メンタルクリニック
学院にて、冬美也にニュートンに付いて軽く言ってみて後悔した。
「確かにニュートンだが、実際見つけたの違う奴だぞ?」
「なんだって!」
冬美也はスマホで調べ、そこまで詳細を知りたい訳ではないだろうと、ある人物のウィンキベアーを出して教えてあげた。
「ニュートンは確かに見つけたが、重力の詳細を見つけたのは別の人、ほらコレだ。仕方がないよ、こっちが有名なのは事実だし」
あまりの衝撃の真実に口を開けたまま固まってしまう光喜にどうしたものかと冬美也が悩んだ。
この話を聞いていたフィンが光喜に話しかけた。
「光喜社長や、ニュートンはりんごが落ちたから重力に気付いた、それだけで良いんだよ。誰もそこまで気付かない、普通なんだから」
「フィン!」
元気を取り戻した光喜はフィンと深き友情で手をがっしりと掴んだ。
なんて事をしてくれるんだとニュートンは冷め切った目で見ていた。
冬美也は冷静に言った。
「悪かったな普通じゃなくて」
光喜がスマホのバイブで気付き覗いた時、今日はメンタルクリニック受診日だと気が付いた。
「ごめん、今日は部活休む、受診日だ」
「あぁ、今日行く日か」
受診は何度か行っていたが、今日久々の受診日だ。
「うん、こっちに変えてから大分気持ちも落ち着いたんだよね、あまり薬も飲まなくて済んでるし」
あの頃と比べ、かなり気持ちも落ち着いて、悪夢も徐々にだか見なくなっていた。
フィンも嬉しそうに笑って、どんなメンタルクリニックか聞いてきた。
「へぇ社長に合ったクリニックで良かったじゃん、人によりけりだから合わないと一生合わないからねぇ。で、どんな所のクリニックよ?」
「どんなって、しらさわメンタルクリニックって所だよ。評判良いみたいで、中々予約取れないみたいなんだけど、咲さんが事情話したらすぐに入れてくれてさ」
ただ冬美也だけ、何故か深妙な顔になった。
「しらさわ? 何処かで聞いたような……」
光喜はきっとたまたま知り合いの名前が同じと言う軽い考えで言った。
「たまたまじゃない? じゃぁ、俺もう行くから」
「おう、オレも行く所有るから」
「ついにバイト面接か? 頑張れよ」
その後、途中までたわいのない会話をしながら歩き、道が違うのでお互い手を軽く振って別れた。
民家が建ち並ぶ中に一際目立つ白い建物があり、しらさわメンタルクリニックと大きく書かれた看板が貼られた場所が光喜の通っている心療内科だ。
中に入り、受付をした後待合室で待っていて思ったのは、人が少ない日だなと感じた。
10分位で光喜の番になり、診察室に入った。
「よろしくお願いします白澤先生」
そこにウェーブの掛かった長く白い髪をアップし、眼鏡を掛けた女性が医師の白澤だ。
「はい、如月君大分学校に慣れたんじゃない? 前回まではあまり顔色良く無かったし、前の同級生の事も揉め事とか前話してたけど、今どう?」
「それっきり会う事は無くて、学院でも友達出来て、色々あったけど今は楽しいが少し増えて来ました」
本当はイビトの事とか色々話したいのが本音だし、何よりイビトを殺してしまったと言う感情が無くて怖いもあったが、周りやニュートンから言わせれば、明らかに正当防衛そのもので、法律的には過剰にはなるだろうが、一発入れても襲って来たんだからと、最終的にはリスとジャンヌが殺したのであって君では無いと言ってくれたし、ニュートンもあの時思い出していなかったら、確実に光喜は精神汚染か肉体が死んでしまった可能性あるので、もし今も優しさがあるなら殺してあげた方が理に合っているとも言われた。
