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覚醒

 爆発に巻き込まれ、吹っ飛んでしまった光喜は土煙のせいで何も見えない。

「逃げ、ゲホッ、無理だろ、コレ!」

 咽せながら走るも、辺りが見えない以上下手に動けないが、とにかく走らなければと走るも木々が逃げている様に見えた。

 後ろを振り返ると、土煙が無くなり、視界が広がって行く。

 その先にフィンが気を失っていた。

 光喜は行こうとしたが、あの時のビル崩落事件のせいなのか、恐怖ですくんで足が震え動けない内に、フィンに近づくあの不気味な青年が居た。

 フィンをわざわざ頭で持ち上げ、確認する不気味な男はフィンを見つめ、投げ捨てた。

「これ、じゃ、ない、これは、違う、こっち、だぁ」

 一瞬にして不気味な青年の顔が目の前にあった。

 光喜は逃げようにも既に両手が首を掴まれ、勢いで押し倒された。

 首を絞められ苦しくて嫌がり、その腕を退かそうとするが、そこから小さな無数の腕が生えて来て、光喜の手に絡み付いてくる。

 息が段々出来なくなり、意識が遠退くも相手は笑い続け、徐々に侵蝕しているのが嫌でも自身の肌で感じ取れ、足を動かすも、足からも無数の小さな腕で抑えられた。

 本気で殺すならもう殺すだろうが、何故か殺そうとせずもがき苦しむ光喜を見て楽しんでいる様に見え、ここで自身の体に入り込もうとしているのだとかろうじて頭が回った。

 しかもゆっくり着実に浸透させるため、生かさず殺さずを徹底している。

 服の下にじんわりと人の感触が伝わり気持ち悪さが勝り吐きそうになるも逃げられない。

 呼吸をする為に必死で口を開け続け、抵抗するが動きを封じられ唯一声だけが何とか出せた。

「い、やだ、はなっせ!」

 だが、ゆっくり青年の顔の皮膚が落ち、無数の小さな手が伸びて来た。

 ここで初めて食われると言う実感が湧いた。

 ただ、同時に何か似た感覚を思い出す。

 吸い込まれる様な、何処か懐かしい感覚を――……。


 2年前だ。

 光喜は目を覚ますと真っ白な空間に居て、辺りを見渡すと大体10歳前後の色んな処に包帯を巻き、それを隠す為に群青色のローブを羽織り、笑う葉が獣の様な少年が座っていた。

 驚いて第一声がこれだ。

「なんだこれ! なんかの扉みたいな世界だ!」

 しかもかなり興奮している光喜に少年がドン引きした。

「もっと怖がらね普通?」

「あっごめん、アプリ漫画でハマってて」

 光喜の垢抜けた表情に少年は呆れながらも説明し始めた。

「まあ良いや、こういうバカというかアホというか、まじお人好しというか、とにかく垢抜けた奴を探してたと言うか、実際は早く探さないとビル計画で、この辺潰すんだと、儲けあるのに意味わからねぇ。折角地上に出たのに、またビルが建てば地中深くに埋められると、またうん十年いやうん百年埋まりっぱなしになるだろうし、流石に面倒になってたし選り好みするのも飽きたんで、たまたま転けて触ったお前に決めた」

 少年にあまりの酷い言われようで光喜はショックだ。

「なんか酷い事言われてる! しかもたまたまってどういうこと⁉︎」

「だって、アースって皆適当だぞ? 気まぐれで頑固が多いし、とにかく面白い奴を選ぶんだ、皆より凄い面白い奴を選んで驚かすのがアースの醍醐味なのよ。実際近くに来たアースと軽い挨拶の際、管理者になった連中は面白い奴ばっかりだし、おれも面白い奴連れて驚かしたいと思ってたけど、選び過ぎて飽きた。そして悟った、普通が1番面白い」

 理由も酷過ぎて絶句した。

「えぇ……」

 光喜が引いているのを知ってか知らずか、早めに話を進めだす。

「あぁアースって言うのは光も通してしまう程の透明な天然の賢者の石な」

「凄い適当だな! しかも勝手に話を進めるな!」

「すまん、漸く動ける喜びで決まり事を忘れてたわ」

「はっ? 決まり事?」

 アースは嬉しいのか話出すも、顔があまりに怖かった。

「そう、アースは世界に渦巻く色んな欲や感情が凝固して濾過されたのがおれらアース。世界は純粋だ、優しいは無いし悪事も無い。でも、自分じゃ食事をする事で難を回避するので手一杯だし、エネルギー消費も最近酷いし大丈夫なんかよって心配なんだよねぇ。だから異世界から来た連中は迷わず殺して少しでも世界に消費の循環を整えるのがおれらの仕事で、後はおれらを濾過した時に出た残りカスのまがい物の回収破壊も含め、それが主な仕事だよ」

