期末テスト
部活もテスト勉強期間は停止し、テスト勉強が唯一早く帰れると分かっていて、ホームルームが終わると同時に早々に帰っていく生徒も多ければ、こっそりここぞとばかり遊ぶ生徒もいる。
そんな中、勉強同好会だけは違う。
「期末テスト終われば、夏休みだぁ……!」
光喜は背伸びをしながら、机の上を片付け始めた。
「勉強同好会の本番だな」
「そういえば、ジャンヌ先輩からも話聞いてたけど、中間はあまり集まってなかったね?」
冬美也はそれについて説明をする。
「それ、中間だからだよ。大会だって全国大会の切符ならまだしも、そこまで忙しなくないし、中間の赤点は再テストだけでだから、補習って程じゃないけど、期末の場合は赤点取ると再テスト無い代わりに夏休みに補習&部活参加出来ないので、例えスポーツ推薦のエース言えどもこれを落とすとずっと白い目で見られるから絶対赤点を回避したいんだよ」
「でも、誰が面倒みるの? 俺らだって勉強しなきゃだろ?」
「テスト範囲は皆決まってるし、先公の言う事と範囲ページを皆学年分けてやるんよ。で、出来るチームの中で教えられる子がやる感じだけど、足引っ張られて点数落とす子も居て、上手く行かないから結局テスト担当じゃない先生が面倒見る形になっちゃって」
「本当に大丈夫なの? その同好会?」
「今回借りる教室は学年毎にバラバラだから、大人しく勉強しような」
「うっす」
――とは言っても、そこは学生であり皆各々話しして盛り上がり、あまり進んでいないのであった。
光喜も話を聞いていて、内心分かっていたが、ここまでろくすっぽ勉強をやっていない運動部の学年の子達に至っては、ずっとフィンか冬美也に聞きっぱなしだ。
で、たまに見回りに来てくれるテストを作っていない先生等が面倒を見てくれるが、結局一緒になって話が盛り上がり勉強が捗らない。
「よく、赤点取らないで済むよなぁ……」
光喜の独り言を呟く。
冬美也が丁度教えるのを終え、光喜の独り言に答えた。
「それ? たまに学費免除とか赤点ラインを下げてたりはあるけど、テストの上位者やスポーツの成績上位者だけだから、エースって言っても、個人種目じゃなきゃ折角下げてくれた赤点ラインを越えられない連中は足引っ張る奴になるからどうしても、赤点回避を目的になってしまうから」
流石にその回答には、アルバイトをしている光喜からすると赤点ラインが上がっている分、少し腹が立つ内容だ。
それでもそこは何も言わずに、私立らしいと言える。
「あぁー私立らしいと言えば私立らしいねぇ」
が、そこはフィンの一言で撤回された。
「因みに冬美也は学費免除組だから」
「腹立つー」
そんなに赤点ラインを下げたければ、結局成果を上げなければいけないのは事実なので、光喜なら何処で上げれば良いか、冬美也は分かっていたので、言い返す。
「なら陸上部に――」
言われる前に、速攻断った。
「絶対やだ無理、もう体持たない」
全くと口に出す冬美也だったが、時間を見て帰る準備を始める。
「後、オレ抜けるけど良い? ちょっと中等部の連中の勉強見ないと」
光喜とフィンは示し合わせたように、冬美也に言う。
「彼女見に?」
「やだぁ、勉強デート?」
言っている事は当たっているようだが、ちょっと違ってもいた。
「お前ら……! 違う、理美と言えば理美だが、ずっと勉強付き合ってるが、少し下がっているの気にしてて、現状維持だけでも良い方だと思うんだが、あまり刺激しないように気をつけて見ないと」
フィンからすれば、理美の感じからすると気にもせず我が道を行くタイプのイメージだ。
「理美ちゃん、気にするタイプだっけ?」
「俺も理美ちゃんって繊細よりも不思議系というか無頓着なんと言うか……」
