異能
光喜達は途中で透馬と名乗る男性の後ろを歩いていた。
大きな通路に出て気がついた。
「あれ? この辺人通り多い通路なのに誰も居ない?」
例え要人がいるパーティーだろうが、この通路はボディーガードや警察関係者等、誰かしら通っていてもおかしくない。
透馬は言った。
「それは、擬似空間だ。異能や狩人対策もあって、本来なら君や国王が入らないようにしてるんだが、何処かで支障が出て一部も紛れてしまったようだ」
カーミルもその事を知っていて説明した。
「複数人で何十もの結界を張る事で、万が一入られても擬似空間が護って、討伐する為に異能者や管理者が入るのですが、要人の多いパーティーはトクに間違って入られないように内側にもより頑丈な結界をハリます」
「が、今回結界の一部が破損により、電波ジャックされたようで、表にも支障が出て、下手に結界突破、擬似空間破壊でも起きると、このホテル内全てがパニックを起こす。特に書き換えられたのか弱い異能者や弱った管理者等もこの擬似空間に入ってしまったようで、非常に危険だ。あんたの側近や家来も危ないんだぞ国王様」
透馬は呑気なカーミルを見て呆れていた。
そんな悠長に説明している暇等本当は無いのだ。
カーミルは申し訳ないと言いつつも、どんなに側近から逃げてもどうせ暗部系の家来達が居るので安心していて、気が緩んでいた。
「それは申し訳ない。ただ、一応影のモノ達も居るから良いかなぁと」
非常事態でここまで緩い性格に怒り混じりに透馬は言い返す。
「その影のモノ達の一部が何者かに襲われ、食いちぎられてた!」
流石のカーミルも驚きを隠せず黙ってしまった。
「――!」
「食い?」
想像が付かない光喜でも噛まれ跡を想像出来れば十分恐怖だろう。
そんな状態で、カーミルは光喜に聞いた。
「如月君は、どんな愛されし者ですか?」
「今聞きます? 重力です」
透馬が罵倒する気は無いが、最初から戦力外と見なした。
「新人程使えないから大人しくしてろ坊主」
「なるほど、手解きが必要なタイプですね」
カーミルもこれはダメだと諦めてしまう。
「ですよね……」
落ち込む光喜に更にトドメとニュートンまで言い出した。
「そらそうだろ、離れた場所から重力掛けるか無重力にするかなんて一朝一夕で出来るもんじゃない」
「酷い!」
光喜がついニュートンの言葉に反応してしまい、透馬に見られてしまうが、なんとなく見えなくても状況が分かってしまった様だ。
「私は見えないが、坊主の反応できつい事言われたのは分かる。上にも万が一狩人が出てもお前は絶対に擬似空間に入れるなって言われてたからな」
どうやら他の人に相当口酸っぱく言われていたみたいで、頭を抱える案件が増えてしまったと言える。
急に透馬が拳銃を構え数発撃った。
弾丸は勝手に何処か曲がっていくと、男の悲鳴が上がり、光喜は怯えた。
「な、何、えっ?」
怯える光喜にカーミルは和ませる為か、ある言葉を教えた。
「特殊異能って言葉知ってますか?」
「特殊異能?」
また面倒な事をと顔に出しつつも透馬が自身の異能を説明すると同時にカーミルが特殊異能の話をした。
「私の異能は持つもの又は触ったものなら必ず命中させる異能だ」
「言葉長いですが、そういった簡単な言葉では表せれない非常に稀な異能に対して使う言葉が特殊異能です。彼が言ったのは百発百中必ず当てれるだけでなく、触った状態であれば触られてるものも必ず当てれるので、とっても便利なんですよ、ぜひうちに来ません?」
このカーミル、ちょっとした事がある度に勧誘をするので、光喜はこの人大丈夫かと、逆に疑ってしまう。
挙句、透馬からすれば、異能を告知もしていなかったのだろう、何処かでバレてしまったせいで、ここにいるらしく、相当頭にきていた。
「行くかボケ、こっちは特殊部隊に居たのに異能ってバレて引っこ抜かれたんだぞ……!」
「どんな、特殊異能も最初はバレませんもん、バレる時って後者の触れたものに対しても対象として命中出来る辺りジャナイデスカネ?」
「なんで途中でカタコトになるんだか。早く他の管理者か衛辺りに会えれば、仕事もし易いのに」
透馬は怒ったまま、今度は後ろに数発撃つとまた狩人達が悲鳴と倒れた。
この状況で光喜は正直怖かった。
もし管理者か味方の異能者だったらどうするのかと問いたい位だが、今の透馬に聞ける程度胸が無い。
カーミルは光喜の心を読んでいた。
