アースの名前
マンションに戻ったらもう昼過ぎだ。
一応loinで約束を忘れてしまってごめんなさい、友達と友達の保護者と出掛けていたと返したが、既読は付いたが返信が無い。
今日、バイト申請書にサインしてもらう日だった事を完璧に忘れていたのだ。
結局、口裏合わせする為、日向が気づかずに勝手に連れて行った手前として、きちんと説明すると言い、皆一緒に謝罪する事となった。
マンション前に到着すると、咲がマンションの扉内で立ったまま怒った表情で待っていた。
これはマズイと皆が焦るも、車出発直後からずっと寝ていた理美が咲を見て言った。
「あっ、坂本さんの担当編集者の人だ」
「えっ? 坂本さんって作家なの?」
「うん、小説書いてるって本人直々が言っていたし、担当編集者の人からは期日守らないって言ってたし」
「そういえば、愚痴っていたような……?」
同居していた時はあまり詮索しないように暮らしていた為、小説系統の編集者としか知らずにいた。
ただたまに、好きな小説家とかいるかと聞かれた時は、漫画系統ばかり読んでいた為にいなかったので、そこまで話が広がらなかったのを光喜は思い出す。
無論ジャンヌも坂本が小説家なのを知っていた。
「そうだ、だが、坂本さん曰くあまり売れていないそうだが、どうだろうな? クラスの女子達が坂本さんの小説が中々手に入らないと嘆いていた」
どうやら、コアなファンしか居ないようだ。
日向は車の中から覗くとあまりの咲からの殺気にたじろいた。
「とりあえず、謝罪しないと、しかし殺気が凄いぞコレ」
皆は困り果てたが、日向は理美にまたお願いした。
「理美――」
ところが、理美はそれを拒否した。
「えぇ⁉︎ 確かに如月先輩がすっぽかしたのも原因だけどさ、1番は坂本さんが先週の期日に逃げたせいで怒ってるんだから、坂本さんを騙して咲さんに会わせれば良くない?」
光喜以外は納得のため息が出た。
そしてジャンヌは坂本をloinである場所に落ち合う約束を付け始め出した。
「君、鬼だな、だが、逃げた坂本さんも悪いし痛み分けと言うわけで、ボクが騙してやろう」
理美に対して鬼と言うが、実際1番楽しんでいるのはジャンヌ本人だ。
勿論日向も楽しみだし、いよいよ坂本を捕縛作戦が始まった。
「気をつけろ、アイツはちょっとした事で勘付くから」
「安心しろ、アイツのアースにすら、こっちに加担する程信頼関係は皆無だ」
が、その前に、冬美也は窓側を見ていった。
「めっちゃ見てますよ、咲さん……」
鬼の形相の咲がめちゃくちゃ車に気付いて覗いていた。
冬美也以外全員声が出た。
「あっ」
この後、車から飛び出し光喜と日向はすぐさま謝罪をし、詫びで坂本を誘導し捕まえる事を約束してなんとか許された形となった。
マンション内にて、咲は光喜に言った。
「ほんっとに心配したんだからね!!」
改めて叱られ、光喜は深々と頭を下げ謝罪した。
「誠に申し訳ございませんでした!」
「行くなら前日でも良いから言って」
「はい……」
それでも咲はホッとしたと同時に光喜が普通の高校生になって来ているのだと分かって安心していた。
「まぁ、少しは男の子らしく戻って来たから良いのかな?」
「えっ? どういう?」
「思春期前後にあのビル崩落事件以降、たまに見には行ってたけど、生きるのに必死だったし、何かにすがっていた様にも見えてたけど、連れて行くって決めた時、もう生きるのが辛い、生きたくないってのが伝わってきてね。もう本気で死相が出てるって言ったの方が早い位で、鬱って診断貰ってもおかしくなかったわよ」
親よりも心配してくれる咲に対して光喜は、前まであった申し訳なさと今の申し訳なさが若干変わっている気がした。