 多分、純粋に楽しんでる。

 人がどんな反応するか、まるでサイコパスのような感覚と一緒なのだろう。

 光喜はそれが怖かったと同時に話が付いて行けていなかった。

「ちょっといきなり過ぎて話が付いてけないし、何? 異世界から来た連中って!」

 声を荒げる光喜に対して冷静になったアースは言った。

「めっちゃ元気な奴だなお前、普通に言っちゃうと異世界から来た人間又は生物を殺す事」

「そ、それって殺人」

「何言ってんの? あぁ、文化のせいか? 人間が1番バカばっかだよね。やっぱ猫でも良かったな、あぁでも猫選ぼうとしたら管理者で諦めたんだった」

 顔を青ざめる光喜に呆れるアースが失敗したかなとボソッと呟いた。

 光喜はこんな酷いことしか言わないアースにだけは言われたくはなかったし、もっと相応しい言葉が出てきた。

「とんでもない奴に選ばれた気がするのは何故」

「話ズレたな、人間が1番人殺して動物殺して食って土地奪って文化作って来たクセに今更だろ? それに殺しても異世界から来たアイツらは食われて消えるからそんな焦らんでも良いだろ?」

「考え方がエグい」

「エグくない、教育から生まれた感情って事で理解しておいてやるが、お前はおれが選んだ以上その運命にも宿命にも逆らえない」

 光喜は意味の分からない事をベラベラ話すアースに対して、自身の名前を伝えていなかったのもあり、苛立っていてもちゃんと名を教えた。

「お前お前ってなんだよ、俺は如月光喜だ! それと、アースで良いのか? なんでそんな上目線なんだよ!」

「……はっ? だっておれ、お前より長生きしてる」

 確かにこの態度と話の内容を多少整理するとかなり歳上な感じがしたが、それでも態度が気に入らなかった。

「こんなところで年功序列を出すな!」

「まぁ、言い合えるのは脳がきっちり育ってる証拠だ。 

 如月? 光喜? どっちが苗字だ?」

 光喜はそれでも、アースの問いにはちゃんと答えた。

「如月だけど?」

「じゃぁ光喜、何回か蘇れば悟る様にはなるだろうし、勝手に絶望して死ぬにしても自分がやる定めと向き合えるだろうから、気長に待ってやるまでだな」

「何回? 蘇る?」

「言ったろ? 天然の賢者の石って、でも不老不死なんてもんは無い、おれらは選んだ後はゆっくりすり減っていく消耗品だ。だが、その間は光喜や他の連中も不死鳥の如く、何度も寿命と共に深い眠りにつき、今度蘇ると同時に最初に出会った姿へと戻る。まぁ大抵のアースは多分おれみたいに全部話さん、頭がいかれる奴になっちゃうから」

 アースは一通り話きったのか、背伸びを始めた。

 流石に最後の言葉に光喜が聞く。

「なんで喋るの⁉︎」

「面白面倒から」

「どういう意味?」

「光喜の反応が面白いのと時期を考えながら話すのが面倒い」

「酷い! ドSだ、いじめっ子だ! 悪魔だ!」

 やっぱりこのアースはサイコパス気質だと光喜は思った。

 ここまで言われても、全く動じないアースは己自身分かっているのだろう、途中で笑っていた。

 そうだとばかりアースは最後に言わなくてはと話す。

「まぁ、光喜はまず、愛されし者って皆言ってるんだが、要はおれから供給される力を使えるけど、なにぶん使い方がクセのある分類だからとりあえず感覚掴むまでは、先の二つはやらんで良い」

「えっ? しなくて良いの?」

「感覚掴むまでだ、その後はちゃんとしてもらわないと……?」

 何か違和感を光喜も感じ取り、辺りを見渡せば白い空間を無理矢理こじ開ける手が見えた。

 徐々に広がっていく亀裂に、危険を察知し、アースは光喜に言った。

「光喜、お前は目を覚ませ、コイツはおれに用があるみたいだ」

 明らかにアースの態度からも光喜が狙われている空気を感じ取れ、目を覚ますにはどうすればと焦る中、白い空間が破壊され、破壊した者の見えたと同時に顔がこちらを見た瞬間、目を覚ました。

