バイト面接
あれからバイトの募集等を探しながら過ごした。
先にバイトの面接を受けた冬美也はそのまま受かってしまったらしく、最初自身の見た目を言ってきたから断ろうとしたが、初めてのバイトなのでとりあえずやってみてダメだったらすぐに辞めようと言っていたが、意外と続いていた。
勉同の部室にて、遊びに来ていた卑弥呼に光喜は愚痴った。
「あぁぁ、決まらない、探してるんだけど近場がなぁぁ」
卑弥呼は置いてあったお菓子を手に取り食べながら理由を聞く。
「そんなにバイトしたいの?」
光喜なりの理由を卑弥呼に話す。
「そりゃそうでしょう、少しでも社会に出て慣れておきたいですしー」
「なら、私のバイト先、丁度募集するって店長言ってるから、紹介しよっか?」
あの時打ち上げに利用した居酒屋だ。
学院からもマンションからも近いあの場所なら行きやすいのを知っていた。
「良いんですか⁉︎」
卑弥呼が追い込みを掛けた。
「ちなみに土日だと賄い付き無料」
「乗った!」
部室に入って来た冬美也がツッコミを入れた。
「1番大変なの選んでどうするんだよ」
「あんたこそ、コーヒーショップでしょ? 覚えるのは得意なのは知ってるけど、大丈夫なの?」
「意外と簡単だった。たまに外国人来ても対応出来るから重宝されてる」
「英語以外で?」
「おう、英語以外でだ」
その話を聞いていた卑弥呼がここまで行くと某名探偵を思い出してしまう。
「どっかの万能死神みたいなのどうにかならない?」
「なになに? 眼鏡と蝶ネクタイの?」
光喜までその話題に乗って遊ぶと、冬美也はそこまで行くと恐怖を感じた。
「止めて、怖いわ」
面白がって笑っていたが、光喜はふと、この間の打ち上げを思い出し、坂本について聞いてみた。
「そういえば、坂本さんって作家なのになんで居酒屋にジルさんと居たんだろう? ジャンヌ先輩の言葉でお酒飲めないでいたし、内容もかなり――」
冬美也も卑弥呼も話で悟って話に割り込んできた。
「アレか?」
「たまたまよ、あの人書けれそうな場所なら何でも入るし」
「あの人また溜め込んでたのよネタ無いから管理者だと色々コネもきくからさ」
光喜もそういえば日向が送ってくれた時に咲の件で話を軽く聞いたのを思い出し、軽く確かにと口にした。
たたみ掛けるように更に話が続く。
「でも、ほら管理者の伝手みたいなの言っていたし、もっと違う仕事しているに感じたけど?」
「昔話とか聞いてないのか?」
「あの人、昔は忍者してたって言ってたし」
納得始めた時、卑弥呼にはそういえば話していないのに話にちゃんとついて行けてるのを知り、ジャンヌとも仲が良いので管理者とも関わりが強いと感じた。
「と言うか光照先輩も管理者と深い関わりが?」
「うん、冬美也達みたいな感じでは無いけどね、知ってるってだけで」
「協力者とはまた違う?」
「確かに協力者とも言えるわ、でも直接的な支援はしてないの。そうだ、今からloinで店長に伝えておくから明日には面接するとか言い出しかねないし、早いうちに履歴書書いちゃいなさい」
そう言いながら、卑弥呼はもうloinで居酒屋の店長に伝えていた。
光喜も履歴書を買っていて面接決まるまで放置していたのを思い出し、鞄から取り出した。
「はい、そうだ買ったけどまだ書いてなかった」
書くのを促していると、卑弥呼のスマホが鳴り、確認した。
「なら書いちゃいなさい……って今日の17時半やろうって来たんだけど」
どうやら、今日は暇なのかいきなり面接すると言った内容で光喜は驚いてしまう。
「ひっ! 証明写真まだなのに」
冬美也と卑弥呼が言った。
「これ終わっただろ? 前の日雇いバイトの時の余りは無いのかよ?」
「無くても、無人証明写真機も近場にあるでしょう?」
