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79. 森に還る日(4)

 ノルディンの亡骸は石棺に入れられ、彼がこの森で最初に植えた一本、ランスの樹と読んでいた一番大きな樹の根本に埋められることになった。


 そこに村中の人間たち、エルフたちが集まっていた。皆、まるで自分の祖父や父が亡くなったかのように目を腫らし、泣いていた。


「私たちは皆、ノルディンの子供のようなものです」


 村で最高齢の長老が俺に言った。彼も子供の頃は、ノルディンによく遊んでもらったとのことだった。ノルディンはこの村の歴史、そのものだった。


 俺と村の者たちで協力して木の根を分けながらゆっくりと穴を掘り、ノルディンの棺を納めた。そして村の者たちで順番に、別れを惜しみながら土をかけていく。やがて完全に穴が埋まり、そこに土だまりができた。季節が巡れば、草や花が咲いて森の一部となるはずだった。


 生命は森に還り、そしてそれは木になって実をつけ、鳥に食べられ、鳥を食べた動物に宿り、そしていつか人間やエルフに戻って、また生まれる。ノルディンが言っていたエルフの生命の循環の考え方だ。


 彼は100万回生きる俺に、生まれ変わること自体は特別ではなく、あまねく生命は皆、こうして循環していると教えられた。もしかしたらいつか、ノルディンの生まれ変わりと会うこともあるのかも知れない。そう考えると、俺の果てしない道筋が少し照らされるような気持ちになった。


 ノルディンの埋められた場所には、村の者たちの献花によって花でいっぱいになっていた。グリシフィアはその様子を少し離れた場所で見ていたが、彼女に気づいた小さい女の子が魔女を見上げて、花を差し出した。


「おねえちゃん、お花、持ってないの? これ、あげるね」


「私に? この傲慢の魔女に花を添えろって言うの?」


 グリシフィアはいつもの調子で女の子を見下ろすが、女の子は純真な目でグリシフィアに花を差し出し続けた。


「お姉ちゃん、ノルディンが森に還ったから、みんなで花をおくってお見おくりするんだよ」


「はあ? 馬鹿馬鹿しいわ。死んだものに花を贈って何に……ああ、わかったよ。花をおくればいいんでしょ。だから泣くのはやめなさい」


 グリシフィアは少女から花を受け取り、無造作にノルディンの眠っている場所に放り投げた。


「はい、これで満足?」


「うん! お姉ちゃん、ありがとう!」


「はいはい……って、何かしら」


 俺の視線に気がついてグリシフィアが不機嫌そうな顔をした。


「いや……」

 グリシフィアが本当に献花するとは思わなかったので、驚きを持って彼女を見ていた。すると俺の無遠慮な視線を振り払うように、虫でも払うように彼女が手を振った。


「子供は泣かれると、うるさいわ」


「お前にもそういう感覚はあるんだな」


「悪い?」


 ふん、とグリシフィアが鼻を鳴らした。こういう話をしていると、見た目の通りの20歳前後のように見えてくる。


 そう、見た目だけならフィリオリと瓜二つなのだから。


 いや、油断するな。こいつは人間を虫けらのように殺す、魔女だ。


 俺は弛緩しそうになった気持ちを振り払い、彼女に尋ねた。


「ノルディンの言っていたことは聞いていたな」


 いなくなったフィリオリ、そして同時に消えた、謎の少女。


「ええ」


「お前には、何が起きたのか見当がつくのか?」


 どうせまともな返事は返ってこないだろうと尋ねた質問に、彼女がつぶやくように言った。


「ファルシローネ」


「ファル……? それは誰かの名前か?」


 俺が視線を向けると、彼女は眉を寄せて嫌悪の表情を見せていた。


「色欲の魔女、ファルシローネ。私たち七人の中でも、最も悪趣味な女よ」


「色欲の魔女……? 黒い死体はそいつの仕業なのか?」


 しかしグリシフィアは答えずに、苦々しい顔で言った。


「確かにあいつがフィリオリを見つけたら、放ってはおかないでしょうね」


「それはなぜだ」


「フィリオリが私にそっくりだからよ」


 なぜお前と似ていると、狙われるんだ。そう聞こうとしたが、彼女の顔を見てやめた。グリシフィアが歯噛みしながら、虚空を睨んでいる。


「私のものに手を出すなんて、身の程を忘れたようね、ファルシローネ」


「あの200年前、その色欲の魔女はノースティアにいたんだな?」


 もしそうだとすれば、あのとき窪地には傲慢、怠惰、色欲と、そして話にだけは出てきた、憤怒。少なくとも四人の魔女がいたことになる。だとすれば残る強欲、暴食、嫉妬の魔女もあの場にいたとしても不思議ではない。


 だが俺の問いに、グリシフィアが冷ややかな視線を返してきた。


「何を勘違いしているの? あなたとはまだ、共闘関係でもなんでもないわ。私の奴隷になる賭けのことは忘れてしまったの? あんな魔女のことよりも、まずはイフリートに勝つ算段をすることね」


 彼女の最もな意見に、俺は頷くしかなかった。だが逆を返せば、もしイフリートを討伐して賭けに勝つことができれば、フィリオリの失踪に関係のある色欲の魔女について、話を聞けると言うことだろうか。


 いずれにせよ、まずは、勝つことか。


 あの魔人の炎の渦を突破し、この剣で叩く方法を考えなくてはならない。


ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

本日は1話のみの更新です。

次回は月曜更新になります。よろしくお願いいたします。


前章である傲慢の章を、改訂いたしました。

最初はわかりにくいところを直すつもりでしたが、特に後半(魔女の犬あたり)からは加筆され、

特に22、約束(月下の約束へ改題)は大幅な加筆となりました。


それに合わせて近況も更新しています。


この憤怒の章も、残るプロットも少なくなり、クライマックスに近づいてきました。

ランスは無事に、イフリートを倒してグリシフィアとの賭けに勝つことができるのか。


楽しんでいただければ幸いです。

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