ユダ
まさかの拉致に困惑と恐怖が襲う。
しかし、すぐに恐怖は若干和らいだ。
「すいません、光喜、あなたに幾つか聞きたいと別の管理者からの依頼とあなたが穏喜志堂と接近した事により急遽拉致めいた保護と言う形になりました」
「アミーナ先輩⁉︎」
そうアミーナが目の前にいた。
「後、尾行がありましたので、引き離しも含めてやりましたが、居場所はその教えられませんので、少々怖いでしょうが目隠しします」
「はっ⁉︎ ちょっと!」
一体何が起こっているのか分からず、迷彩服の屈強な者達に掴まれたまま何時間経ったのだろうか、気が付けば、何処かに到着し、無言で何かを指示して光喜もそれに合わせて降ろされた。
「あ、あの……ここは?」
「静かに」
アミーナに静かに怒られ、光喜は返事するしか何も出来ず、ただただ一緒に歩くだけだ。
「は、はい」
この後エレベーターに乗って、何処までも降りていく。
止まったと同時にまた何かを確認しているのが無言の空気で分かる。
もし、殺されるのではと恐怖が生まれ、今すぐ逃げ出したいと思った時だ。
「連れて来ました。言っておきますが、S国の事ちゃんと話通してくださいねユダ」
その名を聞いた時、光喜でもなんとなく分かる。
学院に入ってから学んだ、裏切り者の中で最も有名な人物だ。
急に席に座らされ、目隠しが外され眩しさに目が眩むも、そこまで眩い光ではなく、暗くただ水族館でしか見たことのない大きな水槽が壁に張り付いている。
大きな見たことのない魚が泳いでいるのを付い目が追っていくと、背中を向けた初老の眼鏡を掛けた男性が立っていた。
「おぉ、もちろんこっちも無駄な争いなんてしたかねぇからな」
「どうだか。アメリカに有利な話にならないとちっとも話し合いにしないくせに」
「で、この坊主が新たな管理者か?」
「如月光喜です」
「ど、どうも」
アミーナが光喜に近づいて言う。
「そう緊張しないで、この男はユダ、有名な裏切り者です」
「えっ……とあの、銀貨を貰って、頬にキスして合図を送ったって言う」
やはりと言った具合で、一応思い出しながら言うとアミーナもここぞとばかり笑った。
「面白いですよねぇ、まだ日向の方が裏切り方マシだと思いますよ?」
だが、ユダとしては面白くない話だ。
「そっちはパワハラが原因だろうが! 大体、あの方が言うからお願い聞いてやったんだ、昔話の真意なんて誰も知らないし、真実は闇に葬らなければ何が起きてもおかしくない、日本でも諺で嘘も方便と言うだろう? まさにそれだ。それに、もしそれが理由でなら刺し殺してそれで終わり、有名な話にすらならない、くだらない世間話になって消えてたね」
光喜からすれば、確かにユダの日記が見つかって一時騒ぎにはなったが、すぐに淘汰され、忘れ去られているのも知っている。
きっとその話が真実だとするときっと都合が悪い内容もあったのだろうと、あまり宗教には関心の無い世間はそう思っていたが、どうやらもっと真意的なのを持っているのだ彼は。
ただ、アミーナは真意を知っているのだろう、ずっと笑いからかい出したのだ。
「愛が重すぎて怖いですよねぇ、ストーカーですか?」
「おい! 話ズレていくからそれ以上その話をするな」
「分かったよ、で、光喜に何を聞きたいの?」
ユダは咳払いをし、改めて聞きたい事を聞くが、とても今更な内容で、どうして聞きたいのか光喜には分からないし、正直言いたくも無かった。
「まず、お前の身内だった中学校の生存者達とは連絡は……取っていないかい?」
「いえ、取っていませんし、アイツらは未だに俺に対して五体満足で無事なのがどうしても許せないみたいです」
半分憶測で言った言葉に、ユダも普通の他人ならそう考えるだろうなと思うが、正直絶縁状態が好ましいとも取れる言葉を発した。
「そうか、確かに普通の感覚ならそうだろうな、こっちもその方が助かる」
「助かる?」
「お前以外のほぼ生存被害者がどう言うわけか、穏喜志堂に入信、特に両親が依存している」