「大丈夫ですよ、きっと彼はそういう訓練を積んで気配だけで撃てる様育てられたのでしょう」
「育てるって、特殊異能は希少だってなんとなく分かりましたけど、その特殊異能は誰に教わるんですか?」
なんとなく神眼は人の中身を見る為と心を覗くのではと勘繰り始めた光喜に、ようやく気付き始めたなと透馬は思い、特殊異能もちゃんと身内から訓練が出来るのと管理者達でも武術が必須なのを教えた。
「この希少な特殊異能はな、血族によく出やすいから自分は叔父に教わった。同時に使えない状態での訓練も受ける、出ないと万が一もあるからな。管理者間でも訓練があるし、坊主みたいな使い方がクセある奴やサポート型は皆武術修得が必須だぞ」
また別の場所で構え撃とうとした瞬間、一がすっ飛んで狩ろうとした。
「なんだ、透馬かぁ、殺気感じたから狩人かと思った。仲間だ大丈夫だぞー!」
その声と共に日向と冬美也達が出てきた。
透馬は銃を降ろし、面倒な奴に会った顔をした。
「そっちこそ、殺す気満々で曲がる前から抜刀してただろうが」
「悪かったって、それより、如月君とカーミル国王見なかった?」
一の問いに透馬は答え、後ろを見せた。
「それならここに」
先に光喜が反応した。
「冬美也!」
「良かった無事で、って言うかそっちこそ一体何があった⁉︎」
本当に心配していたのか、理美を持ったまま冬美也が来て、光喜も互いに無事で安心はしたが、どう話せば良いか分からなかった。
「話長くなると言うか……」
ずっと見ていたのだろう透馬はカーミルが原因なのを話した。
「この国王が人酔いしたフリして、中庭に案内させた」
「はい、コイツが犯人なのは分かった」
一切カーミルは気にしていないで手を振った。
「いやぁ、皆さんお揃いで」
「どこがじゃ! 如月君、変な事吹き込まれたない? 大丈夫?」
今の今までずっと探し回っていた一からすれば、本当にただただ迷惑な人なんだろ。
光喜は一の後ろに錦鯉の様で鱗が毎度くるくると変わり、周りに雲も浮いている不思議な生き物が居るのに気が付いた。
「あの、は、一さんの後ろ……」
もしやと思って声を出すと、一も光喜が言いたいのを察した。
「あー、これね、自分のアースだ。ちゃんと本人らで良かったよ」
一のアースがふわりとやって来て、ニュートンに挨拶をした。
「ヨロシク」
「よろしく」
ふと、一の言葉に引っ掛かりがあった。
「本人らって事は、何処かで偽物でも出たのか?」
「出たといえば出た、ジルの偽物が、根を見たら一目瞭然だったから構えたんだけど、あっちが銃持ってて」
「オレを撃ちやがった、本物は命中率0%なのに」
カンカンになって冬美也は上手く片手で自身の額を見せる。
光喜は驚いて言った。
「ちょ! それ大丈夫じゃないよ!」
普通なら死ぬレベルなのに生きているのが不思議な位だ。
日向は光喜の驚く姿を見て、まだ冬美也が自身の話をしていないと気が付いた。
「まだ話てないのか?」
「話すタイミングがなかったんだよ」
一も冬美也に対して知ってるらしいが、どうも人に見せたい異能ではない様だ。
「仕方ないでしょ、自分も最初見た時悲鳴ものだったし」
「だから見せたくないんだよ」
透馬はその後どうなったかを聞いた。
「で、その偽物のジルは?」
「ジル本人がぶん殴って、シバいた後縛り上げ、ジルは他の管理者や迷い込んだ人が居ないか探すから別行動、あぁ、見えて強いから」
この時を思い出す一は笑いを堪える部分があり、本当に1人でその異能者である狩人を叩きのめしたのだろう。
ずっと見ていた3人からしたら、呆然と立ち尽くすしかなかった。
だが、一は最終的に笑い出していたに違いない。
他2人が引いているのが分かる。
それに対して深く拘らず、透馬はジルに対して言った。
「アイツ、本当に血の気多いな」
「冬美也ずっと理美ちゃん担いでいるけど、大丈夫?」
光喜からすれば、今までずっと1人で抱き抱えて来ているだろうと思って心配していた。
勿論、重いと言う言葉は禁句としてだ。
なんとなく察してしまう冬美也は言った。
「意外と軽いぞ。後、多分この擬似空間に対して酔っている部分があるようで、動かなくなった。というか動いたら最後っぽい」
よく見ると、本当に酷い酔い方をしたらしく、顔色が悪いだけでなく喋る事すら出来ていない。
一も何度か見ているのだろう、こう言った。
「理美ちゃんは相変わらず変な酔い方するよなぁ」
