50話 デート?
学校校門前。日曜日の昼過ぎに人を待つ美少女が居た。
すらりと伸びた細い足に張り付く青と白の入り混じったスキニーパンツに、腰下まである長い裾と、七分袖が花びらのようにヒラヒラしている純白のヒラヒラシャツ。そしていつも腰まである結んだ髪を、今日はこめかみから髪を少し垂らしてお団子にした何とも可愛い格好をしていた。
往来する人々の視線が凄く集まるのも当然だ。
「累」
そこで聞き覚えのある呼びかけに、表情を明るくさせて近づく累は、世楽の前に行くと、少し恥ずかしそうに問うた。
「ぜ、世楽?……どう?」
自身なさげに自分の姿を見せて、上目遣いに見上げた。
「累の私服、初めて見るな。うん。やっぱり可愛いな」
ドキッ。
世楽に対する累の好き好きゲージが爆上がった。
「ほ、ホント!?か、可愛い?」
「うん、超可愛い」
満足げに累を褒め尽くす世楽の笑顔と同様に、累も笑顔を咲かせる。ただ……。
「ねぇ世楽。なんで制服なの?」
別に嫌と言う訳ではないのだが、世楽の私服姿を期待していた累は少しがっかりもしつつ眉を寄せる。
「あぁこれ?いやぁ、俺も私服持ってたら私服で行くんだけどさ。俺私服持ってないんだよね」
「えぇ!?そうなの!?」
「そうなんだよ」
ただ、ズボンは真っ黒だし、シャツの上からいつものようにパーカーを着ているから多少問題はないだろう。
「行こうぜ累。食べに行くんだろ?」
ポケットに手を突っ込んで歩き出す世楽に、累は嬉しそうに頷いて隣を歩く。
「俺道分かんないから累に全部任せるぞ?」
「うん、任せて」
胸を張って誇らしげな表情を零す累は、世楽と楽しそうに会話をしながら目的地まで歩く。
「げぇー。人多すぎだろ」
限定スイーツが販売してある店に到着した世楽は、長い距離にわたって並ぶ人の列に身を引いた。
そして、列に並ぼうとする累の肩を慌てて止めて、こちらを振り向かせる。
「累、これ並ぶの?」
「当たり前じゃない」
両肩に世楽の手の重みを感じて頬をほんのり染める累は、当然の事を言う。
「いや、累が並ぶんなら俺も並ぶけどさ。これはちょっと、多すぎじゃない?」
「限定スイーツだから仕方がないでしょ?」
「……まぁ並ぶしかないか」
累の言葉にため息を吐いて、累の手を引っ張る。
「じゃあ並ぶか」
「ッ!?」
ギュッと握られる感覚にピクッと可愛い反応をした累は、顔を真っ赤に染めながら、それでいて嬉しそうに世楽の後ろ姿を見る。
最後尾に並ぶと、列の人達の賑わいの声が聞こえ、それと同じく世楽と累も会話に花を咲かせる。
ただ、二人は気づいていないようだ。周りの視線が集まっている事に。
「あの彼女可愛くね?」「隣の人彼氏かな?格好いいね」などの言葉を揃える列の人とそこらを往来する人は、二人の事が完全に仲良しのカップルに見えているらしい。
どこぞの漫画やアニメのように、可愛いヒロインとその隣に立つ主人公は釣り合っていないと主人公に対する非難の声を向けられることはなかった。
世楽がイケメンだからだ。クソッ!!マジで妬まれ殺されろッ!!
