謝罪
冬美也が未だに気を失っていたフィンを起こす。
「おい、ゼフォウしっかりしろ」
起こされ、首辺りが痛いのかフィンは触りながら起きた。
「うぅ……あれ? 冬美也、そうだ、光喜は? 無事に逃げたか?」
「その逆だ馬鹿、あの土煙と爆発のせいで自分で気付かないトラウマが蘇って動けなくなってたんで、捕まったんだよ」
事の説明によりフィンは驚愕した。
「はぁ⁉︎ まじかよ!」
逃すチャンスを作った側からしたらそうなるに決まっている。
謝罪はするも、光喜はフィンに対して怯えていた。
「ごめん、なんか辺り見えないし、気が付いたらフィンが気を失ってるしで近づこうとしたら、足が震えて動けなくって……と言うか、フィンは爆弾を所持してるの?」
先の爆発で、フィンが爆弾を所持しているのではと勘繰っているのがフィン自身にも伝わり、フィンは笑って上着やポケットを裏返し見せながら言った。
「いや、持ってないしそんな物騒なもの」
その回答に光喜は察した。
『実は全て使い切ったのでは……!』
あの爆発で全て使い切ったのではと逆に疑われた。
ジャンヌは呆れてため息を吐き、フィンと冬美也に言った。
「フィン、お前言っていないのか? 自分の事、冬美也も」
冬美也はあまり話したくない様で、困ってしまう。
どうやら光喜を信じてはいるだろうが、どこまで教えれば良いか分からないようだ。
「えっ? いや、怯えられても困るし、世間にバラされても困るしだから言ってない」
「あぁ、確かに、でも管理者と協力する協力者なら別段大丈夫だろう? 万が一話した所で、頭がおかしいのは世間に話した側なんだから」
納得はしてくれているが、どうせ世間は信じてくれないのを1番知っているジャンヌだからこそなのだろう。
が、こんな会話をしているのに関わらず、フィンはまるで本来の目的はこっちとばかり話だした。
「所で、まがい物って落ちてる?」
ジャンヌが怒って言った。
「まーた、こいつは、無い! 今光喜のアースが処分中だ」
「うっそ! せっかく来たのに〜!」
フィンの態度に皆が呆れる中、光喜は乾いた笑いをしながら心ではこう思っていた。
『というより、スナック感覚でずっと食べてるけどね』
光喜の隣でアースがバリボリと音を立てながらまがい物を貪っているので、何とも言えなかった。
それとなく、光喜は自身のアースに聞いてみた。
「ねぇ」
「なんだ?」
「まがい物って価値があるの?」
「あぁ、あるぞ。何せ扱い方さえ間違えなければ、人間の考える賢者の石とあまり変わらん、だが欲に支配され自我を失い、最後は乗っ取られ、先の状態になる」
「でも、フィンは違うと言って俺に来たのは?」
「……多分、これのせいだろ。よく見ろ」
アースに促され、光喜はあの死んだイビトに転がっていたまがい物の一部に黒く燻ったまがい物が落ちていた。
どうやらそれだけは決して触らず食べようとしなかったのに疑問を持った。
「何? 焦げた?」
「それで焦げれば苦労はしない、手は触れるな、その中に変な呪詛による化け物が潜り込んでいる」
光喜はアースに言われた通り、触らずによく見ると何か寄生虫の様な生き物が蠢いていた。
「ひっ!」
理美も興味を持って近付こうとした。
「どうしたの? 先輩?」
理美のアースが大声で止めたのに驚いて、光喜も振り向くと直後にそのまがい物から寄生虫の様な生き物が出てきた。
「近づかないで!」
「アース?」
「しまっ……!」
光喜が慌て理美に逃げるよう言おうとした直後、地中から何か口の様な大きなモノが寄生虫様な生き物を全て食べてしまった。
「えっ? 今のは?」
声に驚いた冬美也達がどうしたのか駆け寄って来た。
「どうした! 何があった?」
「い、いや、い、今まがい物から変な虫? 寄生虫? が出てきて嘉村さんを近づかせない様にしたら、土から鯨みたいにそれを食べた」
「はっ?」
確かにありのまま話ても理解は得られないのは当たり前の反応だ。
光喜は指差して焦げた場所にあったまがい物を伝えるも、冬美也には伝わらなかった。
