実施訓練開始
朝食を食べ、そのままの流れで勉強を始める。
午後からなのでかなり中等部の宿題も終わりに差し掛かる。
理美も宿題を終わらせ、ゆっくり出来ると口にした。
それでも、テストの成績もあり少しでも落としたくないと言い、冬美也が付き添いで教えているのを見て、そういえばあのユダが、自分ではない別のヤツと言っていたのを思い出す。
これはジャンヌに言うべきか、それとも再度冬美也に聞くべきかと思っていると、さっと誰かに触れられたと思って振り向くとアミーナがいた。
「な、何?」
「いえ、この前にあったことを思い出しているのが分かったので、わたくしが理美の軽く過去で何があったのか覗いてあげますよ?」
「それはやめて、相手の事を――」
「前々から思っていたのですが、思春期のアンバランスにちょっかい出されるのは非常に宜しくない。それに少しの悩みは、先に救い出す方が良いのです。特にあなたは運良く正しい方に救われたから良いのですが、あの子はその正しいのを理解した上で、納得もいっていない。なら根源を見つけ出し先に叩き潰せば良いのです」
良い事なのかと言えばなんとも言えないし、とりあえず話題を変えた方が良いと判断した光喜は自身の眠っているモノに付いて聞いてみた。
「アミーナ先輩は、どうして俺の眠っているのを起こしたいんですか?」
一度見てしまったのかと思っていたが、そもそも修行中や拉致した時に触るようなことは殆どなかった。
でももしかしたら、知らぬうちに触られて見られたのかとも疑い、起こしたい理由も聞きたいと思っての事だ。
しかし、アミーナはどうしたものかと何処から話すべきかとも呟き、いきなり全く関係の無い話になってしまった。
「たまたまなのか、意図的なのかは知りません、ですが、何者かが狙っている可能性の視野を入れているのです。それに、我々の国はアメリカとはあまり良くはないのです。アメリカはあくまで自国の利益しか考えていないので、話のウマが合わない。ですが、日本とは話のウマが合うので、アメリカも日本を使って有益なのをと考えているので、馬鹿らしいと思ってしまうのですが、あっちも利益が欲しいこっちも利益が欲しい、そうなると一々渡し船の日本を使うよりお互い歩み寄るようにと前々から言っていたので、ユダは国が同盟を結ぶ話を円滑に尚且つ日本を介入するのとS国を入れてやればもっと動けると思っていたのですが、S国は受け入れ態勢になるのですが、意外にも日本が入ろうとしないと言ったところで、S国も日本が入る気ないならと揺れ始めて慌ててるらしいです。で、丁度、ここで穏喜志堂の話が出て来て、そういえばあなたに万が一力が眠っているのなら、それが欲しい可能性で勧誘したくて仕方がないのかも、なら先にこちらで持ってしまえばってのが事の真相です」
一通り話終えたアミーナに光喜の感想。
「ごめん、話が長過ぎて、半分聞いてない」
「なんと! 日本人はこんな会話するのに聞いていないのか⁉︎」
「日本人、空気は読むけど話聞かない人割といるよ!」
こればかり人に寄ります。
近くにいた冬美也がそっと言ってしまう。
「大体無駄話する老人のせいだな」
「あなたアメリカ育ちでしょう⁉︎」
「親父がそういう長い話も無駄話ばかりだと良い長い話も意味を無くすからな」
やっぱりどの国でも長い無駄話はタメにはならない。
ザフラが話を聞きつけ、光喜達に話す。
「一体何の話をしているのかと思えば、そういえばアミーナ、少し用事があるからと離れた時の話か? 管理者の中に理美みたいに複合型いると言っていたから、それの事か」
「未来予知とかの?」
「そう、異能者や管理者は囲う一族の中で、たまに居るんだ。両方持っているレアな人」
ザフラからすれば、一族が招き入れた管理者の中に他の異能があるのを知ってはいたが、本当に1人か2人位で、そこまでは居なかった。
「結構、居そうな気もしたけどそんなに居ないのか……」
「元々、異能を持っている奴が激レアなんだ。もし居れば我々の一族は大歓迎で迎えよう。ただ、大抵は断られるんだよねぇ、条件も良いのに」
「大抵は管理者はずっと留まる事はあまりありません。わたくしも何度か離れてますし」
「そんな簡単に離れられるんだ!」
驚いた、まさか簡単に離れられるのかと思っても見なかった、が、やはり一度味わった安全はそう簡単には離してくれない。
「と言っても、やっぱり安全な場所に戻るんですよね。良い物件は中々無いモノです」
「あぁ……」
結局戻って行くので、光喜的には簡単に離れられるのなら一度と思ったが、あまりよろしくない。