普通は擬似空間では酔わないものなのだろう、どうしたら酔ってしまうのかと光喜は考えてしまう。
このままずっと立ちっぱなしなのもと、日向が促す。
「ともかく、カーミル国王も無事見つかったし、早く出よう」
行こうとした時、カーミルが理美を見て言った。
「リミさんも相変わらず、能力に振り回されますタイプでカワイソウに……」
嫌そうな顔をする冬美也はカーミルが苦手のようだ。
「あんた珍しく来ないと思ったら、光喜に案内させるってどういう了見だ?」
「ワタシは自国で起きた事件に巻き込まれた彼に会いたかったのです、それだけですよ。ささ、ワタシの側近達と会いたいデスし」
カーミルはそう言って、歩き出した。
「……」
ずっと険しい顔をしていた冬美也に光喜は心配して言った。
「冬美也、とりあえずさっ、今は透馬さん達に従おう?」
「分かってる、オレらは足でまといにならない程度に後を付いて行かないと」
「うん」
そうして、光喜と冬美也は大人達の後を付いて行った。
擬似空間は本来の空間と何ら変わりない、ただ誰も居ない不思議な感覚になるが、これで1人だけなら絶対気が狂うと光喜は思った。
一が透馬に聞いた。
「さすがに何処かで落ち合う場所とか決めてる?」
「一応ロビー前で仲間と合流予定ではいるが、ほら見ろ、誰かがイジったのか擬似空間に穴が空いている。こうなると遠回りするしかない」
後は渡り廊下を越えるだけと言うところで、渡り廊下が大部分破損し、外が真っ暗で壊れた物が宙に浮いていた。
そっと光喜は真っ暗な空間を覗いた。
「これ、擬似空間って外側が真っ黒なんですか?」
透馬は知っている為、説明をしてくれた。
「強いて言うと四角い空間をそのままトレースしているから普通なら外も作られている筈なんだが、イジられたせいで、側が壊れてしまったんだ。こうなるとその空間に一度落ちてしまうと帰れなくなるから絶対無理して通ろうと思うな」
言ってしまえば、擬似空間が現実と100%まるまる一緒と言うわけではなく、一つ一つ術によって制作され、擬似空間が出来ている訳で、その一つの術に干渉された場合、空間異常を生み出し、暗闇が出来上がったのだ。
作り直すにしても作った本人らに会わなければ到底無理な事。
浮遊する瓦礫等で乗れれば良いのになんて光喜が思っていたのを読んだのか、一は下手な考えを持たせないように言った。
「重力に愛されし者も成り立てほやほやなんだから無理しないように。昔こんな感じの状態で行こうとしたアホな狩人がいて――」
話の途中で、狩人達が光喜達を見つけ攻撃し始めた。
もう銃に弾も入ってないのだろう、いきなり異能を使った。
「はっはぁ! こんな狭い空間でも浮遊の力を思いしれ!」
凄い速さで突っ込んできたのを皆が綺麗に避けた。
光喜の場合は一が最初から避けさせたので遅れることもなく無事だった。
それと同時に浮遊を使った狩人が暗闇の空間に入った直後、何かに吸い込まれていく。
「なっ⁉︎ 浮遊が、きかなっ!」
浮遊のコントロールを失った狩人は落ちて行った。
「……とまぁ、こんな感じで落ちるし、浮遊してる瓦礫をなんて考える連中ももれなくこうなったから、絶対止めようね」
「はいっ!」
あまりの恐怖に声が裏返っていた。
透馬がずっと弾を当て続けているが、流石に弾切れになり、後の残りも考えると少々心もとなかった。
「ちっ……弾を節約したい」
その言葉に一が乗った。
「あいよー、日向、冬美也と光喜とカーミルを連れて、フロントまで、他に何通路かある筈だ」
一は日向に指示した後にそのまま狩人達と応戦した。
すぐさま、日向は光喜達を連れフロントを目指す。
「分かった、行こう」
日向を先頭に走るも、必ずと言うほど破壊された箇所が多く、段々行くに行けない状態になって来た。
「参ったな、フロントから遠ざかっていく」
カーミルもあの能天気な雰囲気が無く、険しい顔になって何故か冬美也に聞いた。
「仕方がありません、フミヤ、君ちょっと頑張って見れませんか?」
一体どういう意味だと訳が分からず仕舞いだ。
「はぁ? 何言ってるんだあんた?」
「ならちょっと額を貸しなさい」
カーミルは手を冬美也の額に当て、最初瞼を閉じていたが、急に瞼を開き瞳孔が小さくなった。
何か冬美也もその気に圧倒される。
「お、おぅ……!」
「――とりあえず、現見取り図を頭に叩きコミましたので、こちらです」
「いや、待ちなさい! あなた国王なんですよ!」