「ほ、本当だよ! さっきまでそこにあったのが消えたんだ!」
「お前のアースが処分したんじゃなくて?」
その会話をずっと見ていた光喜のアースが言った。
「光喜、伝えかた下手か? 呪詛を感じて処分を見送ってたら、呪詛で作られた虫が出て来て土に潜ったで良いだろう?」
後半はどうせ話ても伝わらないので、誤魔化しも入れ話の筋を通した内容も理解出来るが、どうしても光喜は納得出来なかった為、アースに噛み付く。
「えぇ、どう考えても喰われただろう。こうゲームのパックンフ○ワーみたいに」
「ゲームは知らん」
「Win-Winは知ってたくせに!」
管理者の理美やジャンヌはこの会話は見えているが、他はただの独り言にしか見えないので、下手すればただの頭のおかしい人だ。
流石にリスが理美にこそこそ話、理美に通訳させて止めに入る。
「“おい、このまま喧嘩するな、側から見たら頭のおかしいやべぇ奴だぞ?”」
「お、おう、というかあの炎は? 冬美也?」
そういえばジャンヌと冬美也の会話を聞いてた際、もしかしたら異能者ではと感付き、もしかしたら助けてくれたのかと思っていたが、リスは怒っているのが見えた。
更に理美の肩に見知らぬ孔雀の様な炎纏った鳥が止まっていた。
「“阿呆が、このわれ、炎に愛されし者のジャン○ー様が――”」
途中でリスが理美に向かって怒り出した。
「ちーちちち! ちちっち!」
「理美、さりげなく名前を付けるな、後それ猿が出てくるアニメに出るリスだろ?」
呆れる冬美也を見て、光喜はあの猿のアニメが好きなのか聞いた。
「嘉村さん好きなの?」
「いや、たまたまエビッターで流れてきたので知ったらしい」
「そっちかぁ」
あの呟きサイト、エビッターで何が流れてきても納得しか出来ない。
リスは理美に叱った後に話を戻した。
「“全く! 人間は意味のわからん娯楽を作り過ぎだ! もうそれは置いといて、そろそろあの雄鹿も来るし、一旦ジルに行方不明者の捜索を頼むとして、まだ若人はこれ以上踏み込むのは危険だ”」
その言葉と共に草木が避ける様に動いたかと思えば雄鹿と日向がやって来た。
雄鹿は真っ直ぐ理美の元へ行き何かを話し、理美はそのまま通訳した。
「“リスの言う通り、君らは一度戻りなさい。それと先の爆発でこの近くの住民が気付いたから、何か言い訳でも考えなさい”」
日向はフィンに対して叱った。
「フィン、お前また使っただろう! もう少し爆発を抑えろと言っているだろう」
問いにフィンは答えるも、自分も驚いているようだ。
「ごめん、いきなりイビトが来るんだもんよ。吹き飛ばそうとしたら、俺らが飛んだわ」
どうやら本人が予想外の展開だったようで、まがい物が付いたイビトに言ってしまえばカウンターをかまされ、自分達が逆に飛ばされてしまった。
日向はふと見知らぬ少年を見つけ、それが光喜のアースだと気付いた。
「たくっ……とりあえず、皆が無事で良かった。それに光喜君のアースが出て来てくれたみたいでホッとした」
光喜のアースも笑いながら言った。
「おう、一度壊れたがなんとか修復したわ」
どう言う事だと皆の顔を見るも、全員よく分からず仕舞いな上、よく見ればまがい物をお菓子感覚でまだ食べていたので、日向が心配した。
「おいおいおいおい! 大丈夫なのか? 下手に乗っ取られたりしたら」
「今は様子見しかないし、下手に腹を空かせていると動かせないし、また暫く姿を消されても困る」
ジャンヌも本当は食べさせる気は無かったが、こうなるといざ何か遭った時に戦えなくなる可能性が大だ。
理解はしたが、このまま食べさせても大丈夫なのかとやはり心配してしまう。
「しかしなぁ……」
日向は頭を抱えていると光喜に声を掛けられた。
「あ、あの!」
「どうしたんだい?」
「イビトの件でその、本当は優しさでならべく遠ざけくれてたのに、ジャンヌ先輩と日向さんに迷惑掛けて、すいませんでした!」
いきなり謝罪を受け日向もジャンヌも驚いた。
続いて、冬美也達の方を見て光喜は続けて謝罪する。
