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88. 窪地へ(2)

本日、2話投稿。これは2話目です。

 そう、俺、ランスには100万回の生が与えられている。


 俺は死ぬとこの世界のどこかに生まれ変わり、ある日、前世の記憶を思い出す。

 

 そしてこの繰り返される生の果てに、魔女を滅ぼすのが目的だ。


 車室の外に出て、屋根に手をかけて一気に登った。屋根の上は人が乗ることは想定されていないが、丈夫な木製のため、数人乗ったくらいではびくともしない。


 屋根の上からは四方が見渡せる。後ろから付いてくる馬車の荷台には食糧や水の入った樽がいくつも乗せられ、長丁場に備えられている。そして一番後ろから付いてくる、一際しっかりとした作りの馬車には、グリシフィアが乗っているはずだ。


 グリシフィアは黒の長髪に黒いローブを着た、美しい女性だ。まだ少女のようなあどけなさを残す彼女こそが、俺の旅の目的であり、仇である魔女本人だった。


 世界の大罪たる七人の魔女の一人、傲慢の魔女グリシフィア。


 俺は何度も彼女に挑み、何度も殺され、そしてその都度、生まれ変わった。


 一方、永遠に生き、不変の魔女である彼女は、死ぬことができない。そのため、魔女を殺す方法を100万回の生を持つ特異な人間、つまり俺に探させようとしている。


 俺は復讐のため、彼女は永遠からの解放のため。奇妙なことだが、魔女を殺すという目的において、俺と仇であるグリシフィアは共通していたのだった。だから俺は、仇である魔女グリシフィアに共に魔女を滅ぼすための方法を探すよう、持ちかけた。


 すると彼女は笑って、言った。


「私に私を殺す手伝いをしろというの? 面白いわね」


 グリシフィアは条件を出した。この呪われた島の中枢にいる炎の魔人イフリート、それを人の身である俺が倒すことができたのなら、彼女は俺に力を貸す。だがそれが叶わず、俺が命を落とした場合、俺は彼女の永遠の奴隷として生きることになる。これは俺と魔女との誓いになった。


 その魔女は、今はおとなしく馬車に乗って俺たちに同行している。彼女には役目があり、それを果たすためだ。


 馬車が進む左手には炎の山が見える。あの山の向こうは島の中心で巨大な窪地になっており、そこはかつての俺の故郷だった国があった。だが200年前、魔女の強大な魔力によって国ごと炎に包まれ、その炎は200年経った今なお、勢い衰えずに燃え盛っている。


 イフリートはその窪地にあるかつてドワーフの大坑道にいて、何かを守るようにそこを動かない。大坑道には真銀ルシエリという希少な金属の鉱石が眠っており、それを守っているかのようだった。


 だがその大坑道も今は、燃え盛る炎の中である。人の身でたどり着くことはできないが、魔女グリシフィアの魔力であれば炎を割り、大坑道までの道を作ることができる。グリシフィアは俺との賭けを成立させるため、イフリートまでの道を開くことを約束した。


 窪地の中に入るには、ここから北にある「北の裂け目」と言われる道を通る必要がある。俺たちはその北の裂け目に向かっている最中だった。


「ランス、手を貸してよ」


 下からキャスリンの声がする。俺は彼女の手を掴んで、屋根の上に引っ張り上げた。エルフのフェルマリはいつの間にか、すでに屋根の上にいた。それから地平の先を指差す。


「ランス様、見えてきました」


「あれか」


 見えてきたのは、はるかな昔に捨てられた廃村だった。


 馬車はそのまま廃村の中に入っていき、止まった。


 俺が馬車から降りると、すでに到着していた灰色の髪と深い髭を蓄えた男がこちらに手を振った。ドワーフのジルコだった。


「ようこそ、俺の村へ」


 自虐的に彼は言った。正確に言えば、この村はかつての彼の故郷だった。彼はここで生まれ育ち、そしてあの炎の災厄の日に、同胞たちと共にこの村を捨てたのだった。ジルコが旅たつ前に言っていた。


「村は幸い、窪地の外側だったからあの炎の巻き添えになることは避けられたが……しかし村は窪地から近すぎる。いつ溢れ出るかわからない炎を恐れて、俺たちは住み慣れた村を捨てることを決めた。幸い、北東の小さな島にもう一つのドワーフの部族がいる。俺たちはそこに移り住んだんだ」


 だが結局、窪地から炎が溢れ出ることはなかった。窪地の山の炎は200年間、決まった場所だけに存在し、燃え続けたのだった。


「まあ、ずいぶん古くて朽ちてはいるがね、ここの家屋はまだ使えないこともない。ここから北の裂け目まではすぐだし、ここを拠点にして探索をするといい」


 ジルコ本人がそう、提案した。確かにドワーフの作った石造りの家は木の蔦に覆われてはいたが、その多くは崩れることなく存在していた。さすが、ものづくりを得意とするドワーフの家だった。中に入ると、確かに隙間風が気になりはするが、十分に雨風は凌げそうだった。


 確かにここから見ると、あの炎を吹き上げる山々は目と鼻の先のように見えた。山々の奥から噴き上がる炎がありありと見て取れる。炎が噴き上がる、ごおおおぉぉぉぉという音が絶え間なく響いてくる。ドワーフたちが村を捨てる判断をしたのも無理もないことだろう。


「ここまで来たのは初めてだわ」


 黒衣の魔女、グリシフィアが吹き上げる炎を見上げて言った。


「あなたと出会ったのはもっと南の方だったものね」


 確かに、こいつと初めて出会った俺の故郷、ノースフォレストは窪地を二分する西側の国で、俺のいたところはもっと南の方だった。一方、この北の裂け目は窪地を囲む山脈の北東部であり、これから目指す大坑道は北の裂け目を通った先にある。


 だが、それを阻むのが200年燃える炎である。


 食糧を積んだ荷馬車と非戦闘員を廃村に残し、窪地へ向かうパーティである俺、キャスリン、フェルマリ、ジョイル、グリシフィアの5人で北の裂け目に向かった。馬は炎の勢いに恐れをなして近づこうとしないため、徒歩で向かわなくてはならなかった。


 2時間程度歩くと、聳え立つ山々がまさに避けるようにしてできた道が見えた。それはまさに、北の裂け目だった。そしてその裂け目から、溢れ出る炎が天に向かって凄まじい勢いで燃え上がっている。


「すげえ迫力」ジョイルが炎を見上げて言った。


「さて、この炎をどうするんだ?」


「そうだな、グリシフィア。いけるか?」


 俺の呼びかけに、やれやれとグリシフィアが前に出る。


「誰にものを言っているの? 私は傲慢の魔女よ」


 グリシフィアの長い髪が、瞳が銀色を帯びていく。それは月の光のように、うっすらと光って見える。彼女の力の象徴である月を体現しているかのような光だった。


「全てを支配する最強の魔女。できないことなどないわ」

お久しぶりです。(間が空いたので、本文で少し振り返り的な内容が多くなってしまいました)

休んでいる間、評価やいいね!、ブクマ、コメントなどありがとうございます!

大変、励みになりました。


憤怒の章も最終パートです。最後まで頑張りますので、楽しんでもらえれば幸いです。


追記:次回は木曜更新予定です。よろしくお願いいたします。

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