その後……
もうすぐ夕方、それでも人気のないキャンプ場はもう暗く、テントすら無い本当に殺風景の所を誰かが歩いていた。
「だぁぁ! なんで、俺が呼ばれるんだよ!!」
「仕方がないでしょ、あの鹿があんたと私を指名したんだから」
ジルと坂本だ。
その前には、あの雄鹿とリスが待っていた。
「つうか、俺はたまたま意味のわからん日本発祥の宗教団体に用事があったんだよ」
どうやらジルは何か用で来ているだけで、ここに来る予定はなかった様だ。
無論、坂本もだが、日向から来たloinを見せながらジルに言った。
「知ってるわよ、でも付いてきちゃった如月君が、覚醒したばかりだからこのまま連れてまた具合悪くされても困るし、ゼフォウの奴が加減忘れて爆破したらしいし、これ以上居たら警察来られても困るって言うから、渋々行方不明者探しで私とアンタが選ばれたの、そこの鹿に!」
モソモソと口を動かす雄鹿は何かを話している様に見えたが、一切分からず。
ジルはこれは不味いのではと口にした。
「と言うか、理美居ないと詰みじゃねコレ?」
「アースも話すタイプなら良かったんだけど、どっちも話せないタイプなのよねぇ」
近くに居たリスのアースは孔雀の様な姿で話せず、雄鹿のアースは草木の様なゴーレムの姿で勿論話せず、どっちの言葉を解せる人間がどうしても必要なのに、今回は対要する存在が居ない。
ジルは自身のアースに聞いた。
「しゃあね、アース同士なら会話出来るか?」
頭が犬で体が人の姿の少年が現れ、ジルに話す。
「どうだろう? 動物を選んだアースって大体がまず人語を話すって事はしない。ジル達だって動物と話さないだろ? それと一緒だ。まぁ人間達と生活している動物系の管理者やアースが話すのは人語が近場にあるからであって、基本住み場が違えば言葉も違う。もしお前じゃなくて、その辺の動物だったらぼくも話さなかっただろうね」
「だそうですよ、坂本様や」
「うっさいわね。こっちのアースはへびだけど、めっちゃ喋る理由が分かって良かったわ」
坂本がジルに対して軽めに苛立った時だ。
雄鹿とリスがジルに何かして欲しいのか、服を引っ張った。
ジルのアースがクンクンと鼻を動かし軽く項垂れた。
「あっ……行方不明者、残念ながら全員死亡してるねコレ」
どうやら雄鹿とリスは、これ以上近付きたくないのだろう、ジルはいっそ死体から来てもらい、さっさと回収してしまおうと力を使う。
「だなぁ、いっちょこっちから来て頂きますか」
風が吹き抜け、何処かへと行ってしまった。
坂本はジルの力に対してあまり好きではない。
「いつ見てもゾンビ映画よねぇ、あんたの死体に愛されし者って」
「あの両手あげて襲ってくるのキョンシーみたいだなとしか思った事ないぞ?」
「そっちじゃ無いわよ!」
面倒なことを話しているなと感じる雄鹿とリスだったが、こっちに死体が来る気配は全くなく、ずっとしんと静まり返ったままだ。
「……おっかしいなぁ? もう来ても良い頃合いなのに?」
再度力を使おうとジルが構えると、流石にずっと待っているのもと考えた坂本がある提案をした。
「ここで大人しく待っているのもなんだし、皆で行かない?」
雄鹿とリスから眉間に皺が寄る。
どうやらあまり行きたくないようだ。
それを見て、ジルは言った。
「仕方がない、お前らはここで待ってろ、人間の死体はこっちで回収するから」
渋々2人でその有るであろう死体を見に行った。
雄鹿とリスが何かの気配を感じ取り、すぐさまに逃げ去り、その後から何人、何十人の人間達が列をなして歩いていた。
ここに来て闇に染まり、空を見上げれば満点の星空だ。
そんな悠長に見てはいられない2人は、持って来ていた懐中電灯で辺りを照らし歩いていると、ある洞窟にたどり着いた。
「ここだ、ここに行方不明の死体が何体もある筈だ」
ジルが力を再度使うも、死体がこちらに来ない以上何かで動けないのは確定だ。
「早く、確認してとりあえず警察に連絡するとして、あの子らが嫌がる理由は何なのかしら?」
「知るか、さっさと確認して連絡しろ」
そうして洞窟に入ってすぐに灯りを照らして気が付いた。
「ちょ……! これ、死体にまがい物が大量に張り付いてるじゃねぇか!」
行方不明者の死体が何体も横たわった状態で、体には無数のまがい物が懐中電灯の光で反射した。
坂本が酷い落ち込みで叫んだ。
「もう! これこっち案件じゃん!」
