打ち上げ
光喜と冬美也はパーティーの疲れより、あの狩人達の襲撃による疲れが1番だ。
それでも、滞り無く終われて尚且つ結構良い額で嬉しかったが、1番気になったのはあった。
「思ったより、凄い額だよねあれ?」
「そうだな、でもきっとあの襲撃の詫び費も入っていそう」
「でも、冬美也の方が若干多くなかった?」
冬美也と一緒に金額確認した際、諭吉が数枚いた気がした。
本当に嫌味とかではなく、不思議に思ってのことだ。
当の冬美也も実際こんなに貰えると思っていなくて、つい鶴野に聞いたらしいが、どうやらこれは別件で貰ったようだ。
「そうか? あれか? 通訳の件でだ、鶴野さんがなんか通訳で喜んだ客がチップ代も入ってるって言ってたから」
たまたまリーダーが来るまでの間取り持っていた時に、通訳を受けていた客が大変喜んでいたらしく、その時にリーダーの他に冬美也の分のチップ代を受け取ったそうだ。
その話を聞くと、光喜も出来る様になれば少しぐらい自分も貰えたのかなと思って口にしてしまった。
「あぁ……あの時ね、俺も出来たら」
だが、冬美也はそんな英語と日本語の普通の通訳をしていた訳ではなかった。
「ほぅ、日本語と英語じゃないぞ? フランス語とアラビア語のお客さん達が居て、挨拶したいけどどちらも母国語しか話せないから通訳者いたらしいけど、なんか今日不在で困ってたから通訳してたら、どっかから来た中国語とかもあってまさかの同時通訳する羽目になるとは……」
流石に聞き流す事が出来ない言葉に驚いて聞き直す。
「へぇ? ん⁉︎ なんて言った?」
「フランス語とアラビア語に中国語、普通は英語が世界でとりあえず通用するからそっちは絶対覚えておけ」
冬美也の言っている事がいまいち飲み込めず、英語なら普通の高校生の中でも出来る子だっているが、明らかにおかしいと感じて声を出す。
「待て待て待て、おかしいだろ! 普通の高校生なら英語出来る子だっているけど、フランス語とアラビア語と中国語同時通訳出来るっておかしいだろ!」
言われている本人はジャンヌ達も出来ると言い始めた。
「いや、ジャンヌ達も出来るぞ?」
後ろからツッコミを入れる男性の声にいた。
「こらこらこらこら、ジャンヌだってそこまで出来んって」
振り向けば一がいた。
冬美也が先に話す。
「あっ、一さんだ、あれ? カーミル達から離れても大丈夫なの?」
「後輩達に押し付けてきた! 業務外になるからもうヤダ」
ノリノリの一ではあるが、よくみれば目が死んでいるのに気付き、どれだけカーミルに苦労させられたのかよく分かり何とも言えなかった。
「うわぁ……」
「それより、如月君と冬美也、これから打ち上げするんだけど来ない? 金は大人が持つから労いを兼ねてね」
光喜と冬美也は顔を合わせ、あまりお金を掛けたくもなかったので、丁度良いから打ち上げに参加する事にした。
「普通のチェーン店の居酒屋?」
まさかの居酒屋で、内心驚く光喜に冬美也は言った。
「狭間のバーなんて気まぐれに開くから近場に何度も開くなんて滅多に無いんだ。それにあそこだとまた時間差でやられるから今日は擬似空間だけで十分だ」
「確かに、これ以上感覚狂うのはヤダし」
「はいはい、んじゃ入ろうか」
一に促されると、知っている店員が立っていた。
「いらっしゃいってヤッホー」
「光照先輩」
「卑弥呼先輩ここでバイトしてたんだ」
髪をアップにし三角巾を被った卑弥呼がいた。
「生徒会とミステリー研究同好会が無ければ、普段バイトしてるわよ。で、3名様?」
一は予約名を伝えた。
「いや、中沢で予約している筈だけど」
「あぁ琴ちゃんね、今案内しますね」
どうやら琴が予約してくれていて、尚且つ卑弥呼も琴を知っていた。
2階の一室に案内され引き戸を開けると、ジャンヌと理美と日向に琴が居た。
ジャンヌが先に気付いた。
「おっ、まさかのバイト組」