それからは何故かフィンが良くしてくれて、色々話していたら何故か素直になれた気がして、気兼ねなく話せたのはいまだに不思議だ。
あれだけ、マフィアの人間だから少しでも距離を置こうとしたし、恐怖心もあったのも事実で、話す事すらままならないだろうと思っていたのにすんなり話せたのは意外だった。
そんなことを思い出し、この話は信じないだろうと、それとなく話題に持って行かないようにした。
白澤は横になる様指示した。
「それじゃあ、いつものやって終わりにしよっか? 横になって」
「はい、お願いします」
光喜は診察台で横になり、白澤は光喜の上に立ち言った。
「如月君、ゆっくり目を閉じて、深呼吸し続けて下さい、良いと言うまでゆっくりとそう、ゆっくり……」
その指示には逆らわずにいつの間にか夢に入っていくのが分かる。
実際今どの様な状態か分からないのが残念だ。
「バク、如月君の深層部、どんな感じかな?」
光喜の上に象とも言えぬ動物のバクとも言えぬ生き物と呼ぶべきか悩む存在が浮いていた。
「確かに色々としか答えられないな、運が良いのか悪いのか、あの黒髪坊やが診てくれたから、そこまで悲惨な感じにはなっていない。そろそろもう別の妖に頼んでもう一段階上げても良いんじゃないかハクタク?」
「そっかぁ、色々は悩むなぁ、サトリはぁ、ちょっとやばいからもう少し先だな、とりあえずいつものように悪夢を吸ってくれバク」
「分かった、その後ちゃんと起こすんだよ」
「だから、急患で起こすの忘れてただけでしょうが!」
手を叩く音で光喜は目を覚ました。
「――はいっ! もう良いよ、起きて」
光喜は白澤の言う通りに起き上がったと共に大きく背伸びした。
「んー、なんかよく分からないけどよく寝た」
白澤は催眠に入りやすい光喜に驚くも、あの頃と比べて恐怖心もなく、心を許してくれているのに喜んでいた。
「たった4、5分でよく寝れるの本当に凄いわ。最初の頃怖がって寝てくれなったのが懐かしい」
「ははっ、でもなんか前のクリニックとは違って本当に相性良いみたいで、大分元気出た感じがします」
同じ感じではあっただろうが、薬も必要最低限で、尚且つ睡眠誘導剤も以前と比べると無いに等しく、本当に助かっていた。
話をしていて、白澤はある事を思い出し光喜に聞く。
「そっかそっか、そういえばあの崩落事件もうすぐ命日になるらしいくって、その為の追悼式を国がやるらしいけど、如月君は行くの?」
どうやらあの崩落事件により沢山の命が失い、修学旅行中の子供達意外にも日本人は沢山亡くなっていた。
最近漸く落ち着いたのと、忘れない為に改めて式を行うのは、光喜も咲から聞いてはいたが、少しは考えるも行きたいとは思っていない。
「……いえ、さすがに行きません、知り合いとかに会うのはまだちょっと」
「無理に話させてごめんね、でも、こういうのはちゃんと言葉に出す必要があるし、行く行かないは個々の自由だし、君はちゃんと向き合ってるから、少しワンステップ上げようか」
実際無理に行かせようとしない白澤も咲も光喜の気持ちを尊重した。
それだけでもとても有難いと思っている光喜だったが、白澤の最後の言葉に引っ掛かった。
「ワンステップ?」
「怖がらない怖がらない、次回に心理テスト一回受けてもらってから構成考えるから、はい、今日はおしまいね。受付でいつが良いか決めてね」
少々引っ掛かった言葉のまま終わってしまったが、まあ良いかと考え、そのまま受付に呼ばれるまで座って待っていようと、暇を潰す為スマホを取り出していたら、見覚えのある顔が受付の看護師達に構われていた。
「あれ? 冬美也、バイト面接は?」
