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75. 姉妹

本日、2話更新します。

これは1話目になります。

「ごめんなさい」


 謝ったのはキャスリンだった。


「ランスから事情は聞いたわ。あなたも一人で、戦っていたのね。誰もあなたを責めることはできない」


「いえ、キャスリン様。私のしたことで、あなたたちを危険に晒したのは事実です。海賊とはいえ、たくさんの命が失われました。あなたの命だってあともう少しで……」


 フェルマリが震えて、拳を握りしめている。その目が潤んでいた。


「……あなたが助かって、本当に良かったです」


 キャスリンが駆け寄って、そのか細いエルフの体を抱きしめた。


「あなたの弓のおかげよ。ありがとう」


「間に合って、良かった。怖かったんです、あなたが死んでしまったら私は……私は」


 フェルマリが嗚咽を漏らし始めた。釣られたのか、キャスリンの肩も小さく震え、嗚咽をあげた。少しの間、抱き合ってから、ゆっくりと二人が離れた。鼻を啜りながら、フェルマリが言う。


「私のしたことは償えるものとは思っておりません。それでもフェルマリは、ランス様や、キャスリン様のお役に立ちたいのです。これからもお二人に仕えさせてください」


「仕えるなんて、やめてよ。私はただの、世間知らずの旅芸人なんだから。それにキャスリン様というのも、なんだか背中がむずむずするわ。キャスでいいわ。だからあなたのことも、フェルマリって呼んでいい?」


「は、はい、それはもちろんです……キャス、様」


「だから様はいらないの」


 そんな二人の様子に、俺が安堵の息を吐いた。どうなることかと思ったが、どうやら仲良くなったみたいだ。


「君は何も償う必要なんてないよ、フェルマリ。すでに君にはたくさん助けられた。だからこの先は、無理についてくる必要はない。この先は今までよりさらに危険な旅になるからな。本当だったら俺は、君にもキャスにもついてきてほしくないんだ。でも……」


 俺はため息をついた。フェルマリとキャスリンが「また?」という顔をして俺を睨んでいる。


「止めても無駄なんだろうな」


「そうよ」


「そうです」


 二人が同時に答えた。二人の見た目はぜんぜん違うのだが、俺に答える様子はどこか似ていて、姉妹のようだと思った。そういえばフェルマリと二人でいたとき、俺のことを兄のようだと言っていたことを思い出す。俺も彼女も、幼少期をノルディンに育てられたからだ。


 二人に詰めよられる俺を、甲板の高台からグリシフィアがにやけて見下ろしている。


 しかし、だ。この傲慢の魔女グリシフィアは元より、キャスリンもフェルマリも、どうして俺の周りの女性たちは誰一人、俺の言うことを聞こうとしないんだ。


「……わかった。これからも頼む、フェルマリ、キャスリン。ただ」


「任せてください!」


「はいはい、頼まれたわよ」


 嬉しそうにフェルマリ、当然のようにキャスリンが言った。


「ただ、君たちの命を最優先にしてほしい。俺は最悪、死んでも生まれ変わるから……聞いてるか?」


 聞いていない様子だった。キャスリンはすでに俺の方を見ておらず、大陸では見たことのないエルフに興味津々の様子だった。フェルマリの尖った耳に触れてみてもいいか聞いている。


「しかし不思議なものだわ」


 グリシフィアがつぶやいた。


「エルフも、キャスリンも、最初に会った頃とは印象が違うわ。どうしてかしらね」


「俺に聞かれても、わからないぞ」


「あなたが人を変えるのかしら、ランス」


「おまえはまるで変わらないがな」


「私は魔女。不死不変にして、永遠の存在だものね」


 グリシフィアの視線は俺ではなく、フェルマリとキャスリンに注がれていた。いつもの見下す笑みではなく、つまらなそうな顔だった。




 船は順調に進み、特に魔物に襲われることもなく進み、フェルマリの村についた。


 すでに夜になっており、北の澄んだ夜空に無数の星が光っている。


 俺たちが陸地に近づくと、幾つもの松明の群れが俺たちを出迎えた。波止場に船が着くと、出迎えた村人たちが再会を喜んだ。


 だがそれも束の間、村人の一人が神妙な顔で俺に告げた。


「ランス様、間に合ってよかった。村までお急ぎください」 


「何か、あったのか?」


「ノルディンが倒れたのです」





 用意された早馬に乗ると、村へと全力で走らせた。背中にはフェルマリが乗っており、その手が俺の服の裾を強く掴んでいる。俺もフェルマリも、一言も喋らず、ただ道中を急いだ。


 村に着くと、銀髪の青年、カイルが俺たちを出迎えた。俺は馬上から声をかける。


「ノルディンが倒れたと聞いた!」


「そうなのです。ノルディンは衰弱した様子で、あなたと、フェルマリの名前を呼んでいます」


 フェルマリの息を呑む声が聞こえる。俺は頷くと、そのまま馬を走らせてノルディンの家へと急いだ。


 村を抜け、森に入り、木々の間を駆け抜け、枝を飛び越えていくと、大樹の麓の家が見えた。その周りでは、たくさんの村人やエルフたちが遠巻きに囲んで、家の様子を見ている。皆、一様に心配そうな顔で、俺たちの姿を見かけると道を開けてくれた。


「フェルマリ! ノルディンに顔を見せておやり!」


 老婆が言った。フェルマリは馬から飛び降りると、風のように走った。俺は少し遅れて、なんとかその後をついていく。


 家のドアを開けると、湯の熱気と薬草の匂いがした。奥の寝室からヒューヒューという呼吸音が聞こえてきて、ノルディンがベッドに横になっていた。彼は目を瞑って、額にうっすらと汗をかいている。

 その横に、医者と思われるエルフが水差しをもち、ノルディンの口に含ませていた。


「ノルディン」


 フェルマリがベッドの脇に膝をつき、ノルディンの手をとった。するとノルディンはわずかに目を開けて、フェルマリの髪を撫でた。だがそれもすぐに力なくベッドの上に落ちる。再び目を瞑り、大きく胸を上下させて息を繰り返した。


 俺はただ立ち尽くして、その様子を見ていた。人間と比べれば永遠のような寿命をもつエルフとて、終わりはある。いつかは、こんな日が来るとは思っていた。だが目の前のすると、まるで現実感を感じなかった。


「ランス様ですね。どうか、ノルディンに声をかけてあげてくださいませ。彼は今、世界へ還ろうとしています」


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