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残ったもの

 光喜は咽び泣く。

 だってそうだろう。

 皆、アイツのせいでめちゃくちゃにされ、しかもその顔は自分と瓜二つの存在。

「光喜君、大丈夫……ではないな。まずは一応無効化しているから立てはするだろうが、無理は出来ないよ」

 亮に言われ、先程とは違い、なんらく立てた。

 同時に春日谷咲楽が心配になり、亮に詰め寄る。

「……そうだ、春日谷は? アイツも病院に」

「一応皆の方へ」

 そう促され、光喜はよろよろとキャサリン達が皆集まった場所へと赴く。

 コンシェルジュは光喜だけでなく皆に言う。

「……一応、ガス爆発影響って事で話は通ってます。通りかかったせいで巻き込まれた良いですね?」

 大人一同は皆同意する。

「はい」

 光喜も同意する他なく、とにかくあの時の影響で春日谷がどうなったか知りたい。

 飛ばされた所へと行こうとするが、一がすぐに止める。

「やめとき、酷だけど、この管理者は皆ずっとこういうのを見て行く運命だ」

「……はぁ?」

 キャサリンは言う。

「見た方が、きっちり理解するんじゃなく?」

「急ごしらえの結界だったからとも言えますが、本来は入れないようにしていたんですよね?」

 コンシェルジュも疑似空間を触っているのだろう、別の何かと言うべき空気を徐に手繰り寄せ、確認している。

「条件付けてたのは触って分かったんだけど、普通の人間が生きていける程甘くは無い、捕食者に歯向かったんだもの……無理ないわ」

 その言葉に、走って近寄り理解した。

 亮とアダムは既に彼女の生死を確認してすぐだ。

「多分、かなりの重力だけでなく先ほどの瓦礫が致命傷になっていたのかも」

「だとしても、まさか疑似結界の状態でも入って来れるなんて」

 この言葉に、春日谷を見て気付く。

 胴体が動かず、ピクリともしない手足。

 頭から流れる血液。

 触って分かる、熱が抜けて冷えて行く頬。

「――!」

 誰のせいでもない。

 分かっている。

 彼女自身が飛び出して守らなければ、きっと喰われていた。

 怒り狂いたい衝動に駆られ、暴れて少しでも感情を放出しないと自分が崩壊してしまう。

 理美も行こうとするが、ディダの方から止めた。

 行った処で彼の気持ちを慰める事は出来ないのだ。

 亮は今現在光喜の体の異常を無効化しているだけで、解けば再びあの酷い状態へと戻るのを知っている。

 だが、今は怒り狂って泣いている光喜を宥める事はしない。

「光喜、今はそれをぶつける相手は誰も居ないだろ?」

「そうだけど、だけど!」

 この後光喜は泣き崩れ、ただただ現実を受け入れるしかなかった。


 コンシェルジュとナイルが別次元を作りそこから帰って、ほどなくキャサリンは擬似空間を解いた。

 同時に状況が芳しくないのはすぐに分かる。

 何台もの救急車や救急隊も出動しての大騒動になっているのだから。

 途中、救急隊員が春日谷咲楽を発見、すぐさま運び出されるが、脈拍、対光反射の確認等した後、タンカーに運ばれるものの、顔全体を全て覆う瞬間を目の当たりにした。

 声を出そうにも既に泣きに泣いた光喜の声は擦れ、使い物にならない。

 キャサリンは一切悲惨さを目にも暮れず、本来やるべき事を言い出した。

「理美ちゃんを誰か見てくれない? こう見えて買い出し途中だったのよ」

 確かに、キャサリンからすれば、色々見ていた者の1人で数えれば些細の事だろう。

 憤りを感じるも、流石に助けてもらった側なので言う資格が無い。

「僕が見るよ。光喜君、彼女のせいでは」

 ディダは下手すれば八つ当たりになってしまう可能性を鑑みて、先に口にする。

 声が擦れたまま必死に光喜は伝えようとした。

「――分かってます、でも……なんで……!」

 枯れた筈の涙はまた溢れて行く。

 理美が口を開こうとするも、ディダは止めて言う。

「たとえそれが原因だったとしても、君だって被害者なんだ。だから、まずはどうしてこうなったかを聞かせて」

 色々見て来たからこその言葉に返せる筈もなく、大人しくするしかなかった。

「……」

 警察とかも来る中で、事情聴取もあるだろう。

 ただ、救急隊に扮した管理者達もいた。

 彼らに皆病院へと皆運び出される中、回りはごった返す。

 野次馬ばかりで、S国から帰った時に似ている。

 誰もがネタとしてしか見ない。

 向けられるマイク。

 目は可哀想では無く、ギラギラしていて喜んでいる様にも見えた。

 それを思い出し、震えが止まらなくなる。

「おい、大丈夫か光喜?」

「無力化はしてますが、やはりそれ以上に体がもう」

 一と亮が気にしている間に、光喜は気が遠くなり倒れてしまう。


 ――深夜なり、診療室は静まり返り、ただ夜間救急のみ動く病院にて。

 先に運ばれていた冬美也の緊急手術は終え、集中治療室へと運ばれていく。

 ナイチンゲールがずっと手術室前で待つしか出来なかった総一に事情を話す。

 今回の口裏合わせではあるが、油断できない状態のままだと、このまま目を覚まさない可能性も視野に入れてくれと言い、総一はまだ生きている冬美也の生命力にかけるしかなく、大人しくうなずくしかなかった。