冬美也だった。
「終わった、アンド知り合いがここに行きたがっていたから案内して、皆、親父の知り合いだったから構われてた。後、やっぱりここか光喜が通っているクリニックって」
どうやら本当に冬美也の知り合いと言うべきか親の知り合いがやっている開業医で、光喜も驚いた。
「世間が狭いにも程があるぞ」
「多分、ここ勧めたの、坂本だ絶対」
この間の咲が話していた内容で、一切否定が出来なくて困ってしまう。
「あぁ……否定し辛い」
そんな会話をしていると、看護師達が笑って話し掛けて来た。
「やっだ! 如月君、フミちゃんの友達だったの!」
「そういえば、学生服一緒だわ!」
若い看護師達が急におばさん臭く話だすので、ちょっと驚きだ。
他の看護師がわざわざ、白澤を呼んで来た。
「まぁ! フミちゃん元気にしてた? 本当に大きくなって!」
皆若く見えるだけで、結構歳なのではと光喜が疑い出した。
冬美也はあまり気にも止めずに話を続ける。
「やっぱり、あんたのクリニックだったんだ。親父から聞いていたけど、医療ならもっと……」
白澤にとって人の心に触れる事が1番のやり甲斐の様だ。
「ん? 人の心は面白い、体以上に心が1番左右されるから楽しいよ、楽しく無いならやってられないよ。こっちがマジで死ぬから」
確かにどんな仕事にも楽しいが無いと心が死ぬのは間違いない。
楽しく無くても時間さえあれば、趣味の時間等で楽しみを見出せればまだ良いのだが、高校生の光喜も冬美也も大人のただならぬ負のオーラには逆らえず、流石に引いた。
「お、おぅ」
「それじゃ、フミちゃんは如月君と帰る?」
「いや、アイツら元気になったら一緒になって酒盛りで連れ回しそうだから、そのまま用事が済んだらすぐに連れて帰ります」
その知り合いってフィンの事かと思って、光喜は冬美也に聞く。
「フィンの事?」
「いや、アイツは他の女子と遊びに行った」
マフィアと知ってからの光喜はそれを知らない女子達を持って諺が出た。
「うわぁ知らぬが仏……」
何故か、さりげなく白澤が続けた。
「見ぬが秘事ってね」
「えっ?」
白澤は笑って改めてどうするかを聞いた。
「なんか、続きあるの思い出してね、でどうする? 先に患者さんまだいるから終わってから診る約束だし、彼もいきなりはしたくないって言うしね」
内容は知っているようで、冬美也は話を続けた。
「診るにも、午後の診察始まっていたんでしょ?」
「そうそう、んじゃ、如月君は次回予約してね」
白澤はそのまま診察室へと戻って行った。
会計後、薬局は夜まで開いているドラックストアで貰うので、自然な流れで冬美也と一緒に待つ事にした。
「一緒に待たなくったって良いんだぞ?」
「いやぁ、何となくなんだけど、冬美也は面接どうだった?」
自然な流れで面接の話をしてみると、冬美也は自分の髪の毛を触りながら答えてくれた。
「分からん、髪の色とか普通に聞いてくるし、オレの髪色や緑の瞳も生まれつきで、あまり言われる事は少なくなって来たけど、やっぱりうるさい奴はうるさいぜ?」
どうやら生まれつきの髪の色で嫌な質問をされた様だ。
「生まれつきって事は両親のどちらかが?」
「いや、母方のババア似だ、目の瞳は親父だけどそれ以外が殆ど」
「お、おぉう、俺は普通過ぎて色なんて気にした事ないや」
少し違うのが羨ましいと感じてしまうが、あの崩落事件を思い出し、下手に目立っていたらすぐにバレていただろうなと、光喜は口が裂けてもえも言えなかった。
ただ、冬美也は何となく察したが、あえて言わず、フィンの生まれつきの肌や目話をした。
