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盾と矛

 あの後、光喜はどうやって帰って来たかも分からないし、覚えていなかった。

 ただずっと泣いているしかなく、玄関で座り込んだ。

 思い出そうとすると、ジャンヌと日向に対して酷い軽蔑感を抱いて拒否をする自分がいた。

「なんで、管理者はイビトを殺す必要性なんて無いじゃないか!」

「イビトはどちらにせよ、やらなければ文化が壊される。下手なウィルスを持っていたらこの国が世界がその餌食にだってありえるんだぞ」

 だが、どうしても光喜にはただの義弁なだけの言い訳にしか聞こえなかった。

「それ結局こっちの言い分だろ! 何もしてこない無害なのに殺すって意味わかんねぇよ!」

 ジャンヌは大事な事を伝えたくて光喜の腕を掴んだ。

「光喜」

 しかし今の光喜は激情に任せ、無理矢理振り払おうとした。

「離せ!」

 言い訳を聞きたくないと怒鳴ろうとしたが、全く違った。

「その気持ちを絶対に忘れるな! 絶対にその気持ちが無くなったら、我々管理者は、ただの化け物になる」

 まさかの言葉に何を言っているのか分からず、振り払って逃げてしまった。

 そこまでは思い出せるが、怖かったのだ。

 いつか自分もイビトであっても人を殺めなければいけない事に、現実に目を背けただけだと、光喜は後悔と恐怖で震えていた。

 そんな時、インターホンが鳴る。

 扉を叩いて何かを察したのか、鳴らした主が声を掛けた。

「光喜、居るか?」

 その声はフィンだった。

 恐る恐る扉を開けると、フィンが立っていた。

 慌てて涙を腕で拭い、光喜は聞こうとした。

「ぐずっ……あれ? フィンどうし――」

「良かったぁ、冬美也達が俺に電話して来て、光喜がどっかに行っちゃって探してるって聞いたから」

 フィンの話を聞き、しまったと気付くもこれは話て良いものか分からず、正直に言えなかった。

「あっ、その、あまり言いたくは」

「言わんで良い言わんで、誰だって言いたくない時は言わんで良い、でも、無闇矢鱈とキレても伝わらないのは肝に銘じておけ」

 その真剣な顔には面食らった。

 今まで悪ふざけな部分しか見た事が無く、学院で出る頃にはクラスの女子の大半と仲良く遊びに行くような何とも言えない奴と言うイメージが付いていたが、本気で心配してくれているのだと分かった直後にまた涙が溢れ出てしまった。

「ごめ、ごめん……!」

「よしよし、何があったかは聞かないが、謝る相手間違えてるぞ」

 頭を撫でつつ、スマホを操作していた。

 多分冬美也に連絡しているのだろう。

 その数分後、冬美也がやって来た。

 同じ過ちだったが、冬美也も知っていたのか、理美に付いてや色々聞きたかったが、今は止めておこうと、冬美也もまた敢えて話さなかったのが良かったのか、謝罪も含め改めて3人で遊ぶようになった。

