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82. 決戦前(3)

本日2話更新。

これは2話目です。

「しかし相手は炎の化け物だろ、俺たちの武器は通用するのかねえ」


 ジョイルが言った。


「俺は体が岩でできた赤熱蜥蜴サラマンダーとやり合ったがよ、俺の部下たちの鉄の剣や斧は熱と衝撃で形を歪んじまって、すぐにダメになっちまったぜ。相手は炎の魔人なんだろ。そこらの鉄の剣じゃ心許ないぜ」


「俺の打った剣をそこらの剣と一緒にするなよ。なあ、ランス」


 ジルコが黙っていられず口を挟んだ。俺は頷いて、ジルコの剣を鞘から引き抜いた。


「確かに赤熱蜥蜴の岩の体はあっさり切ることができた。刀身はこの通りだ」


 青白く光る直刀をかざしてみせた。あれだけの激闘の後でも、刃こぼれ一つしていない。ジルコがふんぞり返って説明した。


「ドワーフ鋼は通常の鉄よりずっと高熱の炎で鍛えてできている。おまけに岩だって真っ二つにするほどの切れ味さ」


「へえ、頼もしいこったな。俺のこの鎖もグラバー鋼でできている。鉄よりは熱につええはずだ」


 ジョイルは腕にまいた鎖をジャラジャラと鳴らして見せた。ジルコはその鋼に興味を持ったようで腕にとって眺める。


「確かにこれはいい鋼だ。ミッドランドにも、こんないい素材があるんだな」


「俺はあらゆる海を渡ってきた男だからな。そん中でもこのグラバー鋼が最強だな」


「それは聞き捨てなんねえな、お前の目は節穴かよ。今、この世で最高の鋼を目で見たばっかりじゃねえのかよ」


 ジルコの鼻から勢いよく息が漏れた。するとジョイルもジルコの顔に顔を近づけてすごむ。


「誰の目が節穴だって? もういっぺん、言ってみろよ」


「お前だよ、耳まで遠いのか、このデカブツが」


「喧嘩してる場合じゃないだろ」


 俺は間に入って、二人の顔面を引き剥がした。まだ興奮した様子で、ジルコは俺に言った。


「まあ、相手は炎のバケモンだ。いかに優れた鋼の武器だろうと、そもそも剣でどうにかできる相手なのかもわからねえがな」


「そうだな、だが、イフリートは不死の魔物というわけではないだろ」


 永遠の存在として語られるのは、魔女だけだ。そして俺はいずれ、その永遠の魔女の命を刈り取ることを目的にしているのだ。不死でない魔物の命くらい刈り取れるようでなければ、魔女を倒すなど到底、無理な話だろう。


 そして武器が通用するとしても、当てることができなければ意味がない。俺は次の問題を告げた。


「イフリートは炎の渦に包まれている。遠くから一度見ただけだが、少なくとも2、30メートル程度の規模はあるように見えた。脆弱な人間の皮膚と身体では、近づくことすらできない。そうだな、グリシフィア」


「そうね」


 グリシフィアが白い首を傾け、愉悦に満ちた顔で俺を見ている。気に食わない顔だが、無視して話を続けた。


「まずはその渦を突破しなくては。考えることとしてまず、その渦が常に張り巡らされているかということだ」


「なるほど、寝込みを襲うということだな」


 ジョイルがニヤリとした。だが俺は容易に頷かない。


「もし奴が寝るのだとすれば、それも手かもしれない。だが一撃で確実に葬れなければ、あの規模の炎の渦を発生させられて全滅する」


 するとフィリオリが自らの白のマントを広げてみせた。


「ある程度の炎であれば、この純正白のマントで防ぐことができます。このマントは決して燃えず、熱を通しません」


 グリシフィアの目がちらりと、その純正白のマントに注がれた。視線に気づいたジョイルが言う。


「そういやお嬢の最初の目的って、その純正白のドレスを手に入れるために来たんだったな」


 ジョイルの言葉に、なぜかちらりと俺の方に黒い瞳を走らせて、ふんとそっぽを向いた。


「そうね、でも私には似合わないのでしょう?」


「どうだろうな」


「どうだろうな? あなたが言ったのよ、私に白は似合わないって」


 グリシフィアはあからさまに不機嫌になった様子で俺を睨んでいた。


 そうだったろうか? そういえば言ったような気もするが、まあ、いい。

 俺は旗色の悪さを感じて俺は話題を逸らした。


「耐火のマントか。確かに、役に立ちそうだな。あとは炎の渦自体を弱らせる方法があるといいのだが」


「雪崩でも起きて飲み込まれちまえばちったあ冷えるのかねえ」


 ジョイルの愚にもつかない言葉は無視した。イフリートのいる、炎に包まれた窪地の坑道に雪などあろうはずはない。


 しかし、炎を弱らせる方法に心あたりがないわけではない。


「イフリートの炎を突破する方法として、試したいことがある」


 言って、俺は心に思い浮かべた。


 あの炎に包まれた祖国と、目を閉じたフィリオリの最後の涙を。

 心にざわつきを感じると同時に、俺の額の黒い荊が増大し、頬から肩、両腕に拡がっていく。


 何度か試すうちに、俺はこの黒い荊をある程度、制御できることに気がついていた。


「この黒い荊は俺に力を与え、腕力も俊敏さも向上する。そして、あの炎獅子たちと戦ったとき、この荊は魔物の炎を吸収したんだ」


 この荊の紋様は、通常の炎を吸収することはできなかった。つまり、あの魔物たちの炎だけを特別に吸収することができるということだ。


 この紋様は俺に100万回の生を与えるべく怠惰の魔女によって刻まれたものだ。そしてあの魔物たちは教会によって魔女の眷属と呼ばれている。


 考えるに、この紋様は魔女に関係するもの、魔物の炎を吸収することができるのではないか。だとすれば、イフリートも魔女の上位眷属である。この力で吸収できたとしても不思議ではない。


 確かにただの人間にイフリートの討伐は難しいかもしれないが、俺も普通の人間ではない。同じく魔女の上位眷属と呼ばれるこの荊の力であれば、ある程度はイフリートの力を押さえ込むことができるのではないだろうか。


 だがそれが真実か、そしてどの程度の効力を発揮するかは、実際に目の前に行って確かめる他はない。


 俺はその考えを皆に示してから、言った。


「言っておくが、最初の挑戦でイフリートを討伐するつもりはない。イフリートがどのような恐ろしい力を持っているのか、何かの習性を持っているのか、そして荊の力がどの程度、通用するのか。まずは遠目から、情報収集を行なっていく。観察して、付け入る隙を探すんだ


 緊張した面持ちでフェルマリが頷いた。ジョイルはあくびをしている。


「イフリートを観察するメンバーには、ある程度の俊敏性や生存力が求められる。それはつまり、この中で最も俊敏なフェルマリ」


 フェルマリは強く頷いた。


「最も生命力の高いジョイル」


 ジョイルは両手を頭の後ろで組んで、「おうよ」と答えた。


「そして俺。イフリートに直接近づくのはこの三人だ」


「ランス」


 俺の名前を呼んだのは、キャスリンだった。


次回は木曜予定です。

更新できるよう、頑張ります。

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