捕食者と鬼
光喜が唖然とする中、一が前に来て言う。
「落ち着け自分! アイツはイビトだ!」
そう言う中、一はあるモノを見て不安になる。
光喜と捕食者の根を見ているのだ。
明らかに絡まり食い合いを始めていた。
しかも相手の捕食者が強く、抵抗が難しい。
このままでは光喜の方が負けてしまう。
一旦、光喜も離さなければ、それに今の状態では不利だ。
ただ言葉で落ち着かせようとしたのがいけなかった。
光喜は最初、瓜二つ自分が皆を殺そうとしている場面で、怒りが籠っているだけではない。
一緒にいるだけで、何故か相手の思考や記憶が流れてくる。
アイツには人を殺す理由も至極単純で、ただ暇な平和が億劫で、ある日、この力に目覚めてから片っ端に食べ始め、食べたモノの力で捩じ伏せるのが楽しくて堪らないトチ狂った奴だ。
そして、アイツはビル崩壊事件の真犯人で、皆を殺して笑っていた――。
退院した回りがただの無事だったのを僻み、恨まれているだけと思っていたのに、これは恨まれて当然で、自分を見れば榊田渉がどうしてあんな殺意剥き出しかも分かる。
アイツをハッキリ目にしていて、そして加原舞を殺した。
これ以上思考も記憶も流れ混んで欲しくない。
どの道仲直りなんて不可能じゃないか。
「分かってる……分かって……でも、なんで……皆俺を目の敵に……して……して……がぁぁぁぁぁ‼︎」
光喜は鬼として完全に飲み込ませる事で、自己を護ろうとしてしまう。
その結果、一をよそに捕食者へと攻撃を加えようとする。
捕食者は顔を恐竜のような肉食へと変貌させ、噛み付く。
結晶以外でも肉体が変異し、より強靭になった鬼は決して跡も噛み付く事も出来ず、再度歯が折れてしまう。
その歯を口に含み、また噴き飛ばし、鬼の顔へと直撃させる。
だが、鬼の顔はすぐに結晶を貼り直す。
一瞬見せる怒りで我を忘れた顔。
それを見た捕食者はまたケタケタと笑う。
まるでおもちゃで遊ぶ小さな子供のようで、回りが不気味で恐怖した。
だが、今の内に、冬美也を運ぶ事が出来る。
隙を狙って、冬美也を運ぶユダとナイチンゲールだったが、すうっと捕食者がこちらを覗き、微かに逃がさないよと言っているのだ。
理美が前に来て、言う。
「はやく連れて行って!」
「小娘お前も来るんだ! どの道こいつはお前の能力を食う気で襲って来たんだぞ!」
「でも、今は戦闘向きが殆どいないのと、私が出たらこの結界も解けちゃう! だから――」
その瞬間に鬼が立っており、鬼が捕食者を止めている。
「逃げ……て……!」
光喜が必死に逃がそうとしているのだ。
ディダは土鬼を振り回して、捕食者に投げ飛ばし、鋼鉄となった土鬼が捕食者の頭に思い切りぶつかった。
流石にキレたのか、こちらに突進して来た。
「うぉ! 来た!」
考えなしだったのかと突っ込みたいが、今のうちにと春日谷も連れて行こうとする中、ナイチンゲールは気が付いてしまう。
「……っこの子は」
その間に、ディダと捕食者が戦う。
刀で一回でも斬れれば少しは大人しく出来るだろうが、これも出来る状態まで持って来ないと不可能だ。
鬼はこっちだと、捕食者を殴るも若干弱くなっているのに気付く。
「アカン! やっぱり鬼でも根が食い合いで負けてる以上不可能だ!」
今の状態、一は役に立てないのに非常に腹立だしさを露わにした時だ。
「あらぁ? 店開こうと思ってたけど、何か皆騒いでいるわね?」
いきなり擬似結界が完璧な擬似空間へと変化したのを理美自身が気付いた。
「どうしたの? コレ? あぁ……なるほど」
「キャサリン?」
「他にも管理者とかお仲間さん集まって来てたけど、結界が働いて入れなかったみたいよ?」
理美がキャサリンに謝罪しようとするが、すぐに笑って手を握ってくれる程だ。
「あ、ごめ」
「良いの良いの、そういう事もあるから」
ホッとして涙が零れてしまう中、捕食者が牙をむくも、キャサリンがいつ殴ったのか分からず、皆が唖然となってしまう。
キャサリンは捕食者に言う。
「空気を読みなさい、今あんたと遊んであげるから」
捕食者は何かをしている。
目を変え、まるで全てを見透かす様な目となり、一瞬で飛んできた。
先に突っ込んだのは鬼の方で、まずは自分と瓜二つの光喜を消す方を選んだのか。
よく分からないが、鬼に成り続けるのも段々苦しくなっているのがこちらからでも良く分かる程、捕食者に圧倒されている。
「こちとら、1人で入って来てないわよ。コンシェルジュ、ちょっとこのおバカさんの相手してあげて」
本当にいつここに居たのか、燕尾服を纏った男性がいた。
「はい、かしこまりました」
そう言った直後には、捕食者の腹部に腕を入れ殴り飛ばす。
「ナイル、あんたはあの子らの魂を強固にして」
今度誰が来たかと思えば大型犬だ。
「分かった……そこにいるちっこいのも回復させればいい?」
「尚良し」
誰に対して言っているのかと思っていたが、鼻を近付けると光る。
捕食者は何か興味を持ち笑い、異様な姿へと変わり、近付こうとしたが、コンシェルジュの方が既に後ろへと立っておりそのまま誰も居ない場所へと蹴り飛ばす。
