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80. 決戦前

 ノルディンの葬儀を終えて、俺たちは村に戻った。


 かつて炎によって滅びたノースフォレスト王家、その子孫である銀髪の青年、カイルが出迎えてくれた。


 若くして村長むらおさの立場にある彼に事情を話すと、彼は俺の手を取ると、力強く頷いた。


「ノルディンは死の前に、100万回の生を受け、魔女と戦い続けていたというあなたの話を私にしてくれました。あなたが現れるまでは誰も、魔女と戦おうというものはいませんでした。我が祖国と一族の大勢が、魔女の気まぐれによって炎に包まれたというのに……情けない」


 カイルが悔しそうに歯噛みする。俺の手を握る彼の手に力がこもり、細かく震えた。


「私たちだって魔女への憎しみを忘れたことなどありません。我が祖先と、祖国を滅ぼした魔女を滅ぼすことができるのであれば、我らが祖先である王家や国民の真の弔いになります。

 そして魔女に立ち向かう者が他でもない、ノースフォレストの英雄、ランス様であるならば、我々が迷うことなどありません」


 カイルの銀の目、かつての自分に似た目が今の赤髪の俺を映している。俺はカイルの手を硬く握り返した。


「ありがとう、カイル。頼りにさせてもらう」


「ええ! 我々も共に戦わせてください!」


 俺たちはカイルの屋敷の一室に集合した。  


「おいおい、押すんじゃねえよ。そんなにドヤさなくても大人しく歩いてるだろうが」


 扉の向こうからジャラジャラという鎖の引きずる音と、見慣れた大声が聞こえてきた。扉が開かれ、後ろ手に分厚い鉄の鎖の錠をつけられた、巨漢の海賊が現れた。鉄鎖海賊団の生き残り、船長のジョイルだった。


「ランス様、言われた通り、この場へ連れて参りました」


 カイルがしかめっ面で言った。明らかに敵意がこもっている。海賊たちは地下室に幽閉されていたが、俺が頼んで連れてきてもらったのだ。


 ジョイルは俺の顔を見ると、ニヤリと笑った。


「よお、ランス。俺に用があると聞いたぜ」


「ジョイル、お前の目的も確か、この島にあるという真銀ルシエリだったよな」


「まあな」


真銀ルシエリの原石がある大坑道の話も聞いていたよな、それを守るイフリートのことも。どうにかこのイフリートを避けて、大坑道へ進まなくてはならない」


「避けるだって? 何言ってんだ、そんなもん、ぶっ倒しちまえばいいんだよ」


「イフリートはこの200年燃え盛る炎の中心にいながら、炎が絶えないように番をしていると言われるバケモノだ。今まで俺たちが戦った魔物とは比べ物にならないだろう。人の手には余るかもしれない」


「おいおいランスくん」


 ジョイルは俺の方につめより、猛獣のように歯をガチガチと鳴らせてみせた。


「戦る前から怖気付いてんのかよ。そんなもん、なら俺の鎖を解放してから、お前はここでゆっくりお茶でも飲んでな。イフリートの首は、俺が鉄鎖に巻きつけて引きちぎり、お前のとこまで持ってきてやるからよ」


 俺はカイルの方を向いた。


「見たか、こいつはバカで海賊だが、イフリートを相手にしてもまるでビビらない。こいつの力は利用できる」


「あなたが言うのであれば解放します。しかし、この男を解き放って本当にいいのでしょうか」


「ランス様がこの海賊が必要だというのなら、私は信じるだけです」


 俺の傍で動かずにいた白銀のエルフの女、フェルマリが言った。


「カイル、私の弓の腕は知っているでしょ。もし海賊が裏切るようなことがあれば、私の矢が彼の心臓を射抜くわ」


 冷静な狩人の目をジョイルに向ける。


「へへ、おっかねえな」


「おかしいか、海賊。私が躊躇わないことはすでにわかっているだろ?」


「もちろんわかってるさ、冷徹なエルフどの。お前の策略で俺の部下の大勢が死んだからな」


 おどけた調子で語るジョイルの言葉に、フェルマリがグッと息を飲み込んだ。そのエルフの体を、横にいた栗毛の少女が抱えて海賊の方を睨みつけた。


「ジョイル、そんな言い方ある? 元はといえばあんたがフェルマリを攫って無理やり船に乗せたんでしょ! それに結局、あんただってフェルマリに助けられたんじゃない!」

 