 ナイチンゲールは先の騒動で運ばれてくる他患者もいるのと、今は冬美也にそばに居て欲しいと、その場を去る。

 泣きそうになるが、その際マコを出し、こう聞く。

「一体何があったんだマコ? 全部見ていたんだろお前?」

 マコは今の主である総一に嘘もはぐらかす事も出来ない。

 狼の姿になって本当の事を言う。

「……本来なら、気付くはずもなかったのです。春日谷咲楽様があの人込みから理美様を見つけて、そこから冬美也様が理美様を追いかけた際、何者かに――」

 直後、ユダが止めに入った。

「悪いが、それについてはこちらで説明する、今回はこちらの完全な不手際だ」

 色々言いたいことが山ほどあるだろう、ただもう話すよりも手の方が出た。

 その前に慌てて一が間に入り、総一の拳を受けめる。

「だぁぁ! 待った待った! 話しに来たらこれどうなってる!?」

「そこに居る犬が話したんだ、だから詳細を話に来た」

 一もこのただならぬ雰囲気だけで良く分かるし、余計な一言でより癇に障る事しか言わないユダに頭を搔き毟った。

「だからって揉め事は――」

 ユダだけに言おうと思っていたが、総一も我慢の限界だ。

「お前ら……良い加減にしろ‼︎ こっちの介入はしない約束を反故して、あまつさえこんな」

「それに対して謝罪する、とにかく」

 もう総一の手がユダの胸ぐらを掴んでいる中、もう1人やって来て制止し、その手も振り払う。

「ストーップ‼︎」

 なんと今度はディダだ。

「神父、あの今あなたとは」

 感情的になった総一に対して、ディダは何故確信を得てこんな事言う。

「息子さんは助かる大丈夫、まずは話を聞いて欲しい」

「簡単に言わないでください! アイツは今こそ元気ですが、昔は最先端医療を継続して受けさせないといけない体で、日本と違って保険も違う。かなりの高額だったのを免除する代わりにそちらの人が冬美也の治療へと案を出され、藁にも縋る思いで――」

 総一の泣き崩れる姿を見て、なんとも言えないディダと一に対し、ユダは冷静に男の名を出す。

「今回の件、多分あの男が1枚嚙んでいる。アンドレ・ガナフだ」

 その名に総一はすぐに分かった。

 同時に理美のおかしな行動にも納得が行ってしまう。

「……最近、理美ちゃんが困っていて、何か思い詰めているのは分かっていました。でも、どうして理美ちゃんがマコお前も」

「多分、家出だと思います。荷物は最小限でしたが、コマが作った無限袋も携えてましたので」

 この瞬間、冬美也もまた相談もせず、何か話しても誤魔化されてしまっていたが、ここに来てアンドレ・ガナフについて話していなければ絶対にこうはならなかったと自信すら見える言葉が出た。

「でもアイツ、何も……あんたまさか、話したのか!?」

「話すしかないだろう、どの道アイツは分かっていた。だからどうすることも出来なかった」

 ユダの言葉に額を抑え、総一は長椅子に座り込む。

「分かってて放置してたのか……」

 本気でまだ煮えくり返る声に皆何も言えない。

 どういえば伝わるか、そこでディダが今までとは違う変化球を投げ飛ばす。

「それと、今光喜君、意識不明の重体なんだよねぇ」

「はぁ!? ちょっと!! 何がどうして光喜君も!?」

「また鬼になっちゃって」

 これを言って大丈夫なのかと思えば、こればかりは見ていたらしく、総一は先ほどの怒りもどこへやら。

「あの時の状態で来たって事!? 今誰見てるの!?」

 ユダもこの流れに乗った。

「ナイチンゲールだな、ワシらじゃ見れんし」

 一も乗った。

「その話もしたくって来たらあれだったし」

 少し休んだら息子の状態を見に行く気でいたが、そうは言っていられなくなり、総一は立ち上がる。

「あんたらぁぁぁ! 働いてた方が気が紛れるから行くだけだから」

「ツンデレって奴か?」

「ツンデレやな」

 散々おちょくった後、総一が見えなくなってから、改めてディダに問う。

「お前、何しに来たんだディダ?」

「……春日谷咲楽が死体安置所で、生き吹き返して自力で帰宅したって先ほどジル経由で連絡が来て、それを諸葛さんからの伝言で来たんだよ」

「――!」

 その言葉に驚きを隠せず立ち尽くす。


 春日谷の死亡が分かった時、死体安置所へと置かれていた。

 家族が来るまでに一通りの準備が終わった時、家族よりも早くここに辿り着いた者がいた。

「そこの人、ここに春日谷咲楽さんが運ばれたのはここですか?」

「すいませんが、プライバシーの関連で……」

 管理の人が制止しようとしたが、その者は勝手に入っていく。

「良かったここでしたか」

 止める為、警備員を呼ぶ間、もう既に姿が見えず。

 気が付けば安置室へと辿り着いており、扉を開けて一言。

「どうだ具合は春日谷咲楽さん?」

 その言葉からゆっくりと起き上がり空っぽだった表情から春日谷は笑いながら言う。

「……真堂様! お腹が空きました」

「よろしい、そうだもうすぐ親御さんも来る。一緒にご飯にしよう」

「はい、真堂様!」


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