ジャンヌは、3人で一体何の会話をしているのかと思ってはいるが、そこはあまり触れずに食事の後の実施訓練を知らせた。
「君達、何やっている? そろそろ、昼食の時間だ。そしてボクら管理者と異能者で実施訓練だ!」
3人はそういえばそうだったのと、異能者まで巻き込むのはやめて欲しいとザフラが落ち込んだ。
そうして、管理者達と異能者達だけ残り、屋敷の管理人とバスの運転手に他の子達を頼み、光喜達はある場所へと向かった。
冬美也とフィンが地図を見ながら、開けた場所に出た。
「地図に載っていたのはここだよな?」
「んあ、確かにそうなんだけど、まるでチーム戦だなこれ?」
ここにいたのは、アミーナ、一が居るものの他のメンバーが居ない。
「なぁ? 出る前に琴さんから皆にそれぞれ地図渡してたのって、チーム戦にする為だったって事?」
光喜の問いに、一が答えてくれた。
「まさにその通りで、これは理美とジャンヌとザフラ、琴に日向が向こうだな」
ふと、チーム戦だとしても誰かが審判をしなければいけないのに、皆出てしまうと審判が出来ないのではと光喜は気付き、一に訊ねた。
「誰が審判するんですか?」
「んっ? バートンだよ」
一が言った瞬間、スマホが一斉に鳴る。
バートン
[これから、チーム戦を行います。
Aチーム、リーダー、日向。
ジャンヌ、ザフラ、理美、琴。
Bチーム、リーダー、一。
アミーナ、冬美也、フィン、光喜。
Aチームのみ武装を許可します。
BチームはAチームの持っている旗を取るのが目的となり、襲撃してください。
Aチームの武装は、ペイント弾ですのでまずバカな使い方をしなければ死にません。
Bチームの致命傷部分に1発当てると即退場、胴体部は3発で退場とする。
但し足、腕の場合無効とする。
Aチームの勝利条件、Bチームを壊滅
Bチームの勝利条件、Aチームの旗を取る事
時間制限、16時まで、Bチームが1人でも生き残り尚且つ旗を取れなかった場合引き分けとする]
「――うっわぁ、マジか、戦国武将と戦うんか?」
一は載っていたAチームの位置を確認し、ここからどうするか考える。
どんな武装で来るかも分からない状態だ。
光喜は内容に目を通し、冬美也に聞く。
「一体どういう事なのかさっぱり……」
「攻防戦だなこりゃ、旗を守るのが防、オレらは取る側攻だ」
自分達の立ち位置が武器は無いが攻める側なのは理解出来た。
「成る程、確かに一方的になってるからよく分からなかった」
一は、どう策を練るかも状況が芳しい。
相手チームの位置も一応載ってはいるが、正直側の位置だけで、実際既にどの辺まで来ているかも分からない状況にもう少し情報が欲しかった。
「もう、合戦場だ。そしてこの内容からして、Aチームは能力を使ってもペイント当てない限りこっちは不利にはならないっぽいし、下手に動き回るのは良くない」
「一度、こちらでも見ておきましょう」
アミーナが地面を触り、今の把握する中、一瞬誰かに見られた気がした。
「……なぁ、フィン」
「何社長?」
「今誰かに見られたような?」
普通の人間なら気のせいだろうと言う処なのだが、フィンは一切それを言わず、まずどの辺かを聞いてくれて、言った本人である光喜は気のせいと思っている部分もあるが、とりあえず感じた所を指差し言った。
「どの辺だ? 見られた気がしたのは?」
「後ろの方だよ、でも誰も居なかったし、気のせいだと」
皆、緊張するも、万が一何らかの方法でこちらを見ている可能性がある。
フィンはその何らかの方法を少々齧っている雰囲気があり、とにかく指示を待つ事にした。
「アミーナ、もう見終えたらすぐに移動と、一さんどうするかは全てコレで」
「んっ、こりゃあちらさんの出方次第でしかないな、アミーナ」
「見終えましたが、そちらには……」
どうやら気のせいとなる筈だったが、一はこの状況は極めて危険と判断し、すぐに行動に入る。
「これは勘、既に何処にいるかを把握されてもうた可能性がある、アミーナはどの辺かを地図に」
「はい」
「よし、今後はコレで指示して行くんで、よろしく」
スマホでのやり取りに変更するなど極力、Aチームに情報漏洩を防ぐ形を取り、すぐにloinで、新しいグループを作り、Bチーム限定で会話と指示はこれで行うこととなった。
一方その頃Aチームは、と言えば光喜が感じ取った方向に本当に居たのだ。
但し、Aチームの人間では無い。
トランシーバーで、人間では無い何かが話す。
「こちらメリュウ、いきなり新人の方が気づいた」
旗の位置に居る日向が相手に言う。
