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転校生

「しっかし、場所変わっても、オレら一緒でよかったなぁ光喜」

「そうそう、席変わっただけで相当ストレスなったり疎遠なったりで来なくなる子もいるらしいから運良いよ俺ら」

 冬美也とフィンが前の席で光喜はその後ろなのでほぼ変わらずで良かったはずがそうでもなかった。

「俺はそう思わない」

「ほう? たまたま私が隣になった位で血反吐吐くとは軟弱にも程があるぞ?」

 そう、ザフラが席替えにより隣になったのだ。

 ザフラはヒジャブも被らずに、普通に学生服ではあるがスカートではなくズボンを着用していた。

 最初光喜が言おうと思ったが、ザフラの威圧が凄まじく声がかけ辛い中、冬美也が代わりに言ってくれた。

「ザフラはどうしてヒジャブ被らずにここにしたんだ? それに王族だから普通は御付きもいる筈だろ?」

 まさかそっちからかと笑うザフラは答えた。

「良い質問だ、神崎、学院ではヒジャブを被ると揶揄う阿呆がどの国問わず現れるので、基本外す、その方が返って安全な時もあるのでね。御付きは年上な為2年生をやってる。普通なら年齢問わず一緒になる筈だったんだがな」

 フィンが1番気になっていたのだろう、ズボンについて尋ねた。

「てか、どうしてズボン? 確かに許可制だけど基本バイクとか原付で通う子がスカートだと危ないからってズボン推奨になってはいるけどさ」

 そう、ここでは女子の制服では選択制を設けていて、スカートかズボンを選べるが、原付バイク等で登下校する際、スカートでは危ないので推奨とされている。

 しかし答えが意外だった。

「宗教上、生足やタイツ禁止なんだよ、本当はスカート履きたいと思ってたのに、ヒジャブは外して良いがどうしてもそれだけはって意味がわからない! せっかく宗教関係なく過ごせると思ったのに! 普通逆だろう、頭隠せって言うだろう!」

 ザフラは宗教そのものを純ずるタイプではないようで、寧ろS国の宗教が緩いのだろう、国に出たら羽を伸ばしてしまうタイプのようだ。

 流石に冬美也が止めに入った。

「おい、本音!」


 そうして学院生活が始まると共にザフラの凄さを思い知らされた。

 S国の王族であるのもあって、英才教育が十分行き届いており、全てが完璧だった。

 昼休みには既に人集りが出来、光喜達の居場所がなくなってしまう程だ。

 仕方がないので、3人は部室でご飯を食べる事にした。

 ずっと圧倒されていたのか疲れを感じている冬美也はつい本音をこぼす。

「さすが英才教育だよ、全然学校行かなくても良いじゃん」

 光喜も同意だ。

「だよなぁ」

 ここに来てフィンが冬美也にお前が言うかと口にすると、また違う名前らしき言葉が飛ぶ。

「いや、冬美也が言うそこ?」

「それこそお前もだろうゼフォウ?」

 ずっと気になっていた為、光喜は漸くフィンに聞いた。

「ところでさ? たまに聞こえて来る、そのゼフォウって何?」

「俺の元の名前、元々スラム育ちで名前無くって拾ってくれたボスが付けてくれたんだけど、戸籍作るってなったら、別の名前になっちゃっただけ」

 フィンの意外な生い立ちに驚き、言葉が中々出てこない。

「ふぁ?」

 改めて、冬美也とフィンは目配せし、まさかと思い光喜に逆に聞いた。

「そういや、ちっとも触れてなかったから気付いていないかと思ってたんだが?」

「もしかして聞くタイミング今まで無かった?」

「お、おぅ、と言うか本当にどこ出身なんです? フィンさん? いやゼフォウさん?」

 どっちでも構わないが、下手にフィン以外で言われても困るので、そこだけは注意した。

「いや、無理に使わなくて良いから言いやすい方でと言いたいけど、フィンで通してるからそのままで、後、本当にどこ生まれかも分からんのよ自分、なんなら年齢も冬美也に合わせただけだし」

 ここで更に年齢も不明である事が判明した。

「ん?」

「出会った当初からコイツの年齢全然分からないし、誕生日だってとりあえず戸籍作るので必要だからって適当に作る序でにオレと合わせたって言うし」

「もしかしたら、俺、冬美也と光喜より年上かもしれないし、下かも知れないしどっちでも良いんだけどねぇ」

「良くない良くない」

「たまたま頭が良かったからこうして色々して貰ってるらしいが、ちょっとでもポカしたら死ぬ綱渡りなの変わらないだろう?」

「うん、だから日向さんとかが、こっちに付くならボスとの話し合いして正式に表に出れるようにするって言うんだけど、俺はそんなのどうでも良いんだよねぇ。ボスになれば良いんだから」