「ぜ、じゃなくってフィンの瞳はよく見ると青だし、多分追求すればアイツ白人系の血混ざってると思うぞ? 肌の血色もオレより目立たないし」
確かに言われてみれば、冬美也は意外と血色は程よく良いがフィンは逆に血色がそこまで良いとは言わず、知らなければこちらが守らねばと思う程華奢な雰囲気がある。
「言われてみれば、でも狭間のバーで出会ったジルって人はもっと血色無くってなんか色が無いっていうか」
「アイツ、アルビノの黒人。色無さ過ぎて目も赤らしいが特殊なカラコン入れてるって本人言っていたぜ?」
1番驚くべきアルビノに関してより、特殊なカラーコンタクトレンズに興味を持ってしまう。
「特殊なカラコン?」
冬美也が話す前に、後ろから声を掛けられ、後ろを向けば頭が犬で体が人の少年が居た。
「それ、まだ開発途中だから内緒だよ」
「誰⁉︎」
驚く光喜に冬美也もビクッと驚いてしまう。
その様子で出現したニュートンは言った。
「光喜、多分、その内容を答えれるって事はジルって奴のアースだ」
「て事は、ジルがここのクリニックに居るの?」
冬美也が光喜の言葉に反応し答えた。
「関わらない方が良いぞ? 多分、イビトが関わった行方不明者探し頼んだだろう? その時何か碌なもの連れてきたか、当てられたかのどっちかだ」
ジルのアースは冬美也の予想に応え、光喜を見て言った。
「後者が正解、君が光喜と光喜のアースだよね」
この人のいる状態、ましてや大勢いればまだ良いが人がまばらと言う状況はあまり良いとは言い難い。
どう見ても、見えていない何かを見ているのだ。
患者の1人である光喜は別の方面で通っている様にしか見えない。
流石に話し掛けないで欲しいと頼んだ。
「そうだけど? いや、でも他の人や冬美也は見えてないし、あまり話し掛けないで欲しいんだけど」
「うん、まぁでも妖や怪異は見れるし、その内君も見れるようになるよ、どう言うわけか何故かこちらがあげてる訳でも無いのに見えてくるらしいし……それにこの――」
ジルのアースが言い掛けた時に冬美也が光喜に言った。
「光喜、あまり関わって欲しく無い時は、シカトしても問題ないと思うぞ? おかしな人間認定されたくない時はメリハリ付けないと」
「確かにそれも、そうか……ちょっとトイレ行ってくる」
大分人も減り、もう冬美也と光喜だけとなったていた。
トイレは曲がって奥にあるし、すぐ待合室に戻れる。
すぐに済ませて、トイレから出ようとした時、ジルのアースがまだいた。
「うおぉ! まだ居たの! ジルの元に居なくて良いの?」
「いや? 珍しいなって光喜のアースって」
「なんで?」
「ツギハギだし、まがい物でとりあえず修復したって感じだし、力使える?」
光喜からしたら最初に会った頃の姿のままなのだが、どうやら、アース同士だとまた違う様に見える様だ。
「まぁなんとか、でも使い過ぎるとニュートンが空腹で倒れるんだ」
ジルのアースはニュートンの名前に反応し笑顔になり、何故かこれからの治療に見に誘った。
「そっか、せっかく修復しても完全じゃないもんね、すぐぐらぐらになっちゃうんだから、君ニュートンって名前貰ったんだ。ぼくも貰ってるよ、そうだそろそろ治療始まるからおいでよニュートン」
「おっ? 面白うそうな気配を察知」
「お、おい、って行くな」
冬美也の言う通り、シカトすべきだったと光喜はこれから後悔するはめとなった。
診察室よりも奥の部屋、ここには処置室があり基本使うことは滅多に無い。
光喜も初日行った時も使った様子も無く、診察室だけだ。
患者達からはあまりに開かないので、開かずの間なんて冗談で言われてたりした。