「でも、このままでも来てくれる筈なんだがな」
前からそういうのに慣れている古参の1人であるジルには不思議でならない。
しかし、坂本には分かった。
「とりあえず……いや、こっち案件じゃなくて、うち案件になりそう。良く見て、これ呪詛が入ってウネってる」
まがい物の濃い色の中に寄生虫の様な白い細いウネウネ蠢いているのが見え、ジルが1番驚いた。
「ひぃ! 見せんなよ! これのせいじゃん、もろコレのせいで動けないで困ってるじゃん、死体‼︎」
呪詛による影響で、動こうとする死体は何体かあるが、まがい物の力が発動し動かさせない様にしているようだ。
怯えた様に絶叫するジルに対し、冷静にツッコミを入れる。
「死体に愛されし者のクセにビビりすぎ」
「お前、蛆虫だらけの腐り掛けの死体がやって来たら、お前走って逃げる気だっただろうが」
坂本は想像したり昔の死体を見つけた頃を思い出してしまい、気分を害してしまった。
「ゔぅ……」
「それに比べて、イビトはどんな死に方にせよ、ちゃんと消えてくれるだけ有難いよ、肉は腐敗して駆逐され、骨は劣化し砕け消えるまでが時間掛かる分、イビトはどんなに長生きしても最終的に世界が食してくれる」
ジルの話を聞いて、今回のイビト騒動を思い出した坂本が、あることに気が付く。
「確か、日向君が言っていたわ。今回のイビト、これと似たような状態だった。って事は、そのイビトによって精神汚染され、何者かが呪詛により、呪詛生産用に苗床みたいにされた」
良く見ると、呪詛の影響によりまがい物も生成されているのにもジルは気付いた。
「しかも、この様子だと、無理矢理まがい物の生産も出来るみたいだ」
「もしかしたら、イビトは術者に絆され騙された?」
どうやら今回のイビトはたまたま運悪くまがい物を使って精神がイかれたのでは無く、何者かによって仕組まれ、イビトは精神汚染し自分と同じにして連れ去る生き人形にされ、連れ去られた行方不明者達はイビトが消えた後も死んでも尚運用され続けていた。
完全にこれは自分達だけでは手が負えないと判断し、ジルはスマホを触り誰かに連絡しようとした。
「こりゃ、応援呼んだ方が良いぞ。後、番人にもだ」
だが、坂本は妙なところで軽い棘に刺さった感覚を覚え、必死に思い出そうとした。
「んー、でもなんか呪詛が似た様な怪異がこの辺であったんだけど、何って言ったかなぁ。そうだ、丁度この近辺調査して貰ってる子がいるから連絡して聞いて――誰だ!」
思い出せないので、知り合いに連絡を取ろうとした時、気配を察知し後ろを振り向くと、何十人と言う地元の住人が居た。
だが、不気味さが漂い、全員何か手に持っていた。
「すいません、ここの住人の者で、こんなところに来るのは大抵不法投棄の連中なので皆で厳重注意をと、場合によっては――」
警察に突き出すとか温和な会話では無いと坂本は瞬時に気付き、自身の力を使って、爬虫類系の動物達を近寄らせ、隙見て逃げようとするも、どうもあの不気味な住人が怖くて誰も来たがらなかった。
いや、普段だったらどんな不気味な生き物でも助けに来てくれるのだ。
そうだ、あのまがい物の呪詛系に動物の管理者達も近寄ろうとしなかった。
無理なものは無理と判断したジルはもう面倒なので直で話を進めた。
「悪いな、ただの夜道を散歩するのが趣味なんだ、で丁度あんたらの地元の仲間が無惨な死に様になっているのを目撃、あんたら穏喜志堂の新興宗教の信者だろ?」
その時、住人達が不気味に笑い出し、手に持っているのは穏喜志堂の象徴であるペンダントを持って何かしようとした。
ジルはそっと腰に忍ばせた拳銃を手に伸ばす。
直後、雄鹿とリスの鳴き声が響き渡る。
驚いた住人達は辺りを見渡し、後ろにいた住人を見たらライフルを持っており、カサカサと揺れる草木に驚いて撃ってしまい、周りが騒ぎ出し先頭に居た住人が宥める為に後ろを振り向いていたのを確認した坂本とジルは、隙見て逃げ出した。
「――待て! こうなら、撃って……!」
ライフルを持って、2人を撃とうとしたが、もう1人に止められる。
「バカ、これ以上撃ったら怪異が此方に来てしまう。穏喜志堂様が居れば一網打尽だが、万が一もある離れるぞ」
仕留めれなくて悔しがる住人は舌打ちをし、皆と共に帰って行った。
森を抜け、開けた道に出たが、外灯は無く月が田んぼを照らすだけだ。