「でも、まだアミーナには気付かれて無い、大丈夫だ」
別のトランシーバーから理美が指示を仰ぐ。
「ねぇ、そろそろやる?」
「理美はそのままメリュウを使って一定の距離を保ちつつ見張り、別行動または気付かれた時に連絡を入れてくれ、その際に指示をする」
「りょー」
トランシーバーを切り、近くに居るジャンヌに日向は指示をした。
「ジャンヌは狙撃の為、理美とは逆の方向へ、気付かれぬように」
「分かった、行ってくる」
幾つかある狙撃銃とペイント弾を持って、風を使い低空飛行で飛んで行く。
「我はどうすれば?」
「そうだな、それなら必ずここに来るので、サブマシンガン使えるか?」
「使えるぞ! こう見えて、銃の教育もしっかり受けているぞ」
楽しそうにサブマシンガンとペイント弾を持って指示された場所へと走って行く。
「琴はそのままでお願いする。状況によっては戦ってもらうので」
「良いですよ、待つのも武将の務めでしょから」
琴はウキウキでずっと笑っているのを見て、下手に行かすと全員死ぬのではと少々不安もあって行かせなかった。
あくまで訓練なので、チームとして考えていく。
新人がどう動くかを少し楽しみに思いながら――。
光喜はやっぱり気配を感じて、今度は冬美也に言った。
「冬美也、やっぱり何か感じるんだけど?」
「……光喜、スマホでって言われてるだろう?」
「そうなんだけど……」
loinには光喜なりに書いてある。
光喜
[絶対、得体の知れないのがいるって、映画の透明宇宙人的な!]
冬美也
[あー、多分理美のだ。オレも多少感じてる。これは得体の知れないモノ同士ぶつけるってどうよ?]
ハジメちゃん
[自分の指示を出すまで待たんかい!]
会話を聞きながらもさりげなく一がloinに間に入って、下手な動きを止めさせた。
しかし、確かに一もちょくちょく感じ取ると同時にあるものを不安視した。
「お前ら全員頭下げい!」
いきなり声に驚く光喜を冬美也が力尽くで下げさせると、思い切り何かが掠る。
落ちた場所からピンクのペイントが地面に付着したのが見え、この瞬間気配はカモフラージュで、本命の狙撃を隠していたのだ。
「あかん、そうだ。ジャンヌの奴、前回はどこかの軍に入ってスナイパーしていたって言ってたの忘れとったわ」
ジャンヌがスナイパーとしての技能を持っていたのに、高校生組は驚き、完璧に不利なのではと血の気が引く。
一はloinを打とうにも、何処から撃たれるか分からない。
「アミーナ、どの辺にいるのか、分かる?」
「今見てますが、得体の知れないモノは一度見てないと見れないのが……」
悩むアミーナには、弱点と言うのがあった。
どうやら見たいモノがちゃんと視覚に入った状態で見えるモノしか見えない。
理美は何かを感じ取り、慌ててトランシーバーで連絡を取る。
「メリュウ、すぐに逃げて、バレた」
「へっ? 誰も気付いてないぜ?」
「もぎゅたんは今日、冬美也に付いてってるの! あの状況はカモフラージュ! あっちも罠貼ってる!」
その直後に、アザラシもどきが飛び出し、木に張り付いていた得体の知れないものを食べようとした。
「う、うわっ⁉︎」
「もぎゅ、もっぎゅ!」
アザラシもどきが得体の知れないものを攻撃した為、透明だった姿が表に出て、緑の鱗、頭に2本の鹿の様な角、恐竜の翼に鋭い爪、頭から尻尾にかけた毛、何処をとってもドラゴンの様な姿だが、大きな猫から大型犬の子犬の大きさだ。
冬美也はアザラシもどきを褒めるも、別方向から掠りはするも狙撃され、こちらも動けない。
「よし、よくやったと言いたいけど、こっちも動けん!」
一はフィンに言う。
「とりあえず、ゼフォウ、コレ頼むわ」
「うしっ」
いきなり爆発させ、凄い煙を立たせる。
お陰で何処にいるかはっきり分かるが、逆を言えばジャンヌの狙撃狙いが出来ない。
「あぁもう、サーモゴーグルが入っていたら持ってきてたのに……! 日向、理美との連絡が途絶えたんだけど?」
トランシーバーで日向に連絡を取る。
日向もそれに付いて話しながら、寧ろ光喜に関し感心していた。
「理美もバレたそうだが、流石によく気付くな、メリュウの気配を」
普段から気配を消しているメリュウに対して、最近の光喜は他の者と違って些細な違和感に感じ取れるのは中々なものだ。
ジャンヌからすれば、本来の作戦の軸が狂ったとも言える。
「それより、大丈夫なの?」
「ちゃんと策は伝えてある、流石になんで理美をそっちに送っているのか分かっていない訳じゃ無い筈だ」
だからこそ、策は幾つも用意していた。
その1つが潰れれば、別の1つを使うのが基本だ。