表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/163

71. 魔女との誓い(前)

本日2話更新します。

(前後編)


 陽光の下、雪原の向こうに炎を吹き上げる高い山々がある。


 その山が巨大な爪で切り裂かれたかのような、裂け目のような道があった。


 霊峰の道で待つ。


 キャスリンがグリシフィアから受け取った伝言だ。


 俺は霊峰の麓である、裂け目に向けてゆっくりと荒野を歩いていった。


 裂け目からは激しい炎が山より高く吹き出し、来るものを拒んでいる。


 その炎を悠然と見上げる、黒い魔女の姿があった。


「生きていたのね、ランス」


 魔女は振り向かずに言った。


「賭けは継続だわ」


「ああ」


 賭けとは、この呪われた島ノースティアへの船に乗る条件として、グリシフィアと交わしたものだ。


 もし俺がイフリートの角を持って帰れない場合、魔女の生涯にわたって奴隷になることになっている。永遠を生きる魔女の、生涯だ。100万回の生を繰り返す俺の次の生も、その次の生も、何度生まれ変わろうと奴隷ということになる。


 その賭けを呑むことで、俺はこの島に来ることができた。唯一、魔女に通じる可能性がある真銀ルシエリを求めて。


「あなたの求めるものはこの炎の向こうよ。さあて」


 グリシフィアが振り返った。


「どうするのかしら」


 いつものように、こちらを見下すように微笑んでいる。この笑みは俺の憎悪の対象だった。今でもそのことは変わらない。しかし、以前とは違うことがある。


「この炎はお前の魔法ではないんだろ」


 俺の問いに、


「ええ」


 魔女はあっさりと認めた。


「今更だわ。この200年もの間、そんなことにも気が付かなかったの?」


 まったくだ。いや、この炎が誰の魔法などどうでも良かったのだ。


 俺は身を焼く憤怒をただ、目の前の魔女に叩きつけたかっただけだった。


 だが今は違う。俺は吹き上げる炎を見上げ、言った。


「魔女という存在には驚かされる。200年も島を覆うような強大な炎を作り出すなんて、な。お前の月の魔法が可愛く見えてくるほどだ」


 俺の言葉に、グリシフィアの笑みがすっと引いた。俺は言葉を続ける。


「おまえ以上の魔女がいるなんてな」


「は?」


 魔女の目が冷たさを増している。俺と戦っているときはいつも笑っていて、こんな顔を見せることはなかった。


「すまない、聞こえなかったか? ここは炎の勢いが強いからな」


 グリシフィアの視線が俺の口元に注がれている。思ったよりも効果がありそうだ。もう一度、俺は言う。


「傲慢の魔女グリシフィアを超える魔女がいるなんてな。まったく、とんでもない存在に喧嘩を売ったもんだよ」


 そこでグリシフィアがふっと笑う。


「少しは知恵を使うようになったのね。しかしランス、慣れないことをするものではないわ。あなたのような不器用な騎士が、役者の真似事かしら?」


 そう、確かに俺は役者の真似はできない。だから。


「そうだよ、俺が演技なんかできない。だからこれは本心だよ。俺が手も足も出なかった魔女グリシフィアですら、この炎の前では何もできずに手をこまねいているだけだ」


「私が手をこまねいている? あの女の、こんな炎に?」


 グリシフィアの長い黒髪が炎に煽られて靡いている。その目にはあからさまな怒りの表情が見てとれた。


「全くあなたときたら、この私と200年以上も対峙しておいて、私の魔力すら計りかねているの? そんなことだから、いつも同じように無様にやられるのよ」


「おいおい、ムキになるなよ。確かに俺はお前に手も足も出ないさ。けどお前も一緒だろ。この炎を前にして何もできず、突っ立っているだけだ」


 グリシフィアは無表情になり、俺の顔を見つめている。今までのどのグリシフィアの表情よりも、怒っていることがわかる。やがて魔女は口を開いた。


「あなた、少し変わったわね」


「そうか?」


「いいわ、今回だけはあなたの悪知恵に乗ってあげる」


 グリシフィアの黒髪が銀の光を帯びてくる。


「白い月に踊れ、下賤のものども」


 グリシフィアの声が響いたかと思うと、舞い上がる炎がさらに勢いを増して天に昇ると、そのまま空に消えていった。後には、燃え盛る炎を両断するように真っ直ぐに道ができていた。


「まあ、こんなところね」


 魔女は手のひらで避けた炎を指し、少し胸を逸らして、俺を見下ろした。


「これであなたのようなお馬鹿さんにでもわかったかしら。誰が最強の魔女なのか、ね」


 道の先は遥か先まで続き、どこまで続いているのか見えない。改めて、目の前の魔女の魔力に驚いていた。確かにこれだけの魔力を持ってすれば、傲慢にもなるだろう。


「ひとつ聞かせてくれないか」


「何かしら」


「どうしてフィリオリを助けた」


 姉の名前を出したものの、200年前のたった一人の人間の名前など覚えているはずもないか。しかし、グリシフィアは友人の話でもするように即座に答えた。


「あのエルフから聞いたのね。彼女が美しいからよ。当然ね、私と瓜二つなのだもの。他の魔女ごときが手を出していいはずがないわ」


 どうやらグリシフィアにとっても、同じ顔をしていた姉は特別な存在のようだった。


 ノルディン曰く、グリシフィアはフィリオリの言うことを聞いていたという。同じ顔をしていた、というだけではこの傲慢の魔女が人間に従ったりしないだろう。何かが、この傲慢の魔女の関心を捉えたのだ。


 魔女は沈黙する俺の顔を眺め、言った。


「何を考えているのかしら。やはり、あなた変わったわ」


「おまえの言うとおり、俺は少し考えを変えたんだ。お前に闇雲に向かっていくのはやめだ」


 するとグリシフィアが嘆息して言った。


「とうとう諦めたってこと?」


「違う。逆だ」


 魔女の冷たい視線を受け止め、俺が視線を返す。

後半は30分以内に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語を気に入って頂けた方、ブックマークや☆☆☆☆☆の評価などで応援お願いします。 感想などはお気軽に〜。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