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カラオケ

 光喜とジャンヌは皆と合流する流れになった時、日向に言われた。

「とりあえず、人間で大人の管理者を何人か集めとくからジャンヌ、お前はお開きになった時で良い、連絡を寄越してくれ、こっちも今いる場所を折り返し貼付するから」

「うぃ、分かった」

 大通りまで3人で歩き、近場に車が停まっていた。

 日向がその車に乗り込むと、光喜は何かを言おうとした。

 大したことでは無いが、無論自分の事でだ。

「あ、あの……」

「君の事でだからちゃんと来てね。後これはわたしの連絡先だ。ジャンヌとは後で連絡交換しなさい、ではまた」

 日向の方はちゃんと分かっていたようで、発進前に名刺を渡してくれた。

 声出して言葉にしたかった日向だったが、どうも表現出来ないまま、生返事な形になってしまった。

「……はい」

 いつの間にか車は発進し何処かへ行ってしまうも、ジャンヌはふと気づいてしまった。

「しまった、乗せて貰えば良かった……!」

 何を今更感もあるが、自分も来たばかりの人間だった為やってしまった感はあったが、仕方ないとも感じた。

「まぁ、ここから歩いても20分も掛らん筈だ。いや、もう風を使って元いた場所まで戻ると言う手もあるぞ! いっそ、このまま先にカラオケ屋に居ても面白いかもしれんぞ!」

 あまり考え無しの思い付きを見ていて感じた事を光喜は言った。

「ジャンヌ先輩結構アバウトなんですね」

 丁度その時だ。

「居たぁ!」

 必死に走って来た冬美也の姿が見えた。

 流石に汗をかいてか、上着を脱ぎ袖も捲っていた。

 声を掛けようとしたが、先にジャンヌが声を出す。

「冬美也、君は体弱いんだから無理するな」

「誰のせいだ‼︎」

 強烈なツッコミはジャンヌに対してだったのだろうが、光喜には自分へ向けられたモノだと感じ謝罪した。

「ごめん! 俺のせいでめちゃくちゃにして、ちゃんと説明するから……その、また……」

 謝罪し深々と頭を下げる光喜の肩に両手でがっしり掴んで冬美也は言った。

「大丈夫だ、光喜、分かっている。被害者側のもその運良く外側居たのも両方、だから無理するな」

 どうしてか、その言葉にホッとしてつい涙が零れてしまう。

 多分、身内とかではなく、本当に分かっている人の目と言葉なのがより心に沁みた。


 光喜は冬美也とジャンヌに事の発端となったあの事件やその後を話す。

 昔は元クラスメイト達とも上手く行っていて、仲間想いで先生とかも良く、イジメと言う概念がそもそも無い様な運の良いクラスとも言えた。

 だが、それもあの事件から全てが崩れ、きっとコレが人間の本性なのかと疑ってしまう程だ。

 それでも、2人は決して自分なりの言葉で返す訳も無く、それでいて一緒になって怒ったり悲しんだりもせず、ただ決して流さずに話を聞いてくれた。

 もしかしたら、変われるとかは無いがそれだけで心が軽くなっていくのが光喜には分かった。

「――っでここに来たんだ」

 全て話し終えた後、冬美也は話を飲み込んだ上で、初めて自身の今の気持ちを言葉にした。

「人それぞれの感情や精神状態は本当に分かんねぇけど、光喜が出来る範疇は既に越えてるんだ。無理するなは言えないけど、耐えられなければ逃げても良いけど、その、今回の逃げ方だけは絶対にやめてくれ、本当に焦った」

「本当にごめん、今度から何かしら合図送れる様にするよ」

 とは言ったものの、あんな風にまたなったら合図も何も出来ないだろうなと光喜自身思ってしまった。

 場乗りで、ジャンヌも攻めて来た。

「そうだぞ、ボクも焦ったんだから」

「7割強先輩のせいだけどな」

「ボクが? 何故?」

 冬美也がスマホを触り、あるSNSを見せながらジャンヌに言った。

「SNSで“#歌う聖女発見””#○○駅“等様々な方面で写真付きで運悪く光喜が顔が出てて、さっきの春日谷? アイツがそれ見て、皆呼んで意味の分からん同窓会をしようって話になったんだと、因みにフィンからの情報」

