81. 決戦前(2)
2/26, 2話更新します。
少しフライングですが、これは1話目です。
木製の部屋の中央に、樫の木で作られた円卓がある。その上に、カイルが一枚の古地図を広げた。
それは炎に包まれる前、200年前のありし日のノースティアの窪地の地理を表したものだ。高い山脈に囲まれた窪地の中には、西の王国ノースフォレスト、東の王国ノースプラトー、南にある霊峰フロストピーク、そして北東に位置する大坑道などが書かれている。
俺たちは地図と円卓を囲み、立っていた。
メンバーは俺、ジョイル、フェルマリ、キャスリン、カイル、ドワーフのジルコ、神父、それから魔女グリシフィア。
イフリートはノースティアの窪地にあるドワーフの大坑道を、守るようにその近辺を動かないと言われている。その大坑道に向かう必要があるのだが、そのこと自体が困難だった。
最初の問題として、この窪地全体が200年消えない炎によって包まれているのだ。だがそれに関しては、グリシフィアの魔力によって割って道を作ることができる。イフリートのところまでは、グリシフィアが俺との賭けを成立させるため、道を作ることを承諾していた。
だとしても、その距離が問題だ。
昨日、グリシフィアが炎を割って見せた霊峰の道は南端、そして北東にある大坑道は窪地の中で端どおしにあり、もし炎がなかったとしても徒歩で1月程度かかるだろう。
炎に包まれていた地では水も食料も調達できない。補給の方法として、大掛かりな輸送隊が必要になるだろう。しかし南の霊峰の地に行くまでには船が必要で、あのあたりは魔物も出る。
俺がそのことを説明すると、ドワーフのジルコが不思議そうに意見を言った。
「どうしてわざわざ南の霊峰を経由する?」
ジルコは地図を睨めっこして、そして気付いたように声を上げた。
「ああ、この地図、北の裂け目が載ってないぜ」
「北の裂け目?」
ジルコが北東の大坑道よりさらに東の山脈を指差す。
「この山のところに、切り立った山を裂いたような道がある。少し険しいが、俺たちドワーフはここを通って窪地の外と中を行き来していた」
「本当か!」
俺は声をあげて、再び地図に目を落とした。窪地の外から山脈を抜ければ、大坑道まではまる一日程度の距離だろうか。
「君がいてくれて本当に助かる」
ノースフォレスト生まれの俺にとって、ノースプラトーの奥地にあるこの裂け目など知る由もなかった。ドワーフ鋼の剣といい、このドワーフには借りばかり増えていく。
するとジルコは手を降って、俺から顔を逸らした。
「よせよ、暑苦しい。その代わり、真銀を持って帰ってきてくれよな。そしたら俺にとっても一世一代の第イベントさ。最高の剣を打ってやる」
「ああ」
「それに大坑道の中に入れば、知らない人間にとっては中は迷宮のようなものだ。もし入口を守るイフリートを倒すことができたら、俺を頼ってくれ。そのときは道案内してやるよ」
「そうだな、まずイフリートだ。奴を倒せたなら、そのときは頼む」
「ランス様ならきっと、イフリートだって打ち倒せます。私も微力ながら、お供させていただきます」
フェルマリは緑の目で真っ直ぐに俺を見て言った。彼女は地獄のような炎の中にだって、俺についてくるつもりのようだった。彼女を死なせないためにも、しくじることはできない。
「あなたたちは正気ですか!?」
黙っているのを耐えきれないように、神父が口を挟んできた。
「イフリートは、今まであなたたちが相手をしてきた下等な眷属ではありません。この世界で確認されている数少ない魔女の上位眷属と呼ばれています。人の身で挑もうなどと、聞いたことがありませんよ! 現に下等な魔物である岩とかげや炎獅子にだって、ギリギリの戦いだったではないですか!」
確かに、ただの人間には荷が重いだろう。俺は親父に向かって尋ねた。
「他に確認されている上位眷属はいるのか?」
「いくつか教会の記録に記されています。あなたたちのような無知な者でも、<災禍の三騎士>でくらいは聞いたことがあるでしょう」
「災禍の三騎士ねえ」
「大規模な魔物の襲撃、血を血で洗う最悪の戦場、そんな災いに満ちた場所に忽然と現れる災いの騎士たちですよ。彼らが現れたところ、魔物も人間も等しく殲滅されるのです。三騎士は全て素性は知られていませんが、彼らの活躍の伝説は少なくとも200年以上昔から語られているのです」
魔物も人間も等しく……か。噂話というのは尾鰭がつきものだな。俺は一息吐いてから、言った。
「その三騎士とは、黒曜の騎士、獣相の騎士、そして深き荊の騎士で合ってるか?」
「あなたのような無教養者でもご存知でしたか! そうです、黒曜、獣相、そして……」
「そして?」
俺は仏頂面で自分の額を指差してみせた。黒い円環の荊の模様を見て、神父は出会った日の夜を思い出したようだ。そうだよ。
「深き荊の騎士は俺だ。お前らの話によれば、俺も魔女の上位眷属に当たるらしいな」
もちろん俺は魔女の眷属になど、なった覚えはない。だからその上位眷属がどうこうという話も、教会のでっち上げではないのか。
深い感情のうねりと共に、黒い荊にこの身が包まれる。確かに遠目には、魔物と同族と思われても仕方がないかもしれない。
その荊を生み出すものは、今まではグリシフィアへの深い憤怒だった。故国が炎に包まれたあの日から、身を焼きような憤怒に常に支配されてきた。だが、ノルディンと出会い、キャスリンを救い出した今の俺の心は静けさを取り戻している。
「しかし相手は炎の化け物だろ、俺たちの武器は通用するのかねえ」
ジョイルが言った。
「俺は体が岩でできた赤熱蜥蜴とやり合ったがよ、俺の部下たちの鉄の剣や斧は熱と衝撃で形を歪んじまって、すぐにダメになっちまったぜ。相手は炎の魔人なんだろ。そこらの鉄の剣じゃ心許ないぜ」
0時以降にもう1話更新します。




