パーティー
都心部内にあるツルノホテルグループの一つの大きなホテルに、光喜と冬美也がいた。
このホテルは鶴野が最初に作ったホテルらしく、老舗に等しく現在も海外の著名人にも御用達だ。
その甲斐もあり、世間からは5星ホテルの一つとして数えられている。
こんな所に短期或いは日雇いアルバイトで入るのだ。
普通の高校生なら緊張して顔が強張るだろう。
今回は皿洗いだからと気が抜けていた。
だが、裏口から入って早々、鶴野本人からある話をされ、冬美也は怒った。
「ほらやっぱり! こうなると思ったんだよ!」
「確かに、俺も慣れるなら皿洗いのほうが良かった……」
急遽、2人にはウェーターとして出ることになり、不満になるのは当然だ。
鶴野は2人に平謝りをした。
「本当に悪い、ごめん、ウェーターだから提示した額の倍は出すから許して、ジルは皿洗いだから絶対出てくるな」
後ろの厨房から覗いていたジルを牽制した。
冬美也は未だに不満を述べ、光喜はかなり大きめなパーティーであるのを聞いていたので酷く緊張していた。
「へいへい、詳細と面接しておいて当日代えるって酷くね?」
「でも、昼前開始なのに凄い人が集まっているけど、大丈夫なんです? ど素人のアルバイトを中に入れるのおかしくないですか?」
鶴野も本当は入れる気もさらさら無かった。
「本当ならそれなりの経験者達にウェーターしてもらう予定でいたんだけど、何故か当日に風邪引いて人が足りなくて、一応人数合わせもしてとか色々頑張ったけど、2人程足りないのよ。でも、大丈夫! ちゃんと新人マークと他のウェーターには彼らが声掛けられたら対応して貰って、君らはドリンク配りだけしていれば良いから、ただ理美ちゃんとかは要注意ね、本気で人酔いする子だから、他にも居たら中庭か外庭、ラウンジのソファーとかもあるからそこ案内してから私達に教えて、その後こっちで対処するから」
しかし当日の担当が居なくなれば別で、こうなっては信頼出来る人間で対処するしか無かった。
勿論、他にもたくさん居ただろうが、そう言うのに限って、担当の割り振りによって居ない事が多く、今日ばかりは悪ふざけも印象の悪さも何もない彼等が抜擢られたのだ。
そうして今日の担当リーダーの案内により、ロッカーを借りて、ウェーターの制服を着た。
担当リーダーはイヤホントランシーバーを渡しながら言った。
「鶴野社長には並べく注文とかされたらこっちに割り振るように言われてるけど、無理そうな時もあるから、これで連絡して、すぐに対応するから、君ら一応初心者マーク付けてるけど、海外のお客様が多い分気づいて貰えない可能性も視野に入れてね、それと――」
いきなりピンチヒッターになってしまった高校生の為、優しく丁寧に教えようと努力してくれるリーダーとその話を必死に覚えようとする光喜に、着々と内容を頭で覚えていく冬美也はあっという間にパーティーの開始時間となった。
パーティーに招待されたのは、殆ど有名な大企業の社長や政治家に、海外の要人まで居た。
特に今回は日本であのS国で起きた崩落事件に巻き込まれた日本人達の為の追悼式が行われた為、各国の政治家達もそれに合わせて来日、無論、あのS国の大統領自ら来て追悼しだけでは無く、S国には大統領以外にも国王が居て、追悼する為にその国王自ら出席したと、かなり話題だ。
だが、流石にそんな凄い人達が光喜達では会える筈もなく、凄い大きな会場だが、エリアが存在した。
光喜と冬美也は、大企業を運営している言わば金持ちの中の金持ち揃いだ。
それでも、何人か政治家が混ざってたり、要人が気さくに話をしたりしてるのを見ると、やはり世界が違う。
普通の人間には無縁な空気を気にせず、光喜は必死にドリンク配ったり、片付けるのに必死だ。
ふと、誰からか声を掛けられた。
「おぉ、光喜! まさか表舞台の方でバイトしているとは!」
「あっ、ジャンヌ先輩とどなた?」
ジャンヌがパーティードレスを着て、もう1人よそよそしく着いてくる肩くらいまで伸びた金髪を纏め、碧眼の少女が居た。
意気揚々とジャンヌは少女を紹介した。
「紹介しよう、私の義理の妹、ジュリアだ。日向も居るが我々の親の代役で今は挨拶回りをしている」
「初めまして、ジュリアです。あの、理美ちゃんから聞いてます。神崎先輩とフィン先輩のお友達だと……」
「俺は如月光喜です、よろしくって事は理美ちゃんと同学年?」
「はい、私と同じクラスで、広樹君からも聞いてましたが、思ったより明るい方なのですね」
光喜は入学式後の時より大分垢抜けてはいたが、大分あの頃落ち着きを取り戻したばかりと元同級生に待ち伏せされたのもあって、印象が相当暗く感じられてようだ。
それを思い出したジャンヌと光喜は何とも言えず、声を出すだけとなった。