 どうやらSNSで誰かが発信したのがきっかけで、身バレしたらしく、挙句の果てには余計なモノが釣れてしまった。

 そのせいで、光喜は酷い目に遭ったとも言える。

 だが、ジャンヌからすれば寝耳に水だった。

「な、なんだと!? 休業中で1年過ぎたと言うのに」

「1年足らずでファンは忘れないぞ」

「それでも、7割強はおかしいだろ。勝手に配信した奴が100%悪いだろ!」

「へぇへぇ」

 一体何の会話になのか分からない。

 2人だけが分かる会話についてけないし、歌う聖女とはまた何ぞやと今日だけで浮き沈みと意味の分からない出来事で既に憔悴しきってた。

 しかし知らないままなのも嫌なので、光喜は聞いてみた。

「あ、あのジャンヌ先輩の歌う聖女って何ですか?」

「ほれ! コレが普通なんだ! 載せてる連中がおかしいんだ! 後で日向に連絡して」

 ジャンヌは冬美也に普通はコレなんだと怒った。

「それは颯太さんがやってるからその内消えるから安心しろ」

「出来るインテリ元ヤンキーは本当に助かるな」

 話がズレていき、頼むから教えて欲しいと切に願う頃にはカラオケ屋前に着いていた。


「――で、あの連中は保護者やその学校先生方が連れて行ったので安心して下さい。それとこの話は中高の先生方のみが共有している情報なので、困ったら遠慮せず相談して下さい」

 カラオケの受付前で背が高く長い金髪をアップした丸いレンズの眼鏡を掛け、目付きもややキツめの男性が立って説明してくれた。

「すいませんでした」

「彼も反省しているので許してやってくれ、バートン先生」

 ジャンヌの上目目線に対して、バートンは冷静に圧をジャンヌだけに向けて言った。

「半分はあなたの自己管理の無さが招いた事なのであなたが1番反省して下さい」

「何故⁉︎」

 7割から半分にはなったが、結局自己管理出来ていないジャンヌのせいになりました。

 丁度、カラオケボックスの一室から、フィンが出て来た。

 たまたまジュースを取りに出た様で、ふとこちらを見て気が付いた。

「おっ! 漸く来た。心配したんだぞ光喜」

 光喜は見つかったことに安堵したフィンを見て、彼にも謝罪した。

「本当にごめん」

 そっとバートンが光喜の背中を押した。

「さっ、君も心を切り替えて楽しみなさい」

「はい」

 その一言でよりホッとし、光喜は普段に近い状態に戻っていた。


 ボックスに入ると既にサイドメニューが幾つか置いてあり、自分達の席とコップをそのままにして楽しんでいたようだ。

「あっ、冬美也漸く来た」

 この間見かけたあの女の子が冬美也を見てやって来た。

「遅れて悪い」

「良いよ」

 冬美也は女の子の頭を撫でながら謝り、改めて対処はどうなったか気になっていた。

「それより、あのまま放ったらかしにしてすまん。あの後対処は」

「あぁ、それは先生の圧で皆萎縮してたよ」

「分かり易い」

「後は、俺が送ったloinで分かるだろ? しっかし、あの春日谷って子、空気一切読まないのはちょっとヤバイよな。あの威圧すらヘラヘラだったし、肝座ってるってるより何か欠如してる感じ」