丁度フィンも部室に入ってきて内容が聞こえてたのだろう、後日に回すべきと言った。
「いや、お前らそこは会社側に面接を後日改めさせろよ」
結局、今日面接する事になり、証明写真はやはり無く、卑弥呼の助言通りに近くにあった無人証明写真機で撮り、急いで貼って居酒屋、夜の行燈へ向かった。
打ち上げと評して使った居酒屋の名前をまじまじと見て、達筆な書道だなと思いつつ、暖簾をくぐって入った。
カウンターに頭にバンダナと言うよりタオルを巻いたがっしりした40代男性が居て、光喜に気付き言った。
「いらっしゃい! もしかして卑弥呼ちゃんが言っていた紹介の子かい?」
「は、はい、よろしくお願いします」
「とりあえずここで面接してるとたまに入って来る客居るから、奥入って」
「はい!」
奥に行くと狭いながらも休憩室兼事務所があった。
「適当に座って」
「は、はい」
緊張して光喜は何を言えば良いか頭が真っ白になったまま席に座る。
万が一、自身の過去について聞かれたら即逃げれるだろうかと言う位にしか考えれなかった。
「んじゃ、自分はここの店長を務めている小鳥遊だ。よろしく、履歴書お願いできるかな?」
「はい」
小鳥遊に促されるまま履歴者を渡した。
中学の編入とか聞かれたくないとばかり頭いっぱいになっていた光喜は小鳥遊の意外な言葉に驚き、拍子抜けた。
「へぇ……高等部から入ったの?」
「はい、そうです」
「ここ、他の大学生とか高校生も居るから色々聞かれちゃうかもしれないけど大丈夫?」
意外と心配してくれているのに驚いた。
「多分大丈夫です」
「うん、卑弥呼ちゃんには前もって聞いてはいるからもしうるさく聞いて来たり、馬鹿にしたりしてくる連中は遠慮せず自分に言って、後客も」
やはり、卑弥呼が前もって言ってくれていたようで、かなり配慮してくれていた。
途中で光喜も気が付き、つい声が出てしまう。
「はい……んっ?」
それを知ってか知らずか小鳥遊は話を続けた。
「どの位なら入れそう? 土日なら昼ランチあるから出た人皆無料で賄いつくよ? 夜も付くけど、高校生は7時から8時まで基本深夜まで居てくれる大学生までだからごめんね」
流石に夜も賄いがあるものの深夜までの大学生までと決まっているようで少々ガッカリしたが、いつでも入れはするが、並べくは友人と遊ぶ事になっても大丈夫なのか知りたくなってつい聞いた。
「いつでも、テスト期間中以外でなら、後、もし友達と遊ぶ用事とかでも休めますか?」
この辺で嫌な顔されるともうバイトは落ちたも同然だ。
しかし、この辺もよくある様で、小鳥遊は笑って言った。
「友達と勿論、遊び過ぎて蔑ろにしない限りこっちは大丈夫だよ掛け持ちの子も居るからその辺は今時の子達に合わせるし、デートがあるなら尚更合わせるよ?」
寧ろデートまでも考慮してくれる小鳥遊に驚き、光喜は慌てて否定してしまった。
「デートはないです!」
「冗談だよ、髪の毛は切らなくても良いけどちゃんと三角巾で頭縛っても大丈夫? 顔出るよ?」
自身の顔を隠す為に前髪で隠している光喜は、流石にこんな所に来る高校生なんてバイト位だし、大人が誘わない限り来ないだろう。
「はい、バイトするならその位は大丈夫です」
「よし、採用」
「早い!」
「即答!」
着替え室から卑弥呼が出てきた。
「あれ? 卑弥呼ちゃん居たの?」
「居ましたよ、聞こてましたから」
卑弥呼と会話後、すぐこちらを見た小鳥遊は話した。
「んじゃ、来週の月曜日から暫く17時から19時の2時間で良い感じに動ければ伸ばして良ければ時間と時給も上げるから頑張って」
光喜は立ち上がって深々とお礼を述べた。
「ありがとうございます!」
「コラコラ、正式採用は君の働き具合から決めるから、それじゃまた来週の月曜日の17時に」