 だが、どうしてもジャンヌと日向に対してどう接すれば正解か分からなかった。


 それから数日過ぎ、今日も3人で歩いて帰っていると、前から坂本がやって来た。

「やほー、こんにちは」

 早々に冬美也とフィンが嫌な顔をした。

「出た!」

「やばいのが来た!」

 坂本に対しての信頼度が低いのか本気で嫌がられていて、当人も分かっているような振る舞いだ。

「おいコラまだ何も話してないだろが」

「で、何しに?」

「ちょいと如月君を貸して欲しいなぁ」

「断る、坂本と関わると碌な事に遭わない」

 冬美也の明らかに嫌がっているのが伝わり、坂本もそういえば管理者だ。

 正直今は関わりたくなかった。

 それを全て理解していたのだろう、坂本は冬美也に言った。

「んで、君も来なさい。君も居れば如月君も安心でしょうし」

「はぁ? なんで?」

「なら、今から理事長室行く?」

 どうして理事長室にと言おうとしたが、何か意味深な事のようで、冬美也が黙ってしまった。

 お互い目を逸らさず、冬美也の方が何かを察し諦めたようだ。

「……ちっ、分かったよ」

 フィンは慌てて、間に入って言った。

「こらこら、光喜の意向一切汲み取ってないよ」

 確かにフィンの言う通りだ。

 この時点で冬美也だけ行く事になっては居るが、当の光喜になんの了承も取っていない。

「大丈夫よ、今回は盾の2人呼んでるし、本当は理美ちゃん呼ぼうとしたら、ジャンヌちゃんに近づくなオーラ放たれちゃって」

 フィンと冬美也が顔を合わせ、お互いどっちが言うべきかと無言の争いを起こし、結局フィンが言った。

「両方に嫌われてるんじゃね?」

 流石にそれは酷くはないかと光喜が口を出そうとしたが、坂本も内心分かってたようで、今にも泣きそうな声を出す。

「そ、そんな悲しい事言わないで!」

 どうすると小声でフィンと冬美也が話していると、光喜はたまに聞く盾と矛の意味を聞いてみた。

「盾って何ですか?」

「おう、君は優しいね!」

 一気に元気を取り戻す坂本に引く光喜だったが、ただの質問に優しさなんてあるのだろうかと考えてしまう。

「まだ光喜は何も知らないだけだからな」

「俺は用事あるから先に帰るけど、光喜社長の秘書として頑張れよ」

 冬美也は呆れ、フィンはもうさよならと言いながら、後は任せたと足早に行ってしまった。

「さぁ、狭間のバーにレッツゴー!」

 この時冬美也はキャサリンに申し訳ないなと言う気持ちと、あの時ジャンヌの話した内容が本当なら、どういう風に見られているのか知りたい光喜の気持ちがあった。

『キャシーもしょっちゅう来られても困るだろうな』

『あそこ入る時と出る時見られたらどういう風見れるのか見てみたい』


 今回は、ビル群の間にポツンと看板があった。

 しかしまだcloseと書いてあるので、まだ閉まっている。

「あれ? 今日は閉まってる?」

「大丈夫、大丈夫、キャサリンこんにちは!」

 いきなりキャサリンが殺意むき出しで怒っていた。

 どうやらあまり歓迎されていないのがよく分かる。

「あんた、また勝手に!」

 冬美也はキャサリンを見て同情していた。

「やっぱ怒ってんじゃねぇかキャシーさんが」

「キャサリンだぜ。坊や」

 いきなり男前になるので、冬美也は続けて言う。

「だから、キャサリンの愛称がキャシーなんだから良いじゃん」

 ジャンヌの言った通り、冬美也も常連だった。

 光喜は一旦帰ろうか迷うも、聞き覚えのある声が自身を呼んだ。

「如月君こちらだ」

 声の主を見て驚いてしまった。

「ぅえ⁉︎ 理事長! どうしてここに⁉︎」

 30歳前半に見える白人男性が座っていたのは何と理事長だったのだ。

 理事長だと言うのに冬美也は呼び捨てでアダムに聞く。

「アダム、なんでオレまで呼ぶ?」

「それは、君はイビト側も経験しているから」

「あぁ、思い出したくもねぇ」

 アダムと違って肌も白、冬美也の銀髪より既に白髪で髪を束ねている20代後半の男性が笑って冬美也に話かける。

「とりあえず、新しくなった奴? 光喜だけこっち、冬美也は坂本にでも奢って貰え」

 奢りの言葉で冬美也はノリノリなった。

「うぃ〜」

「ちょっと、ジルが払いなさいよ! あんたは付いて来ただけでしょがよ!」