「俺の為に、色々してくれているのに今回無理矢理付いてきて、命の危険を晒す程危なかったし、たまたま運良くアースが出てきてくれたから助かったけど、皆に迷惑掛けて本当にごめんなさい」
驚き過ぎて、皆が呆然と立ち尽くす。
きっとイビトがただ可哀想から、下手すれば命の危険性を別視野で見えたからのと、実際手に掛けてしまったがあのままにしておけばもっと被害が出ていたに違いない。
光喜なりに今回成長したのだろう。
日向はその姿を見て言った。
「いや、優しさというより、覚悟がまだ決まっていない状態でいけば、光喜もだが皆の命の危険性が高まる。今回のイビトは少々特殊で危なかった。でも、少しでも我々と共に歩んでくれようとしてくれてありがとう」
まさかのお礼に光喜は頭をあげたと共に、ジャンヌも光喜に話し掛けた。
「でも、光喜、ボクに言った言葉はまだ覚えているか?」
唐突にあの時激情に任せて口走った言葉を光喜は思い出しながら言った。
「何もしてこない無害なのに殺すのは意味が分からない……です」
「うむ、そうだ。だが今回は命の危険性も伴った、だからもっと考え、最初に言ったがその気持ちを決して忘れるな。化け物になった連中は一生分かり合えず仕舞いだから、お前はなるな」
ジャンヌの言葉には過去に苦い経験をしているのだろう。
ただでさえ彼女の歴史を紐解けば、最後は裏切られる運命だった。
日向も歴史を紐解けば裏切る運命であっても、それでも何かきっかけが無ければしない人に見える。
そんな人達が話し合い処か、一生分かり合えないとなると相当なものだろう。
光喜は肝に銘じ答えた。
「はい!」
日向はホッとし、この後の話へと戻した。
「後はあの爆発の件と行方不明者は坂本やジルに頼もう。流石に光喜君も続けて捜索も無理だろう? 1人で帰すわけにも行かないし」
確かに日向言う通りで、このまま居ても爆破の影響でいつ人が来てもおかしくなく、かりに来なくてもこれから改めて行方不明者を捜索するにしても光喜の体調を考慮し、もう引き上げ、雄鹿の言っていたジルと坂本辺りにでもお願いすることにした。
ただし、もう1人に対して不信感から冬美也も賛同し、周りも納得させた。
「それもそうだな。それに、万が一まがい物があるとこのバカちょろまかしそうだし」
勿論、フィンの態度でだ。
周りもあぁと声を出す程に納得してしまった。
日向は皆を数えてギリギリだなと呟き、光喜に言った。
「君らも車に乗りなさい。片道切符代だけでも相当だろう」
高校男子3人財布を確認せずとも帰りを考えれば持ちはするが今後は貧しい生活が待っていた。
3人は顔を合わせて頷き、日向に頭を下げた。
「すいません!」
「ありがとうございます!」
「本当に何から何までごめんなさい!」
何かを察した理美は言った。
「あっ人来ちゃう。不発弾が爆発したことに」
どうやらもう住民達が気付き、様子を見に来たようだ。
しかし、これから帰ると言う時に不発弾が爆発したと言えば、ただでは済まないだろう。
リスと雄鹿に至っては住民の気配を感じて逃げてしまったいた。
とにかくジャンヌは理美に言った。
「1番それは言ってはいけない」
日向と冬美也も考えるも、どうも今ひとつの回答だ。
「とりあえず、爆竹のせいだとでも言うか?」
「いや、フィンに押し付けて逃げる」
『おう、さすがに無理があるぞ……!』
どうして自分を使おうとするのかとフィンは思ったが笑っているだけにしておこうと何も言わなかった。
理美のアースが理美にこっそり指示した。
「なら、こうしましょう。ちょっと力を強めにしておくから、理美、爆竹しただけと言って」
「分かった。ちょっと言ってくる」
日向も理美について行った。
「なら一緒に行く、補助的な意味で言い訳がいるだろう」
「うん」
そうして、理美の全ての生物に愛されし者の力でなんとか誤魔化し、皆は車に乗る事が出来た。
ただ、数時間は掛かる気でいたイビトに関してはあんなあっさりとしかも、光喜が居たからとも言えるだろうが、明らかな自分達に対して邪魔もあり、気が掛かりも多いものの、この後の行方不明者の捜索に入る管理者達に頼むしか、日向には今は無かった。