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47. 呪われたノースティア3<愚か者の末路>

本日2話更新。


こちらは2話目です。

「待たせたね、君たち。さあ、死にたいヤツからかかってきやがれ!」


 ジョイルが鎖を頭上で回し始めた。一人になった今、周りを巻き込む心配もなく思い切りやれそうだった。しかし、数十匹は見える蜥蜴たちは容易にかかってこない。


「化け物でも命は惜しいようだな。まあ、このまま睨み合ってても俺は構わ…」


「げええええええええ!」


 1匹の個体が咆哮すると、続けて他の個体も叫び始めた。空気が震え、赤熱蜥蜴たちがその体をさらに赤く発光させていく。


「まあ、そんな甘くねえか」


 前衛の5匹が一斉に飛びかかってくる。ジョイルの鎖が1匹を打ち倒してもう1匹にぶつけ、転倒させた。しかし残る3匹が迫ってくる。先頭の蜥蜴が大きく口を開け、飛びかかった。その口に手にした鎖を噛ませ、受け止める。蜥蜴は激しく頭を降って抵抗するが、ジョイルはその蜥蜴の体をコントロールして残り2匹の盾になるように位置取った。


「おらああああああああ!」


 ジョイルはそのまま鎖を押し返し、怯んだ蜥蜴を残る2匹の方に蹴飛ばした。飛ばされた蜥蜴は仰向けに転倒するが、残る2匹はそれを乗り越えて迫ってくる。そして2匹の後方に、何十匹もの蜥蜴たちがジリジリとこちらに迫ってくるのが見えた。


 焦げた匂いがする。蜥蜴の焼けた体を蹴ったブーツの底が焼けこげているのだ。見れば、蜥蜴に噛ませた鎖も熱で形が歪んでいる。


 流石にやべえな。


 ジョイルが後ろを振り返ると、足を怪我した海賊に肩を貸して逃げていく海賊の姿が見える。キャスリンがその反対側に周り、一緒に肩を貸すのが見えた。ここでジョイルが逃げれば、あの海賊たちにはたちまち追いつかれてしまうだろう。


「やるしかねえかあああ!」


 叫ぶジョイルに次々と蜥蜴たちが飛びかかってくる。鎖で何匹か打ち倒すものの、撃ち漏らした蜥蜴たちがジョイルの足に噛みついた。その頭に剣を叩きつけ、粉砕する。そこへ数匹がジョイルに突進し、ジョイルはたまらず打ち倒された。1匹の牙は鎖で受け止めたものの、もう1匹がジョイルの腕に噛みついた。


「ああああ!あっちいな!くそ!畜生どもがあああ」


 ジョイルは叫び、転がり、暴れ回って蜥蜴たちを弾き飛ばす。燃える蜥蜴たちによってマントに火がつき、ジョイルの体からも火が上がる。


「ひどい有様ね」


 いつの間にそこにいたのか、黒い髪を靡かせ、グリシフィアがそこに立っていた。ジョイルは焼けながら、グリシフィアに懇願する。


「お嬢!なんだ、逃げてなかったのか」


「逃げる?」


 飛びかかる蜥蜴は、グリシフィアに到達するまえに地面に這いつくばった。見えない力に押さえつけられ、動けないでいる。


「どうして逃げなくてはいけないの?」


 近づく蜥蜴たちは次々と地面に這いつくばって動けなくなり、グリシフィアはその中心に悠然と立っていた。


「確かに、お前は逃げる必要はねえか。魔女、なんだもんな」


「今更だわ、ジョイル」


 はっはっは!ジョイルの黒い長髪の先に火がつき、広がっていく。ジョイルは炎に包まれたまま、笑ってみせた。


「初めて会ったときから人間じゃねえとは思ってたさ」


「本当かしら。人間ではないと知っていたのに、もう10年以上、私の手足となって海を渡り歩いていたということ?」


「どっちでも良かったからな!俺はお嬢に惚れたんだ!人間かどうかなんて、大したことじゃねえ」


「あなたって本当に愚かだわ。全ては無駄なの。私にいくら尽くそうと、あなたがいくら私の美貌に惚れ込もうと」


「ああ、お前の顔に惚れたんだ。世界一美しいと思ったね!だから俺を助けてくれ。まだ死にたくねえんだ」


 グリシフィアが笑ってみせる。


「なぜ、あなたを助けなくてはいけないのかしら?あなたは魔女の口車に乗っかり、呪われたノースティアを軽んじ、半端な冒険心でやってきた。その結果、全滅するのよ。西の方に逃げた者たちだって、今頃他の魔物に貪られているかもしれないわ」


「言葉もねえな」


「あなたは魔女の呪いを軽くみてしまったの。死に値する、愚かもの」


 グリシフィアに敵わないと思った蜥蜴たちが、ジョイルの方に群がっていく。火に包まれ、片脚をやられているジョイルは、這いつくばりながら逃げるしかなかった。逃げながら、笑ってみせる。


「ははは、まあ、助けてくれるなんて思わなかったがよ。つくづく、お嬢は最初から最後まで、お嬢だったな。マジで惚れてんだぜ。世界一美しいお前を、俺の船に乗せて旅するのが夢だった!」


「見る目がなかったわね」


「お前の顔に惚れたんだ。全てを見下し、何をみても退屈で、永遠に満たされないだろうお前のさ」


「知ったような口を聞くのね。あなたは退屈だったわ、ジョイル」


「知ってるさ!お前が永遠に満たされないことを知ってるさ。だってお前は知らないんだ、何も知らない。人間のふりをしたって、人間の大事なことは何一つわかっちゃいねえ」


 グリシフィアが黙った。蜥蜴たちがジョイルに追いつき、その体に群がっていく。


「があああ、アチい!くそ、死にたくねえええ!グリシフィア!お前は何でも知ってる顔をして、何も知らねえのさ!今、お前がどんな顔してると思う?自分がどんな顔してるかも、わかってねえんだろ!俺はそんなお前がたまらなく憐れで、惚れちまったんだ!なんとかして、教えてやりたかった!」


 グリシフィアは黙っている。


「今のお前、まるで迷子の子供みたいな顔してるぜ」


 グリシフィアは苛立った顔を見せ、右手を高く上に挙げた。その途端、ジョイルの周りの蜥蜴たちが宙に浮かぶ。そのまま月の方に高く昇っていくと、見えなくなった。


「私が何も知らないですって?海賊風情が」


 グリシフィアが左手を振るうと、ジョイルの炎が霧散し宙に消えた。次の瞬間、空中から落ちてきた蜥蜴たちが円を描くように周囲に落下する。高度から叩きつけられ、いずれも潰れたカエルのようになって息絶えている。


 グリシフィアは倒れているジョイルの前まで近づき、忌々しげに見下ろした。


「昔、おまえと同じことを言った娘がいたわ」


「そいつも殺せなかった。違うか?」


 グリシフィアは無言でジョイルを一瞥すると、背中を向けた。グリシフィアと目が合った蜥蜴たちはジリジリと後退り、やがて背中を向けて一目散に逃げていった。


「次は助けないわ。でも助かったなんて思わないことね。あなたはきっと、ここで死んでおけばよかった、と後悔する」


「へいへい、感謝してるぜ。しかしグリシフィア、お前本当に魔女だったんだな。なんの魔女か当ててやろうか?」

 

 ジョイルは起き上がると、焦げた顔で片目をつぶった。


「傲慢の魔女だ。当たりだろ」


次週は月曜更新です。


…が、年末は予定がちらほらあり、書き上がらないかもしれません。

そのときはすいません。

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