ドッペルゲンガー
「理美ちゃん!」
ディダがその手に刀を向け、斬り付けようとしたが、先に避けられてしまう。
「ご、ごめ……」
理美の前に立ち、フードを深く被った何者かに刃を向けたまま決して目を逸らさず、すぐに逃げるよう言うが、冬美也の現状が芳しくなく動かせない。
「訳は後で聞くから、とにかく冬美也君を」
「う、うご、動かせない……頭から酷く血が」
光喜達よりも現場に足を踏んだのはユダだ。
「おい、小娘! 絶対動かすな! ってお前も来てたのか」
「あっ貧乏クジだ」
ユダを見ることなく、嫌みなのかユダとは言わない。
ユダも返すも、言い争いしている暇がないのはお互い分かってそれ以上は発展せず、冬美也に即治療を頼む。
「このドラゴンめ、裏切り者の方がまだいいんだが」
「血を止めてもらって、後万が一の事もあるから、脳の」
「ナイチンゲールも居る。絶対に助ける」
そこへナイチンゲールも来て、冬美也の状態を確認、治療を開始始めた。
「しっかりしな、血はとりあえずユダが止めた様だね。とにかく新たな細胞で補い治さないと」
理美は青ざめたまま動かない。
フードを被った者は、より深く被り、牙を見せる。
すぐに分かった。
「ならこいつは絶対仕留めないと、捕食者だよね?」
「あぁ間違いねぇ」
ディダは話しながら、一瞬でフードを被った者改め、捕食者に斬り掛かる。
「一さんと光喜君もすぐ来る、だから――」
「分かった、こっちは小娘達を安全な場所へ連れて行く」
ユダも冬美也を見る。
かろうじて息はしているが、予断を許されない状態のままだ。
捕食者はじっと理美の方を見ている。
完全に標的だけでディダなんて見ていない。
分かっての事だ。
少しでも早く安全な場所へ行かせねば……。
ただ、そんな悠長な考えを持って行動が出来ない。
住宅地真っ只中、誰かが騒ぐ声も聞こえてくる。
疑似空間を作れる人間がいない。
このままではもっと被害が出てしまう。
ディダは前に出て一瞬でケリを付けようとするが、捕食者も先にディダを片付けてしまおうと襲い掛かる。
斬り付ける気で刀を振るうも、捕食者が鋼鉄の肌になって攻撃が通らない。
ならばと龍の腕になって殴り飛ばそうとした。
だが、捕食者はその状態で今度はディダと同じように龍の腕になり、より太く大きな腕でディダを殴る。
すぐ防御に回したので辛うじて無事だが、壁に叩きつけられてしまう。
動きが鈍り、相手に隙を上げてしまい、理美達の方へと行ってしまった。
理美は自分を狙っているのだから、こっちに惹き付ければ冬美也達に被害を与えないと思い、立ち上がろうとするも、ナイチンゲールが止める。
「今動くな、大丈夫」
「で……も」
「セル、頼むよ。もっと力が必要だ」
「分かってるよ相棒、でもこれでも最大だ」
ユダも同じように言っているが、サングエですら冬美也の状態を鑑みて言う。
「こっちも頼む、大分抜けている可能性もある、巡回を」
「やってるけど、急激な刺激で体持たなくなるよそっちが」
捕食者は容赦なくこちらに向かって来た。
理美が立って応戦しようとした時だ。
「もっぎゅうぅぅ!!」
土鬼が尾鰭で捕食者を吹っ飛ばす。
同時に背中に乗っていた光喜と一も飛びました。
「わっぎゃぁぁぁ!」
「お、俺らを乗せてるの忘れるなぁぁ!!」
「先輩、一ちゃん大丈夫⁉︎」
理美が心配するのをよそに、光喜と一が立ち上がる。
「痛いけど、大丈夫」
「もう、始まってたか……!」
捕食者も流石に土鬼の攻撃には対応出来なかったかと思うが、やはり周りを見て分かる。
擬似空間無しには被害を抑えられない。
「やばい、皆集まりだした」
