異世界へようこそ!
皆が想像しただろう、獰猛なモンスター、手から杖から魔法、どこまでも建ち並ぶ西洋な建物、誰もが描く分かりやすい描写。
もし間違っていても、せめて現代と違った未来あるSFみたいな世界だったらまだ良かった。
ここは現在日中だろうか、ただの日本の何処かの場所だ。
ちょっと都心部から離れただけのそれなりに栄えているのだろう、遮断棒の前で人々が電車が過ぎるのを待っていた。
まるで、自分達はただタイムトラベルをしただけで、実際異世界に飛んではいないのではと感じた。
人々も本当にただの人で普通に携帯やスマホ、はたまた何処にでもいる柴犬を連れ歩く人も居た。
雨宮竜也はこの変哲のない世界に呆れ返ってしまった。
「どこが変わった世界だよ?」
それに対しての皆の反応はと言うとこうだ。
「なんだよ、雨宮、全然異世界じゃないじゃんよ」
「これだと、ただのタイムトラベルじゃね?」
「スマホ使ってみようよ? もしかしたら」
「ところがどっこい電波入りまーす」
かなりの塩対応には雨宮竜也も絶句だ。
折角異世界に来たと思ったのに、どう言うことか分からないがここは明らかに自分らが住んでいる世界に等しかった。
ふと、白田夏帆が辺りを見渡し言った。
「そういや、純は?」
高野純が居ないのに気が付き、周りに聞くと、初めてここで1人足りない事を知り、皆が探す。
細川太樹はある説を立てた。
「もしかして、運良く高野だけ本当の異世界に行ったんじゃね?」
「うわぁありえそ」
そう言いながら、とりあえず歩いて見て回ることにした。
暫く歩いて回って来たが、やはりありそうな店名、実際にある地名に皆はもう此処は異世界では無いと言いたくなり、このままだと別の意味で雨宮竜也は皆に奢る羽目になりそうだったが、明日香奈香だけは怯えたままあちらこちら見渡して居たのに気付き、心配になって話掛けた。
「どうした? そろそろ戻る?」
「ちが、ねぇ、中本武君は? さ、さっきまでい、一緒に居たよね?」
その問いに皆が立ち止まって笑ってしまった。
「中本? あはは! アイツ来てたっけ?」
「何言ってんの? 俺たち4人で来たじゃん?」
「そうそう、異世界に行ける都市伝説でぇ」
明日香奈香はその笑いについてけず、恐怖で悪寒が走り、悲鳴をあげて逃げてしまう。
「いやぁぁぁ‼︎ 死にたくない! 消えてくない‼︎」
雨宮竜也と白田夏帆と細川太樹は慌てて彼女を追った。
ある角で彼女が曲がったのを確認し、白田夏帆が同じく角を曲がって止めようと叫ぶ。
「待ってよ! どうしたの⁉︎」
白田夏帆がいつも仲良くし親友の名を呼ぼう、でも、どう言うわけか名が出てこない。
アレと何一つ出てこない。
自分は何していたのか、どうしてこんな場所にいるのか、自分は誰なのか。
分からない、分からない、わから……ーー。
雨宮竜也も同じく角を曲がった。
そこはビル同士の間で人も通らない場所だ。
細川太樹はバイクを引きながら走っているので、1人出遅れてまだ来ていなかった。
まだ1人の雨宮竜也は白田夏帆が宙に浮き、上半身が消えてぶらぶら足が揺れている。
咀嚼音が聞こえる、その音はとても気持ち悪さを醸し出し、無意識に雨宮竜也の胃を痙攣させ嘔吐を促す。
明日香奈香はその一部始終を見ていたのだろう、悲鳴をあげた。
「嫌ぁぁっぁあぁ‼︎」
逃げ出そうと後ろによろよろと明日香奈香は振り向いた直後、物陰から誰かが言った。
「死は救済で無いといけない、それは死を認識出来ない恐怖から人は救済されないのだから」
明日香奈香はすっとその誰かの指が触れた。
漸く追いついた細川太樹は目にする。
雨宮竜也は嘔吐をして動けなく、その奥では明日香奈香が頭の額から血が流れ、頭蓋骨が横にズレて行き、その他の二の腕から胴体もズレて行く。
そこから崩れ落ちる音がした。
物陰から出てきた小柄な150㎝位のショートヘアーの金髪の少女が言った。
「お前達、自分等が生やさしい異世界人と呼ばれる人間ではないぞ、この世界を脅かすイビトよ、せめて死を理解させる慈悲がある事を感謝しろ」