理美も今まで見ていたメニュー表を閉じ一に言った。
「一ちゃん、仕事は?」
「後輩に仕事譲ったわ」
琴も居て、真顔で言う。
「本当に昔と今が違い過ぎて引きます」
「琴ちゃん相変わらず棘が強い」
手厳しいと顔に出す一に光喜が改めて聞く。
「一さんも琴さんも管理者なんですよね?」
「そだよ」
「本来なら何事も無ければ、ここに坂本さん達も来てくれるんですが、現場検証も終わったみたいですし、自己紹介がてら時間潰しますか」
ジャンヌが一と琴を軽く紹介した。
「この者達、浪士組からの新撰組の斎藤一と新徴組の中沢琴だ。知っているだろ新撰組なら?」
光喜も新撰組ならそれなら分かるとはしゃいだ。
「おぉぉ! 知ってます! あの土方歳三や近藤勇か!」
「副隊長と隊長以外では?」
「沖田総司とか?」
あるだろうと一が言うも、光喜から出た名前に流石に皆に聞いてしまった。
「ちょっと、自分、そんなにキャラ薄いっけ?」
琴とジャンヌが言った。
「後から濃くなった」
「漫画で知った」
「琴ちゃんから最も聞きたくない言葉聞こえたけども?」
「良いじゃないですか? こっちは語り部あまり居ないせいで新徴組自体あまり知られてませんし」
ジャンヌはタッチパネルで好きなメニューを頼みながら言った。
「寧ろ、最近琴のお陰で話題にはのるようになったけどな」
「俺、浪士組までは知ってはいるんですが、新徴組って?」
「なんて言えば良いでしょうか? 強いて言えば、庄内藩お抱えの元、江戸を守っていたんです」
「うんうん」
「色々あって、薩摩屋敷燃やしました」
にこやかに話す琴に光喜は固まってしまった。
「――⁉︎」
日向も知っているようで笑っていた。
「いやぁ。あれ知った時やっちゃった感半端なかった」
「笑い事じゃなかったんですよ、当時? テロリストほったらかしたままな上守るような事あってはいけないでしょう?」
「それで、戊辰戦争まで行きます」
「あの後なんで西郷隆盛と庄内藩仲良くなるのかようわからん」
「全て金で解決したようなものですよ? 庄内藩のバックに大地主の豪商いましたし」
内容が内容だけにあまり関わりたくもないような闇に怯えた。
『どんどん生々しい闇を見ているような……』
理美はややこしく感じて分かり易い例えを現代に例えるように促した。
「琴さんや、現代風に言うとどう言う感じになるんですか?」
「そうですねぇ、浪士組は巨大企業に就職するも、途中上の方針が180度変えてしまい、乗らない人達が後の新撰組。私は兄と共にとりあえず方針に乗ったら、1番上が首チョンパされ、その後解体、しかし国の審査されるも、なんだかんだで援助によりバックで新徴組に入り、そこは凄いホワイト企業だったのが、毎度サイバー攻撃により限界来てライバル企業を反撃したら戦争になって、気が付いたら買収受けててブラック企業になって一部がコッパチリチリに」
その話を聞きながら、何か調べていた冬美也が驚く顔で答えた。
「やべぇあながち間違ってない」
「まじかよ!」
一は揶揄わないのと軽く言い、すぐに切り替えようとした。
「もう、その辺にして好きなの頼んで」
このままだと埒が空かないと踏んで、光喜達にタッチパネルを渡す。
それでも自分はとりあえず話したのにまだ話していないのに流したので、理美が一との出会いを軽く話す。
「ちなみに理美様に会わせた時、理美様に斎藤一が新撰組だと言っても分からなく、漫画で解いた時」
「ゲッツの人」
黄色のスーツを着た人を想像してしまい一は怒った。
「牙○! つ以外何もあってないやん!」
「後、一ちゃんもソシャゲではなく――」
「じっちゃんに名にかけて!」
「まさかのそっち……!」
これ以上弄らなくても良いかと、冬美也は理美の同級生のジュリアも居て良かったようなと思い口にした。
「と言うか、ジュリアも来てても良さげだったような?」
その事については、ジャンヌが答えた。