「はい!」
そうして光喜は居酒屋を後にした。
仕事もまだ採用期間と言うが、それでも決まると嬉しくなるものだ。
咲に居酒屋だと言ったら、多分絶対眉間に皺を寄せる案件だろう。
だが、とりあえずやってみて大丈夫なら許してくれるだろうと、loinでバイト先の名前と住所を伝えた。
そんな時だ。
黒い高級車が近くを通った。
この時はバイトが決まったのに浮かれていて気が付かなかった。
高級車が路肩に停車したかと思えば誰かが降りて来た。
「ヤァ、如月君、またお会いしましたね!」
「――⁉︎ カーミル国王⁉︎ 国に帰ったんじゃ⁉︎」
カーミルだ。
しかも、他の護衛まで出て来て、回りがざわつき始めた。
「えぇカエリましたよ? 今回は我が娘ザフラを日本の学校に通わせる事にしたので、その手続きに舞い戻って来ました!」
普通に言って聞き流そうとしたが、やはりツッコミどころの多い人物で、何か起きてからでは遅いと思いすぐに移動を願い出た。
「そうなんですね、じゃない! こんな人通りの多い所に居たらやばいですって! 場所を変えましょう!」
カーミルもうんうんと頷くも、ある目的の為に来たようだ。
「確かに、場所を変え……たいのですが、単刀直入に言います」
「何です?」
「我が国に行きませんか? まだお返事を頂いておりませんでしたので」
そう、あの時の狩人の襲撃でまだ返事すらしていないのに光喜は気が付くも、どう返事すれば良いか分からなかった。
漸く聖十高等部にも慣れ、バイトも決まったばかり、このまま居たいのも本音だ。
だが、ニュートンの状態や今の自身の状態を言われたあの時行くべきなのも本当だ。
光喜の出した答えは保留だった。
「えっとその、今じゃなきゃダメ?」
「保留という事ですか?」
断っても良いような気もしたが、現状そうも言っていられないのも事実だ。
しかし、どうしても今を無駄にしたくもなかった。
光喜は素直に答えた。
「いやその! 確かにカーミル国王に言われた様に行くべきだとも思ったけど、今この時も大事で、だからと言って管理者の考えも何とも言えなくて、そっちも答え実は出てなくて、ただ皆と漸く分かり合えて来たばかりで、それを無下にしたくないんです。すいません、でも力の使い方も今のニュートンの現状を自分の考え1つのせいで折角の正常に近づけるチャンスをぼうに振ってるのも分かっているんです。だから今回は保留にしてもう少し考える時間が欲しいんです。それにS国めっちゃ遠いし」
最後は本当に本音で、修学旅行でなければ絶対に行かない遠い国である。
それを聞いたカーミルは笑った。
「あはははは!」
「えっ? 笑われる要素何処にあるの?」
笑われるような内容はどう考えても最後の本音だろうが、光喜からしてみれば頑張って言葉にしたのにと言った所だ。
カーミルは軽く謝りながら、車から何かを取り出した。
「いや、失敬失敬、最後に笑ってしまいました。そうですね、確かに君の言う通り今この時を無下にするのは勿体無いですもんね。ならこうしましょう。今回はこちらをお渡しします。力加減や範囲も難しい重力なら幼い頃からザフラがきっちり訓練を受けているので、うちの娘に頼むと良い」
「あのこれは?」
そう言いながら箱を受け取るとかなりの重さに驚いた。
一度下に落としそうになる程の重量感だ。
カーミルは車に乗り言った。
「まがい物です。最近まがい物の物価がやばいので今回だけオマケです。考えながら使ってください」
どう言う意味かさっぱりだが、軽く開いた箱からびっしりとまがい物が詰まっていた。
「うぇえぇ⁉︎ ちょっと、これな、な、なんぼ⁉︎」
