臨時集会
酷い目にあったそれだけで良かったが、ニュートンの険しい顔がずっと続き、光喜も気になって話し掛けるも、あまり答えたくないのとまだ確証が無い憶測だけで物事を決めたくないと断られ、光喜はどうすれば良いのかと悩むも、例のギリゲーは衰退どころか増すばかりだ。
異世界に繋がる方法は根拠無い噂になれば楽だが、実際帰って来なくなったと言うネット掲示板が複数存在し、流石の管理者達はこのままにしておく訳にはいかない、そして臨時集会を開くと言うloinが一斉に回った。
「――で、狭間のバーで臨時集会って言ってたけど……」
今回の狭間のバーはまさかの高等部学院の裏側の壁だ。
下校時間も過ぎ、学生も残っていないし、居るのは光喜とアミーナとジャンヌだけだ。
流石に冬美也とフィンは用事があるのと管理者の集会は協力者でも厳禁と言われてしまった。
正直、臨時でも初めての集会なので、光喜は非常に緊張している。
アミーナはどんな流れなのか説明してくれたが、やはり色々な人間もいる為、騒動もあるらしい。
「集会は一定の人数で何があったかの経緯を話し、状況確認ですね。盾も矛も状況を知らないまま戦う場合も昔ありましたが、それを無くすと言う意味でやってました。ですが、他国とのやりとりも多い分、スパイや敵として見られた場合は死ぬ事すらありました」
「う、うわぁ……」
引いた光喜にジャンヌは言うが、アミーナからするとどうしても国同士の代表になっている管理者達はそうもいかないらしい。
「気にするな光喜、昔の話だ」
「とは言うものの、今現在も国の面子もあるので怪しい探りをする者も居ますので、今も変わらずとも言うべきでしょう」
結局空気が重くなる。
それでもジャンヌは今回は特別な臨時集会なのもあり、一々しないと断言しづらそうだった。
「まぁ、日本だしね。今回は異世界の管理者達とも話すからこういうのは無い筈、だ!」
「返って心配になって来たんだけど!」
「まずは入りますよ!」
このままだと入らないままずっと話しそうだとアミーナが悟り、扉を開けた。
入ろうとした瞬間、何か話していたが、誰かが入って来るのを察して一斉に静まる。
ここにいる者達は殆どの異世界の管理者達だろう、雰囲気が違う。
「えっ……あえ?」
「こらこら戻ろうとするな! すまん、もう始まっていたか?」
金髪にとんがった耳を見てエルフだろう男性が、ジャンヌ達を見て話す。
「あぁ、今回は代表者達だけだし、キャシーからの通達で臨時集会だと書かれていたので来た。こちらはネットと言う文化は無いが、何者かが定期的に術式を言葉伝手で流行っていて、内容も大体の異世界も類似された物と一緒だった」
「成る程、当事者と交えて会話を進めたいと言う訳か」
「そうとも言うな、そういえば当事者は他にも居ると聞いたがあなた方だけか?」
確かにエルフが言うように、当事者の管理者と言えば、理美も入る筈だが、辺りを見渡しても居ない。
その話を聞きつけ、奥の方から坂本がやって来て、説明してくれた。
「あぁ、あの子ね、今回ややこしい話になるからって事で外させてもらったのよコチラで」
「……そうか、現段階の現状とイーターの話をしたい」
ここにいる全員の話を聞くも、正直な話、光喜にはよく分からない難しい言葉が飛び交い余計頭をこんがらがる。
異世界に行く方法を聞くも、能が無くても術式は反応したり、ある種の創作ホラーネタみたいな行き方で行く者も居ると言ったりと意外と多種多様で、どれもピンと来なかった。
それに、ある管理者にとっては、こうだ。
「寧ろ、最近の世界が食す機会がめっきり減っていよいよ終末かと思ったが、こういうバカどものお陰でこちらは世界が活気付いて、とりあえず延命できたから良いけどな」
考え方としては、間違ってはいない。
自分達の世界を生きながらせるなら、そっちの方が良いだろう。
だが、他の管理者から言わせるとあまり良いとも取れない。