 坂本は本当にアダムだけを呼んだだけのようで、たまたま捕まり、そのままの流れになったようだ。

 ずっと見ていたキャサリンは呆れていた。

「あんたら本当に馬鹿騒ぎするの好きね」


 結局、坂本は冬美也と一緒に居て、ご飯を奢っていた。

 勿論、光喜の目の前にも美味しそうなご飯が並ぶ。

 それでも、管理者の話だろう、光喜は手を付けずにその話を聞く。

「俺を呼んだのは、管理者の事ですよね? 理事長」

「硬いのは無しで、私は普通にアダムと呼びなさい、如月君」

「あえっと、アダム理事長」

 光喜はどうしても呼び捨てが出来ず、最終的には最後に理事長とつけてしまった。

 その様子をずっと見ていたジルは言った。

「じじぃで良いよじじぃで」

 長い付き合いなのだろう、管理者同士の間柄がよく見える分、少々言い方が宜しくない。

 案の定アダムが冷静な態度で怒った。

「ちょっと失礼」

 思い切りジルの頭に拳骨をかました。

「あっ痛てぇ‼︎」

 光喜はその状況下に怯え、助けを求めようと冬美也達を見るも、冬美也達はあぁまたやってるなとしか思っていなかった。

 アダムは光喜に言った。

「では如月君」

「は、はい!」

「君は管理者とは何だと思う?」

「えっ……? それはどういう?」

 いきなりの質問で戸惑ってしまったが、確かにどういうのかを改めて考えるとよく分からない。

 しなくてはいけない使命の様にも感じたが、これは本当にやるべき事なのだろうかと、今は考える。

 そんな光喜に対して、アダムは話す。

「皆それぞれ意味を持って行動しなくてはいけない。例えば、世界を守るため、歴史、文化、人生、意外と色々あるんだ。管理者の意思というのはそれ無くては人としてあるべきかどうかだ」

「俺は……まだよく分からない、ただイビト、異世界から迷い込んだ人を殺すのはどうかと思います」

 あまり気の乗らない返答にジルはこの時代だからこその答えだと頷く。

「そうだよなぁ、今の時代の生まれで殺しは悪いってルールを忠実に守っている。確かにそれも正しいよなぁ」

「ジルも私も皆は殺しと言うのには、本当に無頓着でね。皆、そうしなくては生きていけなかった時代の人間達だ」

 この言葉には同意するしかなかった。

「それは、そうですよね……」

 確かに古い人間なら、日向もジャンヌも戦を経験していれば、自然とそれを経験していない人間なんて多分、現代になった管理者位だ。

 分かってはいたが納得なんて到底無理な話だ。

 アダムはイビトに関する昔話をしてくれた。

「君は知らないがこんな話がある。昔の大昔で人間が出来た頃にイビトがやって来た。そのイビトは様々なことを教え、火の使い方も水の掬い方も教えてくれて、いつしか神の様に崇め祀った。しかしある時、初代の管理者が気付いて殺してしまう。そのイビトはただの親切ではなく、我々を奴隷として利用しようとした悪い奴だと、だが今となっては本当か嘘か分からない。真実は闇の中だ。そしてもしそのイビトは親切心でやった行いも現代に当てはめれば神にも通じ、下手すれば今崇めているものを歪めていたかもしれない。歴史は守られたとも言える」

 ジルの補足も入って、イビトの危険性は漸く理解出来た。

「要は、今回のイビトはただの遊び半分できた場合、何らかの方法で行き来が可能で、イタズラ半分で流れ込んできて、食する世界は全部は平らげるなんて出来ない。必ず残す、その残した連中はもし悪い奴だったら、やばいし、それならいっそ殺す事で秩序は守れる。ただし、それは光喜にとっては嫌な事だろ?」

 日向の言い分にもしっかりとした理由があった。

 ウィルスの危険性はよく分からないが、文化に対しても侵略的なものになれば話は別だ。

 自分達の世界を守らなければいけない。

 ただだからと言って、イビトだって来たくてきた以外を考えれば、ただの被害者な気もした。

「は、はい、だってやっぱり生きているし、それに帰りたいのなら帰らせた方がいい様な」

「それが出来れば苦労はしない、しかし考え方も多種多様になった。生き残ったイビトにも人権を与えこちらの世界の郷に従えれば、支援し人生を支えるのが、盾だ。盾は何らかの事情で入ったイビトを守る。そして矛。矛は先も言った様に秩序の為に殺める。ただ対立しているようで、割とルールも決めてお互いで支え合っている」