 恩を感じて思っているのは確かだが、何か壮大な野望があっての事だろう。

 フィンの話にきっと理由があるものの、無理或いは相当先の話になる。

 その話を知っているであろう冬美也は言った。

「おいおい、まだ言ってるのかお前は?」

「なんか聞くんじゃ無かった流れになってきた」

 光喜に至って半泣きだ。

 そんな時だ。

 部室前で何か話声が聞こえた。

 声からしてジャンヌとザフラだ。

 先にジャンヌが言った。

「やぁ、驚いた他宗教の人間がここに入るとは」

 ザフラはジャンヌに目を付けられていると分かっての態度だろう、あからさまな挑発を始めた。

「そんな驚く事では無いのでは? この学院には近いからという理由で入る他宗教信者の生徒も居ます。それと一緒ですよ。あなただって宗派は違えど、結果的に魔女として火炙りされたのですから裏切られた側だと思ったんですが?」

 しかしジャンヌは違って冷静だった。

「残念だ、ボクはその前にアダム達に助けられてね、あの後日本に身を寄せていたよ? 裏切り者と言われた明智光秀の元で、それより隣の君も管理者だろう? どうしてそっちに?」

 御付きの声もしたので、そっと3人は覗くと、ジャンヌもザフラも小柄なのは分かるが、御付きは浅黒の肌の女性だと分かるも背も堅いもしっかりしていた。

 御付きはジャンヌの態度に気に食わなさを感じてか、何かをしようとしていた。

「わたくしは数代前の国王様に支えていた者です。見るに愛されし者、サポート型ですが、異能者でもあります故本気を出しても構いませんが?」

「止めろアミーナ、元々父の意味のわからん思い付きで私は条件を飲む事で自由を楽しんでいるんだ」

 ザフラに止められたアミーナは一歩下がり、深々と頭を下げた。

 流石に学院でバカな事をするつもりは無いのを理解した上で、ジャンヌは聞いた。

「条件?」

 答えたのはアミーナだ。

「ザフラ様は異能者であり、重力の使い手、丁度重力に愛されし者であるコウキキサラギと言う少年に技術を教える事、ですが、自分から言うまでは自由にして構わないとも申してました」

 自身の名前が出た辺りで光喜はそっと扉を閉めた。

 部室内の奥までそっと行ってから、フィンが小声で聞く。

「えっ? なんで閉めるの?」

「教えて貰いたいの山々なんですが、非常に俺と合わないのですよ」

 あの威圧に圧倒されてから苦手感が増し、光喜はもう暫くこのまま様子見をし続けるか諦めるかを考えていた。

 後ろから見知らぬ声が掛けてきた。

「そうやってすぐに逃げようとしてない? ちゃんと話した? まぁ、あの子は気性が荒いとか良く言われるし、知らない人には敵意剥き出しだけどさぁ、あんなの日本で言うツンデレよ」

 声の主に目を向けると、頭は鳥で胴体は人っぽい獣の様な感じに見え、下はグリフィンの様な姿で意外とデカかった。

 驚いて声を出してしまう。

「誰ぇ‼︎」

 冬美也もフィンも釣られて驚いた。

「うおぅ⁉︎」

「何か居るの⁉︎」

 その声で、部室外に居たジャンヌ達が入って来た。

 アミーナが言う。

「トト。余計な事言わない」

 どうやら、アミーナのアースだった。

 ジャンヌも初めて見たようで、こう言った。

「胴体の付いたグリフィンだな」

「そうですか? トトの風格好きですよわたくし。それと、君がコウキキサラギ君ですね。よろしくアミーナです」

「よろしくアミーナ先輩……何ですか?」

 急にアミーナは光喜の額に触れ、何かを感じ取った。

「確かに国王陛下の言っていたように、噛まれていますし、こちらのアースも大分酷い食い荒らされ方をしている。まがい物で金繋ぎみたいになったから辛うじて出現、力が使えるのでしょう。それに一部持ってかれているせいで、完璧な修復も出来ない状態……それに、本当に被害者なんですね」