「あー」
「んー」
イヤホンからリーダーの声がした。
「こらこら、今仕事中だから集中して」
どうやら通信したままのようで、光喜はマイクを通して謝り、そのまま仕事へと戻った。
「すいません。んじゃまた」
ジャンヌは手を振り、ジュリアは頭を下げた。
「頑張りたまえ」
その後も片付けた食器を裏に持ち込み、再度また入ったドリンクを運ぶを繰り返す。
ふと、そういえば冬美也は何処だろうかと辺りを見渡した。
いつの間にか、お客様の何人かに捕まっていた。
海外の要人も混じっており、冬美也は流暢に様々な外国語を話しているのだ。
通訳が必要な場面に、通訳の人間がいなかったようだ。
その代わりに誤って入ってしまったみたいで、途中でリーダーがやって来て代わりに話し出し、冬美也を元の仕事に戻してやった。
「すげぇ、リーダーも話せるのか」
流石に緊張し続けていた冬美也は疲れが顔に出ていた。
「疲れた、通訳人位用意してくれよ」
その言葉に、どうやら通訳人を用意して居なかったようだ。
光喜は冬美也の肩を軽く叩き、言った。
「お疲れ、もう少しで半分だろうから、頑張ろう」
そんな矢先だ。
酷く青ざめた理美がヨロヨロとこちらに歩いて来た。
「冬美也……気持ち悪い……」
完璧に人酔いしてしまったようだ。
「……分かった、この階にラウンジあるから、そっちで休もう、ところでボディーガードの琴さんは?」
「お父さん……と」
冬美也は理美を会場から連れ出す為、光喜に必要な物を頼んだ。
「そっか、光喜も一緒に来てくれ、後温かいおしぼりとさっぱりした飲み物」
「分かった、今取りに行くからラウンジで」
「頼む」
高級ホテルだけあって、しきりがガラス張りで中は綺麗ラウンジだが、簡易的に作られており基本誰も居ない。
完全に弱り切った理美を横にして、光喜が持ってきたおしぼりで目の周りに置いた。
「光喜、もう一つお願いがあって、ジャンヌ先輩かリーダーに理美の事話して父親かボディーガードの琴さんを呼んで来てもらいたい。流石に1人にする訳にもいかないからな、それに――」
冬美也の裾をずっと掴んだまま項垂れる理美がいた。
それを見て、微笑む光喜は何処かお父さんみたいだ。
「分かったよ、すぐ頼みに行くから」
「微笑むな、恥ずかしいわ」
「はいはい」
冬美也が恥ずかしがっているのを見て、戻って行った。
とりあえず、リーダーか他の出来る先輩達に連絡を入れようとした。
「――ここじゃ、通らないか」
会場に入ってすぐ、連絡を取ろうと扉を開けた時だ。
「――っ! すいません、ワタシ具合悪くして、多分、ヒトヨイです」
浅黒い肌の少々クセのある黒髪に、髭を生やした男性が光喜に倒れ込んだ。
光喜は慌てて、とりあえずまたラウンジに連れて行こうとした。
「えっ⁉︎ なら、ラウンジに――」
男性は外の空気が吸いたいと言い、今まさに吐きそうになっていた。
「いえ、外の、クウキでおねが、します、うっ!」
「待って待って! 確か中庭あったよな? 今連れて行きますから!」
こうなっては吐かれる前に外へと連れて行くしか無かった。
中庭は程よく広い美しい庭園で中央に東屋があり、そこで休んで貰おうと連れて行った。
「大丈夫ですか? 後、今から飲み物とか持ってきますし、お連れの方が居ればすぐ呼びますので」
本来ならこういう事をしてはいけない筈だろう。
しかし今回は初めての仕事で鶴野からも対応するようお願いされていた訳なので、多少は目を瞑ってくれるだろうから、少し位大丈夫と思っていた。
ところが、ここまで来てから、男性はすくっと立ち上がりこう言った。
「いえ、もうダイジョウブです、ありがとうコウキキサラギさん」
光喜のネームに書かれているのは、日本語の漢字の如月だ。
しかも、この男性は明らかに外国の人間だ。
「えっ?」
外人で自身の名を知っている人間なんて居ないに等しい筈だ。
「驚くのも無理からぬ事、ワタクシ、S国のカーミル•アルアーディルです」
カーミルからの言葉に光喜は最初固まった。
何処かで聞いた名なのだ。
でも、思い出せないでいたが、段々過去を遡り思い出す。
修学旅行の時に現地で説明を写真と共に聞いた。
内容はこうだ、第35代国王カーミル•アルアーディルの祖が代々この国を納め、ここまで発展に協力したか、そして現在は日本やイギリスの様に象徴そのものの存在であると聞かされる。
あまりの象徴の存在が今目の前にいるのだ。
「はっ……はぁぁぁ!?」
驚き過ぎて変な口調になっていた。
カーミルは驚いてくれて嬉しいのか話し出す。
「そう驚くのも無理はないよね。大統領は総理大臣と別の場所で会食だからここにはワタシだけだよ」
「ノリ軽っる! 実は影武者では⁉︎」