そこにアース達がちゃっかり入って行ったのだ。
小言でニュートンを止める。
「ちょっと、ニュートン行くな」
アースと言うのは物理で触れる時もあれば、幽霊の様に壁をすり抜けるのかと、驚きより変な納得をしてしまった。
扉の磨りガラスから光が灯っていた。
「どうすっかなぁ、一度戻るか? と言うか開く……開いた」
ニュートンをどう連れ戻すかと考えるも、思い付かず、とりあえずそっと覗いてみようと扉に手を掛けると、鍵が掛かっていなかった。
仕方がないのでこっそり覗いて、ニュートンを見つけ次第戻ろうと決めた。
誰かが診察台で眠っていた。
その近くには白澤が居た。
更によく見れば坂本も居たが、眠っている人と同じように何かを目に札の様なモノを付けて包帯で止められている。
白澤は何かに話かけるもよく聞こえない。
「――だよねぇ。駄目だ、コレ、やっぱりイビトの関連のせいだよね? これ、やっぱり時間掛けるより、君の刀で切っちゃって欲しいんだよ」
後ろ姿しか見えないが、変わった髪型で短髪ではあるが、頭の頭頂部から長い髪を四つ程の布で髪を止めた金髪の背の高い男性が何か日本刀を持ってその眠っている人に近付いた。
「はいはい、たまたま冬美也君が居たから良かったけど、僕、機械音痴なの分かっていてloinだけで送らないでよハクタクと坂本さんも」
そう言って、鞘から刀を抜き、いきなりその眠っている人に思い切り刃を振り落とした。
光喜はその光景に悲鳴を上げてしまう。
「うわぁぁぁぁっぁ‼︎」
驚いて、坂本が光喜の声の方に顔を向けた。
「あれ? 如月君居たの?」
白澤も驚いて、光喜に近付いた。
「やだ、大丈夫?」
「中々帰って来ないと思ったら、大丈夫か?」
冬美也まで光喜の悲鳴でやって来たが、驚いている様子が全くない。
寧ろ、とうとうやりましたかと言う様な、別の相手に対しての呆れ顔に見えた。
金髪の男性も刀を持ったままやって来た。
「えぇ、冬美也君だけかと思った」
「いやいやいや、匂いと音だけでも分かるだろうがこの爺さんは」
「えぇ〜」
光喜を置いてけぼりにして能天気な会話をし始める2人に坂本は助けるどころか、思い切り自分の事をお願いし出す。
「ディダぁ、それより、こっちもやって欲しいの、確認位と思ったら思い切り認識障害出ちゃって仕事にならないのよ」
「はいはい、待ってね」
そう言ってディダは何も気にしないで、坂本の脳天に刀を突き刺した。
「ぎゃぁぁぁぁ‼︎」
これは大泣きしても仕方ない。
ニュートンとジルのアースは光喜そっちの気で面白そうに眺めていた。
「しっかし、面白い治療だな」
「そうそう、コレだけで治るんだから面白いよねぇ」
冬美也は光喜を宥めに入った。
「落ち着け、ディダの持つ刀は死なないから、よく見ろ」
「はぇ?」
「あぁぁぁ! 治ったぁぁ! 良かった呂律も治ったし、視界も眩しいが良好だ。ウネウネが無い」
起き上がったのはジルだった。
坂本も包帯と札が取れ、喜んでいた。
「本当、これだけで治るの助かるわぁ」
だが、ディダだけは違って、困り果てていた。
「君達ね、これ、そういう為の刀じゃ無いから、そもそも緊急ってクネクネ認識障害あるってその辺の界隈じゃ有名でしょうが」
「認識障害? あぁクネクネって見ちゃうと発狂する?」
かなり有名な都市伝説の怪異なので、光喜でも分かったが、どんな感じに発狂するのかさっぱりだ。
そんな時に冬美也が分かりやすい例えを教えてくれた。