「……?」

 またあの時と一緒だ。

 しかし違うのはアミーナは触れて知ったのと、カーミルはジッと見て知った事だ。

 本来なら嫌がるべきなのだろうが、どういう訳かそこまで嫌では無かった。

 アミーナは自身の愛されし者を軽く説明した。

「見るに愛されし者、見たいと思ったモノなら何でも触れば見れますし、原因等も把握も出来るのでかなり重宝されてます。……ところで、君は総一の息子ですよね?」

 ふと、冬美也を気にしていたようで、改めて見ていた。

「そ、そうだけどどなた?」

「覚えてませんか? いや、その後老齢で死んで再生したの5年前位ですから無理からぬ事ですね」

 この瞬間、光喜から冬美也に目を向けられ、当人もどう言う事だと頭を捻った。

「はい?」

「実はこの子、病弱な為長期入院していて、何処が悪いか分からないからとナイチンゲールに呼び出されて、見たのが懐かしいです。当時出会ったのは彼が3歳、可愛い盛りでしたが、それでいて凄い優秀ではあったのですが、舐めてかかった態度に傍若無人でクソ生意気で……」

 今の冬美也には考えられない程の性格に皆が唖然となり、フィンは面白い話が聞けると分かるや否や催促を始めた。

「よし、もっと聞かせて!」

 無論、ジャンヌもだ。

「面白い、続けてくれ」

「おいよせ止めろ‼︎」

 ザフラはとりあえず面白そうなので止めないでほったらかしにした。

 丁度よくチャイムが鳴ってしまい、次の授業の為、皆教室に戻る事となった。

 運良く、移動教室だった為、このままその教室に3人とザフラが一緒になって向かっている最中、冬美也の幼い頃の話で盛り上がる。

「なんで、オレの時だけあの調子で盛り上がるんだよ」

 流石に冬美也も止めに入ると、フィンは本当に面白がって笑い、光喜も3歳の話をたまに聞きはするが冬美也の場合は一体どう言うのだったのだろうと感じていた。

「だって、面白いから」

「3歳は大魔王とか言うけど、やっぱり頭が良いと違うのかな?」

 アミーナと出会ったのはその後な為、ザフラは詳細を知らずにいたが、話を戻さなくてはと光喜に言った。

「さぁ、私の時にはもう11か12位に目覚めて、ずっと御付きをしていたから良く分からないが! そこじゃない!」

「えっ?」

「光喜、君は修行をしたいのかしたくないのか?」

 きっと話を聞いていたのを知っての事だろう、光喜の有無で左右される大事なことだ。

「したいけど、バイトもあるし、どうしよう……」

 ここぞとばかり悩む光喜に対して、冬美也は案を出す。

「バイトの無い日に来てもらうとかは?」

「それもあるんだけど」

 ザフラは小声で男のくせに決められないのかと言った直後に、大きな声を出して問いただした。

「まどろっこしい奴だ! 言え答えろ!」

「ザフラ姫君は今を自由を満喫したいのなら、その後でも、だってどんなに緩い宗派でも元々の宗教は色々規則厳しいって聞くし」

 どうやら光喜なりの優しさで自由を満喫してほしいと言う意味で悩んでくれていたのを知ったザフラは急に頬が赤くなるも、すぐに冷静に返した。

「姫君入れるな小っ恥ずかしい! 構わない、君がバイトしている間に満喫しておくから、君は自分のアースとの距離を縮める事を優先しろ。アミーナが言っていた、力はコミュニケーションが1番の近道だ。操作が出来てもコミュニケーションがダメだと全然意味を成さない。それと、私達の宗教は本来、女性を尊重する話が多いし、女性だけだと危険だから規則が厳しいだけだぞ? それをさもありげに付け足されて虐げる内容にしたのは宗派が別れてからだ。間違えるな」

 光喜は改めて修行をお願いしようとしたが、ザフラから一気に殺気だったオーラが出た。

「修行をお願いし――」

「貴様をその軟弱な性格事叩き込んでやる」

「ひっ!」

 ここで後悔した光喜だったが、他の2人は我関せずで応援するだけだった。

「まっ頑張れ」

「お姫様、教育を狂育しないようになぁ」

 そんなのお構い無しにザフラはバイト初めを聞く。

「バイトはいつからだ?」

「来週の月曜日です」

「なら、今日からやってしまうぞ、コミュニケーションはアミーナに頼もう」

「もう⁉︎」

「当たり前だ、善は急げと言うだろう」

 光喜はザフラに圧倒されつつも、スマホを持って連絡するのを伝えた。

「そうかなぁ? とりあえず、日向さんとジャンヌ先輩に言うよ? 良い?」

「特別許そう」

 こうして急遽修行が始まった。

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