「バカを言え、そんなの延命処置しているだけで、無理矢理管を付けて体の機能が停止するまで使っているに過ぎない。ここで万が一戦争末期が起こった時どうなるか分かっているだろうな?」
「分かっていても、寿命がある限りは生きていて欲しいそういうもんだろ? 生きている以上」
エルフの方は全てを飲み込んでいるからこそ、寿命と共に朽ちる覚悟があった。
「受け入れる、それだけでも我々にとっての救いだと言う事を忘れるな」
この会話で妙に引っ掛かる内容を言うので、こっそりジャンヌに聞く。
「ねぇ、あの人達はどういう話をしてるんだ? よく分からないんだけど?」
「そうか、まだ知られていない話も多いし、大抵選ばれた管理者は皆口が硬い連中と言うか、偏った趣向も多いからあまり話も入って来ないのもあるし、よし、コレを機に、軽く話しておくか」
「どういう事?」
光喜は本当に世界が食す以外にも何があるのか不思議に思っていたが、どうやらその後の話のようだ。
「世界は寿命があるんだ。まぁそれは至極当然でそりゃあ少しでも長生きしてもらいたい者も多いが、せめて全てが自然のまま寿命を迎えるべきであり、万が一争いや最も悲惨な終焉を迎えてしまった時、ある物体が産まれる」
一体どういう意味なのかと光喜が戸惑う。
「産まっ?」
「その物体は最も原因となった終焉の場合、その力を持つ」
アミーナもさりげなく話に入って教えてくれた。
「怨み辛みエトセトラ、様々な怨念と言うべきか要因となった姿になる事がある言われている。様々なモノが凝固し濾過されたアースや残りカスと言われるまがい物とはまた違い、濾過もされる事も無く、凝固し続け負の全てを取り込んだ存在です」
恐怖を感じるも不思議とそこまでの怖さもなく、もっと深掘りしなければいけない気もしたが、なんだか神話生物として考えるとなんだかしっくり来てしまう。
「アースやまがい物とはまた違う感じですね、なんていうか神話生物?」
流石にそう来たかと笑い出す。
「あはは! それ、絶対本人の前で言うなよ。大抵は他の異世界にも悪影響与えるし、終焉してしまうが、理性がある場合は寧ろこちら側になって対処してくれる」
「強い味方という訳ですか?」
「ただ、それでも理性があっても道徳心が無ければ話にならないですが、未だに一桁の人数しか居ません。それに、あまり口にしてはいけませんが、裏切りも存在します」
回りもその言葉にこちらを向く。
余程酷い目に遭わされたのだろう者もいた。
ただ、同時に光喜はそんな状況でも、人間の心そのものだと感じ取る。
「……人間と然程変わらないんですね」
「わぁ、そうきたか」
「光喜は色々修羅場を潜って来たせいで感覚が麻痺ってるだけな気もしますが……その者達を皆、“番人”と呼びます」
「番人?」
「異世界を見張り、異常を起こしていないか番をしてくれている。そのお陰で、最小限に抑えられたケースが山程ある」
ただ別の異世界の管理者からすれば、不満があるようで、かなり噛み付いてきた。
「しかし、そっちの世界じゃ、番人が死亡して1人欠けた。それだけじゃない、番人が本当に少数だと言うのに、そっちにばかり偏り過ぎている」
すぐ魔法使いみたいな姿の管理者が止めに入る。
「まあまあ、ちゃんと仕事しに来てくれてるんだから良いじゃない」
「お前のところは来たんだろうが! こっちはなぁ!」
咳払いしながら、アップした金髪の眼鏡の女性が立っていた。
「……すいませんね、こちらも好きで止まっていませんよ」
女性を見るなり、憤りを露わにする。
「コピー! 何が好きで止まっていないだ! こっちは意味の分からん宗教が流行るわ、イーターのせいで特殊の人間や動物が喰われて、イビトがワラワラ来てバランスが崩れて最悪な状態なんだぞ! 下手にすれば最悪な終焉だ!」
「分かっている。その為に今現状同じ状況の異世界をクレヤボヤンスにお願いし、分かったモノだけキャサリン経由で呼んでもらった」
「あんたら、良い加減良さげな子居ないの?」
「現状維持、そんな簡単に出て来てたら、こんな殺し合いとかしないわよ」
