43話 阿国の悩み
茜色に染まる教室に、一人残って何やらシャーペンを動かしている生徒が居た。
どうやら課題を終わらせているようで、今終わったのか、一息吐いて軽く伸びをしている。
「ん~~。疲れた」
独り言を言ってため息を吐き、片付けようと机に広げられた教科書やプリントを纏めていると。
「千~代~女~」
明るくも困ったような声音が教室に響いた。
「ん?どうしたの?阿国」
ふらふらとする足取りで千代女の肩にもたれかかった阿国は、眉を八の字にして尋ねる。
「また話聞いてもらっても良い?」
「うん。良いよ」
千代女は嬉しそうにそう答えると、阿国は嬉しそうで困ったような様子で
対面するように椅子を移動させる。
「どうしたの?また山三?」
「そうなの!……昨日ね?」
ここから昨日の事に遡りまーす。
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部活の終わりは夏でも暗くなるほどの時間帯で、それでも大半の生徒が部活をしているため、生徒に賑わいはそんな時間帯でも凄いものだった。
「阿国!ありがとな、いつも待ってくれて」
大会が終わったその日、バスで学校まで帰ってきてその後は普通に学校という何ともハードな日程だったが、部活まで終えた山三が校門で一人寂しく待つ阿国に手を振った。
「うんうん、大丈夫。山三と一緒に帰りたいから」
そして、二人は足を揃えて歩き出す。
「今日、どうだった?」
部活着の山三を見上げて問う阿国。
「ダメだった。準決勝までは行けたんだけどな」
「凄いじゃない!?なにがダメなのよ!?」
「優勝しないとダメだったんだ」
少し意味深にも捉える事が出来るその答えに、阿国は小首を傾げるが、それでも癒やしを与えるようなニッコリした笑顔を向けた。
「でも頑張ったじゃない。お疲れ、山三」
「うん。ありがとう」
そして、話は学校関係になっていき。
「それでさ。世楽が――――」
山三が面白おかしく笑いながらクラスメートの話で一人盛り上がっている中、阿国は不満そうに目を伏せる。
(なんで、自分の事は話さないのよ。私もっと、山三の事知りたいのに)
拗ねたご様子でチラリと山三を見上げると、山三はまだ笑っていた。
(手、繋ぎたいなぁ)
ギュッと拳を握って、山三の大きな手に視線が吸い寄せられる中で、阿国はとうとう我慢が出来ずに、山三の手を握った。
「えいッ!」
「―――うわッ!?」
忽然に手を握られて、ビクリと肩を震わせた山三は、顔を真っ赤にして振り解いた。
そして、悪いことをしたと、山三はハッとするが、視線は下に傾ける。
「……ど、どうして、いつも手を繋いでくれないの?」
「そ、それは、言っただろ?成人してからって」
変な汗を流しながら頭を掻いて、視線を逸らす山三。
「でも!私は山三と手を繋ぎたくて!」
すがるように勢いで山三に近づく阿国だが、山三は一歩、一歩と距離を一定に空けてくる。
「……ご、ごめん。今は出来ない」
「……どうして。………私、自信なくしちゃうよ」
「はっ……」
阿国の言葉に思わず息を呑んで目を見開く。
「ど、どういう……?」
「私は、山三の事好きで好きで大好きで、ずっとイチャイチャしたいのに、こんなにずっと距離を置かれて、本当は私の事好きじゃないんじゃないかって………うぅぅ〜」
「違う!そういう事じゃない!好きだ!ちゃんと大好きだ!」
肩を落として俯く阿国との距離を縮めるように身を乗り出して慌てたように焦りを露わにする山三は、そう言うと、我に返って顔を真っ赤にする。
「……ホ、ホント?」
目尻に涙を浮かべつつ、顔を朱にして上目に見上げる阿国は、少し嬉しそうにしつつも、やはり不満そうにしていた。
「……本当だよ。好きだから付き合ってるんじゃん」
羞恥心を掻き消すようにこめかみを軽く掻いて視線を逸らす山三。
「じゃあ手ぇ繋いでよ」
「ごめん、それはまだ出来ない」
「なんでよぉ〜〜!?」
ぷくぅーと頬をいっぱいに膨らましてご不満を山三に見せつけて、進める足を速くさせた。
「もう!山三の意気地なし!バカッ!!」
ドスドス足音を荒々しく立てながらさっさと先へ突き進む阿国に、山三は慌てて追いかける。
「ちょッ。待って阿国!?」
急いで隣を歩く山三は困ったように頬を掻いて、阿国の機嫌をどうなおすか思考を巡らす。
「もう!知らない!」
「ごめんて阿国」
「謝るなら手ぇ繋いで!」
駄々をこねる子どもの如く拗ねたご様子で手を差し出す阿国。
「……ごめん。まだ出来ない」
「ほらぁッ!!」
更に怒った阿国は踏みつけるような歩みで家まで帰っていった。
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「―――て事なの」
阿国の話に、千代女は苦笑を浮かべる。
「相変わらずね。山三は」
クラス委員長という事でもあり、しっかり者である山三は、少し真面目すぎるところがある。だが、ちゃんと男子高校生らしく、世楽と生徒Aと仲良くはしている。
「でも山三も山三よね。もう一年も付き合ってるんでしょ?手くらい繋いであげれば良いのに」
「でしょ!?山三ったら。なにが節度ある付き合いよ。私はイチャイチャしたいのに」
可愛く頬を膨らませて愚痴り始めた阿国に、更に苦笑を浮かべて頬を掻く千代女。
「あ。でもちゃんと今日の朝謝ったのよ?昨日ちょっと言い過ぎたから」
少ししょんぼりした形で肩を落としつつ眉を下げる阿国。
「もう少しだけ待ってみたら?それか地道に説得していくか?」
「うーん、それが良いのかなぁ?」
机に突っ伏して悩ましげに唇を尖らせる阿国と、穏やかな笑みを浮かべて相談にのる千代女は、しばらく女子トークに浸った。
名前:出雲阿国
年齢:15歳(高校一年生 三組)
好きな物・事:名古屋山三 山三が作ったクッキー 飴
嫌いな物・事:雨 人参 山三が居ない休日
ちょこっと:山三にだけ変態です(千代女と親友)
風格:目=黒 髪=黒、肩でバラバラに切ったショートカット