本人なのかと疑うほどノリノリなのだ。
「大丈夫! 影武者はパーティー会場に置いて来ました! そして、部下達とボディーガード達も!」
「1番やっちゃいけないやつ!」
光喜はすぐさま、連絡をしようとするも、やはり繋がらない。
仕方がない使う事は無いが電源を落としているスマホを取り出し鶴野に電話しようとした。
カーミルは急に光喜に言った。
「この度、我が国の不祥事により大事なお友達を含め、沢山の命を落としてしまい、更には君の心に深い傷を付けさて、誠に申し訳なかった。追悼式にも顔を見せなかったので心配していたのデスが、思ったより元気そうで良かった」
そうして深々と頭を下げた。
驚いた光喜は慌てて頭を上げるように言った。
「あ、あの頭をあげてください! 俺は、その、どうしてわざわざ一般庶民であるのに謝罪なんて!」
ずっと見ていたニュートンが姿を現し、カーミルを見ながら話す。
「そりゃあ、お前、こいつ神眼の持ち主だ。たまーに居るんだ、霊力みたいに見える奴とはまた違うモノが見える。アースが見えちまう、そうだろ? あの国ではよく産まれる分、その為に隠す習慣がある。国全体でそういう奴は危険視ではなく、神からの贈り物を守る為にな、そうやってこの国はより強固であり豊かな資材を使って発展した」
驚く光喜を尻目に、カーミルはニュートンを見て笑顔で、本来の目的とばかりに話し出した。
「素晴らしい、やはり母国生まれのアースは良く分かってらっしゃる。それだけではないですよ? 表では預言者殺した御伽話があります。ですがその理由は全て異能を守る為、予言者が権力を持っては行けません、ですがまた予言者もまた神の贈り物です。裏では予言者も匿われました。同時に我々の一族には沢山の管理者も居ます、そして彼らを神の贈り物ではなく、我々は世界からの贈り物と言ってます、君を勧誘しに来ました」
まさかの勧誘に動揺を隠せない。
「どうして?」
「ふむ、こればかりは言いづらいですが、君は誰かに噛まれている、君のアースに至っては一部が無い。この状態で狩人等と戦えば、君は確実にやられてしまうし、復活出来るかどうか怪しいのです」
神眼を持つカーミルは何か違うモノを見ているのは確かだし、ニュートンの様子を見るともっと明らかだ。
ニュートンが怒っていた。
「ちっ! やっぱり光喜もあの時噛まれてたのか」
無事に起こせたと思っていたのだろう、それが結局噛まれていたのだと知ったのだから怒るのは無理はない。
勧誘するに辺り、入るのを承諾すれば、治す事を約束した。
「そこで、君らを迎え入れ、同時にこちらの研究機関でカンペキとまでは行きませんが確実に本来の力に等しい状態に戻す事をヤクソクします」
酷く動揺が隠せない光喜だったが、同時にニュートンの状態が治せればと考えてしまう。
どうすれば正解が分からない。
このまま、まがい物を摂取し続けていい事は無いだろう。
万が一ニュートンだけでなく自分にもまがい物の悪影響が出れば間違いなく危険だ。
ニュートンの為にも行くべきだろうかと考えていたら、ニュートンは何かを感じ取った。
「おい、いちいち考えんな、イビトの気配だ」
「はっ? 今⁉︎」
カーミルもどう言う事だと言葉を発し、結界系の異能者達がいる事を話す。
「オカシイ、我々のボディーガードに日本の公安にも結界を貼れる異能者に更に各国にも同じような異能者達が今日は多数いて、テロリスト等は入れないようにしています」
ニュートンは気付いていないカーミルに言った。
「はぁ? あんた、おれら見えんのに、イビトがわからねぇの?」
「ワカリマセン、千里眼じゃないので」
「おい!」
とにかく避難させないと行けない、光喜は慌ててスマホに電源を入れて、カーミルもスマホを取るもどちらも圏外になり、驚く中、ゆっくりとホテル内に何かが蠢いた。
無論、それに気づくものは数少ない。
ホテル内の何処か、何人も何十人も屈強な男達が居た。
「今日は異能者含め生け捕りだ。S国の国王は拉致してB国に連れて行く事だそうだ」
「まさか、こんな簡単に潜入されるなんてアイツら大した事ねぇな」
「行くぞ、野郎ども、真の異能者達の力を示すぞ」
その言葉共に声を荒げる男達、一斉に小チームを作って次々と散らばって行く。
光喜とカーミルも逃げようとするも、既に中庭に何人かその連中が潜んでいた。
「使えない管理者だけだ、まずコイツを殺せば――!」
いきなり弾丸がその1人の頭を貫通、直後に消滅した。
ホテル屋上から降りて来た男が言った。
「これより、特別異能課、古藤院透馬が指揮を取る、坊主、カーミル王の指示に従ってください。今現在トランシーバー及びスマホが使用不能で現在調査中ですので、決して私から離れないでください」