそうだ」
普段のジャンヌから出て来ないような殺意にフィンは思った。
『ペイント弾ぶち撒けられる前に死ぬ‼︎』
少し前のloinグループBチームの内容
ハジメちゃん
[ゼフォウは、ジャンヌの方へ。多分動かれても誰かを狙い撃ちするベストポジション見つけたら暫く動かなくなる筈]
フィン
[なんで俺?]
ハジメちゃん
[君はそういう訓練受けてそうだから、特に対異能対戦等]
フィン
[そりゃ受けてるけど、風纏ってるぜアイツ絶対]
ハジメちゃん
[なら好都合、君ならそれ縫って行けるでしょ?]
フィン
[うわっ、俺もAチーム行きたかった!]
ハジメちゃん
[こらこら、Bチームはあくまで攻撃してもAチームを退場出来ない以上、遠距離攻撃と中距離攻撃の2人を足止めさせなぁあかんでしょ? アミーナが理美ちゃん、君はジャンヌでおけ?]
フィン
[分かったよ、爆破と風って相性意外と悪いんだぞ!]
怒りながらも、熊を追い払い何とかジャンヌの元へと行けたのは良かったものの、明らかにジャンヌの戦乙女では無く、狩人の目には度肝を抜かれた。
次々と弾が無くなるまで銃を撃ち続けながら、ジャンヌは全身し風を使ってペイント弾をフィンにぶつけようとする。
フィンもそれを躱しながら、躱せないのは全て最小限の爆破で防ぎ、濡れないようにした。
突っ込んで来るジャンヌの腹部を狙って、あえて爆破させる。
勿論、最大の下限だ。
ジャンヌはすぐさま風圧を極限まで高めた為、爆発の影響は無く、ただ一度下がるしかない。
その下がるのを待っていたかのように、フィンは更なる複数箇所からの爆破をさせ、ジャンヌのバランスを奪った。
このまま動きを封じれば、狙撃の心配は無くなる。
ところが、ジャンヌは懐から手榴弾を取り出し上へと投げ飛ばし、投げた手榴弾を銃で撃ち落とすと、広範囲でペイントが舞う。
フィンはそれを全て片付す為に細心部まで爆破させた。
ジャンヌからの攻撃も爆発させる為に手を翳すと、熊がいきなり坂を登ってやって来たと思えば、その背中から飛び出す理美の姿が見える。
「やべっ!」
そう言った直後、理美が銃でフィンの頭部に撃ち込んだ。
バートン
[脱落者、アミーナ]
バートン
[脱落者、フィン]
落ち合い場所までやってきた時に、loinを確認する光喜は度肝を抜かれて、ただただ思いの外早すぎると血の気が引く。
別の方向から人の気配を感じ、光喜は鳥肌が立つ。
「ひっ!」
「自分です、自分しかおらんでしょう?」
一と後から冬美也がやって来た。
「あー、ゼフォウもアミーナもやられたんだけど? 思いの外強すぎるだろあっち」
「脱落理由も書いてあるけど、アミーナは拳のやり合いをしてたけど、空間無視の攻撃喰らってペイントだらけだそうで」
一体どういう事だと思っていると、どうやら別空間に元から手榴弾を幾つか爆発させた状態でアミーナを誘導し、そこまで殴り合いをしながら誘導し、別空間にあったのを元に戻すと言う新手の手法で騙くらかしたと言う内容で、更に光喜が怯える。
「理美ちゃん怖っ! あの時もそうだったけどどういうこと⁉︎」
「時だけかと思ってたら空間能力が開花してアンバランスになったんだよ。元々時空能力があるって言われてたけど思春期に起こらないで欲しかった」
冬美也も一も何となく自分達ではあっという間にやられていたなと笑いつつ、更に追記で来た脱落原因もまた笑ってしまっていた。
「その後、理美ちゃんがジャンヌの方へ熊に乗って駆けつけて、両手が離せない状態のフィンを頭部にぶち込んで脱落」
「お、恐ろしい」
それでも一は当初通りと口にしつつ、弾が無くなった事を祈っていたところでまた誰かの気配に気付く。
「でも、殆ど弾が無くなっている可能性がある……がぁいるなぁ」
「ふん、君らはアイツらばかり気を取られ過ぎだ」
ザフラがサブマシンガンを持って立っていた。
しかし自分達に向けずに下へ上へと撃ち続け、当てる気が無いのかと思っていたが、光喜に向けてザフラは言った。
「光喜、君は複数のそして指定したモノだけ出来ないと言っていたが、何度も見せただろう? 我の力を」
直後、重力を使って上に打ったペイント弾と下に打ったペイント弾を上に無重力と重力を同時に行い、上下の挟み撃ちだ。
光喜はすぐに管理者特有の無効化に試みるも、下はともかく上から来るペイントを防げない。
逆に上に集中したら下から来るペイントは防げない。
『やばいやばいやばい……! どうすれば良いんだ⁉︎ 無理だ!』
一が光喜を励ます。
「光喜、しっかりせい! 同時にするのは難しいがここで気張らな男が廃るだろう!」
「で、で、でも!」
既に光喜はパニックに陥っていた。
「光喜! しっかりしろ! お前しか出来ない!」
「んーーーー‼︎ もう! なんとかなれ‼︎」
ゆっくり考える暇すらない。
そんな状況で無理にやるとなんておかしな話だ。
きっと失敗した。
だけど、皆が驚く顔に光喜は気付かない。
自分達は一切重力影響が無いまま、ペイントだけ無重力で浮いたまま動かず、それどころかザフラの重力を無力化させた。
ただ本人である光喜は無自覚でやっている為、下手に刺激させるとペイントが当たってしまう。
ザフラが何度かサブマシンガンを鳴らすも、全て無重力化され意味を成さない。
一は冬美也を向こうに行かせつつ、光喜を連れて行く事を決意する。
「冬美也はペイントのない位置まで、光喜は多分下手に動かすと危ないので全員やられる前に、こっちで対処する」
「お、おう……」
冬美也が走って逃げるのを黙っている訳がなく、ザフラは撃つも、やはりペイント弾が浮く為使えない。
「あっ! 待て! ちっ、無効化されてるわ無重力が適度になっているからペイントが弾けて当たってないじゃない!」
「光喜、今自分が引っ張るからそのままで」
一はそう言って、光喜を掴んでゆっくり後退りしてペイントが何1つ無い場所へと移った時、光喜が手を下ろすと元の状態へと戻り、一気にペイントの雨が降る。
その間に、冬美也は何処かへと走り、一と光喜は冬美也を追う形となった。
ザフラと言えば、ペイント弾を使い果たしてしまい一度戻るしかない。
「日向、光喜がどっかの猫っぽいキャラみたいに言ったら、漸く指定のみの重力を使えたがあれまだコツ掴んでない」
トランシーバー越しから日向は指示を出す。
「なら戻って来い、ジャンヌと理美も戻って来ている」
「分かった、今戻る」
嬉しさ半分、悔しさ半分、ザフラは別ルートで戻る事にした。