スマホを取り出し撮る人間まで現れ始めた時、理美が両手を握りしめた。
「……ぎ、擬似結界」
その瞬間に、何かが覆う感覚を持つ。
居た筈の人間達が見えない。
もしやこれはと光喜が言う。
「まさか、疑似空間!?」
壁から抜け出し、ディダが辺りを見渡し言った。
「若干違うけど、別空間に等しい、これなら行ける……!」
それぞれ構え、捕食者への戦いに備える。
捕食者は立ち上がり、腕を今度はかなりの温度を上げ、猛火からマグマへと変えさせ、襲う。
刀では防ぐ事は不可能。
だが土鬼が同じく体を温度を上げに上げ、同じ姿へと変貌し、立ち向かう。
捕食者が土鬼の胴体を殴るも、土鬼は待っていたかのように今度はこのマグマですら効かない鋼鉄へと変貌させ、絡めとる様に引き千切る。
「――⁉︎」
腕を捥がれ、驚く捕食者だったが、即座に捥がれた腕を再生させた。
今度は足を獣の如く変貌させ、一瞬にして土鬼を蹴り飛ばす。
「もぐぐ」
飛ばされてもすぐに土へと潜り込む。
一は刀を取り出し、構える。
「こいつ、どうなってんだ?」
「さぁ、体の変形もかなり自在だ」
「気を付けて下さい、前に一度会っている奴です。コイツ重力とか能力も使えます」
そうあの異世界を繋げて遊ぶと言うゲームで、遭遇した捕食者は間違いなくコイツだ。
同時にニュートンが隣におり、改めて分かった事を言う。
「……多分、コイツがおれらを喰った奴だ」
光喜は思い出そうにも、どうもあの亀裂が入った瞬間までしか思い出せず、でも確かにあの時無効化された感覚、様々な異形、このままでは本当に危険だ。
「なぁ! それなら余計倒さないとヤバいじゃんか」
ディダが捕食者との間合いを確認しながら言う。
「土鬼だけで倒せる筈がない。契約者あっての力な筈」
陰鬼士道を見ていれば分かる。
ハグレ神の力をあそこまで使い熟し、一方土鬼だけであそこまでの力を使い熟している様に見えない。
「でも、あんな姿初めて見ました」
マグマのような灼熱と鋼鉄の姿、どちらも持ち合わせた土鬼には驚きを隠せない。
ディダは土鬼だけでは限界があるし、あの状況ではもっと異能力者とウェポン型の管理者では対処が出来ないのを諭す。
「それでもだ、土鬼は総十があっての力な筈、他に仲間を呼べれば……」
光喜は悩んだ末に言葉を発する。
「一さん、俺を思い切り殴って下さい」
「おまっ! それで鬼になる気か⁉︎」
ニュートンは鬼になる気かと驚くも、一は反対した。
「やめとけ、慣れてもないその状態で」
その間にも捕食者は飛び出す。
誰を狙うか、理美しか見ていない。
土鬼は大きくなって護ろうとする。
捕食者も土鬼の行動を把握して、今度は重力を使い出す。
土鬼も負けずと応戦するも押されつつある。
光喜はすぐに土鬼の上へと登って力を振るう。
捕食者が光喜を見て、笑ったように見えた。
中和は出来たが、捕食者から別の力が出現する。
電撃波だ。
吹っ飛ばされ、焦げたのか或いは痺れか分からない。
とにかく動きが鈍くなる。
「光喜君!」
ディダが光喜を呼ぶので必ずそちらへ行くと思った捕食者だったが、実際来たのは捕食者の方で、ディダは捕食者の脇腹を殴り飛ばす。
流石に油断したのか、驚き思い切り入った勢いで着地も出来ず転がって行く。
次、どう動くのか読めない捕食者にいまなら叩けるのではと考えるも、一気に叩き込む行動が取れない。
まずはこの隙に皆安全な場所へと考えた瞬間、捕食者が居ないのだ。
「しまっ……!」
土鬼もすぐに動く、下手すると理美以外の人間に危害を加えられたら、もっと危険な状態になる可能性があった。
ユダとナイチンゲールは、冬美也の治療をし終え、後は病院へ運ぶ所で、捕食者が瓦礫の山から飛び出す。