今まではずっと感謝と罪悪感がずっとあり、少しでも変わらなくてはなのと早く安心させてあげたいと言う気持ちが先走っていたが、現在は嘘を付いていなければいけないと言う罪悪感と、もっと1人で足を踏み出さなければと言う気持ちだ。
だが、感謝の気持ちは忘れてはない。
それにきっと、もっともっとそういう事が多くなるに違いないのだ。
「確かにそうだけど、高校行って良かったし、あの時咲さんが来てくれなかったら、気が狂う一歩手前だったんだよね、俺。だから本当に感謝しかなかったのに、連絡し忘れてごめん」
何度も謝られては流石に咲ももう十分だと感じていた上、つい笑ってしまうもの日向との会話を思い出していた。
「良いのよ、入学式の後に会った先輩の子のお世話係って言っていた日向さん? まさか坂本辰美の知り合いだったとは……世間は狭いわぁ。そして裏切って随時場所を教えてくれる約束してくれるなんて坂本一体何を仕出かしているんだか」
あまりの礼儀正しさと謝罪に、坂本経由で咲の事を聞いたと言う内容で始まり、その後咲が不満を漏らしたことにより、ずずいっと迫る様にもし何かあったらと坂本の居場所を把握した後随時教えるのでと言ってくれた事で、話はそっちに流れ、いつの間にか解散した。
「そう、あはは……」
こればかりは目が合わせようのない内容だったのを光喜も思い出しなんとも言えなかった。
流石、明智光秀と言うべきだろうか。
いや、違うかと頭を振るった。
ただ咲からこんな話をしてくれた。
「でも、坂本に感謝しているのよね」
「えっ?」
「さっきも話したでしょ? あなたを連れて行くって、あれね、坂本が今すぐ会いに行けってあなたが自殺するかもしれないって言われてね。まぁ確か、電話越しでネタが無いからって泣き憑かれて、身内ネタするの嫌だったけど渋々軽くね、そしたら、先の事を言われて怖かったからその日に行ったのよ。本当に死相出てたし、このまま放って置けなかったし、だから感謝しているのよ。それじゃコレ書いたから、後行くなら軽くで良いから連絡よ。今度こそ回収せねば」
感謝はすれど、それとこれとは別であり並々ならぬ殺気が咲から出ていた。
咲はちゃんとバイト申請書に保護者欄にサインをし渡した。
「うん、ありがとう」
そうして咲は手を振って、部屋から出て行った。
光喜のアースがいきなり言った。
「お前、その坂本が助けたと思っているが、多分あの小娘の方だぞ?」
「うわぁ! いきなり出て来ないでくれ! と言うか、小娘って誰?」
「黒髪の方、着くまでずっと寝ていた方」
「理美ちゃん?」
「そう、あの時会話がチグハグなのに、周りはそれに合わせ出したし、何より信憑性として、咲って言う女の話そいつが1番しっくり来た。きっと予知系か何かだ。大半の予知預言者をあの頃から見て来たが、本当にある奴は王やトップの側近なんてしない、もし出来たら殺されるからな。まぁおれが居た国ではの話だが」
アースは背伸びをした後に、ソファーに寝転がった。
光喜もその内容に納得もしたし、後半の話も修学旅行中に軽く聞いていたが、アレは御伽話では無く本当に処刑していたのかと引もした。
「確かに、電話越しでの辺りでもし近くに理美ちゃんや冬美也達が居ればそういう話が出るのかも……てか、あの話作り話や御伽話じゃなかったのかよ⁉︎」
アースは何を今更と言いたげな顔でいたが、それよりももっと重要な話をしなくてはと話だす。
「別に真相なんて知った所で役に立たないだろうよ。それと、そうだ前に世界がイビトを食する話をしたな」
「したね」
思い出した今、大分気持ちの整理も付き、未だに殺す度胸なんて皆無だ。
しかし、一度殺されかけたのもあって、少し考え直すべきだとも思っていた。
アースが話す内容は意外だった。
