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イビトになった側

 近くの広い公園まで歩きながら冬美也はゆっくりと語った。

「あれは1年くらい前だ、飛行機事故知ってるか? 日本発アメリカ着の飛行機が途中で信号が途絶え行方不明になった話」

 その話は光喜でも引きこもり時代でも知っていた。

「飛行機遭難事故だよな? あの時はビル崩壊事件の約半年後にあって、流石にあのニュースは引きこもってた時でもネットとかでは見てたから知ってる、何日も過ぎた辺りで破片が見つかって、生存者が絶望だって話で数名生き残ったって言う話」

 当時は相当のネットの盛り上がりに少し引いてしまった。

 陰謀論やテロによるもの様々な憶測が飛んだ。

 それでも所詮は一般の考えに、的外れな言い分には誰も関心が無く、とりあえず面白半分でからかって遊んでいるのが、今なら良くわかるし、そんな奴らに人生を狂わされたとも言えた。

 冬美也はそうだよなぁと呟いた後に言った。

「あぁ、これには裏があって、飛行機ごと異世界に転移した。そんでもって目が覚めた時、ジャングル見たいな森の中で、気付いた頃には大半の乗客がその世界に食われたり、モンスター並みな芋虫とかに食われたり、お互い疑心暗鬼なって殺し合った奴らもいた。それでも数少ない乗客とオレは生きて何とかジャングルから抜け出そうとしたが、この世界の管理者に追いかけ回され、たまたま運良く異世界に通ずる穴が空いて、時間がなくってそいつら戻すのに自分が犠牲になって、馬鹿やったよ、そのせいで殺されかけたんだから」

「飛行機ごと⁉︎ と言うか、冬美也も遭難者だったのか⁉︎」

 光喜の驚くポイントに、冬美也の方が驚くも話を続けた。

「驚くとこそこ? でも、よく分からないだろうが、異世界に堕ちたなら、管理者達がこの世界に知られない為に、情報操作する。助かった時は確か知り合いがあの後の処理してくれたから、遭難者に対するプライバシーは護られたが。どの異世界にも盾と矛は存在してるみたいで、殺される直前に盾の領域に居て、とりあえず保護して貰えたが、アイツら言ってただろう? ルールを守れなければ殺すってアレな、ちゃんとしたルールを守っていても、矛には過激派ってのが存在していて、居るだけで危険視されまた命を狙って来た。ちょっと話ズレるが坂本もジャンヌも日向も中立派だから、話せば分かるはずだ」

 どこか懐かしくも辛い苦い想いをした彼の言葉には重みも感じられ、尚且つ改めてジャンヌと日向はそれなりに気遣ってくれていたのだと分かると、光喜は無性に申し訳なくて息を飲む。

 でも、今いる冬美也はどう戻って来たのかと聞いた。

「どうやって、戻って来たんだ? 他の生存者みたいにその穴ってやつで?」

 先程の穴というヤツは分からないが、きっとそれでイビトがやって来てしまうのだろう、その逆もありで戻って来れる可能性がある、きっと帰れる方法の1つだと確信するも、すぐ冬美也の寂しげな顔に気が付いた。

「あっ、いや、でも逃した遭難者の数が少なくなってたから、多分そっちも苦労したんだろう。救助隊も探しはしてくれたみたいだから」

 あながち間違いではないが、きっと異世界と言うのは無数に存在するのだ。

 光喜はあえて言わずに、あの海の大草原を必死に救助船や救助ヘリが行き交うも見つけるには至難の業だと思い言った。

「そうか、発見時はもう1週間は過ぎてた筈だから……」

 しかし冬美也の妙にどう帰って来たかを言いたくないようだ。

 あまり詮索はしない方が良いと感じるも、多分その話をしなくては話が纏まらないのを知っているのだろう。

 冬美也は自身の話に戻った。

「オレもそれなりにルールは守っていたし、帰れたらと願っている時に、過激派の矛の集団が隠れ家の一部を爆破し殺しに来た。理由はイビトを殺し世界を守るただそれだけだ」

 やはり誤って来ただけの人間に対して掲げた正義が上回り、我を失っているような気がしてならなかった。

 光喜は何も言えずに押し黙り、今こうして彼が居るのだからと己に言い聞かせた。

「……」

 冬美也は自分のせいで招いた様な申し訳ない顔付きになって話す。

「でもって今度は中立派の矛と盾がその過激派とぶつかって殺し合いになってな。正直もう帰れないなら、会えないなら、良いかなって思ってた時にな。来てくれて助けてくれたんだ」