 フィンと冬美也の会話に咲楽の苗字が出る度に少し嫌な気持ちになっていた。

 光喜がもうやめて欲しいと言おうかと悩んだ時に、バートンが言った。

「いつまで出入口を塞ぐつもりですか?」

「うおぅ!」

「すぐに退くって」

 驚いてすぐに中へと入っていく。

 光喜も入ろうとしたら、バートンがジャンヌに言った。

「彼等が座った場所の隣があなたの席になりますので、光喜の面倒は私がみますので」

 この瞬間、光喜以外の全員がえっと言う顔になり、大丈夫なのかとヒソヒソと話し出してしまった。

 中等部の男子が言った。

「先生、その、自分らで見ますよ?」

 どうして光喜に対してそういう風にするのか、よく分からないだろうなと、光喜自身が感じてはいたが、バートンはジャンヌの肩をガッシリ掴んで伝えた。

「大丈夫ですよ。ジャンヌも責任持って手伝って貰いますし」

「ファ!?」

 先の言葉とは一体。


 そうして、始まったカラオケだ。

 皆がそれぞれ曲決めをしていた。

 ある程度落ち着いて来たのを見て卑弥呼が言った。

「それじゃあ、そろそろ光喜君も初めての人多いし、一回自己紹介しましょうか」

 冬美也はその言葉を聞いて言った。

「と言っても、先生はさっき説明中にしてたから、広樹と理美以外しか知らないよな?」

 確かに、バートンは中等部の先生だと答えた時に軽く自己紹介したかなと光喜は思ったが口に出す程でも無いかと考えた。

 しかし、バートンは答えた。

「別に良いですよ。先のが自己紹介としてもあまり分からないでしょうから、ガディアン・バートンです。あの時言いましたが、あそこに居る2人の担任です」

 その流れで少しふっくらとした中等部の制服を来た広樹が自己紹介をしてくれた。

「じゃ、僕からで、羽田広樹です。勉強同好会の部長になりました」

 光喜はそっとジャンヌに聞いた。

「勉強同好会?」

「知らぬのも当然だ。あれは、高等部にもあるぞ、勉強同好会とは名ばかりではあるが、テストまじかになるとテスト対策をするのがメインで、成績も落ちる事も無いしな。ただ言った様に、期間前だと皆思い思いのやりたい事を勉強と評してやるのが勉同だ。ちなみに卑弥呼以外は皆入ってるし、創設者は冬美也とフィンな」

