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異世界転生かと思ったら地獄にいた場合  作者: シーモア バッツ
地獄の門
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地獄の門 二

 突如として現れた横約三十センチメートル、縦約二十センチメートルの横長ビジョンは透けており、箇条書きで文字が書かれていた。言わずもがな、"これ"は聞きしに及んでいた"あれ"であった。


 諱名(いみな) 熊野 平太

 級位(きゅうい)

 提体(ていたい) 二〇

 叩膂(こうりょ) 一八

 衛膂(えいりょ) 一八

 驀地(ばくち) 一三

奇涌(きよう)

 能器(のうき) 酒呑万謝


「うぉー!!!これはまさに!!」

 わたしは知っているものよりも少し様相の違った文字の並ぶ半透明のモニターを見て、思いがけず興奮してしまった。

「なんて載ってるだぁ?」

 どうやら鬼にはわたしの見ている文字は見えないようだった。

「まったく分からん!が、面白い!」

 地獄への片道切符を棚に上げて、胸が躍ってしまった。

「それは【悉見(ふつくみ)】って言うだ。おめぇの状態がそれで確認できるどぉ」

「確認もなにも、なんて書いてあるのか読み方が分からん!しかし面白い!」

「おめぇは本当に馬鹿だなぁ」

「大体の奴は読めんぞ!これは!」

 鬼は面倒そうな呆れ顔をしながらも、書いてある内容を説明した。

 

 わたしと鬼は向かい合わせであぐらをかいた。そしてわたしは項目を一つずつ尋ねていった。諱名(いみな)は名前であり、級位は色んな経験をすることにより上昇する数値、要はレベルであった。提体は体の耐久、要はヒットポイントで叩膂(こうりょ)衛膂(えいりょ)は力の強さと体の強さ、これは攻撃力と防御力。驀地(ばくち)は速さ、すなわち敏捷性。奇涌(きよう)術術(ばけすべ)という力を使うのに必要だという。要は魔法のようなものだと思われる。それらを表す数値はすべて漢数字だがこれがまた読みにくい。そして能器の説明に入ったところで鬼は大声を出した。


酒呑万謝(しゅてんばんしゃ)!!!本当かぁ!!見間違いじゃないだかぁ!!」

 鬼の唾がわたしの顔に飛び散った。

「きたなっ!いきなり大声を出すな!!なんなのだ、これは!」

酒呑(しゅてん)様の最高級の恩寵だぞぉ!!」

「しゅてんさま?飲んだくれの王様か?」

「ばかいえぇ!酒呑様は鬼衆の頭目だぞ!」

「ということは地獄で一番偉いのか?」

「いや、まだ偉い方はおられるが、鬼衆では一番だぁ」


 わたしには重大な疑問符が付いた。

「ん、地獄とは鬼どもが支配しているのではないのか?」

「いや、別に支配はしてねぇだ」

「罪人を鍋で煮込み、針山に放り投げ、飼いならした番犬に腕や足を食わせるところではないのか?」

「そんなことする奴は知らねぇなぁ」

「晴れることのないぶ厚い黒い雲を灼熱のマグマが微かに照らし、止むことのない雷鳴が何千年も続いているのではないのか?」

「ん?地獄の空は青いぞぉ」

「ではなぜ、あの橋の先は黒い雲が覆っているのだ。如何にも邪悪な雰囲気で満ち満ちているぞ。」

「ここは世界の狭間であの橋はその架け橋だぁ。色んなものが混ざり合っとるから、空が晴れることはねぇ」

「本当の本当に大丈夫なんだな」

「酒呑様の恩寵を持った者に嘘はつかねぇ」

 いじわるな質問で念押しした。

「その立派な角、掛けるか?」

「ええどぉ」


 あまりに堂々と答えるので、ここは一つ、この鬼を信じてみることにした。

「ここにいても仕方ないし、行ってみるか」

 わたしは腰をあげ、鬼に礼を言った。

「ありがとう、、えっと」

 この鬼の名前を知らないので言葉に詰まった。

雷奴(らいど)だぁ。」

 そう言って雷奴は手を出したので、わたし達は握手した。

 近くでみると、雷奴は巨大というほどでもなかったが、身長が百七十センチメートルに満たないわたしを見下ろすだけの差があった。百八十後半くらいか。

 雷奴の手は当然わたしのよりも大きかった。鬼の皮膚は人間のものよりも厚く、牛の皮を究極までなめしたかのようなツヤがあり、しっとりしていた。

 わたしは手を離し、断崖から伸びる岩橋を歩みだした。


「またな、雷奴」

 歩きながら半身で手を振るわたしに、雷奴は手を挙げて返した。


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