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45. 呪われたノースティア1<上陸>

タイトルのかぎかっこ修正

 船舷から暗い海の方へ赤毛の少年が落ちていく。憎悪に満ちた視線を涼しく受け止め、グリシフィアはランスに向けて手を振った。


「さようなら、ランス」


 その姿はすぐに海面に沈んでいき、見えなくなる。


 ランスの無様な様子に、笑いをこらえて、口元を抑えた。


 ふふふ、私のことをすぐにでも殺したいという目をしていたわね。


 劇的なる死(それ)は、永遠の生をもつグリシフィアの悲願でもある。


「でも、そのざまでは当分は期待できないわ」


 夜の海面に動くものはなく、浮上してくる様子もない。


 死んだかしら。


 雪がちらつく北の海にあって、せいぜい人間が動ける時間は10分にも満たない。たとえ魔物を振り払ったとして、すぐに水から上がらなければ凍死する。


 ランスが死ねば、イフリートの角を持って帰るという賭けはグリシフィアの勝ちである。その場合、ランスは生涯の間、グリシフィアの奴隷になる約束だ。


 しかしその約束は単にランスの反応が見たかっただけで、グリシフィアは別に奴隷などほしくはない。


 イフリートに敗れるならともかく、あんな下等な魔物と海に落ちて死ぬなど、期待はずれもいいところだ。


 200年前の魔女の会議ワルプルギスにおいて、あの女はランスが自分達を殺す方法を探し出すと期待しているようだったが、正気とは思えなかった。確かに100万回の生を生きる人間というのは面白い趣向だが、肝心の人間ランスが弱すぎる。


 そのとき、海底から魔女の力の鼓動を感じた。ランスの荊の紋様の力が解放されているのだろう。怠惰の魔女によって刻まれたあの紋様が黒い光を上げるとき、ランスの潜在能力が解放される。見ればランスが海面に顔を出し、エルフと共に流れていくのを見つけた。


「あら、生きていたの。まあ、どちらでもいいけど」


 船はランスから離れ、揺れながらも入江に入り込んでいく。騒々しい海賊の声にグリシフィアが目をやると、海賊たちは予備の碇を海に投げ込み、船の固定に成功したようだった。海賊が数人がかりで長い板を持ち上げると、倒して陸に橋をかけた。