光喜からすると不思議系で正直何を考えているかさっぱりと言ったイメージで、繊細とはかけ離れていた。
ニュートンと会話をした時に先見が出来るタイプなせいで、無頓着と言われているのを思い出す。
冬美也はお前らと言いたげな顔で見ながらもきちんと言った。
「気にするぞ? アイツ意外と繊細だから、他の人よりもゆっくりだし、琴さんや色んな人に鍛え上げられたから凄まじいだけだからな?」
そういえば、確か狩人達との交戦で理美は人酔いが治ってから光喜と違い率先して戦いに挑んでいるのを思い出した。
琴に至っては本当に戦いのベテランで瞬時にどのように動けば良いのか、倒せば良いのか分かっていた。
その琴に教わっていたのだから出来ないはずがない。
「新徴組の琴さん?」
冬美也は琴がやって来た経由を知っていたので軽く説明してくれた。
「そうそう、琴さんは何処かの国の用心棒してた時に嘉村グループの第一秘書がヘッドスカウトしにはるばるやって来て、お給金の良さに嘉村グループの理美専用のボディーガード兼教育係で、現在は第二秘書だっけかな?」
光喜は琴がどのように来たかを知り驚く。
「そこも意外なんですが?」
「とりあえず、給料は下げないのと部署は飛ばすなら土木系は無しとの事で来た」
「最後、ちょっと生々しいよ」
流石にこればかりは生々しかった。
「んじゃオレ中等部寄るから後は任せた」
そう言って冬美也が出て行ってしまい、知らない同級生に分からない問題を教える羽目になるとはこの時後悔する5分前である。
下校時間、結局自身の勉強より相手の勉強に付き合わされると言う悲劇そのもので、よくよく考えたら、ザフラも勉強同好会に入った筈だ。
下駄箱に置いてある自身の靴と内履きを変えながら、ふとザフラに対して疑った。
「アイツ……逃げたな」
「失敬な! こう見えて図書室で勉強していたのだぞ!」
まさかのザフラが背後にいて驚いた。
「うぉぉう‼︎」
「光喜も来れば良かったじゃないか。図書室は下校時間まで解放しているんだから尚且つ静かにしたい奴らだけでやるから捗る捗る」
「えぇぇ、そっちでもやれてたのか!」
ザフラはずっと驚きっぱなしの光喜を不思議に眺め、勉強同好会の他のメンバーが何をしているのかも伝えた。
「当たり前だろう? テスト勉強期間だぞ? それにジャンヌもアミーナもフィリアも女子メンバーほぼほぼ図書室で勉強してたぞ?」
「うわぁぁぁ! 俺、明日からそっちに行きます」
詳細を聞いていなかった光喜も悪かったが、何でもかんでも冬美也達と合わせてはいけないと今更思い知らされてしまう。
ザフラも光喜の様子からして察してくれたようだ。
「うんうん、あぁ言うのは出来る冬美也位だから、順位落としたくないメンバーも居るんだし、自分らは自分らでやりましょうが高等部勉同のモットーだそうだぞ?」
色々ごちゃごちゃな頭の中がどんどん整理されていくのが光喜自身、納得してしまった。
「あー、そうか確かにそうか、そうだよ。おかしいと思ったんだよ。冬美也は殆ど勉強じゃなくて教える方に回ってて、と言うか、冬美也なんて彼女の方へ行っちゃったし」
「ほう、中等部に行くなんて熱心な奴だ」
光喜は冬美也が言っていた話をそのまま伝えるとザフラから意外な言葉が返ってきた。
「いや、なんか理美ちゃん成績下がって来ているの気にしているからって、その為に教えに行くって」
「理美には頑張ってもらわないと」
どうして頑張って欲しいのかと考えるも、少しも分からず、色々あえて言ってみたが全てが間違いだ。
「なんで? 確かに今後の事もあるし、もうちょっと慎重にしないととか? 管理者として?」
