バイト
そして月曜日になった朝、ニュートン完璧にお怒りから1日が始まった。
「いい加減にこの神様を置きっぱなしにするな光喜!」
「そういうなよ、ザフラ達にも頼んで一緒に良さげな場所を回ったけど、中々良い場所無くって、とりあえず今日はバイト始めだから連れて行ってみて大丈夫ならそこに住んでもらえれば良いんだけど……」
光喜からすれば、先住猫が新しい猫にストレスマックスで危険と考え、結局里親探す感覚だ。
『まぁ、なな子は見えてないからやりたい放題だったけども……見える人住んでなくて良かった』
学院にて――。
部室でジャンヌに話をして、第一声がこれでした。
「ふーん、結局ニュートンは嫉妬心でストレスマックスなんだな、完璧他猫を寄せ付けない猫だな」
「言っちゃいますかそれ?」
セラフィムが翼の1つを使ってニュートンの肩を軽く撫でてあげていた。
「意外とアースは気まぐれで頑固者が多い分、受け入れるタイプも居るが、やっぱりきっかけがそれだった分警戒が解けなかったんだろう。なな子には申し訳ないが早い所良い場所を見つけてもらわないとな」
「そうなんですよねー」
実際なな子は光喜の肩に乗っかって遊んでいた。
「で、今日なんだろう? バイト、卑弥呼が勧めたバイトだから良い人が多いんで大丈夫なんだろうが、酔っ払いも多い、気をつけるんだぞ?」
「はい、ありがとうございます」
「それと、最近なんだが、この間、フィンが話していた新興宗教の穏喜志堂ってのが徐々に勢力を増えて、あまり宜しい噂も無い、布教や斡旋が多いらしいから断る様にな? 前に中等部でどハマった女子生徒が寮で騒ぎを起こして、今学院を休んでいる」
「ちょ、理美ちゃん達大丈夫なんです?」
「おう、ジュリアと理美は個室寮に入っていて、なんか煩いから先生と一緒に行ったら襲われて、そのままその生徒は入院している」
「家じゃないのですか?」
「残念ながら、このまま正常な宗教の否定な話を言い続けても頑なになるから精神病院で治療になったんで、少しずつ正気には戻ってると言う話だが、油断は出来んし、それにハマった理由は中々成績が上がらず、塞ぎ込んでいたら、他校の高校生が勧め的てハマったらしいが名前を言わないらしい」
「怖いですね、多分大丈夫だと思いたいんですが気を付けます」
「断る時も気を付けろよ。しつこい新興宗教を断ったら集団イジメや嫌がらせとかして、最後には被害者を悪者に仕立て上げ逮捕されたケースあるから」
ジャンヌの話が怪談より最も怖い話に悪寒が走った。
「こわっ!」
怖がっている光喜をよそに、時計を見てジャンヌは言った。
「そろそろ、時間じゃないか?」
「本当だ、んじゃ行ってきます」
「気を付けろよ」
部室から出てすぐ、なな子を肩車になっていたが、凄く震えていたのが伝わった。
「大丈夫、大丈夫だからね」
やはり穏喜志堂が関わっているのはなな子の様子ですぐに分かり、関わらないように願うしかなかった。
夜の行燈に到着し、準備中の下げ札を横目に出入り口に入ると、すでに小鳥遊や卑弥呼が居た。
小鳥遊は光喜に言った。
「来た来た、さぁ入って丁度今日君用の服届いたから」
そう案内され、男性用着替え室に案内され、小さいがそこまで詰まる様な感じではなく、1つのロッカーと鍵を渡され、居酒屋のユニフォームも同時に渡された。
指定された三角巾を被り、居酒屋のユニホームを来て下に降りると、卑弥呼と小鳥遊が待っていた。
「こんな感じで良いですかね?」
「良いよ良いよ。そうだなぁ、ヘヤピンちょっと付けても良いかな?」
小鳥遊は光喜の髪がやはり気になってしまい、はみ出ないようヘヤピンで止めた。
人生初めてのヘヤピンに戸惑う光喜に卑弥呼が言った。
「ヘヤピン外すの忘れるかもだけど、慣れると便利よ? それに、ヘヤピンの良さは男女関係無いし」
小鳥遊は改めて、軽い指示と説明をした。
「んじゃ、卑弥呼ちゃん、光喜君の指導よろしく。今回は短めの2時間だけだけど、少しずつ覚えていこうね。それじゃ、他のバイトの子も来てから自己紹介してもらうからよろしくお願いするよ」
「はい、よろしくお願いします!」
「お客様の前でもそんな感じでご挨拶してね」
「最初の入店時と退店時だけで良いから」
「は、はい」