どうやら、農道に出ただけで、自分達が乗って来た車を取りに戻りたいがこの分だと、既に住人もとい穏喜志堂の信者に見張られているだろう。
坂本はスマホを取り出し、誰かに連絡をした。
「衛すまん、坂本だ」
名前からして男性の様に思えるが、連絡相手の声は女性だ。
「はいはい、坂本さん、今自分は坂本さんに言われた通り、あの地域の祠位置を確認した所、やっぱり怪異の封印してたらしいですよぉ。んだけどもぉ、最近海外の移民ブームに乗ってやって来た連中が祠壊しまくってぇ、ヤバいのが解かれたっぽいんですよぉ、とりあえず先輩がその壊した移民共しばき中で――」
「すまん、今管理者系で仲間と共に例の地域に居て、祠は手順踏んだ上で壊さない限りやった連中に呪いが掛かるんだろ?」
「うわぁ、坂本さん、マジですか! 今どの辺ですか⁉︎ 今から迎えに行きますんで、とりあえず神社向かって下さい! アイツら誰かに金で雇われてやったらしく、手順通りに壊してたらしく――」
「はぁあ⁉︎ 何だそれは! チッ! 通りで追って来ない筈だ、ジル今から神社に……」
この時、心底後悔する事になった。
ジルがずっと遠くに見える白いモヤを見ているのだ。
多分、夜に霧の珍しいのだろうと思っていたがそうではないとすぐに気付いた。
「あれっ? 何だこれ? ――‼︎」
ジルが何かを悟り掛けた瞬間に、坂本は手刀でジルを落とした。
「バカァ! それクネクネじゃん‼︎ 認識絶対しちゃダメなやつ‼︎」
坂本は自身の懐から何かの札を何枚も取り出して、ジルの目に押し当て、さらに取れないように包帯で目を覆った。
女性にしては軽々とジルを俵担ぎで逃げ出した。
「ぁえ? くね?」
「クネクネ! 都市伝説として有名な怪異! 認識したら発狂して最悪死ぬ、完全に認識前に対処すれば大丈夫」
「と言うか、なんで? おま、平気?」
「あぁ、呂律回らないなら喋らない! こちとら爬虫類に愛されし者って言ってるけど、通常の爬虫類じゃない神獣も含まれてるから、予め加護を受けてから来て良かったわ」
「ずる……」
「しょうがないでしょ! あんたの死体に愛されし者は穢れに等しいから嫌がられるのよ!」
走り続けて気が付いた。
勘付いてクネクネが追いかけてきた。
音の無い怪異はどの辺まで来ているか分からないが、かなり近いのは確かだ。
明らかに距離が縮んでいるのを感じる。
坂本はジルを一度置いてから連絡先の仲間と合流してから回収すれば良いのではと考えた。
一応応急処置はした、見えなければ認識しなければ大丈夫な筈だ。
しかし、あの呪詛系の寄生虫と今追いかけて来たクネクネがそっくりな気がした。
「あぁ! ふざけやがってぇ‼︎」
パーツが綺麗にハマった。
「なり?」
「術者がクネクネの一部をまがい物にぶち込んだのよ! しかも、かなり前から念入りに準備もしていたの、昔の時代は口減らしってのがあって、村八分とかとにかく生き残る為に子を生贄にしたりとある場所に捧げたりして、ちゃんと祀りもせずに放置したせいで霊又は力の無い悪霊の集合体が現れ、脳に刺激して発狂し、自分達の死んだ場所へと導いて死に至らしめるんだけど、今は封印と祀りあげてからは、ただの都市伝説になったんだけど、その術者が封印場所調べて、中途半端に封を解いて一部を取りまがい物と混ぜ、イビトに寄生させた。で、コレだけじゃデータが取れないって事なのか分からないけど、完璧に封を解く為、移民達使って祠壊し回って今の状態よ!」
頭来た坂本だったが、この現状の打破は非常に難しく、まだ遠い神社に足を運ぶが、何せ人1人を担いで一定速度で走るのももう限界だ。
もう本当に1人で走るかと思った時、下から何かが浮き上がり、尻餅をついてしまった。
このままでは追いつかれると思ったが、その浮き上がったモノが勢い良く神社の方へと動き出した。
しかもかなりスピードを上げてだ。
クネクネもそのスピードに追い付こうと速くなった。
神社に辿り着くと共に、浮き上がったモノは地中へと消えてしまった。
あれは何だったのかと、考える暇もなく、すぐに神社の鳥居を潜った。
ここは小さな無人の神社で、中を覗くまでもなく祀られていた神様も何者かに破壊されていた。
「ちょっと、完璧に破壊されてるんじゃんかぁ」
仕方がないとジルを下ろして、連絡を始めた時だ。
クネクネがもうすぐそこへと迫っていた。
「げっ! まだ追いかけてきた! おい、衛!」