「キャスリン! いやあ、まあ、そうなんだけどよ」


 確かに、炎の獅子の戦闘でジョイルの窮地に駆けつけた際に、フェルマリがいなければ間に合わなかっただろう。


「だいたい、あんたの部下が死んだのはあんたがバカで、弱いからでしょうが!」


「よわ……。お、おい、そりゃ流石に酷いぜ、キャスリン」


 意気消沈した声でジョイルがつぶやいた。キャスリンはそんな海賊には目もくれず、フェルマリの方へ「バカのいうことなんて、気にしちゃダメよ」と言い聞かせていた。


 すっかり大人しくなってしまった海賊を、俺は少し驚いて見ていた。どんな罵詈雑言を浴びようとまるで動じることがなかったこの海賊だが、どうやらキャスリンの言葉は堪えるらしい。なぜかはわからないが。


 俺はこほんと、咳払いしてジョイルに声をかけた。


「ジョイル、はっきり言うが、お前をミッドランドに帰すことはできない。ミッドランドにこの村のことが知れれば、どんな略奪者がやってくるかわからないからな」


「帰りたくても帰れないさ。俺の船は流されちまったんだろう?」


「ああ。そしてもし船があったとしてもだ、お前の部下も残りは1人だ。ミッドランドまで行けるような規模の船はうごがせないだろう」


「そうだな、流石の俺でも一人じゃ船は動かせねえからな。それで、俺をどうするつもりだ。ここまで生かしておいたんだ、まさか殺すつもりはないだろう?」


「そうだな。だが、お前が海賊行為をしてフェルマリを攫ったことが許されるわけでもない。だから、取引だ。もしお前がイフリートと戦うっていうんだったら、今の地下の幽閉状態から、多少は譲歩してやってもいい。完全に自由というわけにもいかないが、俺の監視のもとでなら、外出も許そう」


「そいつはお優しいことで。もちろん、やってやるさ。それからよ、勘違いするんじゃねえ」


 ジョイルの両腕の力こぶが膨れ上がり、後ろ手の手錠が徐々に広げられていく。


 ガキンッ!


 金属の破片が弾け飛ぶ音と共に、ジョイルの鉄の枷が床に落ちた。ジョイルはぷらぷらと手首を振りながら、白い歯をみせた。


「俺は鎖ちぎりのジョイル。いつでも地下室から出られたがよ、お前らの顔を立ててやったんだ」


 驚愕の表情を浮かべるカイルに、ジョイルが笑いかける。


「カイル、お前さんが船を出してくれなかったら、俺たちは全滅してたぜ。それから、地下室に幽閉しながらも、お前は俺の傷の手当てをしてくれてたな。おかげさんで全身の火傷も、怪我してた足もよ、けっこう回復したぜ。死んだコックの亡骸も、俺たちの流儀に沿って海に還してくれたしよ。一言、礼を言いたくてな。逃げずに、あの地下室で大人しくしてたんだ」


 そして膝をつき、頭を下げた。


「俺は鉄鎖海賊団の偉大なる船長ジョイルだ。恩を受ければ必ず返す。あんたにはでかい借りができちまったぜ。だから、ここに俺の名にかけて誓う。我らの命を助けてくれた恩と、我が友を弔ってくれた恩に、我ら鉄鎖海賊団は今後何代に渡ることになろうと、これを返そう。この村に略奪者が来ることはない。もし、他の海賊がやってきたとしたら、この鉄鎖海賊団がこの村を守る」


 カイルはやや気圧されながらも、頷いて口を開いた。


「海賊としてフェルマリを危険な目に合わせたこと、許したわけではない。だが、そなたの覚悟はそなたの行動を持って、見極めさせてもらう。ノースフォレスト王家の血を引くものとして、公正な態度でな」


「おうよ、よく見極めてくれよな」


 ジョイルは立ち上がると、カイルに向けて軽く敬礼の真似事をした。それからキャスリンの方に歩み寄る。


「どうだった、今の振る舞い。俺だってちゃんとした言葉遣いもできるんだぜ。惚れなおしちまったかな?」


「惚れ直すも何も、はじめから惚れたことなんかないわよ」


 キャスリンは面倒そうにジョイルに背を向け、俺と目があうと、


「ランスも誤解しないでよ!」


 と言った。


 なんの誤解だよ。


「それでまあ、俺と一緒にイフリートと戦うってことでいいんだな?」


「ああ、よろしくな、兄弟」


 ジョイルは馴れ馴れしく俺と肩を組んできた。


 確かにこいつの鎖を使った戦闘技能と生存能力は、味方になれば頼もしい。だが……


 俺はジョイルの腕を無言で振り払う。

 

 お前と兄弟になった覚えはない。

次回の更新ですが、スケジュール的に厳しく、木曜はお休みさせていただきます。


来週の月曜の更新になります。

よろしくお願いいたします。

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