25話 休日の学校
午前中、まだ人通りも少ない時間。空は淡い空色に染まっている。
静寂な学校、というのはなんと新鮮なものか。
「なんか違和感しかないな」
聞こえてくるのは運動部の気合の入った声くらいで、いつも騒がしい廊下も教室も誰一人として居ない。
天華羽高校の土曜日なんてこんなものだ。
寂しい廊下を進む世楽は暇そうに校内を彷徨している。それも三十分ほど前から。
あくびを何度も重ねて、窓の外を覗いたり、各教室をただ見回ったり、度々蛇口を上に捻って水を頬張ったり。
そうしているうちに、刻々と時間も過ぎていき、昼前に経つ。
そこで。
「………」
図書室の前で足を止めた。
「料ちゃんだ」
一人座って、見下ろすように読書をしている。
サラサラな艶のある水色の長髪が、度々耳から垂れ、それを耳に流す仕草がなんとも美人を装う事か。可愛さが倍増するではないか!!
廊下からでも伝わる図書室の静寂さに、世楽はソッと扉を開ける。
だが、御料人は気付かない。相当集中しているようだ。
世楽は悪戯心満載で忍び足で近づくと、御料人の両目にふわりと被せるように手を伸ばす。
「……?だ、誰ですか?」
本をパタリと閉じて眉を寄せたような不安そうな声を出す御料人。
「ふぅ~」
「ひゅッ!?」
ビクッ!と背筋を伸ばして肩を震わせた反応に、世楽は思わず笑う。
「料ちゃん、邪魔した?」
頬をほんのり染める御料人は、恥ずかしそうにしたが、やがてそれは嬉しそうな表情になる。
「び、ビックリしたぁ。じゃ、邪魔じゃないですよ。何か用ですか?」
数時間一人で読書を営んでいた御料人は世楽に会えて嬉しそうだ。
「いいや別に。暇だったから学校歩いてたら料ちゃん見つけた」
「もう、世楽さん。料ちゃんと言うのは………まぁいいです」
ぷくぅっと膨らませた頬を、呆れたようにしぼませた。
「なぁ料ちゃん。今一人?」
「はい。そうですよ?」
「ふ~ん。寂しいなら俺居てあげようか?暇だし」
ぶらりと図書室を歩き回りながら、世楽はそんな事を申す。
「さ、寂しいと言えば寂しいですけど、でも世楽さんは……」
「俺はする事がないから」
「……そう、ですか。なら、私に付き合ってくれますか?」
「おう」
しばらくの間は暇が潰れた世楽は、嬉しそうにして。
止まった。
「…………」
「?世楽さん?」
歩き回っていた世楽が急に止まり、御料人は声をかけるが、反応はない。
一方、一瞬でそれに釘付けにされた世楽はそれに手を伸ばす。
【石田三成と真田幸村 まさかの戦を始める!?】
大きな黒文字でデカデカと綴られるその文字。
(原因は三年前の将宴事件と見られる。って将宴事件てなに?)
その新聞に表記されている事は世楽には難しかったようだ。それに世間をまだ知らないのだ。当たり前の事だろう。
「なぁ料ちゃん。これ」
「ん?なんですか?」
早歩きでテコテコ近寄る御料人は世楽の広げる新聞を覗き込む。
「これ。将宴事件ってどんなやつなの?」
その問いに、御料人は綺麗な水色の瞳を大きくして世楽の顔を見上げた。
「世楽さん、知らないんですか!?将宴事件」
「うん。全く知らん」
ポケッとした顔を向ける世楽。
「将宴事件は今から三年前に起きた事件で、全国の将軍が東京に集まって宴会をするという歴史に残った出来事なんですが、その時に幸村と三成が揉め事をしたんです。それが将宴事件なんです」
「へぇ」
御料人の説明に頷く世楽は、その新聞を下手に畳んで元に戻すと、御料人が座っていた椅子の向かいに腰を下ろした。
「料ちゃん。今から何すんの?」
「そうですねぇ。今日は司書の先生がご不在なので私が代わりとして今居るので、ここから動けないんです」
「そっかぁ」
「一対一で勉強でもしますか?」
「いや、俺はずっと料ちゃんと何かを話す方が面白いと思う」
即答であった。
「そうですね。休みの日まで授業は可哀想ですね」
口元に手を添えてクススと笑った御料人と、それを眺めて微笑む世楽。
一方、同時刻。武道場。