「そうだ、まがい物は買った方が安全ですが、無くなってしまい少しでも足しにしたければ、足を伸ばすと良いでしょう、特に怪異と言う分類の中にはまがい物によって生まれたモノも多いと聞きます。ただし、ちゃんと管理者or霊能者と同行するように、ではまたアイマショウ、キサラギ君」
「カーミル国王! まっ! うっそだろ……」
まがい物を返そうとしたが、車は出発し回りの目もあって、このまま放置する訳にも行かずにそのままもって帰るしかなかった。
「――という事が昨日ありまして」
「おぉ」
朝の登校時間、最近では冬美也とフィンと一緒に登校するのが日課になっていた。
昨日の話題ネタとして話すとフィンが言った。
「で、そのギッシリまがい物どうしたのよ? 下手すれば数億いくぞ?」
「残念だったな、あの瞬間からずっと小腹が空いていたニュートンの胃袋に消えてったわ」
「マジかよ⁉︎」
半分は本当で半分は嘘である。
実際小腹程度でも全然減らず、底すら見えない恐怖すら覚えるほどだ。
あまり持っていると下手にまがい物が反応する可能性もあって、小分けしてニュートンが持つ事で万が一の為に使えるようにした。
冬美也が先程の内容である事に興味を持った。
「でも、もしザフラがこの日本に編入するって話が本当なら一体どこのお嬢様学校かハイレベルの進学校かちょっと気になるかもな」
無論光喜もだ。
理由は勿論自身の重力に愛されし者を1日も早く感覚を掴みたい。
異能者である一族でザフラは同じ重力を持っている為、是非教わりたいのだ。
しかし問題もある。
「そう、あのお姫様一応宗教関連からして俺らの学院には入らないから、もし教われるなら教わりたかったな」
宗教関連からして別で、そう簡単には会えそうもない。
フィンは内容を改めて思い出し、こう返す。
「さっきの話だとザフラってお姫様に教われるらしいから案外近場に住んでたりしてな」
「かもなぁ、あの国王が一度気に入った奴を簡単に手放すなんてありえないからな」
その話を聞いて光喜は怖がった。
「何それちょっと怖いんですが?」
爽やかな顔で冬美也は言った。
「あはは、怖がっておけ、これ本当だから」
「ひぃぃ!」
学院に着き、教室に入ってまた別の話題で盛り上がっているとチャイムが鳴る。
担任が入って来るとクラスメイト達もそれぞれ自身の席に着いた。
いつもの風景であり、いつもの日常だ。
しかし、担任からいつもと違う内容が出た。
「はい、今日、慣れて来た事だし席替えしようと思うのと、同時にこのクラスに転校生が入るから席追加するぞ」
その言葉に皆、心躍る者、嫌がる者、好奇心旺盛な者、それぞれ思い思いで語り、独り言を言っていた。
フィンがそっと言葉に出した。
「噂をすれば影とか言うなよ?」
その言葉に冬美也が返す。
「ありえないだろ、流石に?」
光喜も笑いながら言った。
「そうだよ、カーミル国王が気に入ったらそこまでするなんてありえないって」
ところが冬美也が凄い険しい顔に変わった。
「あり得るんだよ」
フィンもカーミルが気に入った相手にどのようにするかも知っていた。
「前に理美ちゃんが気に入られちゃって、色々贈り物もあったり、なんなら人を送りつけて来たりと色々やらかしてるんだよあの王様」
「はっ?」
そんな会話をしている間に、担任が転校生を呼んだ。
「では入ってください」
入って来たのはなんとザフラだった。
「初めまして皆様、私はザフラ•アルアーディルです。宗教関係など気になる方も多いでしょうが、この日本は八百万の神の住まう国と聞きます。我々の国も様々な信ずる者が多く、その為既にそう言った国である日本で学びたいと思い参りました。どうぞよろしくお願い致します」
挨拶後に礼をし、皆驚きつつも拍手をした。
担任は気にも止めずに、席替えの為の抽選箱まで持ち出していた。
こうしてザフラが転校してきた。