合宿初日
夏休み、皆は長期休みを使って実家に帰る者、運動部はここから各々の大会に向けてより一層部活動に励む者、どちらでもない者はのんびり過ごすだろう。
しかし、勉強同好会の高等部、中等部合同で合宿だ。
マイクロバスを借り、先に中等部、最後にここ高等部にマイクロバスがやってくる。
既に乗っている中等部のメンバーは各々好きな場所に座っていた。
冬美也は早々に理美の隣に座るも、バートンがその後ろに座っているので、どうして顧問は前ではと皆思ってしまう。
あまり気にも止めずに、フィンが奥へと進もうとした時だ。
「俺は1番後……」
「イ・フィン、あなたは私の隣です。去年、私の見ていない所でお菓子を掛けた賭博始めたの知ってるんで」
「してないよ! アイツらが最初にして巻き込まれただけなんですけど!?」
フィンは別の場所に座ろうとするも、何故かバートンの隣になった。
実際、本当に巻き込まれはしたフィンだったが、心理系にはめっぽう強い為、殆どの菓子を奪い取った実例があり、また同じように相手の方が煽って同じことが起こりかねないと判断しての事だ。
「社長! 廊下挟んだところで良いから隣に座って!」
こうなると、廊下を挟んだ隣の席に光喜を巻き込み、光喜も嫌がった。
「なんで⁉︎ 俺は別の場所に座るって」
バートンは光喜も自身の近くに座るよう言い出し、固まってしまう。
「光喜如月、君もです。大分落ち着いたのは知っていますが、今後もありますので」
「お、おう……!」
これを知っていてのことか、ジャンヌもザフラも光喜と共にと言い出し、理美には揶揄われてしまう始末だ。
「なら、ボクとすわれば良いではないか」
「何を言うか我が座るぞ!」
「モテモテー」
ただ、ザフラは一応外国の姫君、アミーナはすぐにザフラに言った。
「ザフラ様、あなたは私と、申し訳ありませんが、通路側にして下さいね」
「お、おうふ……!」
こればかりは自由が効かない。
「なら、一緒にこっちに座りましょうよ!」
奥の方から別の部活に入っている卑弥呼が出てきたのに光喜は驚いた。
「なんで光照先輩いるんですか⁉︎ ミステリー研究部はどうしたんですか?」
「ん? あっちは本命だけど、知り合いが全員こっちで、理美ちゃんが誘ってくれたから、ちゃんと同意書と合宿金額払ってるから安心して!」
卑弥呼的にはこっちに入りたかったが、前の生徒会長のお願いを断れきれずにミステリー研究部に入り、他の子達と同じように掛け持ちも考えるも、やはりバイトもして、生徒会もしてなのでたまに顔を見せるのが精一杯だ。
今回は理美のご好意で一緒に合宿が出来るようなった。
光喜はバイト先で小鳥遊に休日提出した時、同じ日に卑弥呼も休みなのを知っていたので、そっちはそっちで合宿かと思っていたが、これで理解出来た。
「あーなるほど、なんで光照先輩も同じ時期に休み取ったか分かりました」
そうして、合宿先へとマイクロバスが出発する。
ジャンヌが妹の方ではなく、光喜の隣になってくれたので、少々申し訳がない。
ふと、他の大人が運転手とバートンしか居ないことに気付く。
高等部の顧問は用事があるとの事でなくなく同行を断念したのは知っていたが、バートンだけなのだろうかと光喜は尋ねた。
「そういえば、今日は他に顧問は?」
「自分だけです。一応それなりに居ますが、他にボランティアで来てくれる大人が数名来てくれますので、その方々に迷惑、悪さをしないように」
バートンはそれなりに大きな声で皆に聞こえるように伝えると、それぞれの声ではいと言葉が返って来る。
なるほどと思いながら、少しだけだらけた格好になってしまうと、スマホが鳴り、loinを見ると咲からだ。
咲
[合宿だからと言って、羽目を外さないように、先生方にも迷惑かけないようにね]
光喜
[うん、分かってる、同意書書いてくれてありがとう。気を付けて行ってきます]
返信後、光喜は少し眠気に誘われながら呟き、スマホを閉じた。
