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天上天下唯我独尊  作者: ひかりみ しあゆ
41/58

41話 恋

その瞬間、累の瞳からは大量に涙がこぼれ落ちた。

しかし、それと同時に入鹿の姿も消えていた。

涙のせいで視界が揺れる中、累は肩を揺らしながら上を見上げる。

「………世楽?」

拳を振り抜いた状態で、ある一点を睨む世楽が、累を守るように立ち塞がっていた。

「累」

名を呼んで振り返った世楽は、穏やかな笑みでしゃがみ込む。

「累、泣くなよ」

グスンと鼻で息を吸いながら泣く累の涙を、指の腹で優しく拭う世楽は、淡く笑う。

「ほら、累。いつもの調子はどうした?」

「グスン、グスン」

世楽の温かい笑顔に、心の底から迫り上がる安心感が涙を更に呼んでくる。

「……今からあいつぶっ飛ばすから」

その言葉で全てが一変したように、世楽の雰囲気がガラリと変わった。

黒煙がたち籠もる中で、一点だけ晴れた部分。そこに、壁に埋まりかけた入鹿の姿がある。

「くッ、かはッ、はぁ、はぁ」

腹を押さえてよろりと立ち上がる入鹿は、くしゃりと歪めた顔で世楽を見据えた。

「誰だ?お前」

「世楽。絶咲世楽だ」

「関係ない奴が来てどうすんだよ。ヒーローにでもなりてぇか?」

あえて煽る言い方をする入鹿に、血管を浮かせて鬼の形相を作った。

「お前をぶっ飛ばすんだよッ!!累に謝れクソ野郎ッ!!」

「なにをそんなにキレてんだよ。何年かは知らねぇがふ――――」

ドゴーーン!!

「がはッ!?」

一息にして移動した世楽は挑発する入鹿の腹に拳をめり込ませた。

その勢いに吹っ飛ぶ入鹿は、腹から迫り上がる気持ち悪さに空を吐く。

「ぐふッ!?」

更に背中をぶつける絶大な衝撃が臓物を大きく揺らして、入鹿は苦悶の表情を浮かべる。

それでも世楽は止まらず、気絶しかけた入鹿の腕を引っ張り上げて、横腹に掌底を加えた。

「ッ!?」

常識を絶する攻撃力に声すら出ない悲鳴を吐き出し、空中に投げ出される。

(こいつッ、なんだ!?強すぎだろ!?)

内心で驚愕した感想を零しながら、落下する重力の力に逆らうようにして刀を握り直すと、振り下ろす形で構えた。

「蘇我龍・極鬼閃(ごっきせん)ッ!!」

「………ッ!?」

その様子を見ていた累は、涙を流しつつ、世楽に声を掛けようとする。しかし、声は届かなかった。

「避けて」と。

血を流して襲い来る入鹿を見上げながら、世楽はタイミングを見計らって逆立ちをする。

落下する入鹿はその行動に油断し、刀を振り下ろす。だが、世楽は腕を思いっ切り伸ばして、足に勢いを付けると、その足は入鹿の腹部の直撃する。

「ぐがッ!?」

入鹿の身体は再び空中に投げ出され、入鹿自身あまりの痛みに気を失い、白目を浮かべていた。

それを見上げ、世楽は片足を上げると、蹴っ飛ばす体勢を作り。

落下する入鹿を蹴り飛ば―――――。

「世楽ッ!!」

――――さなかった。

累の叫びに反応した世楽は上げた足を床に着けて、累の方へ移動する。

「……累。どうした?」

「も、もういいの」

「でも、あいつまだ累に謝ってない」

凄い音を立てて落ちた入鹿を睨み付けて不機嫌そうに言った。

「いや、謝るもなにも世楽が気絶させちゃったじゃない」

世楽の強さに唖然とする累は、苦笑を零す。

「それもそっか。じゃあ帰ろう。累」

そしてしゃがみ込む世楽はニッコリと先程とは比べものにならない程温かい表情を浮かべた。

「うん」

目尻に残る涙を拭き取って返事をした累は、立ち上がろうと全身に力を加える。

「……つッ!?い、痛い……立てない」

ズキズキ痛む感覚に悶える累は、再び涙を膜を瞳に張る。

「よいしょ」

すると突然、世楽がうなじと膝裏に手を入れ込み、累全身を抱え上げた。

「えッ!?ちょっと世楽!?や、やめッ、下ろしてッ!!」

ふわりとした浮遊感覚に耳先まで真っ赤にした累は、四肢をバタバタ暴れさせる。

「累、落ちるって」

「じゃあ下ろしてッ!!」

「怪我してんだろ?てかそんなに暴れたら―――」

「……痛ッ!!」

「言わんこっちゃない」

世楽の呆れたような表情に赤く染めた頬を膨らまして唸り、拗ねりだす累。

「てかこれヤバくね?」

天上を見上げて汗を垂らす世楽に、真似して天上を見ると、累は血相を青くさせる。

「はやく逃げるぞ!!」

崩れ出す天上や壁を目の当たりに、慌てて走り出す世楽は、ただ走るだけでは面倒くさいと感じて、跳びはねると。

籠もった黒い視界から、晴れ渡る空の下に出た。

向かい風邪が肌を撫で、心地良い感覚に目を伏せる累。

「なぁ累」

「……何?」

若干恥ずかしそうに見上げて、また目を逸らす累に、世楽は救護班の方へ歩きながら、口述する。

「俺は、累が生まれてきてくれて、とっても嬉しく思う」

「ッ!?」

目を見開いてバッと振り向く累。

「こんな可愛い先輩が出来て、話す事も出来て、おっぱいも揉めて」

最後の言葉は余計だが、世楽はいつものふざけた表情とは違い、淡く大人びた、それでいて無邪気な笑顔をニッと向けた。

「俺は嬉しいよ。累が居てくれて」

ドキッ。

バクバクと心臓が鳴り響き、血の巡りが異常にはやくなり、身体中火傷するように熱くなり始める。

耳先は林檎のように真っ赤で、頬には/////が沢山染められていた。口唇はぷるぷる震えて、瞳を大きく見せて世楽のその顔を見つめる。

「………」

どんな言葉を出せば良いのか。今の累には判断が出来なかった。それほど脳が蕩けていた。

(この気持ち、そっか。私、世楽の事、()好きなんだ。こんなに格好よく見えるのは、()好きだからなんだ)

そして、世楽と初めて逢った時からの気持ちが、『好き』だという気持ちだと気付いた累は、真っ赤になった顔を背けて、ぷるぷる震える唇のまま、告げた。

「………ありがと、世楽////」











絶咲(たさか)世楽(ぜら)

身長:175cm

体重:61kg

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