カーミルは自身が国王と言う身分を忘れて先頭で歩いて行くので、日向慌てて前に出て歩く。
光喜と冬美也も後を追いながら、話を始めた。
「冬美也、一体何されたの?」
「知らん、分からん、ただなんか神眼って言う異能らしい、ただ千里眼みたいなのと違うって本人が言っていた」
「そういえば、確かそんな事を……」
「見えるんだそうだ、幽霊とはまた別の何かが、そして未来や過去も見通せると言われているが、実際どうだか、さっ行こうぜ遅れたら怒られる」
冬美也が早く行こうと催促を促そうとした時、いきなりニュートンが話かけた。
「お前は違うのか?」
不意打ちを喰らった顔だ。
明らかに誰にも悟られないようにずっと接していたのだろう。
冬美也はここで今の反応が不味いと判断し、話そうとした時、カーミルが戻って来た。
「ホラ、君らも急いで、また崩れたら行けなくなってしまいマスヨ」
「お、おい、押すな!」
無理矢理冬美也の背中を押して連れて行った。
その様子を見て不服なニュートンが口にする。
「なんか、アイツ色々隠してるよな」
「良い奴なんだけどね」
苦笑いをするも、確かに色々隠しているのは会話しているとよく分かる。
信用が足りてないからなのか、はたまたただの赤の他人なのだろう。
どちらにしても悲しいものだ。
漸くフロントロビーまで辿り着く。
ここまで狩人に会わずに来れたのが怖い位だ。
不気味な雰囲気にボソリと光喜は呟いた。
「誰も居ない……」
日向は椅子やカウンターが銃撃跡や異能による焦げや鋭い爪の跡もあったのを見て言う。
「いや、応戦した跡がある。きっと逃げるしかなかったのだろう」
ふと、出入り口付近の一部だけ光が入っていたのに気付き、冬美也が言った。
「なぁ? あそこ、なんか開いてないか?」
「本当だ、しかしこんな状態で普通開けるか?」
「イエ、もしかしたら開けたのではなく、開けられてしまったのではないでしょうか?」
全員カーミルの言葉に耳を疑った。
確かにイジられたせいで破壊も起き、狩人達だけの筈が他の人間達も巻き込んでいる可能性もあり、実際この有様ではどちらを捉えても納得する要素も無いが、だからと言って足踏みしながら様子見をしなくてはいけないのかとも考えてしまう。
「……と言う事はこちら側の人間が開けたのでは無いと判断した場合、下手に出るのは危険か」
そんな悠長に考える暇は無かった。
「見つけたぜ! ガキ共とあのカーミルって男だ!」
「管理者で出来る奴は1人! 殺すには丁度良いぜ!」
後ろから狩人達が徒党を組んで襲ってきた。
今ここで開いている空間に飛び込めば良いが、カーミルの様子を見れば、すぐ入っては行けないのは分かっていた。
「その1人に殺されても知らんぞ?」
日向は眼鏡の位置を直し、手をかざせば雷が舞う。
「ちっ、やっぱり範囲が広過ぎる」
「だが、隙間が多い!」
狩人の1人が雷の隙間を抜い、冬美也に襲い掛かる。
光喜がニュートンに言う。
「力!」
「無理、お前は友達事押し潰すわ」
まさかの拒否だった。
狩人は両腕を獣に変え鋭い爪で振り落とす。
とても重く鈍い音がした。
狩人の獣の腕が耐えきれず血が滲み、爪も全て折れる程の硬い物質による衝突だ。
冬美也の片腕が盾のように大きく変形した金属になっていた。
「くそ、理美、まだダメか?」
「1人……捕まえて……」
「今言うか」
漸く喋ったと思ったら何か要求をし、誰かに頼もうにも日向は他の狩人達と応戦、カーミルに至ってはそもそも戦力外で、光喜だけと思ったがそもそもニュートンの判断で拒否されてしまっている。
また別の狩人が、今度は体を金属に変えれるタイプが襲いに来た。
「どけっ! 役立たず! 金属には金属だろうが!」
冬美也の盾に拳が入り、一気に後ろに後退し座り込んでしまった。
なんとか助けに入りたい光喜に対して、ニュートンは絶対に力を貸そうとしなかった。
「ニュートン! このままじゃ、冬美也達が!」
「ダメだ! 最小にしてもコントロールが上手く出来ないだろうが!」
扱う力が見えない以上、下手に手を出せばどうなるか分かっていた。
ただそれ以上に無力な自分が許せなかった。
「もう一発!」
狩人が拳を翳す。
「やっば!」
冬美也は盾を分厚くするも、先の攻撃で鈍くなっていた。
急に上から女性が舞い降り、狩人の金属の拳がただの既に変わる。
女性は狩人を薙刀で頭を体を分離させた。
「それでは、金属に愛されし者、中沢琴が参ります」