完璧に破壊されてはいたが、鳥居の中に入れずジタバタし始めるクネクネを見て、どうやら結界はまだ破壊されてはいなかった。
「すんません! 今向かってますんで、もうちょい待ってて貰えませんか?」
今運転中か、エンジン音が聞こえた。
「それが出来れば、もうやってる! 神社に祀られてた像やら札やら全部破壊されてたぞ! それに最悪な事にクネクネが神社の結界を壊そうともがいてる」
「げっ! 先輩、準備!」
衛の隣に座っているであろう男性が話す。
「まだ遠すぎて撃てる自信が無い」
「ぉぅっ……と言うわけで、頑張って下さい、坂本さん! 後、運転に集中したいので電話切ります」
本当に切られてしまい、坂本1人では何も出来ない。
「アース?」
白く大きな蛇の周りに赤い紐がついたアースが坂本の肩に現れ言った。
「無理だな、この神も蛇だったが元々封印する為にわざわざ連れて来た分霊の一つで、本霊に帰ってしまったし、めちゃくちゃ怒ってるぞ、この感じにされたんだから」
運が良かったのか、悪かったのか、別の祟りも無く帰ってくれただけでホッとはしたが、同時に怒りが増した。
「ですよね、知ってた、怒って帰るだけまだ良いわ、後でこっちが謝罪か移民共を贄にしたる‼︎」
無事に帰れたら絶対にシメると心に誓ったところで、ふとクネクネを見た。
クネクネのイメージは手足が異常に長い、真っ白と言ったところだろう。
「ちょっと、複合体はなんとなく分かっていたけど、目玉や頭に手足までめちゃくちゃ出て来てるって、不気味さ増してるじゃないの!」
なんと、想像よりももっと不気味な姿に驚いた。
本体部分からはみ出し、沢山の手足、頭部、目玉も飛び出し、もうクネクネと呼ぶにはおかしいほどだ。
下手に結界が壊れでもしたら、例え加護があってもこちらも発狂しかねない。
鳥居にヒビが入り、危険な状態だ。
逃げるにしても、ジルを置いても不可能、仲間を信じるしかないがいったい何処まで来ているか分からない。
このままでは死ぬ可能性が出た。
鳥居が壊れる直前にまでなった時、地中から何かが飛び出し、クネクネを押し倒した。
月明かりしか光がない状況で見えたのは、とにかく大きな土の塊が居た。
土の塊が大きな口を開け叫ぶ。
「ぐぉぉぉ!」
それに対して、クネクネが長い複数の腕で攻撃をし、土の塊と対峙し、吹き飛ばす。
倒れぬ様に踏ん張って、クネクネに噛み付いた。
クネクネは必死にもがき、再度土の塊を吹き飛ばした時だ。
バズーカ音が聞こえたと思ったら、クネクネの一つの頭部にぶつかり爆発した。
ジープが飛んで入ってき、運転席の髪を金髪にしたせいで痛み、髪の根の方はもう黒くなった浅黒肌の女性が、叫んだ。
「坂本さーん! こっちに早く!」
すぐに自分の仲間だと気付き、ジルを担ぎ乗り込んだ。
「衛! 透馬! すまん、こっちの都合に付き合わせて」
黒髪の赤目の男性がバズーカの弾を入れながら言った。
「そんなのはもういい、早く逃げるぞ、と言うかあの土の化け物は何だ?」
「アイツは殺すな、透馬、クネクネだけ撃て!」
「はいはい」
そのまま透馬は激しい戦いをするクネクネと土の塊に何も考えずにバズーカをぶっ放す。
クネクネが同じ手を喰らわないとばかりに土の塊を盾にするも、いきなりバズーカの弾が曲がってクネクネに命中した。
ずっと見ていた坂本が笑った。
「おぉ! 相変わらずの面白異能だな」
クネクネが倒れ、そのまま土の塊がクネクネを食べ始め、バックミラーでそれを確認する透馬が言った。
「それよりも、この地域はもうダメだ、穏喜志堂の手中に落ちてる、土の化け物がクネクネを倒しても供養してくれる寺や神社が無い以上またクネクネが発生するだろう」
坂本は漸く巻けたと分かって、席に座ってシートベルトを付けた。
「分かった、信仰が変わってしまった以上手が出せん。とりあえず、これは上に報告と身内にも報告だなこりゃ……死体回収出来なかったと」
隣で具合悪くなって一言も話せなくなったジルもだろうと透馬に突っ込まれた。
「それと、そいつがクネクネを認識して発狂寸前だと連絡を入れた方が良いぞ」
「仕方がない白澤に頼むか、そっち系にも強いから」
そう言いながら、坂本はloinで日向に報告ともう1人に受診依頼をした。
もっと夜が深まって行く中、あの土の塊がずっとこちらを覗き、モグラの様な、アザラシの様な不思議な形で土の中を泳ぎながらジープを追い掛けた。