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72. 魔女との誓い(後)

こちらは後編になります。

(本日2話更新)

「違う。逆だ」


 魔女の冷たい視線を受け止め、俺が視線を返す。


「今までの俺はただ、胸の憎悪に塗りつぶされ、お前にただ剣を叩きつけていれば、それで満足だった。だが、今は違う」


 頭の中がすっきりしている。憤怒も絶望も、変わらず胸のうちにはある。だがそれは胸の奥にとどまり、俺を支配することはなかった。


 俺は憤怒から解き放たれた。ノルディンが俺を、解き放ってくれた。


 そして憤怒から解き放たれ、決めたのだ。


 たった一晩で消された二つの国と、ノースティアの人々。


「その上で敢えて、言う。お前らのやったことは許されることではない。永遠に生きる苦しみなど知ったことか。おまえら魔女は、この世界にいていい存在ではない。最初の生でお前は俺を殺す時、言っていたな」


 騎士ランスよ、傲慢の魔女があなたに命じるわ。あなたの絶望も、憎しみも、全てを私に捧げなさい。色欲や、怠惰や、強欲や、暴食や、嫉妬や、ましてや憤怒などではなく……このグリシフィアに全てを捧げるの。そして……


「誓ってやる。俺が全ての魔女を滅ぼす」


 この私に、劇的なる死を———


 グリシフィアは微動だにせずに俺の言葉を聞いている。やがて口を開き、


「200年かけて、私に傷ひとつつけられないあなたが大きく出たものね。でも言葉だけなら如何様いかようにでも言えるわ」


「ああ、今まで通りではだめだ」


 そう、俺一人の力では無理だ。だが、同じく目的をするものが目の前にいる。


「グリシフィア、お前の協力が必要だ。お前が望む、劇的なる死は俺がもたらしてやる。だから、お前を殺すためにお前の力を貸してくれ」


 少し、沈黙が流れた。 


 グリシフィアは不意をつかれたのか、きょとんとしている。それから、ふっと一息もれた。ふふふ。顔を押さえて、やがて堪えきれなくなったように、


「あはははははは!」


 声をあげて笑い出した。ひとしきり笑い、愉快そうに顔を近づけると、俺の瞳を覗き込む。


「なるほど、確かに変わったわね」


「笑えるか?」


「笑えるわよ。私を殺すために力を貸せ、ですって。そんな話は聞いたことがないわよ。道化にでもなったつもり? いえ、私の方が道化かしら。自らを殺すために力を貸す、だなんて」


「だが俺は本気だ」


「なお、頭がおかしいわね。でも、悪くないわ。少なくとも今までのあなたで一番、面白い」


 グリシフィアはにぃっと笑みを深めて、悪魔のような顔をして言った。


「でも確か、あなたとは賭けをしていたわ」


「ああ」


「もしあなたがイフリートを倒すことができたのなら、いいわ。傲慢の魔女グリシフィアは、あなたの目的のために力を貸してあげましょう。けれどもし、負けた場合、あなたは私の生涯の奴隷になるわ」


「ああ」


「わかっているのかしら? 私の生涯は永遠よ。私が殺せといえば、たとえ赤子だろうと、殺すこと。死ねと言われれば即座に死ぬこと。ほしいものはどんな手を使ってでも手に入れてもらうわ」


 俺は頷いた。グリシフィアの白くて細い指が俺の額に当てられる。黒い荊の紋様に向けて、冷たい棘のような魔力が流れ込んでくる。


「魔女との約束は破ることはできないわ」


「それはおまえも約束を破らないということだな」


「そうよ。ふふ、けどあなた、本気で勝てるなんて思っているの?」


「勝つ」


 勝たなくてはならない。イフリートは強力な炎の魔物だと語られるが、同時に魔女の上位眷属でもある。イフリートを倒せずして、どうしてその主人の魔女を殺すことができよう。


「イフリートは一度、遠くから空に浮かんでいるのを見ている。大坑道があったところだと、知り合いが言っていた」


「そうね。たまに上空に浮かんでいるのを見るけれど、大坑道から離れることはない。大坑道には真銀ルシエリの巨大採掘場だったそうね」


「イフリートが真銀を守っているのか? なぜだ」


「知らないわよ」


「イフリートは魔女の眷属なんだろう。おまえが従わせているのではないのか?」


「私は眷属なんて持たないわ。醜い魔物など、見るのも嫌だもの」


 不快そうな顔で答え、言葉を続けた。


「しかし見た目は醜くとも、人間にとっては脅威でしょうね。人間の体はよく燃えるもの。あの炎の渦にどうやって近づくつもりかしら」


「それはやってみなくては、わからない」

 

 遠くから眺めていては、わからないままだ。まずは近づき、この目で観察する。


 どのくらいの熱量なのか。持続力はどの程度か。


 渦が解かれる瞬間はあるのか。


 それからもう一つ、試したいことがある。俺は自分の手を眺めた。


「やらなくてもわかりそうなものだけれど。私にはお前が道化にしか見えないわ。いいでしょう、イフリートに会うまでは手を貸すわ。この傲慢の魔女が、あなたのために道を開いてあげる」


 魔女の冷たい手が俺の頬に触れる。


「せいぜい、もがくことね。私を退屈させたら許さないわ」


 俺は手を振り払い、魔女を睨みつけた。


「笑ってろよ。そのうち、その笑いごと消してやる」


「奴隷になったら、まずは口の聞き方からお勉強しないといけないわね」


 グリシフィアが心底愉快そうに言った。

ここまで読んでいただきありがとうございます!


次回は木曜更新の予定です。

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