「へぇ、卑弥呼先輩は?」

「生徒会で忙しいし、やってない筈だ。もう1人も生徒会メンバーなんでな。その内あの2人も巻き込む気だ」

「既に巻き込んでたね」

 朝一の騒動を見ていたが、ジャンヌのアースで恐怖過ぎて忘れていた。

 そしてもう1人あの女の子が自己紹介をした。

嘉村理美(かむらりみ)です。よく分からない内に副部長にされました」

 ふと、ジャンヌが言っていた理美とはあの子の事かと分かったのと、理美が通った後に来た金髪の女性がアースだと理解した。

 光喜はジャンヌに耳打ちをして聞いてみた。

「自分より若い子も管理者は多いの?」

 ジャンヌも耳打ちで返す

「あぁ、しかし大体は10代後半から20代前半が多いし、動物の方が人間より遥かに多いぞ」

「そんなに多いのか?」

「まぁ、消えた奴も居る。だから不老も不死も無い。だから、いつ終わるか分からんから毎度挫折もするし、絶望もする。だが終わりは必ずある。だから不安がる事は無い」

 本当によく分からない話ばかりするジャンヌだが、確かに明智光秀やジャンヌダルクが本当だとすれば、話の内容からしてずっと繰り返し、絶望もし続けたに違いない。

 まだ言っている意味を熟知はしていないが、少なからず仲間が居るのが唯一の救いだし、仮に消えた人物も居るのなら、真の死を迎えれると信じ、頑張っているのだろう。

 冬美也がカラオケパッドを回して来た。

「後は先生と先輩と光喜だけだから」

 言い終わる頃には皆、歌い始めた。

 最初は広樹らしく、意外と歌唱力があり凄いと驚き、今流行りの曲なのは分かるが、誰の曲かはさっぱりだった。

 聴きながらパッドで曲を選ぶも手が止まる。

『最近、歌ってすらいないから全然分からない』

 数年前でも許されるだろうかと考えていると、理美が歌い出した。

 というか、いい○旅立ちを歌い出したではないか。

『昔、母さんと言うか祖母ちゃんが歌っていたような』

 光喜が思っている様に他からも言われていた。

「また渋いのチョイスしてる……」

「おま、またそういうの」

「前、プレイバックだっけ? それ歌ってたよねぇ」

 卑弥呼に至っては、まるで死活問題レベルで突っ込んでいた。

「理美ちゃん、私の霞むからヤメて」

 因みに卑弥呼が選んだ曲は初音○クのマ○リョシカだった。

 光喜はそこまで悩まなくても良いと考え、数年前の好きな曲を選ぶと、ジャンヌに渡すとすぐさま選んでバートンに渡すが、別にやらないと断って広樹にまた回した。

 一通り回って光喜も歌い終わった。

「――ふう、終わった」

 マイクをジャンヌに渡すと、すくっと立ち上がって歌い出す。

 その歌は余りにも美しく讃美歌の様であり、しかしそれだけではなく色褪せず、今の流行りにすら負けず、力強い歌唱力に何処までも続く轟く声に圧倒された。

 驚いたまま固まってしまう光喜にバートンが言った。

「大丈夫ですか?」

「……へっ? あぁ、えぇと大丈夫です。いや、ちょっと凄すぎて固まってました」

 光喜はどう言えば良いか分からずに居た。

 歌を聴いた理美が言った。

「相変わらず凄いよねぇ先輩。流石元歌手」

「理美、ボクは活動を休止中なだけで、まだ歌手だ」

 ジャンヌが座ってジュースを飲み干した。

「か、歌手!?」

 改めて驚く光喜に新鮮味を感じ、意気揚々となるジャンヌは今の自身の身の上話をし始めた。

「そうだ。フランスからヨーロッパ各地まで、なんならアメリカでもそこそこ名が売れてはいるが、まだ子供と言う事もあって煩い連中もいてな、いっそ高校は義理の妹の住む家に来たのさ」

「義理の妹?」

「あぁ、日向はテインソンブランドの日本支部で働いては居るが、基本はリモート兼使用人なんでな。訳あって日本でジュリア・テインソン御息女の面倒を見ている」

「訳は聞かない方が良いかな?」

「そうだな、でも有名は時に嫌な目に遭うからな、知って損するのもあるし、ただ、ジュリアも両親共々仲は良好だ。その辺は安心しろ」

 この後、またパッドが回ってきて光喜は適当に決め、 ジャンヌは自身の曲を選択していた。

 多分、あの時の曲はジャンヌ自身の曲だったのだろう。

 

 そこからかれこれ2時間は居ただろうか、店員からのコールが入り、そのままお開きとなった。

 皆で電車に乗って、皆で最寄り駅まで来た。

 駅から出た後、理美と広樹はバートンに連れられ寮へと帰る。

「あなた方もまっすぐ帰るように」

「またねー」

「先輩達ありがとうございました」

 軽く見送った後、冬美也とフィンは卑弥呼を高等部寮へ送るので光喜を誘った。

「ジャンヌ先輩も寮と同じ方向に家あるんだし、光喜1人で帰すのも何だし一緒に」

「その事なんだが、実は日向に食事に誘われていて、光喜も誘われたんでな。我々はこっちだから、卑弥呼は任せた」

 不思議がる冬美也だったが、何か察してくれたのか、理解してくれた。

「……分かった。日向さん達によろしく」

「それじゃ、明日な光喜社長」

「だから社長って何⁉︎」

 ジャンヌと卑弥呼だけは分かっていた。

『要注意団体』

『要注意団体だ』

 冬美也とフィンは卑弥呼を送りに行った。

 2人だけとなって、ジャンヌは言った。

「さて、日向から場所を送られてきた。これから説明会と行こう、狭間のバーへ」

 loinで地図も添付されていた。

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