「ジュリアは寮に帰ったぞ? 友達と遊ぶ約束あったそうだ。理美も遊べばよかっただろう?」
「いや、坂本が今日は打ち上げにいるようにってloinで来てたからさ」
どうやら本当なら理美もそっちに行く予定で考えていた様だが、急にloinが来て急遽こっちに来たようで、少し落ち込んでいた。
皆が同情し、ジャンヌがよしよしと理美の頭を撫でてあげていると丁度そこへ、坂本とジルもやって来た。
「そう! 管理者同士の情報共有も含めて狩人戦お疲れ様でした」
「畜生、ギリギリまでこき使われた……」
「ジルお疲れ、残念な話だが、大人は有料だ。そして誰かが酒が飲めない、誰かが酔っ払い共の面倒兼送らなくては行けないのだ」
大人達そうでのじゃんけん大会が始まった。
しかしジャンヌがそれを止めた。
「坂本さんと一ちゃんは酒飲むな。仕事あるんだろ?」
その瞬間、崩れ落ちる2人を見て、光喜は面倒な打ち上げに来てしまったと内心感じてしまう。
頼んだ料理が次々届き、酒やジュースも置かれた後、坂本がウーロン茶を持ってヤケクソで音頭を取った。
「と言うわけで、パーティー&狩人退治お疲れ様でした、乾杯!」
それぞれ乾杯と言い、食事をとり始めた。
日向は早々に坂本に今回の事を聞く。
「しっかし、今回どうして光喜達が巻き込まれた? 衛はどう判断した?」
坂本も今回調べてわかった事を説明した。
「それ、弄られたと思ってたら物理的に噛み切られたと言っていた。捕まえた連中も今尋問中だが、透馬曰く誰かが最初から招き入れたとも考え難いらしい。一応あのおっさんなら更に別空間作ってもらって如月君とゆっくり話したいと側近代表が漏らしていたからな、その別空間を作った当人も首元など数カ所噛み切られ死亡していた」
一は深くため息を吐き、頼んでいたノンアルコールを飲み干した。
「これはこれでまた、残業確定かぁ……」
「しかもこれ、他にも各国から連れてきた異能者数名も同じ手口で殺されていてね、一応擬似空間に他のお客さんが紛れてないか、見回っていた部下の1人が狩人の1人を捕縛、その時すでにびびって震えていたらしいわ。生きたまま食い殺す奴が居て、他の狩人も実際に何人か食われたと言っていた」
流石にここまで来ると複数なのかと疑う日向に対して坂本が答える。
「これ? 団体なのか?」
「狩人曰く1人で何人も、しかも恐ろしい事に仲間が使っていた能力を食い殺した奴が使ったとも話、最初は擬似空間に穴を開けてくれたから、てっきり仲間の1人だと思ってたらしいけど。他の連中もだけど今回は異世界の住人からの依頼もだけど、やっぱりここの世界の住人も依頼してたらしく、前者はともかく後者は別の知り合いに頼むしかないわ」
内容があまりに重いのであまり食が進まない光喜はつい話に入ってしまう。
「別の?」
「琴や一は盾でも矛でもなく中立な立場なのよ。そういう立場の管理者にお願いするの、あんまり気が進まないけど」
一も知っているようであまり関わる気も起きないだけでなく、アダムと仲が悪い事も知っていた。
「下手すると足元掬われるからな、あっちも公私混合はしないがアダムと仲モロ悪いし」
「バレると後々面倒だな」
難しい話もだが、あまり食が進まない話を永遠に聞かされる子供らが可哀想に見え、ジルが話題を変える為、光喜のニュートンに付いて聞いた。
「そうだ! 光喜、ニュートンの様子はどうだ?」
当の本人であるニュートンは出現にも力を使う為、敢えて出ようとしないが、倒れてしまうほどでも無いのは戦いが終わってから言っていたのを思い出し光喜は答えた。
「小腹が空いているけどまだ大丈夫って言っていた。そういえば、皆って名前付けてるんですか? ジルさんのアースも持ってるって言ってたし」
つい、あの時ジルのアースがさらっと話して、ニュートンと共に行ってしまい分からずじまいだったので、これを機に聞いてしまおうと思って口にしたら、すぐに食いついてくれた。