「ふん、どうせ身内優先だろ……おかしな宗教が入って宗教間の戦争が増えて、止めたくてもイーターに食い殺されて歯止めが効かないわ、イビトが異常発生して、ウィルス感染が徐々に増え始めた。こんな終焉とかマジで笑えないんだよ!」
相当苛立ちもあったのだろう、テーブルを思い切り叩き、乗っていた飲み物等が反動で溢れてしまった。
どの異世界にも同じような状況で芳しくないのが表情で良く分かる。
「そういえば、宗教って言えば、フィンが言っていたの思い出した。穏喜志堂って」
穏喜志堂の言葉に全員こちらに振り向いた。
「えっ? 何?」
「それだけじゃないです。狩人の襲撃でイーターが紛れ込み、敵味方関係無く食い殺していました。そして――」
「どっかの迷惑ヴィチューバーが異世界を繋げたせいで、イーターに遭遇した」
回りがざわつき、これはここの世界だけでは済まされない状況化へとなってしまっていた。
ジャンヌは皆に言う。
「まぁ、穏喜志堂は坂本に聞いた方が早いぞ?」
「今日はここには呼ばれていない」
流石に今回呼ばれたのはこの3人だけのようだ。
もう少し詳しい管理者さえ居れば話は一気に進むのだが、今回の人選も近くで起こった、実際見た者だけ、話も殆ど皆同じ被害だと言うのだけでも収穫があったと言うもの。
とにかく今回はこれで話を纏め、イーターもだが実害が最も多いとされるイビトの無計画な転移を防がなくては行けない。
同時に決して目を離しては行けないのは新興宗教、穏喜志堂だ。
「そうか、明確なこの3点が問題で先に片付けるべきは異世界を繋げようとする奴又は連中を止める事だ。もしかしたら、穏喜志堂が関わっている可能性も視野に入れてだ」
ジャンヌは今回の臨時集会で得られた情報が結局皆同じ状態というだけで、どうやって打破できたとか、もっと突破口を知りたかった。
無論、他の管理者達もだろう。
コピーはジャンヌの話を聞きある事を言った。
「異世界を簡単に繋げれられる技法で、1つの世界に集中しているのではなく、全てバラけてランダム。一箇所だけならその一箇所の人物と断定出来るのが、逆に曇らせている。回数等も意外と均一だとクレヤボヤンスも不思議そうに呟いていた……食わす為なら分かるが、何か狙いがあるのかもしれない。穏喜志堂と同時並行でこちらも調べます。ただ、今回危険なのはイーターです」
「イーターって捕食者が?」
確かに、あの時本当に危険で相手が異世界側にいたせいで、何も出来なかった。
だがコピーはそれだけではない危険性を感じ取っての言葉だ。
「えぇ、ただの人喰いなら対処は幾らでもある。でもソイツはとてもグルメ、特定の分野に特化した異能者が大半を占めている。デリート兄さんにも聞いたけど、能力が扱えなくなった管理者が何人か出たの。本来は逆、同じ能力なら無力化するの。ジャンヌもザフラも太刀打ち出来なかったって聞いたわ」
聞いていた他の管理者が背筋に悪寒が走る。
「……まさか、イーターが管理者を喰らった可能性があるのか⁉︎」
回りも動揺してしまう。
声から聞くにイーターと遭遇した管理者が食い殺され、その後はまだ再生していないや下手すれば再生中の管理者が襲われていないかと不安を次々言葉が出てくる。
こうなると収集がつかない。
コピーは頭を抱えるも、光喜を見た。
「まだ断定ではないけど、光喜君、君何か覚え――」
その時ニュートンが話に割って入ってシラを切る言い方をした。
「知らないね、断定してないなら、食われた管理者が再生出来たか聞いたか?」
他の管理者達の口ぶりからしてまだだ。
勿論コピーもまだ確認が取れていない。
「いえ、まだよ。ただ、君みたいなアースが初めてのケースだったのもきっと理由が存在するクレヤボヤンスだって隅々まで見るのは現段階では不可能よ。だから集会を開いて貰っている。こちらもその方が計画を立て易い。ちなみに光喜君の話はジャンヌや日向に聞いたので知っている」
ニュートンの様子は警戒して損したと言った雰囲気だ。
「あっそ、そういうこと」