 ここで初めて盾という意味と矛という意味を知る。

 理美が動こうとしなかったのも盾のルールに則っていたのだろう。

 ジルは経験上分かっている事を踏まえ言った。

「でも、それは精神が無事で、帰る方法があれば良いが、ほぼ帰れないし、それでいて絶対を守れない奴もいる。そん時はやるしかない」

 後者は分かるが、前者の精神とは一体どういう事なのだろうかと光喜の問いにアダムは答えた。

「精神?」

「世界は食するんだ。それを理解出来る者、ゆっくりと精神が侵され、知らず知らずに食われてしまう者がいる。何故そうなるかは分からないが、根の張り方がやっぱり違うんだ。上手く張れない者から食され、ここで気付かない者は食された事すら気付かない」

「そんな、じゃぁあの時の宙に浮いたのって」

 今の今まで思い出さないようにしていた為、一気に気持ち悪くなったが、それでも野生動物のドキュメンタリーなので多少見ていたから、これも自然と割り切るしかないと踏ん張った。

 ジルも光喜の様子を見て、アレを見てしまったのかと同情した。

「こういうのは慣れだ、ただそれも優しさだ。知らないまま食われるのも、悪くはないだろう。食われるのに気付くと、一生もんのトラウマになるぞ。だような、冬美也」

 普通にご飯を食べていた冬美也はまさかここで話を振られるとは思っておらず、咽せてしまうもジルに対して怒った。

「思い出させようとさせんな! 今もたまに夢に出るんだぞ」

 相当見てはいけないモノだと理解したが、見てしまったものは仕方がないし、かと言って見て良いものではない、しかし冬美也だってここの世界の住人だろうにどうしてイビト側なのだろうかと考えたが、あまり詮索したいとは今は思っていない。

 アダムもあの状況を見た管理者達も少なくない分、もっと単純に考えらせようとした。

「全てを飲み込むのはまず無理だ。それにどんな古参ですら、未だに妥協はしたが許していないのも多い。だから君にはもっと単純に考えてくれた方が良い。例えばそうだなぁ、細胞とか? いやそれだとアレか白血球とウィルスだが、実際盾側としては共存してるから日和菌扱いになるのか?」

 冬美也もその点は合致はしたが、世界は食する時点で話が少々ズレてしまう事に気がついた。

「あぁ、確かに皮膚側から見れば共存出来てるけど体内に入ると危ねぇから合ってると思うぞ。でも食べるんだからもっと違うんじゃ?」

 坂本がふと管理者を単純に考えた結果を言った。

「私らもしかして調理師?」

 皆も流石にその言葉に引き、ジルですら突っ込んだ。

「やめろ、もっと考えたくねぇ」

 ただ微妙に矛が調理師なら盾は保護団体の様な気がしてきて、光喜はこの考えを声に出すのを止めた。

 光喜はまだ蟠りは残ったままだが、管理者達にとってはやはり何処かで割り切ってないと出来ないものだと今は感じている。

 盾と矛はもっと詳しく聞くべきだと思い、光喜はアダムに言った。

「もっと詳しく盾と矛に付いて聞けますか?」

「先も言ったが、盾はルールに基づいたイビトの保護だ。しかし確かに気にはなるだろうな。矛は見れていればよく分かるね。盾はそのエリア、縄張りを張り、そこに入ったイビトを保護する。ただそれはあくまで普通のイビトだ。イビトには異能者と呼ばれる者もいて、住人に手を出さない絶対条件なら良いが、容赦無く手を出す碌でもない異能者も居て、その際は盾と矛は協力してそれを仕留める。だから、よく考えなさい。自分はどういう事で管理者として世界に貢献いや、どうなりたいかを……」


 その後は食事もし狭間のバーから冬美也と共に出た後、やっぱり時間は入った直後の時間だ。

 時差ボケになりそうだと呟いた時だ、冬美也が言った。

「帰りながらオレの話聞くか?」

「そういえば、坂本さんが冬美也ならイビト側もってどういう事なんだ?」

「あー、そのまんまの意味、オレ一度異世界に迷い込んだんだ」

 冬美也はあまり話したくはなかっただろう。

 しかし、光喜の為に異世界の話を始めた。

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