笑う口元を見る2人、慌てて理美が前に立ち塞がろうとするも、ユダが止めに入る。
その直後だ。
一体いつ入って来たのか、春日谷が皆の前に立ち塞がり捕食者に体当たりをしたではないか。
寧ろ未完成な結界、下手に入れる可能性だってある。
理美もどうして人がと言う顔になっていた。
フードで見えない捕食者の顔が明らかに歪んでいる。
理美が声を出す。
「春日谷さん⁉︎」
何か言おうとする春日谷だったが、その前に捕食者が重力を使って、春日谷の頭部に思い切り瓦礫をぶつけ、何処かへと飛ばした。
あまりの勢いに皆が絶句する。
捕食者は重力を使い、春日谷の頭部を押し付け出した。
皆、それを見て唖然とする中、1人だけ動いた。
光喜だ。
光喜が勢いのまま鬼となり、腰に付けていたバックから刀を取り出し振り落とす。
肉体も段々鬼へとなり、顔にも結晶が張り付く。
捕食者は刀をへし折り、光喜に齧り付こうとする。
そうはさせまいと、光喜は捕食者に重力で吹き飛ばした。
その隙に春日谷へと走るが、すぐさま捕食者に邪魔されてしまう。
「春日谷! おい、しっかり――!」
捕食者の歯がどんどん鋭くなる中で、鬼となった光喜の腕もより強靭な形へとなり、逆に振り落とす。
食えなかったのか、歯が折れているのに気付く捕食者はその歯をわざわざ引き抜き、口に含んで隙を狙っていた一の方へと吹く。
一瞬、何かが通った一の頬に血が垂れる。
春日谷に向かおうにも、まだ歯を含んでいるのかこっちにも飛んできた。
「……お前はなんだ……なんで狙う? なんで食おうとする!?」
捕食者は急にけたけたと笑い出し、フードを取る。
その状況を別の場所からずっと見ているアミーナの姿があった。
ハンズフリーイヤホンで誰かと会話している。
「間違いなく、我々の第一王子とそしてビル崩壊事件の容疑者です。どうしますか、行きますか? あのままだと貴重な管理者達や異能者が」
相手はあのカーミルだ。
「顔がはっきり分かった後、彼を無理やりにでも連れて来なさい。このままでは精神的負荷と今のやりあいでは不利です」
「分かりました」
「それに、今向かった所で、あなたに何かあったら誰がザフラを見てくれるんですか?」
「はい、継続して観察し終わり次第、強制的に連れて来ます」
「それでよろしい、後をお願いします。ザフラも納得していないと思うので、説明を」
「了解しました」
ずっと険しいまま話は終わったと同時に、車の中で座ったまま待機を強いられているザフラが不満を漏らす。
「何故父は我々を行かせない! 光喜が万が一食い殺されたら!」
昔は相当文句を言っていたのに認めている今、心配してくれているザフラの成長を見て、ホッともした。
アミーナはザフラにドッペルゲンガーについて話し出す。
「ドッペルゲンガーをご存じですか姫様」
「あぁ、瓜二つの自分と出会うと死ぬって言う」
「様々な要因がありますが、イビトがの場合は根が絡みつき食い合いを始め、最終的にどちらかが衰弱し死んでしまいのです」
「はっ? 殺して成り代わるんじゃなく?」
よく聞く、成り代わる可能性ではなく、同じだからと言う言葉に疑問を残すまま、アミーナは半分はそれではあるが、大抵は食い合いで衰弱するのが殆どとの事。
「半分はそれですが、殆どがそれによりものです」
「……食い合いってまさか!」
漸く、どうしてドッペルゲンガーの話をしたのか理解してしまった。
「今回、光喜はこの戦いで例え勝利しても引き分けても心に相当な傷を残すでしょう」
捕食者がフードを取り、微かに笑っている。
「俺……が、居る?」
光喜の前には自分と瓜二つの顔がこちらを見ていた。