「そう、でもどちらかといえば、ね○ですよろしくおねがいしますの人バージョンで認識障害の何十倍に凝縮したのを頭に叩き込まれるらしい、親父も腕試しして一回やられてるから、今は対策して挑むのが普通だけど?」
これも一種の都市伝説と言うべきか、ネットの作り話でもあるが、かなり分かりやすかった。
その為、光喜は余計に怯えた。
「凝縮された、○こですよろしくおねがいします人バージョンって怖っ! と言うか、この状況がまさに知らぬが仏見ぬが秘事だぁぁ」
ただでさえ、管理者に対する心得が若干分かってきた時に、もっと余計な事が頭に入って混乱してしまった。
挙句、管理者と言うものは怪異に対しても対処しなければいけないのかと、絶望した。
それにディダと言う30代半ばにしか見えないのに、冬美也は老人扱いするし、あの瞬間を見てから疑惑は白澤にも向けなければいけなくなったのだ。
知らぬが仏見ぬが秘事とはまさにこれだろう。
あの頃とは大分変わってはいるが、どうもこの状況は飲み込めない。
ずっと見ていた白澤は光喜の怯えっぷりにこれ以上の話を噛み砕いて説明は無理と判断して、そのまま終わらせる事にした。
「はいはい、如月君がこれ以上パニックになる前に、そっちで説明するなり、後日ちゃんと話の場を設けるなりしてください、医療費はディダに任せちゃったから、今回坂本さんはタダで良いけど、ジルは何度か治療しちゃったから、医療費払って個人負担10割な」
寝ている間に、本当に治療を試みていた為、きちんと請求した。
ジルは白澤に言った。
「鬼!」
帰り道、酒盛りさせたくないが、ジルの懐が壊滅的になったのもあり、大人しく一緒に帰ると言う不思議状況絵になった。
ディダがどう説明すれば分かるかと頭を捻っていた。
「なんて言えば分かるかなぁ?」
まだ具合が悪いのか光喜は聞くを拒否した。
「あの、暫くはしなくて良いです、寧ろもう頭がパンクしそうだし、1人で寝れるかどうか……」
仕方がないだろう、信じているのを疑う羽目になったのだから、しかも都市伝説級の事を平然とやっている人が目の前にいる状態で話を聞いても、今は飲み込めない。
怖い話の後の夜、一人暮らしには少々キツイと感じてしまう。
「俺が泊まろうか?」
ジルが宿探しするのも面倒なのか、光喜の部屋に泊まろうとしたが、冬美也に止められた。
「駄目だろ、原因者の1人が泊まったら」
坂本は面白半分で笑っていたが、管理者の事やイビトの事が漸く理解出来て頭が追いついて来たのに、変な関わりを持って可哀想だなと半分同情した所で、元々頼もうとしていた依頼を光喜と冬美也に話をした。
「それより、君ら2人、蝶子から今度の休み臨時バイト探してるんだけど、デカいパーティーがあって人数足りてないって言うの、もちろん裏方の皿洗いで良いから入って欲しいんだって、しょうがないからジルも」
内心断りたいと思う冬美也と内心皿洗いならと思う光喜と次いでだけど、仕事用の資金も底をついてしまって無いジルは答えた。
「いや――」
「皿洗いなら……良いかな?」
「本当に皿洗いだけだよな?」
冬美也は断ろうとしたが、光喜達の言葉にさいぎられてしまう。
「それじゃ、3人バイトするって伝えるね」
坂本はloinで鶴野に連絡してしまい、慌てて冬美也は断ろうとした。
「いや! オレは!」
しかし、坂本はこのパーティーに入る客を把握していた。
「フミちゃん、実は理美ちゃんも挨拶回りでこのパーティー出るのよ。出たくない訳じゃ無いでしょ?」
半分脅しだろうと言いたげな声で冬美也は言った。
「鬼!」
光喜はとりあえず、パンク気味な頭を切り替えられて良かったと思う反面、本当に裏方だろうかと疑いを持っていた。