「誰に?」

「んー内緒」

 さっきまでの顔付き嘘のように明るくなったのが分かるが、どうして教えてくれないのか分からず、つい光喜は声を出してしまった。

「えっ! なんでそこで内緒にするんだよ! 顔からして良い事が起きたのは分かるけど」

 だがそれも束の間だった。

「そうだ、良い事だ。その後の騒動は収まって過激派は轟沈されてオレは帰れる事になったんだが……後分かるな、海に放り込まれた」

 一気に絶望して落ち込み、相当これはこれで参ってしまったようで、冬美也は頭を抱えながら座り込んでしまった。

 光喜は冬美也の気持ちが良く分かるも、下手に島や陸上にいたら怪しまれるのだろうと思い言った。

「あぁ、そりゃ遭難者扱いしないと疑われるから」

「だからって、落とす事ないだろう! せめて救助船かヘリが飛んでる付近に落としてくれよ! 死ぬかと思ったぞ! 丸2日飛行機の残骸の上で飲まず食わずされて!」

「帰れても別のサバイバルが始まってたのか」

「そうだ、こっちもたまたまそう言った本を読んでいたから良かったものの」

 だがそれでも飲まず食わずで日差しの強い海の中で良く無事だったなと思うが、それは黙っておこうと思い、光喜はとりあえず労いつつ今の気持ちを伝えた。

「お疲れ、でも少しモヤモヤは取れたと思う、だけどやっぱりイビトになった側も必死なんだよな」

「逆に動物だともっと楽だろうな、半分モンスター見たいなヤツは世間に見られたらもっとやばいし必死になれるだろ? ただ人の姿そのものはオレも辛い、同じ目に遭うのを見るから」

 冬美也の言う通り、動物系なら多分同族として見ずに済むから幾分か楽だろう。

 ただやはり殺す事には変わり無いのは事実だ。

 精神がまだ不安定な光喜にはまだ重荷なのだと判断されたのではない、やらなければいけない決意。

 そうなれば確かに、同族に等しい人間をさせるのは酷だし、もっと慣れさせる為には動物になるのは必然で、でももし、誰かが可愛がっていたペットだとしたらと考えるとやはりモヤモヤが戻って来てしまう。

「俺はまだアダム理事長が言っていた事が分からない。決意も何か思って考えて行動すべきかも、ただ冬美也みたいな人を殺す事は出来ない」

 光喜の今の気持ちを聞いてホッとした冬美也が言った。

「それで良いと思うし、今は盾だろうが矛だろうが一切関係無い状態だ。ゆっくりで良いし、最終的に関わらないって言うのも良い」

 まさかの言葉に驚くも、光喜はまだ悩んだ。

「関わらない、かぁ……」

 声だけで悩んでいるのは伝わった。

 冬美也はあまり悩ませる気は無かったのだが、本音だけは伝えたくて言った。

「まぁオレが言う事じゃないけど、関わらずにいてもらいたいってのも本音だぜ。理美にも光喜にもそれで人生を全うしてくれる、それだけで気持ちが安心するって言うか落ち着くって言うか、でもこれだけは光喜自身が決める事だからこれ以上は言えないかな」

 第三者からの本音は大事だ。

 管理者達からすれば仲間を導きたいけど、事実を伝えるには難しく、でもその内やるべき事なのだろう。

 だけど自身の気持ちに嘘をついてまでやるべきではない。

「ありがとう、とりあえずちゃんと考えるよ」

「そうか、良かった」

 ふと、冬美也のスマホがバイブし、確認した。

 どうやら理美からのloinだ。

 

 理美

[明日の休み、管理者絡みでイビトの捜索しなきゃ行けなくなった(;ω;)]

 冬美也

[明日って、あぁそうかデートの約束はまた今度だな]

 理美

[ごめん……(;ω;)]

 冬美也

[あっ、ならオレも連れて行ってれないか?]

 理美

[別に良いけど、先輩に光喜連れてくるなって言われてるから、来るなら冬美也とゼフォウだけねd(ゝω・´○)]

 冬美也

[確かに、今のアイツは力使えないし、それにまだ分かっていない部分もあるだろうし、それとなく断っておく]

 

 そのloinを打って連絡していた理美は何か良からぬ事が起きそうな気がして眉間に皺を寄せた。

「多分、断れないだろうなぁ」

 

 同時刻、冬美也はすぐにスマホをポケットにしまう。

 その一部始終を見ていた光喜は言った。

「……もしかして、彼女?」

「うおぉう! そうだけど、それがどうした?」

 驚いて後退した冬美也の態度に違和感を感じた。

 光喜はここで話を終わらせてはいけないと直感で冬美也に聞いた。

「管理者の話だったよね?」

「はぁ? んな話じゃねぇよ」

 その時の冬美也は本当に嘘を付けないタイプなんだろうなと分かる程、冷や汗をかき目を逸らした。

 これは押せば話すのではと、冬美也を掴んで言った。

「お願い、前みたいに勝手に逃げたり馬鹿みたいな行動しないから、教えて欲しい!」

 冬美也は冷静になって言い返そうと思ったが、目が本気だ、これは逃げられない。

「……分かった、勝手行動絶対ダメだし、こう言う時は助けられないと肝に銘じておけ、良いな」

 結局押しに負けた。


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