「全く、キャサリンに言われて渋々来たと言うのに、この雑魚なんですか?」
「雑魚じゃないわよ、最近異世界で話題になっている捕食者よ」
キャサリンは捕食者が理美達のいる所に来ないよう、ずっと立っている中、コンシェルジュも漸く捕食者だったのかのと、鬼を見て頷く。
「ほー、なるほど、だからそこの鬼さんが弱る訳だ」
そんな中で、冬美也の後頭部辺りからマコが出て来た。
「死んだかと思いまちた……!」
「神力が大分薄まっちゃってたから、もう大丈夫、さて次」
鬼に近付くと、下を向き何かをし始める。
根を見ていた。
絡まって吸い上げられていた分を解き元へと戻すだけでなく、更により力を上げさせた。
鬼は急に力が湧き、今ならやれると捕食者へと突っ込んだ。
捕食者も待っていたとばかり、殴り噛み付き、そして人間の原型が段々消えていく。
現状魂を維持しているだけで肉体まではやっていない。
このまま続けば、光喜の体は持たない。
一は恐る恐るキャサリンに聞く。
「おいおい、大丈夫なんかあれは?」
「無理でしょうね」
「なら」
「だから、この世界の管理者達にきっちり応援をお願いしてます」
キャサリンの言葉で辺り一面霧で覆われる。
戦いを続けていた鬼と捕食者の間に更なる濃い霧がたちこめ、見えなくなってしまった。
鬼が見えないまま暴れる中、捕食者は目を使い霧の中を覗く。
見えないまま暴れる鬼、動けない冬美也や一を避難させているユダ達、いつでも立ち向かえる状態のキャサリンとコンシェルジュ。
そして、別方向に見知らぬ男を見つける。
捕食者が一瞬にして男の前に行く。
「ふむ、カーミルの言う通り、神眼を使って来たか、諸葛」
その言葉に対し、亮が答えた。
「分かってます、クライヴも遊んでいいよ」
「おい! ふざけんな!」
連れて来られたらしく、相当機嫌が悪い。
「相手は捕食者、イビトであり、全異世界の敵でも?」
「ちっ……!」
クライヴは頭に来てはいるが、仕事の為だと言い聞かせ、亮の前に立つ。
直後に、捕食者が突っ込んできた。
あまりにも変異し過ぎか、ほぼほぼ化け物だ。
クライブが拳だけで捕食者を下へと叩き付ける。
「舐めんなよ」
「まぁ俺ありきだから無理しないでなぁ」
亮が言う理由はクライブだからこそ分かった。
「だからうるせいんだよ」
「力戻ったんか?」
「違う コイツが無効化しないと力が入らないんだ」
どうやら無効化に愛されし者の影響で、力の強弱をしているようだ。
「あーなるほど、どんまい」
「だからうるさいって言ってるだろう‼︎」
腹いせとばかり捕食者へと攻撃を緩めない。
それでも捕食者はやられていても、何かを見ている。
ディダは何かに気付いていた。
この霧の正体を。
「なんでこっちにまで霧撒くかなアダム神父は?」
アダムによる幻覚に愛されし者、その力は本当に凄いと関心するが、同時に自分達を巻き込む必要性はあっただろうかと疑問を持つ。
キャサリンは分かっていたので説明する。
「相手は神眼を食って使っている。だから囮になって皆を避難させたいのよ」
「避難出来るのこれ?」
「冬美也君は連れて行って貰ったから、理美ちゃんは元々のベースはあの子のだから離れられると建て直す時に逃げられるでしょ?」
「……」
言葉にあの子、春日谷咲楽が居ないのに妙な引っ掛かりがあった。
捕食者は見えているアダムに手を掛けたがっているのが見え、アダムのアースが言う。
「アイツずっと俺らしか見てなくね?」
「神眼を食らったんだどう考えても不利だろうなオース」
「じゃなきゃ、クライヴも孔明も一緒には来てくれなかったぜ」
「だな」
そう言っている間にも捕食者は淡々とこちらに近付いているのが見て取れる。
ここに来て隙を突かれ、クライヴから逃れた捕食者がアダムに攻撃を仕掛けた。
「うむ、甘いな若僧が」
急に力が全て抜けただの人となる捕食者を見て、あぁやはり光喜と瓜二つの姿。
多分コイツは異世界に存在する光喜そのものだろう。
クライヴが攻撃を喰らわそうと近付いた時、先に来たのはなんと鬼の方。
右拳が捕食者を吹っ飛ばす。
飛んで行く、捕食者は転がり続け、もう1発と鬼が向かうがいきなりガクンと落ち、立ち上がるにも立ち上がれない。
ここに来て、力の使い過ぎによるリバウンドが発生、体が言う事を聞かず、人になったり鬼になったり、亮がすぐに無効化に入る。
辺りを見渡し状況を鑑み、捕食者は分が悪いと判断。
急に何かを喰うモーションを取ると、世界がカーテンのように脆く引き裂かれ、食い破られていく。
「待て……お前、お前だけ……は!」
鬼から光喜へと戻って行く中、光喜は捕食者を見るとひたすら楽しんだかのように笑っている自分が見えた。
管理者達も、キャサリンもすぐさま力で封じようとするが、一瞬の隙を突かれた以上、捕食者を逃してしまった。
結局空いた穴はすぐに戻って行く。
あれだけ暴れ回り、皆を翻弄させた捕食者は何処にもいない。
残ったのは瓦礫の山だ。