「今後は対策もだけど、イーターが出る可能性は高い、皆は並べく1人行動は慎み、未然に防ぎつつ異世界の転移及び繋げる行為を食い止めましょう」
こうしてこの3点に対して打開策もなく、ただイーターへの危険性が増すだけで終わってしまった感じだ。
狭間のバーから出た後、どんよりな気持ちで帰る事となったが、先にぶち壊したのはジャンヌの方だった。
「そういえば、勉同が本格始動する時期が来たぞ2人共!」
正直、臨時集会で疲れ切って期末テストの話なんてしたくもない。
だが、勉強同好会も中間テストのテスト勉強期間はあまり規制も無く、意外と緩かったのを覚えている。
確かに期末テストは部活禁止になるので部室も使えなくなるのにどうして本格始動なのだろうと光喜は思って口にした。
「急ですね、もうすぐ期末テストって事ですよね? そうは言っても基本部活禁止じゃないんでしたか? 最初聞いてはいたけど、大丈夫なんですか?」
ジャンヌは切り替えてくれたのを見てホッとした顔になって、意気揚々と話し続ける。
「そうだ、基本はだ。だが、勉強同好会はここからが本番、基本テストで落とすと色々面倒なので、皆で集まって空き教室を利用してテスト勉強をする。危ない連中もいるので、顧問は勉強しているか見てくるだけだし、遊んでたら怒られるがな」
「確か、他の子達も居るけど基本メインの部活動が主だから来ないんでしたっけか?」
アミーナも軽い説明を受けいていたので知っていたが、テスト勉強に関しては何故自主的に出来ないのか不思議に思っていた。
そこもジャンヌが説明してくれた。
「まさに今のシーズンだ。中間テストはまだ響きはしないが、期末を落とすと夏休みは部活禁止の補習授業確定だから、テストに自信の無いエースとかが主に勉同にやってくるのだ。特にテスト期間は部活しないから気が抜け易いし、しかもそもそもスポーツ推薦で入って来た子達も多いからテスト赤点の常連も多いそうで、フィリアが中等部にある勉強同好会パクってくれたお陰で入っている子達は赤点が居ないらしく、その辺は先生達も目を瞑ってくれているのだ」
こうして聞くとやっぱり成立している同好会なのだろうと考えるも、同好会にも部費が出るので、勝手にジュースや菓子を買って良いのかと今更ながら疑問が湧いた。
「成る程、部室は使えないけど、空き教室で皆で勉強すれば何も無いし……って、部費で色々買い込んでませんでした?」
「あれはな、ちゃんと来ている連中用だから、基本出ないぞ」
謎の自信に満ち溢れたジャンヌに押され、光喜は納得のいかないまま納得させられた気分だ。
「良いのかなぁ?」
「少し、気の抜けた話のお陰でどんよりな空気も無くなりましたし、感謝しますよジャンヌ」
「いや、どっちにしても俺がどんよりですよ!」
かなり切羽詰まった言い方をするが、光喜は出来る方です。
「大丈夫だぞ、先の臨時集会の話はちゃんと、loinで皆に知らせている!」
ジャンヌが自身のスマホを見せると、アミーナはある事に気がついた。
「管理者達用のですか? と言うかグループ髭ダンスってなんですか?」
そう言われたジャンヌは自身のスマホを確認し、軽くあっと言う言葉を漏らし、慌てて管理者用と書かれたグループを見せるが、アミーナとしては納得いかなかった。
「これは、PCゲームで管理者達で遊んでいるグループ名だすまん間違えた。こっちだ!」
「むしろ、そんな矛と盾同士遊ぶ程仲良いのは中々無いですよ! と言うかさりげなく協力者とも遊んでたでしょ⁉︎」
「ふふふ、これが文化を受け入れる国とそうじゃない国の差なのだよ」
ここぞとばかり、煽っていくジャンヌと怒っても仕方がないのも分かっていても釈然としないアミーナの2人を見て、光喜は心に止めた。
『この2人疲れていないの? と言うか、この位割り切っていかないとやっていけないのかもしれないな、管理者って』
疲れを拭う為、深くため息を吐く。
これからの事を考えていても仕方がないのだ。
とりあえず、今出来る範囲を見極めていくしかない。
夜はゆっくりとふけて行く。