 

 同時にあの時の記憶だけ抹消され、今の今まで何故思い出せなかったのだろうか。

 しかも、かなり前からイビトに関するの話も聞いていた。

 ただ、クセのある分類の愛されし者とはなんだのか、まだ聞いていない。


「なら、今実践するか?」


 その声に無意識に反応し、自身の両手に絡まった無数の小さな手を振り払い、手をかざした。

 直後青年は吹っ飛んだ。

「はぁ……はぁ……はぁ」

「流暢に呼吸してるな、次来るぞ」

 青年の顔が潰れているにも関わらず、光喜に近づいて来た。

 再度力を使おうとしたが、上手くいかない。

「今の偶然⁉︎」

「偶然じゃない、見えづらいし、下手に力を渡し過ぎてもあのイビトの後ろで気を失ってる奴にまで攻撃してしまう」

 漸く、光喜は隣を見て気が付いた。

「アース⁉︎」

 光喜のアースが立っていていた。

「そうだよ、たくよぉ体が治らねぇからしょうがないからまがい物を使って金繋ぎみたいにしたら上手く行って、お前も記憶戻ってWin-Winってやつ?」

 光喜は嬉しいのやら怖いのやらとにかく会えて良かったのと、よく分からないがまさかその様な言葉を使うのは驚いた。

「アースからそんな言葉が出るのか」

「まぁ、思い出されなくても見てはいたからな。仕方ない、近づいて来たら、もう一度だ」

 しかし、また先の様な一気に近付かれたら危険だ。

 それに、あの時首を絞められ、生々しい程に触られたあの感触がまだへばりつく。

 立つのもやっとな状態で、次また同じ状態になったらもう体力的には無理だ。

 さっきみたいに上手く行くだろうかと不安になっていると、また再度光喜の目の前に来た。

「3、2、1、今‼︎」

 後ろから声が聞こえたかと思えば、それと共に青年から炎が舞い上がる。

 アースが何かに気付き、光喜に言った。

「今だ! 光喜やれ‼︎ 今度は下に向けろ!」

 光喜は手をかざし、下に行くよう念じた。

 燃え上がる青年はいきなり立っていられなくなり倒れ、押し潰されているのか地面が凹んで来た。

 だが、青年は無理矢理立ちあがろうとする。

 炎も弱くなり、光喜自身も感覚的にだんだん力も落ちている気がした。

 このままではまずいと諭すと、今度は上から声がした。

「そのまま、押さえ燃やし続けろ」

 ジャンヌが空から降りて来て、風で空気を送り炎も燃え続けた。

 青年は再度押し潰され、燃え上がる中、光喜に手を伸ばし、伸ばした手からまた伸ばしを繰り返し、顔まで近づいたが、そこから手が落ち、燃えて燃えて燃え上がり、骨とかした後ゆっくりと空間が歪んだと思えば骨は消えてしまった。

 代わりにまがい物が沢山落ちていた。

 光喜は殺してしまったと言うより、漸く恐怖から解放された方が上回って、腰が抜け座り込んでしまった。

 ジャンヌが光喜に駆け寄って言った。

「大丈夫か? 怪我とかは?」

 光喜もどう話せば良いか分からなかったが、あの時の感覚を思い出して体を震わせながら話す。

「分からない、ただ、殺されるかと思った。でも、殺さずに俺を食べる? 体の皮膚をダラダラのドロドロになって体に入り込もうとしてた」

 その話を聞いた光喜のアースは言いながら倒れてしまった。

「大丈夫だ、逆に食ってやったから体には影響が無い、が、腹減った」 

 本当にお腹が空いているようで腹の虫が鳴っていた。

 光喜の後ろから理美と冬美也がリスを連れてやって来た。

 理美が自身のアースに聞く。

「アースってお腹空くの?」

「ありえないわ。基本は人間の第三欲求で言うものは無いの。でも確かにお腹を空かしているわね?」

 理美のアースが光喜のアースに近づき、凄く不思議な顔になっていた。

「仕方がないだろ。おれは一度破壊されたんだ、イビトの異能者に」

 その言葉にどういう事だと驚きを隠せず動揺してすらいた。

 1番動揺していたのは、光喜だったが、当のアースはずっと腹減ったとしか言わず、破壊されたことすら気にしてすらいなかった。

 

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