ここで、本題である言葉、穏喜志堂の名が出て光喜は驚き言葉が出なかった。
「っ……!」
「驚くことでは無い、実際そういう窮地に追いやられた親族に対し金を貪り取ろうとする残虐非道な人間なんて幾らでもいる。宗教、宗派が同じでも金しか考えない連中なんて長年管理者として生きていれば嫌と言うほど見るからな。ただそこじゃない、実際今回の崩落事件の被災者達に無償援助をし、国外内に興味を引き付けた」
「無償で? だってそんな――」
寧ろ宗教のイメージとして無償援助し、その援助の見返りがお布施と考える光喜としては普通ではとその事を伝えようとしたが、それも長年の管理者からすれば別の意味での危険性を示唆してのことだ。
「当たり前だ。宗教が手を伸ばすのはごく普通でなくてはいけない。宣伝は口伝で良い。ネット、TV、情報を載せるなんて最もいけない。結局金だ。そういうのは危険なカルト集団として監視され、尚且つ決して人目に入れてはいけないのだ」
「意外でしょう? この人、でも信用しないでくださいね。この人、CIAだから」
アミーナの言葉で光喜も理解した。
よく漫画や海外ドラマなのでよく見るアメリカの中央情報局だ。
「絶対信用しない」
「旧知ではあるが、あまりでしゃばると先程の話を無かったことに出来るが?」
「それでも、お互い利益にならなければ面白く無いでしょう? それに、今回どちらもその新興宗教を止めれば、流石に日本も今回の事も踏まえあの同盟に入ってくれるでしょう?」
「鯨の件の話は入ってたら断られるから違う方で進めてやってるのに、中々頭縦に振らねぇもんな」
『帰って良いですか‼︎』
「帰りたいの分かりますが、先の話は気にせずにした所で信じませんでしょうから」
「そうだ、斎藤一には言うなよ。全力で阻止しに来るから、徹夜顔で……とまぁ、大人の話はここまでにして、穏喜志堂の話だ。多分如月、無償援助したら自然と見返りとしてお布施とか思うだろうが、相手にとっての心の儲けが形としてお布施となるんだ。そこ履き違えるなよ」
やはりこの辺はユダには敵わないと光喜は感じつつも、無償援助に対して後々多額な金を寄越すようジワジワと追い込むタイプなのかと想像し言葉に出す。
「でも、無償ってやっぱりタダより怖いはないって聞くけど? やっぱり後々請求を?」
「その逆、奇跡を起こし、その動画も流れ、今まで信じきっていた他宗教の若者や未だに苦しんでいる家族が続々と流れ、海外だけでももう50国位穏喜志堂の信者が居ると言われている。独裁国家に近い国に至っては危険だと判断し、それを全面禁止にしているが、徐々に若者達が国外に抜け出して、代わりにそいつらが入って来て、情報は流れていないが内戦状態まで出ている地区も出始めている」
胡散臭い動画に見惚れる様な異様性を一度も見なければ、なんなら引きこもって時も動画を見ていたがお勧めに一向に上がって来なかったので知るわけがない。
「見た事無いですけど? だってあの時の動画探しても――?」
「んなもん、大元動画会社はアメリカだ。すぐ消させたし、こっちでもすぐ削除し続けてはいるから、出て来ないぞ。ダークウェブも警戒して見てはいるが、部下の何人かがどハマって騒ぎになった。神は蘇り、この宗教を身限り、新たな信徒が我々を導くってな。想像以上に危険だと判断、で、丁度他の管理者達からの連絡でここのを調べてたら、そういえば如月もあの崩落事件に直接じゃないが目撃、そして管理者となった。一度目にしておきたいと思って、で、本来ならそれとなく会うと言う形でと思ったが、穏喜志堂の関係者によって見張られてるって言う情報が入って、急遽アミーナの配慮でこうなった訳だ」
どうやら組織的に危険視して、すぐに削除をし続けていたお陰でこちらの被害も無かったが、その消していた側が何処かでおかしくなる程の危ない動画であった。
それに話的には、光喜とはこんな形で会う気は無かった様だ。