 その間も黒い半魚人たちは何匹も船に取り付いてきており、ジョイルを中心にして橋を守りつつ、それらを3人1組で撃退していく。


「そうだ野郎ども、ぜってえ一人になるな。海に引き摺り込まれなきゃ、大した奴らじゃねえ」


「若ァ!橋は大丈夫、渡れそうです!」


 先行して橋を渡った海賊から声がする。


「おおよ、よくやった。こいつら、キリがねえ。野郎ども、オカに逃げ込むんだ。3人1組は崩すんじゃねえぞ。お嬢!」


 ジョイルがグリシフィアを見つけ、声をかけた。


「お嬢!あまり離れないでくれ。お前が海に引き摺り込まれちまったら、俺も後を追う羽目になっちまう」


「あなたに追ってこられるなんてゾッとするわね」


「ランスを見たか?」


「海に落ちたわ。エルフと一緒に」


「なんだと?」


 ジョイルが驚きの声を上げた。


「追って飛び込むならまだ間に合うかもしれないわよ」


「追いついても三途の川じゃ仕方ねえ。生きてる女の方を優先しねえとな」


 いうと同時に、ジョイルは階段を降りていき、船室のドアを開けるとキャスリンが駆け寄ってきた。


「ジョイル、ランスは?」


「海に落ちた」


「え?」


 キャスリンの顔から血の気が引く。


「嘘、そんなはずないわ。何かの間違い」


「お嬢が落ちるのを見たと言ってる。それにもしあいつがいるんなら、お前の元に来るのは俺じゃなくてあいつだろうが。来いよ、この船は一度捨てて、オカに上がる」


 ジョイルはキャスリンの手をひいて、階段を登って甲板に出た。キャスリンを抱えたまま片手で鎖を振り回し、2匹の半魚人を吹き飛ばした。


 そのジョイルにキャスリンがすがりつく。


「お願い、ジョイル!ランスを、助けて!」


「冬の海に落ちたんだぞ!もう生きてねえよ。それに状況を見な!こっちだって危ねえんだ」


「生きてるわ!ランスは生きてる!」


 半狂乱になったキャスリンの頬をジョイルが叩きつける。頬を叩かれたキャスリンは、次の瞬間、平手を撃ち返していた。ジョイルが一歩、よろめく。


「何するのよ!」


「はは、すげえビンタ。弟が生きてるって信じてるなら、まずは自分の身のことを考えろよ。生きてりゃ、また会えるんだからよ」


 ジョイルは唇から血を流しながら、ニカっと笑った。そのままキャスリンを抱え上げて、そして慌てて部屋から駆け上がってくる神父を見つけた。


「ああ、お前もいたのかよ。命が惜しかったらあそこの橋から陸に上がれ」


「ひぃい。ひいぃ、何が起きてるのですかぁ!」


「ははは、ノースティアの歓迎を受けてるのさ。呪われた島のな」


 ジョイルがキャスリンを橋の元まで抱えていき、そこでおろした。「行けよ」背中を向けたジョイルの言葉に、キャスリンは頷き、橋を渡った。


「野郎ども、非戦闘員を最初に渡らせてやれ。慌てて落ちないよう、ゆっくりな。安心しろよ、半魚人たちは俺が1匹も橋には近づかせねえぜ」


 鎖を回しながら、ジョイルが言った。その脇に、副官のバラグと他海賊2名も並び立つ。


「若、お供しやす」


「はは、鎖に巻き込まれんじゃねえぜ」


 ジョイルの鎖が近づく半魚人を吹き飛ばし、弓を構えた配下の3人が半魚人を矢で仕留めていく。宣言通り、ジョイルと配下の3人によって橋に近づく半魚人はことごとく撃ち倒されていった。


「船長!とりあえず生きてるものは皆、陸に上がりました!」


「おお、思ったより早かったな。よし、俺たちもずらかるぜ」


 3人は橋をかけて陸に上がると同時に、準備していた海賊たちが橋を持ち上げて船から外した。


 甲板にはまだ何匹もの半魚人たちが見えたが、しかし奴らは陸の方までは追ってくる様子はないようだった。船に人間がいないことを知ると、海に飛び込み消えていった。


「奴ら、追ってきやせんでしたね」


「陸じゃ人間様に勝てねえのがわかってんだろうさ。今ので何人やられた?」



「全部で6人が海に引き摺り込まれました。その中にはあのエルフと、生意気な小僧が含まれます」


「ランス、そんな…」


 報告を聞いたキャスリンが力なく、その場にしゃがみ込む。それを見下ろし、バラグが告げた。


「あの小僧がいない以上、この女に人質の価値はなくなりました」


「だからどうしたよ、可愛い女を見殺しにするようなチンケな海賊はここにいねえ」


 それを聞いて、バラグがふっと笑った。


「はい、それでこそ鉄鎖海賊団の船長、偉大なるジョイルの名を継ぐものです!」


「野郎ども、聞けやあ!ついに我々は呪われた島、ノースティアに上陸した!ここから先はどんな化け物が出てくるかもわからねえ。だが安心しろ、お前らを率いるのは史上最強の海賊、ジョイル様だ!これは偉大なるジョイルの冒険譚の序章に過ぎねえ。俺と歴史に名前を刻みたくば、こんな序章でくたばるような雑魚脇役になるんじゃねえぞ!」


「うおおおおおおお」


「ああ、なんでこう暑苦しいのかしら。見ていられないわ」


 グリシフィアは耳を塞いで、不快な表情をしている。


「どうしたよ、お嬢。俺に惚れちまったのか?」


「何をどう聞いたらそうなるのかしら。まともに会話すら成り立たないのね。まあ、そんなことより、まだ気が付かない?」


「ん?なんの話だ」


「よく周りを見ることね」


 ジョイルが周囲をみわたす。遠い山脈の奥から炎が吹き上がっており、夜の地面を照らしていた。薄暗くてよく見えないが、この辺は剥き出しの岩が転がる荒野のようだ。あたりに無造作に転がってる岩は一つ一つが大きく、腰掛けるにはちょうどいい大きさだ。


 その岩の一つが、目を開けてギョロリとこちらを見た。


「なんだ、この岩!」


 ジョイルが咄嗟にその岩から離れて鎖を構えた。するとその岩が赤い光を発し、その体がみるみるうちに灼熱色に染まっていく。その姿は溶岩でできた大きなトカゲだった。と、同時に、周囲の岩も発光しだし、四つ足で立ち上がった。


「うわあ、燃える!」


 トカゲの近くにいた海賊の一人の衣服に火がつき、マントを投げ捨てた。そのマントに2匹のトカゲが飛びつき、噛み付くとあっという間に燃え尽き、灰になった。


赤熱蜥蜴サラマンダーよ。すっかり囲まれているようね」


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