「ふう、最近はあまり連絡取ってなかったけど、信用してくれたのかな?」
しかしこの後、フィンとジャンヌと巻き込まれたバートンと光喜はトランプをして、バートンとフィンの激しい戦いになり、眠気なんて吹っ飛んだ。
そこから2時間、有名な海岸には旅行客が沢山で、更に進めば、今度は観光名所まである。
こんな場所にプライベートビーチなんてあのだろうかと考えてしまうし、税金どの位払っているのだろうとジャンヌの呟きで払っていないのに光喜は恐ろしくて怖くなった。
奥へと進むマイクロバスはある場所まで行くと、下に降る道にフェンスがかけられており、そこへと降りて行く。
ここで、向かうべき場所がこの先だと理解出来た。
理美がスマホで誰かに連絡しているのが見て分かる。
スマホを切ると、バートンに話した。
「管理の人、すぐ来るって」
「分かりました。皆さん、管理の人が開けてくれたら、すぐなので、降りる準備等をお願いします」
数分後には管理の人がやって来て、開けてくれたと同時にマイクロバスが入って行き、同時にまたフェンスが閉まる。
フィンは素直な感想を述べた。
「これされると、どこかに出荷されるんかって思うんだよね」
「怖いよ」
そうして、10分程度走ると、西洋屋敷が見えて来て、門が開いてあり、そこから入ると実際近くを見るとかなり大きな屋敷だ。
皆が降りて、光喜は言った。
「大きい……!」
二階建ての大きな三角屋根が特徴の屋敷に驚くも他のメンバーは一度知っているのだろう、一切気にせずに皆が荷物を持って屋敷に入って行く。
ずっと驚いている光喜に理美はある事を教えてくれた。
「いや、そこまで大きくないよ?」
「まだデカイのが有るのか⁉︎」
光喜が更なる驚きに荷物を担いだ冬美也も加わって言う。
「有るらしいが、基本は北海道とか海外らしいぞ?」
「マジで⁉︎」
凄すぎて光喜は固まるも、理美は一切気にせず、部屋割りの話を始めた。
「如月先輩は冬美也とフィンとの部屋で良い?」
「うん、別にいいよ」
少しだけフィンと離れたいような言い草の冬美也に対して、理美はある事を言い出す。
「どうして、オレはゼフォウとずっとなんだ?」
「小治郎と――」
「そうなるんだよな」
確かに男子陣は少ないのだが、もっと辛い現実を理美が教えてくれた。
「フィンと如月先輩の部屋にもれなくバートン先生が入ります。逆も然り」
「絶対嫌だ」
「あー」
そう、結局はバートンが入ってしまう為、中等部の生徒の面倒を兼ねているので、バートンが入らないのであれば、自然とそうなる。
こればかりは仕方がない。
屋敷に入ると、広いホールにやはり目を奪われるも、皆は既にどこの場所かと理美に聞き、先程の管理人が出て来て、説明をしてくれた。
東棟と西棟と分けられ、東は女子、西は男子となった。
しかも、大浴場も完備されており、東と西それぞれにあるとの事を説明される。
客室の1つに3人ずつで光喜と冬美也とフィンが3人で使う部屋はそれなりに大きく、ホテルのようだ。
光喜は自身が使うベッドにダイブして早々感想を述べた。
「皆、1人づつの部屋にしたら、だらけそう」
冬美也はその感想に無情な言葉で返す。
「その前に、誰が帰った後の部屋の片付けをするかって話だ」
「酷い使い方すると、弁償代が凄まじいから絶対にしないようにな」
最後にはフィンの言葉に息を呑んでしまった。
「一応、保険は入ってるし、前もって話してるから、絵画とか骨董品は全部撤去してるって理美が言ってたから大丈夫だぞ」
「お、おう、あんまり嬉しくないのは何故?」
「そんな事より、ちゃんともって来ただろ?」
光喜は合宿用のしおりを取り出し、勉強道具以外にも用意しているのを話す。
「まぁ、しおりに載ってたから一応用意したけど?」
「んじゃ、ホールに集合だから行こうぜ」
一通りの準備をしてホールに向かいある場所へと向かった。