「皆、穏喜志堂って言うけど、俺一度も会ってもなければ、あの時は春日谷以外は皆俺の事嫌ってたし、渉にだって嫌われてて、その2人や他の皆も穏喜志堂だって言われても……」
「それについてもこちらで調べた。と言っても、こっちの利益になるモノを提供っていう形でというのが絶対条件でやった訳だが、その時に分かったのが、お前、何度も狙われてるらしいじゃないか」
光喜はふとアルバイト初日に起きた出来事を思い出す。
「はっ? いつ? あっ、中学生の時の保健医の先生が勧誘して来たの忘れてた」
「もっと前だ。その話は監視していた部下が教えてくれたから知ってる」
「もしかして、なな子の件?」
まさかあの時も穏喜志堂がと思い、口にはしたが、ユダは更にもっと前、あの時に接触があったと言ったのだ。
「その話も前に聞いたが、更にもっと前、入学式後にカラオケ行っただろう?」
あの時にはもう既にあそこにいたメンバーはもう穏喜志堂の信者だったのにあまりの驚き、いや既に最初から言われていたではないか。
そう、無償援助により信者になったと。
久々に登校して再会したと思えた時には全員、光喜を拒絶していた。
初めて、絶望から運が良かったに切り替わって行くのがとても嫌な気持ちになる。
「……そん、なだって、春日谷も渉も?」
「その榊田渉に関しては、両親が働いていた企業が持ちで全て援助してくれたから穏喜志堂には入っていない。だが、榊田経由でだろうな、お前に対して敵意を持たせたのは」
ホッとした気持ちもあったが、一瞬で真っ暗になった。
結局、渉には嫌われていたのだから、仕方がない。
「分かりました、ありがとうございます」
「で、ここから本題、知り合いから聞いたが、その春日谷咲楽だけはかなり率先して勧誘して来て危なかったそうだ。あの番人にも恐れなかったようだな」
「んっ? 番人はこの間聞きましたが、誰が番人なんです?」
「凄い、鈍いのか鋭いのか分からない子だ⁉︎」
「まぁ、その辺は知り合いに聞け、教えてくれるから」
一々言うのも面倒になったようだ。
「誰に聞けば⁉︎」
「それはもう良い、話を進める。春日谷と言う娘は正直、学校でも問題を起こしていて、殆どの生徒同学年が1ヶ月も経たないうちに穏喜志堂の信者になっていて、集会、ミサを行う会場では必ず出席処か舞台に上がっているそうだ。両親も御熱心に狂信者だ」
「狂信者……俺、実は皆の病院前から聞いて、一般病棟に移ったって聞いて行ったけど、マスコミが彷徨いてるからちゃんと行けなくて、正直後悔している位なんです。それなのに、なんで、なんで……!」
泣きそうにもなったが、同時にあの時のカラオケ前でニコニコしていた春日谷の空気の読めなさを思い出すときっと自分を勧誘したかったのではと、疑いを持ち恐怖の方が上回り、体が震えてしまう。
「日本に戻って来る前からこの状態だった。悲しんでいても仕方あるまい。それどころか、どう言うわけか、アミーナから聞いたが、怪異に巻き込まれたのだろう? その名無しの子の? お前に何か付いていないか何度かアミーナが確認しても出て来なかったのにだ。まるで本来ならお前も勧誘予定だったが、予想外が起きて勧誘出来なくなったので、揺さぶって何かを引き出そうとしてるのではないかと、我々は思っている」
「それって、俺にニュートン以外に何かあるって事ですか?」
「勿論、眠っている状態ではアミーナの見ようにも見れない、ならここで目覚めさせ、一度確認する」
目覚めさせるというが、何か1番やばいことになっているのではと気がついた時には遅い。
ニュートンが言った。
「力は使わせないし、必要ない」
「なんで⁉︎ 明らかにやばいことされるって言うのに⁉︎ 」
「ユダは血に愛されし者、血を操る以外血族も分かったり、その血から揺さ振りかけ眠っている異能を起こしたりと結構便利で、今からやるのは後者でしょうね」
「ちょっと! 本気でやるの⁉︎ こ、怖いんですが⁉︎」