こうして光喜のアルバイトが始まった。
2時間だけのバイトなので、今回は説明と如何いった感じで接客をこなすのかを卑弥呼が説明し、専用のスマホやタブレットの使い方まで教わった。
その間に客が開店と共に入ってきた。
「店長、こんばんわ、今日は空いてる?」
「さっき開いたばっかりだからどこも空いてるよ」
他のアルバイトの子達も入って来て、スムーズに接客をこなす。
それを見るだけでも十分勉強にもなる。
卑弥呼が接客に入ると、すぐに光喜に気が付いた。
「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ」
「おや? 光照ちゃん、その子新人?」
「そうなんです、学院の後輩の如月君です」
「今日入ったばかりの如月です。よろしくお願いします」
そうしてあっという間に2時間が過ぎてしまった。
「どうやってけそう?」
「まだ、よくわからないですが頑張ります」
「うんうん、若いウチにできる事増やそうね。そうだ、裏入って、何人かまだ裏にいるから紹介してあげるから」
厨房には社員とまだこれから接客に入る予定のアルバイトがおり、軽く自己紹介をした後、皆それぞれよろしくと答えてくれた。
もう迷惑かけないように着替えようとしたら、卑弥呼からなぜかジュースを渡された。
「これ、お客様からの奢り」
「えっ? ありがとうございます」
まさかのオレンジジュースを渡され、それを飲み干すと卑弥呼が話した。
「良いの良いの、良い神様連れて来てくれたし、ここまだ神様付いてなかったし、店長の腕だけで切り盛りしてたから、これで少しは安定するよ」
やはりここにはまだ神様が付いていなかったようだ。
しかも、小鳥遊の腕だけで切り盛りとは中々の腕前と感じたが、卑弥呼も見える人なのかと今更聞いてしまった。
「あっ、そっかそういえばなな子、入ってから何処かに遊びに行っちゃったきりだった……と言うか見えてました?」
「うん、普通に見えてた」
割と普通に卑弥呼が答え、光喜の方がなんだか恥ずかしくなってきたが、ふとそういえば何処へ行ってしまったのかと気になった。
「なな子は今どこに? 一応気に入ったのなら良いんですが、声かけときたいんだけど?」
せめて声だけ掛けて帰りたいと思っていたが、どうやらそれが叶わないようだ。
「そうだよね? でも、今ねぇ酔っ払いのお客様達と遊んでて、多分酔っ払い過ぎて神様と遊んじゃってる」
「あぁ、仕方がない、すみませんがなな子お願いします」
出るついでに、そっと個室の1つを覗くと酔っ払いの客と仲良くはしゃいでいた。
折角仲良くなれたし、ちゃんと挨拶くらいと思っていたが、こうなると楽しんでいて欲しいと願ってしまう。
「良いわよ、伝えておくから」
「分かりました、では」
「うん、気を付けて」
そうしてアルバイト初日は終了して後は帰るだけだ。
暫く歩くと、何か客引きか勧誘かよく分からない数人立って、拡声器で何か話していた。
「日々の平穏も微睡も全てを脅かす現代! 何1つ民間を護らない上に侵入まで許す。我々は1つになり追い出そうじゃありませんか!」
何処かの団体の演説だ。
正直、こういうのは好かないし、運良くあの頃は新興宗教や団体の勧誘は無かった。
おそらく、被害者として見られてなかったのだろう。
さっさと逃げるように足早に歩いて行くと、その1人に声を掛けられた。
「如月君よね?」
すぐさま逃げてしまおうとしたが、腕を掴まれてしまい、振り向くしかなかった。
「……えっ? 保健医の先生?」
そこに居たのは修学旅行時、光喜が熱を出して一緒にホテルで待っていた為、無事だったがその後訳の分からない誹謗中傷や回りの白い目に耐えきれずに中学校を辞めてしまい、その後はよく分からなかったがまさか怪しげな団体に入っているとは思っても見なかった。
「やっぱり如月君ねぇ! あなた今何処で何してるの? 久しぶりに会いに行ったら、売り地になってびっくりよ!」
「いえ、すいません俺もう帰るんで」
手を振り払い逃げようとしたが、他の団体達が囲って逃げ道が無い。
「そう怯えなくて良いのよ。穏喜志堂は芯堂様が御心によって皆が幸せに慣れるの? あなたも大変だったんだし、ちょっとだけお話し良いでしょう?」
よりにもよって新興宗教だ。