列に並びながら話していると、自然と時が流れるのも早く感じるもので、あっという間に注文口までやってきた。
「ねぇ累、俺これ食べたい」
「分かった」
「あとはい。金。俺金の使い方分かんないから勝手に使って。累のもこれで一緒に払っていいから」
「えッ!?私はいいよそんな事!」
金の価値が分かってない世楽は累に三万円を渡し、それを手に持つ累は驚いた声を上げる。
「いやいいって。大会頑張ったご褒美的なやつだ」
そして、ニッと無邪気に笑った世楽は累の頭を優しく撫でる。
「う、わ、分かった。あ、ありがと」
突然頭を撫でられ恥ずかしくなり顔を俯かせた累は、へにゃりと子猫のように可愛らしく表情を綻ばせた。
その様子を気恥ずかしそうに見守る列の人達と店員さん。顔のレベルが高いカップルだと思っているらしい。
「え、えっと、レアチーズイチゴ生クリームクレープ一つと、生チョコショコラ生クリームクレープを一つ」
「かしこまりました」
笑顔満点の対応の店員がそう言うと、裏方の店員が数分で二つのクレープを作っていく。
その間に累が世楽から預かったお金を払って、受け取り口に二人で並ぶ。
ワクワク、ワクワク。
そわそわした気分で身体を揺らす累は、高い位置にあるキッチンを子どものように背伸びをしつつ眺める。
それを見る世楽は、いつもとは違う、大人びた笑顔を作って、ニヤニヤと累を見つめた。
「お待たせしましたぁ」
そこで身を乗り出してクレープを渡す店員さんの声に、累は表情を輝かせて二つを受け取ると、世楽を連れてさっさとベンチを探しに道へ出る。
「累、急いだら転けるぞ」
嬉しそうに軽い足取りで進む累は、「大丈夫、そんな子どもじゃない」と子どもっぽさの残る無邪気で幼稚な笑顔を向けた。可愛い。
なかなか空いているベンチが見つからず、困ったように眉を下げる累は、隣の世楽の顔を見上げて。
「……どうする?どこも空いてないけど?」
「立って食うしかないな」
辺りを見渡してお手上げという感じで声を出した世楽は、建物が作る影まで移動して、累からクレープを貰う。
「食べよ!」
期待を膨らませまくる累は、世楽の反応も待たずに口いっぱいにクレープをくわえた。
すると、中に注がれたクリームが口端からもふぁっと溢れて、ピンク色の唇で押さえちぎると。
「ん~~~!!」
この上なく幸福感を抱いてゆっくりと咀嚼する累は、目を細めてクレープを味わう。
「美味しい~!」
どんどんクレープにかぶりつく累を前に、世楽は見守るように淡く笑みを零して、自分のクレープをかじる。
「ん~、美味しかったぁ~」
口に残る生クリームを味わいながら、至福と顔に書いたように蕩けさせる累を、世楽はクレープをくわえたまま、ボーッと眺める。
「ん?な、なに?」
その視線に気付く累。
「いや、口に生クリーム付いてて可愛いなぁっと思って」
「ッ!?」
その言葉に、「しまった!」とでも言いたげな顔をして真っ赤にする累は、慌ててティッシュで拭き取る。
「累、いつもと違って子どもっぽくて可愛いな」
「ち、違うのッ!!これは、その、たまたまよッ!!」
眼福を受けた世楽は笑い、それに言い訳を吐き出す累。
累、実際いつもより子どもっぽいぞ。
「……っていうか、世楽の方が付いてるじゃない」
口の周りが生クリームとショコラパウダーで埋め尽くされた世楽を見て、累も笑う。
「だってこれめっちゃ食べるのムズいじゃん」
破れたクレープの間から中身が零れているこの啜りながら、軽く愚痴る。
(世楽、可愛い。なんかいい)
そんな事を内心で呟く累は、目の前に世楽の顔があることにそこで気付いた。
「な、なに……?」
「……ん」
「……?」
「拭いて」
「……えッ!?」
間を置いて仰け反る勢いで世楽との顔の距離を離す累は、握っている真新しいティッシュを更にくしゃりと潰す。
「累がティッシュ持ってんじゃん。だから拭いて。俺手ベタベタだし」
不適な笑みを浮かべつつ甘えるようにねだる世楽に、累は恥ずかしそうにキョロキョロと意味もなく見渡す。
(どうしよ。拭きたいけど恥ずかしい。それにまだ付き合ってないから、やっていいのか分かんない)
悶える累は、結局ツンデレのツンを出してしまい、「なんで私が拭かないといけないのよ。自分で拭いて」とツンツンした様子で言い告げてしまった。




