52話 お市の不安
いつも通りの朝はいつも通りにやってくる。
和服を着たお市は、世楽の部屋に忍び込むように無音で入室を果たすと、世楽の横に正座で座る。
お市は、世楽を起こす前に必ず世楽の寝顔をにまにました顔で見る。これがお市のルーティーンであった。
早くて十分、遅くて三十分のそれは、一見ヤバそうにも見えるし暇そうにも見える。だが、お市の心は満足感で満たていく。
「……ふぅ」
安堵したようにため息を吐くと、四肢を布団からはみ出して爆睡している世楽の肩に、手を伸ばす。
「世楽様、朝ですよ。起きてください」
「ぐぅ~~。ぐぅ~~」
無反応だ。ただ、お市も一回だけでは引かない。
「世楽様、世楽様」
「……ん、んー」
世楽、お前和服美少女に朝から起こされるんだぞ?マジで起きろよクソ野郎。
そんな感想が第三者から飛んでくるがそれはスルー。
世楽はそんなくぐもった唸り声を上げて、お市の手首を力なく握る。
「……あと三年」
「世楽様、三年は困ります。……もう、あと少しだけですからね?」
全く怒った様子もなければ困った様子もなく、ただ柔らかい笑顔を浮かべたお市は、その場に正座したまま、世楽の子供っぽさが残る寝顔を見つめる。
――――――十五分後
「世楽様。もうそろそろ起きてください」
「……ん?ん」
言葉も理解出来ずにただ返事をするだけで、布団から起き上がるどころか、目すら開かせない。
「世楽様。いい加減にしないと遅れますよ?」
「……んー」
適当な返事。それを聞いたお市は、眉を寄せつつも、こういう一面がある世楽も好きだと笑顔も浮かべる。
「そんな適当な返事をしてもダメです。起きてください」
お市は甘やかす自分の心を叱責して、カーテンを開こうと膝立ちに―――そこで。
「……行くな」
握られた手首が引っ張られた。
「わッ!?」
思わず驚いた声を上げたお市はそのまま世楽の布団に倒れる。
「ぐぅ~~、ぐぅ~~」
「ッ!?」
手首を握られたまま、腕が横腹に乗り、突然の密着に顔を真っ赤にするお市。
「ぜ、世楽様!?だからこういうのは……」
そこで、お市は世楽の腑の抜けた寝顔を前に、言葉を切った。
(世楽様は、私の事……どう思ってるのでしょうか)
そう、深々と自信なさげに胸の前で拳を柔く握る。
(私は、出来る限り尽くしているつもりだけど、世楽様には……伝わってないのかもしれない)
自分の尽くしが足りないと気に病み始めるお市のそんな心情も知らずに、ただ呑気に気持ちよさそうに爆睡する世楽は本当に幸せそうだ。
(どうしたら、振り向いてくれるのでしょうか)
横腹に伝わる手の平の温もりを、恥ずかしそうに躊躇しながら、ふわりと手を重ねる。
バレてはイケない。見られては死んでしまう。そんなハラハラする気持ちに、ドキドキしながら、お市は胸の内で決心し、上目遣いに世楽を見上げた。
(今日、お義姉様に聞こう)