「それもあるが、君がバイトに励んでいる間、冬美也達から聞いた。同好会メンバーだけで合宿という名の遊びが待っていると……!」
ただの、楽しいイベントの為に応援していただけでした。
「まじでそっち? 少し心配とかしないの?」
「心配だぞ! 合宿が無くなるのは困るそう、嘉村家のプライベートビーチがある場所で遊べるって聞いたから真面目に不真面目で頑張っているだろうが!」
本当に何処かの児童図書に存在する何かに近いニュアンスに光喜の方が突っ込む。
「どこかのフレーズみたいな事言っているだと⁉︎」
しかしそれだけではなかった。
「それに、お前の修行の特別プランも作ったんだから落とすなよ!」
「遊ぶと同時に地獄の修行待ったなし!」
ずっと昇降口で盛り上がっていると、アミーナとジャンヌとフィンとフィリアがやって来た。
「お嬢様お待たせしました」
「なんだ? 理美の家のプライベートビーチの話をしたのか?」
「社長、高等部も一緒の合同だから中等部はともかく、高等部は絶対落とすな、高等部だけ行けないのはキツイ!」
結局、夏休みを満喫する為だけに、皆頑張っているのだ。
「もぅ、完全に遊びたいだけじゃん、俺バイトあるし」
そう光喜が言った時、卑弥呼も丁度やって来て言った。
「大丈夫よ、あそこ遊びたいという理由で休むのOKだから」
「どんだけホワイトなんですか、と言うかいつの間に⁉︎」
「いやぁ、遊びの付き合いも大事だからって、小鳥遊さんそう言う人だから」
本当に良い人過ぎて、人が辞めない店だとつくづく感じだ。
光喜はフィンに冬美也も休めるのかと聞くと、全員謎の信頼で酷い事を言い出した。
「冬美也は? 休めそう?」
「んー、休めないと分かった時にガチなズル休みしそうなタイプ」
「あー、やりそう」
「寧ろ、大喧嘩して辞めさせたら業績一気に下がる一択だな」
「ある意味、裏で牛耳ってそうだな」
「絶対やってる!」
ここまで来るともう何も言えなかった。
『何故にそういう風になるの?』
――そうして、期末テスト期間に入り、皆、真剣に取り組み、その数日後見事赤点は免れた。
全ての解答用紙が返され、赤点でなかったので光喜はホッと胸を撫で下ろす。
「良かったぁ、思ったより良い成績だ」
しかし冬美也が思ったより暗い気がしてまさか赤点をとったのではと心配になると、ザフラが代わりに言ってくれた。
「どうした? 君と自分は別の授業の時に同列と言われてたのにここで落としたのか?」
「違う違う。オレじゃない、理美の事だ。さっき広樹から連絡入って理美も普通に赤点は取っていないのに点数気にしているって来て、前よりは上がっているのになんで……?」
「珍しいよねぇ、前はとりあえず赤点取らなきゃ良いやって位大らかだったのにまたなんで?」
「もう、誰かが理美にちょっかい出してるとしか思えないな……フィンは分かるか?」
「俺は分からないけど、もしかしたらお前のせいじゃね?」
「オレ⁉︎」
流石に光喜でも理解出来てしまう。
「あっ! 分かった! 冬美也って頭良過ぎて釣り合わないとか言ってくる奴がいて困ってるんだよ。それで振り払いたいから頑張ってるけど、上手くいかなくって、冬美也に迷惑かけたなくて相談出来ないとか?」
こればかりはザフラも意気揚々だ。
「それはそのまま答えだな。自分に任せろ! 無理なら連れて帰るけど良いな?」
ザフラの澄み切った眼を見た冬美也はブチギレて言った。
「お前、後で覚えてろよ!」
晴れてテストから解放され、光喜は夜の行燈のアルバイトをこなし、大分接客にも板がついて、正式なアルバイトとなり、より仕事に励んだ。
なな子も居てくれるお陰もあり、毎日平穏で徐々にあの時の苦しみも薄れていた気がする。