最初に答えたのはジルだ。
「アヌビスな。皆形から入ってるの結構多いぞ?」
その次から坂本で白蛇が出てきた。
「私のアースは白」
「ボクのはセラフィムだ」
ジャンヌのアースの名前の由来を聞く前に冬美也がスマホで画像を見せてくれると何となく納得してしまった。
そして日向のアースの名前を教えてくれた。
「雷神だ、なんて言うかその尻尾がちょっと太鼓っぽくて」
琴も自身のアースを見せた。
白よりも銀色に近い化粧をした狐の姿だ。
「この子は小狐丸です」
「でかいから銀狼か何かかと思った」
「残念、小狐丸です」
続いて一もアースを出すと、錦鯉の様に見えるが、鱗が浮いていてコロコロと色が反射したり全く違う色に変わったりと常に変動していた。
「で、自分のは錦さんです」
琴はジョッキの生ビールを飲み干し言った。
「どうしてここで獅子王とか名前にしないんですか!」
「アホを抜かせ! 鵺なら分かるが鯉だぞ鯉! もう酔ったんですか!」
「こんな水如きに酔うわけないじゃ無いですか」
また揶揄われてると笑いながら坂本が言う。
「琴ちゃん酔うと踊るから」
「そういえば、理美様のアース一度も名前きいてませんがどんな名前にしたのですか?」
話を振られた理美は答えた。
「えっ? アースはアースだよ?」
しかも自信満々に言っているのでこれは本当にアースなのだろうと全員が気付く。
『猫にネコつけるタイプだ!』
「じゃ、子供らを送り届けるんで、お金預けとくんでお願いします」
一は高校生3名と中学生1名を送る為、店から出る。
「うん、また後でな」
坂本も残った料理を口にしながら手を振った。
店を出たのを確認した日向は改めて話の続きをした。
「で、今回の件はあの件とは別件か?」
漸く坂本はもっと重点とした内容を答えた。
「クネクネの事件と今回の事件全く違うと見ている。が、今回の事件はS国のビル崩壊事件と同一であるとカーミルの側近代表者が答えた。実は、ビル崩壊事件の数ヶ月前に事故死として発表された国王の第一王子に同じ神眼を持っていて、時期国王として期待されていたが、何者かに食いちぎられた跡があり、両目を抉るのが面倒だったのだろう、そのまま噛み切って殺された」
「おい、まさか……」
「神眼はアースを見る力があるだけでなく色んな層等も見る事も可能だし、魂にも直接触れられる。多分なんだが、あの狩人の言う様にその食べた奴から得た能力を使って前に聞いていた光喜のアースは砕けたと言っていただろう? その、天然の賢者の石そのものに干渉し一部を食ったんじゃないかと考えている。そうなると万が一魂にも干渉されていれば、体と魂が不調を来すだろう。で、琴」
一瞬で全てを理解した琴はとりあえず聞く。
「なんです?」
「頼みがあるんだが」
「嫌です」
「まだ言ってないじゃぁぁぁん」
抱きついてくる坂本を片手で引っぺがし琴は言った。
「どうせ、如月君の基礎体力鍛えろでしょう? 前も理美様の件もありましたけど、元々お給金が相当な額を前払いで支払っていただいてますし、仕事も出来るからって秘書等もしていて、とてもじゃないですが無理です」
「だがなぁ、光喜の場合は基礎体力あるが能力基礎一切無しでこのままにして置くわけでも……」
確かにこのまま強弱命中に範囲ももっとも難しい重力はあまり出来る者なんているだろうかと言った所で、あの時ザフラが重力を使っていたのを思い出す。
「1人いますが、あの子はS国の第五王妃ですか? あの子も重力使いでしたね」
「そう、口説いてください!」
「嫌です」
一が逃げ出すように子供らを送ったのはこの為だったかと思うも、琴もタイミング外したなと考えた。
その時だった。
「別に良いですよ、ワタシの娘カシますよ!」
店員の静止を振り切って入って来たカーミルが居た。
一同固まった。
そして皆は同時に思った。
『何故貴様がいる⁉︎』