屋敷から出て数分後、小さいながらも白い砂浜、透明な綺麗な海、どこまでも続く青い空、大きなパラソルの中、光喜は感想を述べた。
「いや、本当に海に行くのはどうなの?」
「そして、小治郎以外は皆、パラソル内にいると言う」
小治郎は怒って、皆に言うが正直皆に怒られそうな言い方だ。
「と言うか! 全員、水着用パーカーだし、女子メンバーもハーパンだし! 夢も希望もねぇのかよ!」
すぐに広樹は言い返す。
「無いよ。普通に水着用パーカー着用って書いてあったでしょう?」
「そもそも、あんたみたいなのがいるから危ないってバートンが海とかバーベキューは許してくれてるけど、そういう意味で見てる奴が1人でも居ると、今度合宿無くされる可能性もあるって言われたでしょうが」
浅黒い肌のショートウェーブの金髪の少女が文句を付け、半分喧嘩腰になっていた。
そういえば、結局知り合いの白澤がやって来て、皆を連れて行って、あの時の記憶を失くしているが、消えたわけでは無いとフィンから説明を受けていたので、知ってはいるが、その後もメンタルクリニックでも白澤にあの時の話誰にも言っちゃダメよと念押しされているし、万が一光喜の口から出れば、自分も記憶消されるのではと内心恐怖する。
ふと、先程文句を言っていた少女がこちらを見て自己紹介をしてくれた。
「あっ! あの時はどうも、小治郎の件で高等部の先輩まで巻き込んですいませんでした。あたし、姉崎桜夜って言います、よろしく」
桜夜の言葉に自分と会った事も消滅してるとばかり思っていたので、戸惑ってしまうも、冬美也がすぐに教えてくれた。
「あ、あの時?」
「光喜、ちょい耳貸せ」
「何?」
「消したのはあくまで、あの異世界が繋がった時の話で、一応、騒ぎを捏造しただけだから、内容としてはあのヴィチューバーがあそこで花火的な騒ぎを起こそうとして小治郎を手伝わせたっていう辻褄合わせがあるから」
「成る程、財的なアレみたいな感じ?」
「そう、あの団的な」
なんとなくアレかと納得した所で、桜夜は何かを感じて言おうとしたが、他の薄茶で髪が桜夜とまた違う癖っ毛のある少女が口を塞ぐ。
「これはあ……フグっ‼︎」
「はい、ごめんねぇ。広樹とジュリアから聞いてます。私は嘉村美空って言います、よろしく」
そのまま自己紹介をした美空に対して、光喜は親戚か何かと思って聞いた。
「同じ苗字だけど、親戚か何か?」
「赤の他人ですよ。でも、嘉村グループの本社の第一秘書してます」
そうなのかと、納得する光喜だったが、何故か微笑みを崩さない、美空と冬美也と理美を見て、不気味さを感じフィンに助けを求める。
「な、なんか3人微笑みかけてて怖いんだけど……!」
「まぁ、色々あったんで、はい」
一切解決も救いも無い言葉に光喜はどうすればと言いそうになった時だ。
ジャンヌが先に声を出す。
「おっ! 日向が仲間連れてそろそろ到着だそうだぞ」
「日向さん、今日はボランティアで参加と言っていたので嬉しいです」
ジュリアも嬉しそうに言っていたので、つい光喜は聞き返す。
「そういえば、ボランティアって言ってたけど、日向さんと他に誰が?」
「あぁ、今回は日向と琴と一がやって来る予定だ」
「戦闘民族しか揃っていない」
光喜の一言に、ジャンヌは笑いながらこっそり耳元で囁いた。
「それもそうだろう? この合宿は勉強は勿論、君の強化合宿も含められてるんだから」
「ふぁぇ⁉︎」
これに驚いたと共に、丁度ボランティア兼強化合宿の為に来た日向、琴、一がやって来た。
「お待たせしました。昼ごはんまだでしょう? ここにお弁当運んできました」
「理美様、飲み物持って来たので、皆様に配るの手伝ってれくますか?」
「おー、ちゃんと来てくれて助かる助かる。ザフラさんとアミーナさんもスイカ食べます?」
皆、率先して日向達の元へ行く中、光喜だけ恐怖して体が動かない。
これから本当の地獄の強化合宿が始まったばかりなのだから――。