38話 これはこれでデートの誘いなのでは?
授業も開始し、また一日が始まるのだが、少しソワソワした気分もあった。
各教室所々に空席が見られるのだ。
理由は昨日から始まった大会(高校総体のようなもの)だ。
昨日といっても、本格的に始まるのは今日であり、昨日は剣道だけ先に始まっていた。
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夕焼けのオレンジ色が教室を良い感じに彩っており、なんともムーディーな空間か。
生徒Aは安定のアルバイト。お市は今日はクラスで出来た友達と出かけると言う事で世楽の所へは訪れず。
そんなこんなで暇となった世楽は教室の机に突っ伏した状態でよだれを垂らしつつ情けない顔で睡眠していた。そこへ、ある一人の女子生徒がその教室を覗く。
少しソワソワした様子で、後頭部で結んだ長い髪の毛先をくるくる指で遊びながら、何度も踏み込んだり引いたりを繰り返している。
しかし、やがて決意し入ろうとしたその時。
「ふわぁぁぁ」
世楽が覚醒してしまった。
ビクリと肩を震わせたその女子生徒は咄嗟に身を隠してしまう。
大きく盛大なあくびを終えると、若干寝ぼけた様子でのっそりと立ち上がり、教室を出る。
「わッ!?」
突然世楽が出てきてビックリした女子生徒は思わず可愛く悲鳴を上げる。
「ん?累?」
驚いた声に意識が取り戻された世楽は、見覚えのある姿に嬉しそうに表情を綻ばせた。
「あ、え、えっと」
心の準備が出来ていないままに世楽と逢ってしまい、言葉を詰まらせてたじろぐ累は、慌てた様子で半場無理矢理に世楽を教室に押し込んだ。
「どうしたんだ?累」
何か言いたげな様子を醸し出して、もじもじと身体をくねらせる累の頬は少し赤く染められて。
「そ、その、ね?」
「うん」
膝を擦り合わせてもじもじする累はやがて、意を決したようにポケットに手を入れる。しかし、それを防ごうと世楽は手首を握った。
「待て累。俺は何もしてないよな?てか覚えがないぞ?」
「えッ!?ちょ待って!?なんの話!?」
世楽の勿怪な行動にビックリする累は、いつもと明らかに様子がおかしい。
「いやぁ刀を取り出して俺を斬るんかと……」
「そんな事しない!!」
握る手を振りほどいて否定する累は、拗ねたように頬を膨らます。
「だってこの前したじゃん?」
「……うッ」
図星だった。だが。
「だってあれは………。世楽が悪いもん」
更に頬を膨らます累は、もっと拗ねたように鼻先を他の方向へ向けた。
「だからこの前のは謝っただろ?で、今回は俺は何も記憶がない」
「その、違うの。今日は…………」
そしてポケットに手を入れると、戸惑いを見せつつ四分の一に折り畳まれたチラシを取り出した。
それを器用に広げて、世楽に見せつける。
「……こ、これ!……食べたくて」
突き出されたチラシを覗き込むと、内容はこう綴られていた。
【限定スイーツ レアチーズイチゴ生クリームクレープ】
「……?何これ?」
言葉の意味もよく理解出来ていない様子の世楽は素直に質問する。
「これ、六月上旬限定のスイーツなの。食べたくて………その」
「……?」
「明日、準決勝から決勝まであるの。だから、だから…………」
そこで耳先まで真っ赤に染め上げた累は、チラシで口元を隠しながら。
「もし、私が剣道で優勝したら………一緒に食べに行こ?」
恥ずかしそうにチラシで口元を隠しつつの眉を八の字に上目遣いを繰り出す美少女。
これがなんとも可愛いことかッ!!!!
「そっか。確かに大会だもんな、今」
世楽は天上を見上げてそんな事を言うと、続けて口を開く。
「良いよ。食べに行こう。その限定スイーツんーたらこーたらってやつ」
ニッと笑顔を浮かべて頷く世楽に、累は一瞬表情に花をぱぁっと咲かせると。
「ありがとう世楽!私、頑張る!」
そして、喜色満面な笑みで教室を去って行く累。
「ふッ。可愛いな、累」
可愛い先輩に、そんな事を言う世楽であった。




