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番外. ワルプルギス

R6.2.14 文章を少し校正(内容に大きな変化はありません)

 かくして、ノースティアの二つの国は炎に包まれた。


 その結末に至る数ヶ月ほど前の話。


 霊峰フロストピーク。このノースティアを囲む山々においても最も高いその霊峰の頂上近くに、開けた巨大な台地がある。地元民たちに天の杯と呼ばれているその場所へ、辿り着いた人間はいない。


 そんな、激しく雪が吹き荒れる台地を一人、黒い魔女が歩いていた。向かう先には古代の神殿が建っていて、その巨大な扉の前に魔女が立つと、ひとりでに扉が開いた。


 建物の中は完全なる暗闇であるが、魔女はまるで意に介さず進んでいき、やがて大広間に辿り着いた。


 魔女がうっすらと銀色に発光し、その姿を浮かび上がらせる。


 傲慢の魔女、グリシフィアだった。

 無言のまま、つまらなそうに部屋の中を見渡した。


 彼女には、その暗闇の部屋に集った同胞たちの姿がはっきりと見えている。


「ああ、グリシフィア様」

 色欲の魔女が頬を染めた。


「グリシフィアめ!」

 嫉妬の魔女が歯噛みする音が響いた。


「グリシフィアか」

 強欲の魔女が挑戦的に笑った。


「……」

 怠惰の魔女は眠りについている


「グリシフィアぁ」

 暴食の魔女が舌なめずりをする


 そして一番奥に座っている憤怒の魔女。


 首から下げた水晶に炎が灯り、姿が浮かびあがった。


 黄金の髪に赤い瞳、真紅の男装を身につけた女騎士だった。


 彼女は、7人の魔女の統括者にして、憤怒の魔女。


 名を、リーヴェルシアという。


 彼女は表情を変えずに言った。


「グリシフィア、待っていました」


「わざわざこんなところまで来てやったのよ。感謝するといいわ」


 グリシフィアの尊大な態度を気にも止めず、リーヴェルシアは言葉を続けた。


「400年ぶりに、パルシルシフの奇蹟が発動されました。その反動でパルシルシフは眠りについています。また400年は起きないでしょう。奇跡の内容は、彼に証言してもらいます」


 リーヴェルシアが指を向けると、寝ている怠惰の魔女の周囲に小さい鬼火が生まれ、彼女を照らした。その足元から出てきたキツネが、緊張した面持ちでテーブルの上に立ち、おずおずと話し始めた。


「それでは語らせていただきます。怠惰の魔女パルシルシフ様が行った奇跡は、ランスという一人の人間に、100万回の生を与えられました。自らの代わりに魔女の滅ぼす方法を探させようと試みております」


「100万回だあぁ?」


 魔女の一人が暗闇から笑った。


「いくらなんでも多すぎだろうがよお? 怠惰のやつ、適当に決めたんだろうなあ」


 キツネが黙った。全くもってその通り。キツネの主人はやることなすこと、適当で気まぐれなのだ。しかし選ばれた人間は気まぐれではすまされない。


「人間の脆弱な精神が100万回の転生などに耐えられるかは分かりません。しかし…」


 リーヴェルシアが語る。


「興味深くはあります。諸君らと共に魔女の滅びを探して久しいですが、私たちの力だけではそれは求められないのではないかと、考えています」


「私たちは不死不変の存在だからね」


 暗闇から、魔女の一人が言う。


「私たち自身は変化することがない完成された存在だ。そんな私たちでは新しい方法が生まれようがない」


「つまり……人間の協力が……必要だってこと?」


 別の魔女が躊躇ためらいがちに言った。


「だったら早く……見つけて……欲しいな。永遠に生きるだなんて、寂しくて、たまらないもの」


「話を続けましょう」


 リーヴェルシアの紅い眼がグリシフィアを見据えて言った。


「あなたはその人間、ランスに会っていますね?」


「どうだったかしら」


「彼に期待できると考えますか?」


「私は誰にも期待なんてしないわ」


 グリシフィアのその返事に、リーヴェルシアは誰にも聞こえないほどの嘆息をした。


「私自らが彼を見に行くしかありませんね」


 その様子を目ざとく見つけ、嬉しそうにグリシフィアが言った。


「ご苦労なことね、リーヴェルシア。けど、お遊びは嫌いじゃないわ。私は私で、やらせてもらうわね」


 グリシフィアが魔女たちに背を向けると、部屋を出ていってしまった。


「おいおい、グリシフィア」


「構いません。話を続けましょう。ランスには魔女を滅ぼす方法を探してもらうとして。しかし、人間の思いや記憶など、うつろいやすいものです。ですので、永遠の時においても、決して忘れられない記憶を刻む必要があります」


 リーヴェルシアの瞳の奥からちらちらと、炎が湧き起こった。


「そちらに関しては、私に任せてください」


 憤怒の魔女、リーヴェルシアが虚空を見つめた。


 彼女の魔法は全てを焼き尽くす炎。


 それはまさしく、彼女の憤怒の体現だった。


「さて、100万回繰り返される魔女狩り(ウィッチ・ハント)の始まりが近づいています。彼に素晴らしい旅立ちを」


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