本気で怖がっている光喜に対し、アミーナは光喜が逃げないよう思い切り肩を掴み離さない。
ニュートンですら、光喜が嫌がって怖がっているのに、何かを感じ取ってなのか、あちら側だ。
ユダが手を伸ばし、光喜の額に触れようとした。
いきなり扉が開き、怒号が飛ぶ。
「おい! ユダ‼︎ お前、理美に何かしたか⁉︎」
何故、ここに冬美也が居るのかと光喜だけじゃなく、アミーナもそしてユダもだ。
ユダは苛立ちを収める為、深呼吸をして冬美也に話す。
「――ふぅぅぅ……なんで、お前ここが分かった? 前にも言ったが、ワシは知らん。別の課の連中じゃないのか?」
しかし冬美也の方が苛立ちを露わにして声を荒げる。
「はぁぁ? どう見てもお前だろう? 意味の分からんプロジェクトとかで勝手に入れたのだってお前だろうが!」
一体どういう話なのか、こちらから見えないが、お互い分かっていての話で、ユダは完璧に否定した。
「血族を見守れ、有事の際は守れと言われたが、誰とくっつこうがこっちは知らん! 大体、お前が病弱な幼児で、長期入院と治療費に必要な多額な金をそのプロジェクトだったら金を出せるって斡旋したのはワシじゃない! 他だ他! 後、この事はアダムに言うなよ! アイツに言うと面倒だし、あのドラゴンにもだ!」
冬美也はもう面倒だと呆れつつ、光喜が居るのに気付き、どうしているのか聞く。
「はいはいで、光喜が管理者なのは知っているけど、何しようとしてるん?」
「穏喜志堂の話知っているだろう。何故、如月を狙うのか調べる為だ」
なるほどと納得する冬美也だったが、何か思う節があるようで、暴走する事を心配するが、ユダは抑える自信があるようだ。
「そんな事をして、万が一その血が暴走して手につけられなかったらどうする気だよ?」
「ほう? ワシがそんな簡単に抑えられないと?」
「いや、あんたなら可能だけど、他が被災するわ」
冬美也はユダの力に対して信用はあるが、回りの被害を心配しての事だ。
が、ユダはそれよりどうやって来たのか知りたかった。
「ふん、で? ワシの質問に答えろ。どうやって来た?」
急に床が壊れ、あのアザラシもどきが顔を出す。
「アザラシもどきでやって来たのと、あのカーミルのおっさんがオレに話しかけてきて、アミーナの匂いの付いたヤツを渡されたんで、嗅がせてみたら行けたわ」
ユダですら驚き、アミーナに至っては酷く落ち込んだ。
「なぁぁっぁぁ‼︎」
「すいません、逆にやられました。あの人本当に裏をかくのが好き過ぎでしょう……」
白いモップの様な小型犬が現れ、ユダに言う。
「で、するのしないの?」
ニュートンも呆れてしまって、やる気も失ってしまい、白状した。
「はぁぁ、お前がバイト中にコイツのアースだけやってきて、万が一本当に眠っている力があれば、無駄にまがい物を食べずに済むって聞いて、んじゃやって貰おうかなって」
光喜は本当の裏切りを知ってしまう。
「んな! まさかの1番の身内からの裏切り‼︎」
ユダは冬美也に再度聞く。
「本当にカーミル国王か? あの小娘じゃ無いのか?」
「理美は色々能力が変動したらしくって、今はキャシーが見てくれてるけど、どうも本人は見えなくて辛いらしい」
冬美也の悩みはどうも理美の悩みがどうしたら解決出来るかと言う内容のようで、こればかりは本人しか解決出来ないのではと思ってしまう光喜だったが、ユダからすれば、好都合のようだが、決して悪いような言い方ではなかった。
「良いじゃねぇか、見えない方が、見えているとそれを狙う奴、脅して使わせようとする奴が現れる度に琴も困ってたんだろう? 大半ブチ殺してるらしいし、ここで見えないのが回りに伝われば、小娘も暫く落ち着いた生活が出来るんじゃないのか?」
しかし冬美也としてはいきなりの変動に戸惑っている理美を心配して悩んでいるので、これはこれで困っているのだ。
「予知が当たり前のように見えていたのが急にだったらしくて、相当悩んでるんだ」