「いえ、今とても楽しんでるんで大丈夫です」
「そんな事無いわ! いずれ破滅する世界の為に穏喜志堂は立ち上がり、世界を救うのです!」
回りを見ても、見て見ぬ振りで誰も助けてくれない状態に、信者達は拍手喝采、余計回りが避けて行く。
逃げ道もない、なんて断れば逃げられるのかと泣きそうになった時だ。
「おい! 怖がらせてるんだお前!」
1人の男性が怒って道を開けてくれただけでなく、何人もの人が集まり怒ってくれた。
「あんたら、良い加減にしないと警察呼ぶわよ!」
「ほら、君はこっちに来て大丈夫だから」
そう言って信者達から離してくれた。
よく見ると、なな子が居た。
更に騒ぎを聞きつけてくれた卑弥呼と小鳥遊もやって来て、警察も連れて走って来た。
「こっちです!」
「如月君大丈夫か!」
「そこ! ちゃんと許可を取ってるのか‼︎」
「部署までちょっと来なさい!」
流石に信者達も逃げ出してしまった。
その後は警察から軽い事情聴取だけで、すぐに解放された。
「すいません、俺の為に」
小鳥遊は笑って経緯を話してくれた。
「良いの良いの、最近この辺でよく新興宗教の勧誘があって困ってるって話あって、さっきお客さんがバイトの子が捕まってるって教えてくれたんで、行ったついでに巡回中の警察も居てくれたから良かったよ」
「それに皆迷惑してたから1回警察に目を付けられたって思わせておかないと今後もつけ上がるから」
卑弥呼の話で確かにそれぐらいしないとダメなのかと引いてしまった。
「お、おぅ……」
同時にそっと教えてくれた。
「そのなな子様が君が居なくなって心配して追いかけてくれたから、守れたんだよ。ちゃんとお礼言って、住む場所を提示してあげて」
「それじゃ、今度こそ気を付けて明日も待ってるから」
「明日学院でね」
「はい、ありがとうございました」
そう言って、2人は居酒屋へと戻って行った。
なな子がじっとこちらを見ていた。
光喜はしゃがんで言った。
「ありがとう、なな子。もう大丈夫だよ。それと、もし君がここが良いって場所が有るなら、俺も嬉しいし明日もそこでバイトあるから、頑張ってアルバイト採用したいし、君に会うからね」
なな子はえっへんと嬉しそうに笑い、手を振って、店長の肩に乗って帰って行った。
少々寂しい気もしたが、ニュートンが清々したとばかりに言った。
「漸く、アイツも居場所見つかってゆっくりできるぜ」
「そう? お前、こっそり一緒に遊んでただろう? 見えないもの同士で」
夜中にテレビが点いていたので心臓が止まるかと思う程驚いていたが、どうやら見えないが触れる共通点はあったらしく、それで対戦ゲームをしていたようだ。
「違う! おれがこっそりしてたら、なな子が驚いて腰抜かしてたかと思えば、どっかの外人みたいなオーバーリアクションしながら大喜びして、勝手に入って来たんだよ!」
まるで見えないものと出会えた興奮で乱入してきたと言うが、何処まで本当か分からない。
しかし分かる、電気代が跳ね上がっていることを確実にそれは不味いのだ。
「やっぱり勝手に遊んでたんじゃないか2人して……電気代で怒られたら、ゲーム機没収されそう……」
ゲーム機は前からある奴をそのまま持って来たが、実際電気代や家賃は養育費が入るまで、咲持ちである為、下手に上がっていたら怒られてしまう。
しかも、原因がゲームのし過ぎだと1ヶ月禁止で持っていかれるかもしれない。
だが、ニュートンはバイトを始めたのだから、いっそ買い直せば良いと提案してきた。
「そしたら、買えば良いじゃん、バイト代で」
「いいやそれでは使わない、ちゃんと考えて使いたんだ」
「じゃぁ、スイッミ買ってくれよ、新しいゲーム知ってるだろう?」
「お前、妙にゲーム機に詳しくなってるな?」
勘繰る光喜に隠す気の無いニュートンはすぐに話した。
「あぁ、スマホとかPCとか見てるから、検索とか色々」
「おまっ! 今月の電気代バカにならないじゃないか‼︎ と言うか、変なの入ってないだろうな⁉︎」
光喜はなな子が無事に住める場所が出来て良かったと同時に、ニュートンが勝手にスマホ等を使っているという恐怖で項垂れた。
ニュートンは一体何を見ていたのか、調べれば良いだけの事だが、この時はまだそこまでの頭が回っていなかった。