「これにはもっと詳しい内容がある。大体の人間には関わらないから端折ったが、実際の大半は昆虫、微生物に動物と言った生き物がかなり小さな亀裂の穴に迷い込んで、無意識に食され栄養になる。例え残っても、人の目に触れられる前に動物系、虫系の管理者達が殺すからまず見る事も触れる事も無い。が、イビトは違う。亜人ならともかく、人とイビトは見た目も一緒だから勘違いする。特に同じ人物が居れば尚更だ」
「それって……どういう?」
「人生の乗っ取り、言い換えるとドッペルゲンガーと呼ぶ幽体離脱とか生き霊とかの魂系を除き、瓜二つのイビトが凄い近くに居た場合、ソイツが強い根持ちとコッチの住民の根吸われて行きが弱っていき生きて行けなくなる……だけなら良いが」
最後の言い方には光喜が怯えてしまった。
「全然良くないない! ほぼヤバい系じゃん‼︎」
いつものと流され、一切気にせずアースは話を続けた。
「まぁ体が弱っても、ちゃんと周りが最後に看取れば良いんだよ。弱ったところを殺すんだ、異世界に突き落として」
「突き……」
「だって、何処かに捨てるには異世界に食して貰えば良いんだから、例え生きていても管理者に殺して貰える、自分はその住人に化けて平然と楽しく暮らすんだ。だが、管理者にバレれば盾も矛も容赦無く殺されるがな。その前に気付いてちゃんとその住人を守ってやれるのもお前ら管理者だ。一々殺すのを躊躇うな、殺されそうになるまでのんびり待つな」
流石に釘を刺されてしまうも、まだ迷いがある顔をしてしまう光喜に頭を抱えるアースだったが、光喜はある事を思い出し聞いた。
「そういえば、俺の愛されし者ってなんだよ? いきなり吹っ飛んで行ったり、地面にめり込む勢いで沈んで行ったっし」
「どんな星も回っている恩恵で地面に足が付ける、飛ぶと言う行い、水の中を泳ぐ事も落ちる事も出来るのを対して、人が付けた言葉、それが重力だ。重力に愛されし者、それがおれが光喜に与える恩恵だ」
光喜はここで漸く自分の愛されし者の正体が分かって全て理解出来た。
「そうか、だから力が使えなかったように見えたのは使えたけど外れていたのに気付かなかったからか」
攻撃したと思っても形の見えない力な為、外したかどうかも分からなかったのだ。
アースも自身の与える恩恵が癖があり過ぎて与え過ぎても与えなさ過ぎても難しい癖があるのを知っているからこそ、絶対に慣れるまではさせれないと分かって言った。
「そういうこと、だが、これはまだ守備範囲をきっちり理解していないお前が使える最大だ。これ以上使うとあの辺どころか皆潰れるわ」
ここで光喜はずっと考えていた事をアースに伝えた。
「後、アースの名前が決まった。お前の名前はこれからニュートンな」
それは自身のアースに対しての名前だった。
「はっ?」
アースはどう言う事だと言いたかったが、その前に光喜が説明した。
「確か、りんごが落ちたのを見て重力の発見した人がニュートンだったからと、周りは皆自分のアースはアースとして呼ばないし、ややこしいから」
「いやいやいや、そんなの付けなくても良いだろう?」
光喜が付けた名前が気に入らないわけでは無いが、自然と皆アースと呼ばない分、極々当たり前だったのだろうが、どうもそれに対して違和感があったようだ。
その為、いきなり名付けられても困る。
ところが光喜は意外と押しが強かった。
「そうかもしれないけど、もしかしたら意外と他の管理者にもアースに名前付けてるかもだし、良いだろニュートン?」
必死に止めたいアースだったが、いくら言っても多分言いくるめられそうな未来しか見えてこず、それどころか今ここで拗れても、まがい物無しでは力が使えないのもこちらも同じなので渋々了承するしかなかった。
「――……! ……分かったよ、好きにしろ」
「よろしくニュートン」
光喜はアース改めニュートンと握手をした。