ただここでアミーナ、カーミルみたいな勧誘を始めた。
「なら、ウチに来ませんか? そういう者も歓迎してます。もし、光喜も開花に成功すればウェルカムですよ!」
「どうしてそっちに行くんだよ!」
「結局、そう来たか!」
「勝手に如月と小娘を勧誘するな‼︎」
3人が総ツッコミするしかなく、アース達も苦虫を噛んだ顔になっていた。
ユダは改めて、ある事を冬美也に質問すると意外な回答が返って来る。
「というか、部下どもはどうした? お前を通しても、結局ここまでは通さん」
万が一分かったところで、冬美也は別室に通し、ここに来ない筈だ。
冬美也は申し訳なさそうに理由を話した。
「だからアザラシもどきが全部やった、オレがバイト帰りにでもあんたに連絡するつもりだったけど、どうせさっきの回答しか寄越さないのは知ってたが、丁度アザラシもどきがやって来て離れなかった時に、車に乗ったカーミルがやって来てそこからだよ」
そのアザラシもどきはとても凛々しい顔をして、ユダが部下を心配し始めた。
「あー、死んでないだろうな?」
「死んでないが、全員伸びてる」
「たくぅ……サングエ、ちょっと見てくれ」
サングエと呼ばれた犬のアースは扉の向こうや他を確認してすぐに戻ってきた。
「りょーかい……本当に全員伸びてたけど、敵らしい奴は居ない」
頭を抱え、下手に能力を引き出した時、万が一の暴走での攻防戦には信頼出来る部下達が必要だ。
その部下達を誤ってアザラシもどきが全て気を失わせてしまったせいで、万が一が備えられない。
目を覚ましても万全には絶対にならないのも知っているユダは、もう今日は諦めるしかなかった。
「冬美也、今度から一度連絡入れろ、日時はこっちから指定するから、今日はもう如月と一緒に家まで送る」
結局、分かったのは榊田以外は皆、穏喜志堂の信者で、この前に怪異を起こしたのも穏喜志堂の可能性もはらんでおり、自身の眠っている何かが原因ではと言われると正直、自分が怖くなってしまい、また引きこもりたい。
光喜はどうしようにもない気持ちに襲われる。
一体どこかも知りたいとは思わず、いつの間にか車の中に居て、冬美也も未だユダを疑い、表情が険しいままだ。
誰かに相談したいが、今のところ誰も思いつかないまま、今住んでいるマンションに着いた。
一緒に無言のまま自分の部屋まで着くと、冬美也が声をかけてくれた。
「あんま、自分を追い詰めるな、切り替えろ。相手が何考えてるかなんて分からないんだから、それと一緒だ」
「でも、もしその力が目覚めても何が起きるか怖いんだ」
「何も無ければ?」
その言葉で本当に何も無く、ただ単にその被害者として取り込みたいだけという小さな理由だとしたら呆れ返ってしまったし、そもそもあったとしても微々たるものの可能性もあるのだ。
光喜はそれに気づいてポカンとなった。
「あっ……」
「そうだよ、何も無ければ始まらないし終わりだ。もしあったとしたら、きちんと重力に愛されし者なんだから、それを使いこなせれば自信にもなる。自分を信じろ」
「ありがとう、冬美也」
「もうすぐ、夏休みで合宿なんだから、ザフラもお前用に色々考えてるっぽいからなぁ」
「……あぁぁぁぁ‼︎ 忘れてたぁぁぁ‼︎」
そうだった、ザフラが前に言っていたアレは冗談ではなく本気だと思い出す。
これはこれで、憂鬱だ。
「大丈夫か?」
「ううん、でも吹っ切れるようにまた頑張るよ」
「おぅ、おやすみ」
「あぁ、おやすみ」
そうしてお互いの部屋へと入った。
光喜と冬美也が部屋に入ったのを確認したアザラシもどきは辺りを見渡すように、何かの気配を感じ取る。
時間も相当過ぎてしまい、光喜は風呂に入ってすぐ晩御飯も無しに眠ってしまう。
ニュートンは眠りに入った光喜を確認後、気配の犯人を探そうとするも、既に気配は消えていた。
あのユダの部下かと思っていたが、それも違うようだ。
「……コイツ、一体何者になっちまうんだ?」