午後8時にはバイト時間も終わり、帰ろうとした時だ。
「やだ、また雨」
「最近多いよなぁ、梅雨明けたはずなのに」
バイトの先輩達が雨に嘆いていた。
確かに梅雨明け宣言はニュースでもやっていたし、日中はよく晴れている。
だが、夜になるとどういう訳かよく雨が降った。
一応折り畳み傘を持って来ていた光喜は危なかったと軽く言い、バイトの先輩にも声をかけ帰ることにした。
「俺時間なので帰ります、お疲れ様でした!」
「お疲れ、傘とか大丈夫? ここ忘れ去られた傘幾つかあるから持って行っても大丈夫だぞ?」
「大丈夫ですよ。持って来てますから」
「偉い偉い、そいじゃ如月君お疲れ」
「はいお疲れ様でした。では」
光喜は傘をさしながら、夕飯の買い出しを考えながら歩いていると、傘をさし忘れたのか困り果てながら歩いている髪の長い女性がいた。
人通りの多い街でも、不審な人なら誰も手を差し伸べなければ、不気味な為に近寄る気も無い。
最初光喜も素通りしようと考えていたが、運悪いとも呼べるだろう、女性と目が合ってしまった。
おっとりとした目付きなのに何処か見覚えのある顔付き、瞳の色は深緑だ。
少々困り果てた時、不意にコンビニに目が入る。
光喜はとりあえずコンビニに入って、適当に物色し、買い物を済ませ、序でにビニール傘も買う。
ニュートンが現れ言った。
「おい、まさか……」
「うん、そのまさか」
そう、その女性にビニール傘を渡そうとしていたのだ。
「ダメだろう! 普通に!」
「いや、傘だけ傘だけ渡したら後はすぐ帰るから!」
物乞いしている様子でもなく、何かを探しているように見えてしまい、とりあえず傘を渡したらすぐに帰る気でいた。
「今、色々やばいのに!」
ニュートンの言い分が1番正しい。
言葉足らずではあるが、前回の臨時集会の事もあり、光喜自身が全然不慣れな状態なのに他の管理者の居ない状態で巻き込まれたら、一溜まりもないのだ。
が、どうしても渡したい光喜はある手段に出た。
「か、カ○タのように無言で渡せば良いんだよ!」
この前やっていたジ○リを思い出し、そのシーンを真似れば良いのではと考えたようで、頑固過ぎてニュートンの方が諦めた。
「もういい分かった、好きにしろ、イビトでもねぇから」
「あ、ありがとう」
まだ困り果てている女性はとうとう足を止め、塞ぎ込んでしまう。
「あ、あの……こ、これ使ってください。それじゃ!」
ビニール傘をさし、あえてそのまま渡して去ろうとした。
自分に渡されたと気付く女性は驚きつつもその傘を受け取り、そのまま持ってお礼を言った。
「うぇ? え、あの、その、あ、ありがとう、ございます」
光喜はすぐさま折り畳み傘をさし、軽く会釈して走り去った。
とりあえず、これ以上は濡れずに済むだろう程度で、もう関わる気も無かったが、誰かに見られていたのに光喜は気付いておらず、人通りが減り住宅街まで来た時だ。
ニュートンがずっと気配を感じていたのを伝える。
「おい、お前今ので誰かに付けられてるぞ?」
「えっ? 嘘⁉︎ 誰?」
「分からんが、数名、お前じゃ多分無理走って逃げろ」
「お、おう!」
その言葉に驚き、早めに走って帰ろうと思った。
が、時既に遅しだ。
急にワゴン車が真横に止まり、開いた。
連れ込もうとする幾つもの手を見た瞬間、光喜はある事を思いつく。
『そうだ! 力を……』
この近くなら少なくとも重力が使える。
手を向けた瞬間、ニュートンが言う。
「止めとけ、多分こっちが不利だ」
「はっ⁉︎」
そう言った瞬間、その手に飲み込まれてしまい、勢いよくワゴン車が走り去っていく。
誰かの声がひっそりと呟いた。
「あー……気付かれてたか、まあいっか」
その声は影だけしか見えず、消えて行った。